薬の正しい服用と薬の代謝

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薬の剤型

病院やクリニックで医師によって処方される薬剤や民間の薬局で販売されている市販薬には、薬剤の吸収効率や吸収時間、飲みやすさ、服用する人の年齢などを考慮して錠剤や粉薬(散剤)などさまざまな剤型があります。

どういった剤型を選択するかは、『病気に対する有効性・薬剤吸収の時間や効率・使いやすさや飲みやすさ・薬剤そのものの性質』などによって決まってきますが、基本的には、服用する人が飲みやすく、病気に対する効果が高くなるような剤型を処方(販売)するのが望ましいといえます。

経口用の薬の代表的な剤型には、以下のようなものがあります。

上記のように薬の剤型には多種多様な形がありますが、薬剤の化学成分の性質や治療する疾患の病態などを考えて、服用しやすくて治療効果の高い薬剤が病院では処方されることになります。薬局売店で自分で薬を購入する場合には、薬剤師に症状を伝えてどの薬が飲みやすいのか相談するのがベストですが、自分が普段飲みなれている剤型のものを選ぶようにすると飲みやすくていいと思います。

薬の正しい服用方法

薬の服用に際しては、医師・薬剤師による十分な説明を受けてからその指示に従うというのが基本です。医師による処方を受けずに薬局売店で買った薬を服用する場合にも、自己判断で適当な時間・分量で飲むのではなく、決められた用法用量を守って飲んだほうが『より高い安全性・有効性・早期回復』を期待することが出来ます。

薬の服用法としては、『飲む時間・飲む用量・飲む方法・飲む期間』が重要なポイントになってきます。それらのポイントを簡単に説明していきたいと思いますが、まず飲む時間には『食前・食後・食間・就寝前』があります。

食前というのは『食事の30分~1時間前の時間帯』のこと、食後というのは『食事をした30分~1時間後の時間帯』のこと、食間とは『食事をした2時間後くらいの時間帯(食事と食事の間の時間帯)』のこと、就寝前とは『就寝する30分~1時間前の時間帯』のことです。

薬の吸収効率や溶ける時間、(食道粘膜に薬が貼りつくなど)服用時の事故の回避を考えると、薬は、そのまま飲むのではなくコップ1杯の水(白湯)と一緒に飲むことが望ましいです。薬を飲む時間の規定は、空腹時に薬の吸収効率が上がり、満腹時に薬の吸収効率が落ちることなどを勘案されて決められていますので、規定の時間に飲むように気をつけましょう。

また、薬は同時に飲んではいけない危険な飲み合わせ(併用禁忌・慎重投与)があるので、現在既に服用している薬や慢性疾患などで常時服用している薬がある場合には、必ず医師・薬剤師に飲んでいる薬の一般名を伝えて判断を仰いで下さい。解熱鎮痛剤や抗生物質、ホルモン剤、ヨードなどは、個々人の遺伝・体質によって薬物アレルギーを起こしやすい薬なので、慢性のアレルギー性疾患を持っている人や過去に薬剤性のアレルギー反応(呼吸困難・発疹発赤・蕁麻疹・失神など)を起こした既往がある人は、必ず医師・薬剤師にその情報を伝える必要があります。

薬剤性アレルギーの多くは、投与する薬剤の分量に関わらず発症しますので、過去の治療歴で薬物アレルギーの既往がある場合には、基本的に、その薬剤と類似した化学構造を持つ薬は投与できないか少量から始める慎重投与を行っていきます。薬剤性アレルギーには、大きく分けて薬を飲んですぐに蕁麻疹や湿疹などの症状が出る『即時性アレルギー反応』と飲んでから24時間以上経ってアレルギー症状が出る『遅延性アレルギー反応』があります。

即時性アレルギー反応の重症例として、急性の気道狭窄による呼吸困難や全身の炎症反応、咽喉扁桃の浮腫による窒息を起こすアナフィラキシーショックがあり、緊急対応が遅れると死亡するケースもあります。遅延性アレルギー反応で生死に関わるような重症例には、再生不良性貧血無顆粒球症といった難治性の疾患への発展症例があります。

