アトピー性皮膚炎の症状・原因・治療

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アトピー性皮膚炎とはどんな病気でどのように治療するのか?

現代病とも呼ばれるアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)は、アトピー素因と呼ばれる遺伝要因を持つアレルギー性疾患であり、乳幼児から成人まで幅広い年齢層に発症する慢性の皮膚疾患である。『アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・気管支喘息』といったアレルギー疾患は世界的に増加傾向にあるが、日本では乳幼児期から児童期の子どもの3人に1人が何らかのアレルギー疾患を持つようになっていて、思春期以降にもそのアレルギー疾患が遷延して慢性的な皮膚炎に悩まされる患者が増えている。

“アトピー”という言葉の語源は『奇妙な・不特定の・場所が定まらない』という意味を持ったギリシア語であり、乳幼児期のアトピー性皮膚炎は自然治癒してしまうことも多いが、思春期以降に発症した成人型アトピー性皮膚炎の場合には再発・増悪を繰り返して日常生活に支障を来たす皮膚炎が慢性化しやすい。成人型アトピー性皮膚炎の症例では、乳幼児期に見られるような特定のアレルゲン(食物・花粉・ダニ・ハウスダスト)に対する『アレルギー反応』が余り見られないことも多く、アレルゲンを除去すれば症状が軽快して治癒するというわけではない。

慢性化した大人のアトピー性皮膚炎では、日常生活の中にあるアレルゲン以外に、精神的ストレスや環境要因、免疫機能のバランスの崩れなどが複雑に関係していると考えられている。アトピー性皮膚炎の悪化因子として『精神的ストレス・心理的な緊張や悩み』の可能性が強く疑われるケースでは、アトピーを一種の心身症として診断するような心身医学的な解釈もある。

かつては『子どもの病気』と言われて学童期~思春期には治癒することの多かったアトピー性皮膚炎であるが、近年は難治性の成人型アトピー性皮膚炎が増加傾向にあり、慢性化した皮膚の激しいかゆみ・炎症やステロイド外用剤の効果低下(連用時の副作用・減薬の困難)などが問題になることも多い。

しかし、アトピー性皮膚炎の病態を再発しないように完全に治癒する『根本治療』は未だ確立しておらず、現状の皮膚科医療ではステロイド外用剤と保湿剤・抗ヒスタミンの内服薬を用いた『対症療法(皮膚のメンテナンス・炎症のコントロール・QOLの維持)』を粘り強く行っていくしかない。『アトピー性皮膚炎の根治』を謳った民間療法や健康食品、化粧品などは数多くあるが、アトピー性皮膚炎を完全に治癒するという医学的なエビデンス(証拠)のあるものは存在しない。

実際には十分な効き目がなかったり副作用があったりするのに、『誇大な広告・曖昧な体験談の宣伝』を行っているアトピー性皮膚炎の民間療法(アトピーが良くなるという商品・サービス)も多い。患者の健康状態を悪化させたり財産を不当に侵害したりする『悪質なアトピービジネス』には十分な注意が必要である。非医学的なアトピー性皮膚炎の民間治療を自己責任でする場合には、『値段が適正か・自分の体質や肌の調子に合っているか・好転反応を理由にして皮膚症状の悪化を正当化していないか(強引な脱ステロイドを薦めていないか)・クリームなどにステロイドが混入していないか』などを事前にしっかりチェックしてから行うことが大切である。

民間療法やアトピー向けの商品、健康食品(サプリメント)、化粧品などのすべてが悪いわけではなく、中には適正な値段で売られていて、その人の肌質や症状を改善するのに役立つ商品やサービスもあるとは思う。しかし、皮膚の炎症や皮疹の状態をむやみに悪化させないために、ステロイド外用剤や非ステロイド系消炎剤、抗ヒスタミン薬を用いた『皮膚科医の標準療法』も続けながら、それ以外の非医学的な治療法や肌に良いとされる商品・サービスを試してみるというほうが安全性が確保できると思う。段階的な減薬をしない『急激な脱ステロイド療法』は、激しい痛みやかゆみ、炎症、腫れ(腫脹)、組織液の浸出を伴う『リバウンド症状』を引き起こすので非常に危険であり、ステロイドの治療を停止する場合には皮膚の炎症や腫れの状態を細かく観察しながらできるだけ負担の少ない減薬を行う必要がある。

一部の民間療法では、皮膚の炎症悪化を無視した急速な脱ステロイド療法を勧めて、皮膚の腫脹(腫れあがり)・滲出液を伴う炎症悪化を『好転症状』と主張することがあるが、基本的にアトピー性皮膚炎の正常な寛解過程で耐えられないほどの痛みや炎症を伴う好転症状が見られるということはないというのが医学上の定説である。皮膚の炎症(湿疹)や腫れ、落屑(大きな表皮がフケのように剥がれ落ちる)、組織液の漏出が激しくなると、皮膚のバリア機能が完全に破壊されて細菌・ウイルスの感染リスクが高くなるので、その意味でも好転症状と称する皮膚状態の急激な悪化は危険であると言える。