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薬剤の吸収・代謝・排泄

薬剤を服用して効果が発現するには、病気の原因となっている身体器官に薬の化学成分が届く必要があります。肝臓の解毒機能によって完全に分解(代謝)され切ってしまわない種類の薬は、食道から胃を通過して小腸で吸収され血液に取り込まれて薬理作用を発現します。小腸で吸収されて血流に乗った薬は門脈を介して肝臓に運ばれます。肝臓の解毒機能によって薬の一部分は代謝されますが、残った薬は静脈の血流に乗って心臓に到達し、ポンプの役割を果たす心臓の大動脈によって薬が全身へと送り届けられることになります。血流に乗って薬剤が身体各部の器官・組織に運搬されることを『薬の分布』といいます。

身体にとって有害な物質を分解する肝臓の働きを強く受けて、肝臓で全て薬理作用を奪い取ってしまう効果を『肝初回通過効果』といいます。この肝初回通過効果のある薬の場合には経口投与をせずに、口腔粘膜に吸収される舌下錠やバッカル錠にしたり、静脈注射による投与を利用します。肝臓の代謝効果を強く受ける薬剤と同様に胃の消化作用を強く受ける薬剤も、経口投与に適していないので静脈注射などによって患者に投与することが多くなります。肝臓による薬剤の分解の作用を受けない剤型としては、肛門から薬剤を注入する坐薬などがあります。それ以外にも、気道粘膜や肺組織などは薬剤吸収率が高く、吸入麻酔薬などはそれらの部位に対して薬剤を浸透させることで感覚神経を麻痺させていきます。

薬剤の吸収速度や吸収効率は、消化管の空腹時に高くなり満腹時に低くなりますが、それ以外にも胃液(消化液)の酸性度や消化管の運動活性などに影響を受け、薬剤そのものの性質によっても変わってきます。一般的に、吸収効率の良い薬剤の性質というのは、『小さな分子の薬・非イオンの薬・脂溶性の薬』などの性質を持った薬であり、剤型としてはカプセル剤よりも顆粒や散剤のほうが吸収が良いです。注射による投与では、静脈注射(動脈注射)、筋肉注射、皮下注射の順番で吸収速度や効率が低くなっていきます。

薬剤が身体各部に搬送される分布は、フッ素が歯や骨に付着しやすく、セロトニンが脳器官に集まりやすいように、薬剤はその特徴・性質によって分布しやすい特定器官・組織が大体決まっています。しかし、多くの薬剤は、人間の身体の中で最も重要な器官である脳に到達することは出来ないようになっています。

それは、血液脳関門(BBB, Blood Brain Barrier)という脳器官の機能を守る防衛機構によって、血液中の物質が簡単に脳に入り込まないような仕組みが用意されているからです。脳を有害物質や危険成分から保護する血液脳関門(BBB)の機構は、脳内の毛細血管の内皮細胞の隙間を狭くすること、血管外部をグリア細胞で取り囲むことによって成り立っています。それらの仕組みによって、脳への異物の通過を妨害しているのです。血液脳関門と似た異物や有害物質を排除する機構として、母親が摂取した有害物質が胎児に送られないようにする胎盤関門というものがあります。しかし、母親が飲んだ薬剤の多くは胎児にも一定の作用を及ぼす為、胎盤関門は血液脳関門と比較すると脆弱な血液関門であるといえます。

また、薬剤が身体各部の末梢器官・組織に送り届けられる為には、その薬が血液内のタンパク質と結合しない『遊離型(タンパク非結合型)』の特徴を持っている必要があります。

薬剤の代謝と排泄についてですが、薬剤を無害化(薬効の喪失)する代謝は主に肝臓で行い、薬剤を体外に排泄する役割は主に腎臓と胆嚢が行います。具体的には、代謝は肝臓の肝ミクロソーム薬物代謝酵素によって行われ、体内に取り込まれた薬剤の効果を失わせて無害化し、尿や便となって排泄されやすい形態へと変質させます。薬剤の排泄は、腎臓で濾過されて尿となって排泄されたり、胆嚢が分泌する胆汁に薬が排出されて小腸・大腸を通過して便として排泄されます。それ以外の排泄経路として、微量ですが汗・唾液・妊婦の母乳などの中に排泄されます。余りに強い薬や高濃度で腎臓に蓄積する薬剤を長期使用すると腎臓による濾過が十分に行えず、腎障害の原因となることがあります。

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