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アトピー性皮膚炎の定義は『増悪・寛解を繰り返す痒みのある湿疹・炎症を主病変とする皮膚疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ』というものだが、アトピー素因とは『家族歴・他のアレルギー疾患の既往歴・IgE抗体の大量産生』のことを指している。乳幼児期から児童期、成人(大人)に至るまでのアトピー性皮膚炎の症状には以下のような違いが見られる。

アトピー性皮膚炎では『湿疹・乾燥』を主体とする多種多様な皮膚の炎症症状が起こるが、急性病変としては『紅斑(赤みのある湿疹)・湿潤性紅斑(ジュクジュクした赤みのある湿疹)・丘疹(盛り上がった皮疹)・漿液性丘疹(ジュクジュクした丘疹)・鱗屑(フケのような表皮の落下)・痂皮』といった症状が見られ、病変が慢性化してくると『浸潤性紅斑・苔癬化病変(皮膚の表面がザラザラと硬くなる)・痒疹・鱗屑・痂皮(カサブタ)』といった症状が出てくるようになる。

発赤した皮膚の病変をなぞると、しばらくしてなぞったあとが白くなる『白色皮膚描記』という現象が見られる。日本皮膚科学会が定めた『重症度の評価基準』では、『軽症:面積に関わらず、軽度の皮疹のみみられる・中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる・重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる・最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる』という大まかな分類が為されている。

アトピー性皮膚炎の原因は単因性ではなく多因性であり、『遺伝要因(アトピー素因)・体質要因(ドライスキン・免疫機能の過剰反応)・環境要因(アレルゲン)・ストレス要因(精神的ストレスや欲求不満)』などが複雑に絡み合うことでアトピー性皮膚炎の病態を維持形成している。

アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子(アレルゲン)は年齢によって若干の違いが見られ、『乳児期~児童期=食物・発汗・環境因子・細菌』とされ、『12歳以上の思春期~成人期=環境因子・発汗・精神的要因(ストレス)・接触抗原(化粧品や金属など)・物理的刺激・食物』とされています。乳幼児期には『牛乳・卵・小麦・油』などの食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の炎症・湿疹に強い相関が見られることが多いのですが、成人型アトピー性皮膚炎ではアレルゲンを特定することが難しくなり、環境因子(ハウスダスト・ダニ・カビ)と学校・会社での精神的ストレスなどによって、皮膚の状態が慢性的に悪化しやすくなります。

アトピー性皮膚炎の医学的な標準治療は『原因と悪化因子の除去・スキンケア・薬物療法』の三本立てで行われることになるが、その中でも治療の中心的役割を果たすのが抗炎症作用を持つ副腎皮質ホルモンを製剤化した『ステロイド外用剤』である。ステロイド外用剤(軟膏)を用いた治療には『副作用』を恐れる意見も多いが、ステロイド外用剤はあらゆる湿疹・炎症に対して有効性の高い薬剤であり、アトピー性皮膚炎の治療薬としてはステロイド外用剤以上に効果のある薬剤は現状では存在しない。アトピー性皮膚炎が軽快と悪化を繰り返す慢性化した症例において、ステロイド外用剤の長期的な使用・連用・依存性などが問題となり、『皮膚の萎縮・起炎症性による発赤・浅薄化・毛細血管拡張・免疫低下(感染症リスク)』などの副作用が生じるケースがあるが、ステロイド外用剤は専門医の指導のもとで正しい分量と用法で用いることが重要である。

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確かに、慢性化した重症の成人型アトピー性皮膚炎などでは、医師の指導のもとにステロイド外用剤を適切に使用していても症状が改善しにくくなったり副作用が強くなったりすることがあり、現代医療ではアトピー性皮膚炎の不快な症状や外見の悪化を完全にコントロールすることまではできない部分がある。原則的には、アトピー性皮膚炎の症状の程度や炎症の発生部位に合わせて十分な量のステロイド軟膏・クリームを使用し短期間で炎症や赤みを抑えることが望ましいが、炎症・湿疹が慢性化した成人型アトピー性皮膚炎ではステロイド外用剤による症状のコントロールと合わせて『精神的ストレスの緩和(カウンセリング)・生活習慣の改善・悪化因子の除去・食事内容の見直し』なども必要になってくる。

いずれにしても、現時点の皮膚科医学では一定の副作用があってもステロイド外用剤以上に皮膚の炎症とアレルギー反応を速やかに鎮静できる薬剤はないので、ステロイド外用剤を適切に利用しながら炎症を抑えていき、段階的にステロイドの使用量を減らすという方法が標準的な治療法とされている。かゆみの症状を軽減するために、内服薬の抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬も使われている。アトピー性皮膚炎の治療とステロイド外用剤については、機会があればもう少し詳しく解説したいと思う。

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