クレランボー症候群・オセロ症候群・エクボーム症候群

クレランボー症候群の特徴と解説
オセロ症候群の特徴と解説
エクボーム症候群の特徴と解説

クレランボー症候群の特徴と解説

クレランボー症候群(Clerambault's Syndrome)は、強烈な求愛感情・恋愛衝動を伴う『恋愛妄想・熱情精神病(エロトマニア, erotomania)』の一種であり、軽躁的な気分の中で『自分と相手が熱烈に愛し合っている恋人同士である』と妄想的に思い込んでしまいます。クレランボー症候群は『相手が自分に好意・愛情を持っている』という強固な確信に支えられて起こり、相手が『あなたのことを好きではない・もう私に付きまとわないでほしい』と訴えてもそれを本気で言っているということが理解できないところに特徴があります。フランスの精神科医J.E.D.エスキロールによって発見されたエロトマニアの症候群であり、エスキロールの研究を継いだドゥ・クレランボー医師の名前を取ってクレランボー症候群と命名されました。

ドゥ・クレランボーの臨床研究では、男性よりも女性に多い妄想性障害とされましたが、嫌がる相手に執拗につきまとう『ストーカー問題』とも相関する現代のエロトマニア(熱情精神病)は、男性・女性の双方に見られる精神疾患だと言えます。クレランボー症候群の患者は、相手が自分を好きという具体的な根拠(直接的なアプローチ)が何もないにも関わらず、『相手は自分に強烈な好意を寄せている・自分と相手は相思相愛の恋愛関係にある』という妄想にはまり込み相手にしつこくつきまといます。自分の愛情(妄想)の対象となった相手に不適切に接近して、相手から拒絶されたり批判されると『怒り・攻撃性・逆恨み』といった反応を示します。男性の女性に対するクレランボー症候群の場合には、法律に抵触するストーカー行為や直接的暴力につながる逆恨みにもつながりやすいので十分な注意と対処が必要です。

とはいえ、通常の交渉(話し合い)やカウンセリングでは、エロトマニアの恋愛妄想を訂正することは極めて困難であり、相手に対する直接的な嫌がらせや加害行為が見られる場合には、拘束的な入院治療が必要になることもあります。クレランボー症候群の人に、相手の本当の気持ちや実際の状況を丁寧に説明して『相手はあなたのことを好きではない』と分からせようとしても、なかなかその説明を受け容れることはありません。『誰かが二人の恋愛関係を邪魔しようとしている・好きだからこそ意地悪をして嫌いな態度を取るのだ・自分の愛情がどれだけ強いのか相手は試している』といった形で相手の説明を否定することが多く、自分の都合の良いような現実状況を歪めてしまうのです。相手が明確な拒否や嫌悪を示せば、感情的に怒り出して暴力に発展してしまう危険もあります。

クレランボー症候群は、大きく『純粋色情狂(pure erotomania)』『精神自動症automatic mental disorder』の二つの類型に分類されますが、主観的な恋愛妄想症状を中心とする純粋色情狂は『相手が自分に惚れている』と思い込んで、生活全体が恋愛感情と妄想内容に支配されてしまいます。精神自動症とは『意識の解離(自我の統合性の弱体化)』を伴う恋愛妄想であり、自分の感情・行動が自分のものではないような『非現実感』を感じながら、自動的に妄想的な言動をしてしまうのです。精神自動症では『自分が相手に働きかけている』という意識の主体性がないので、恋愛感情や求愛行動(ストーカー行為)が自分で統制できず自動的に起こっているような感覚に陥ります。統合失調症や双極性障害の躁病相が悪化した時に、クレランボー症候群のような恋愛妄想に基づく対人関係の障害が現れてくることがあります。認知症を発症した老人でも、嫉妬妄想を主体としたクレランボー症候群類似の症状が見られることがあります。脳内の情報伝達に異常が起こる精神病が基礎疾患としてある場合には、抗精神病薬(メジャートランキライザー)の投与によって恋愛妄想やつきまとい行為が改善してくることもあります。

オセロ症候群の特徴と解説

オセロ症候群(Othello Syndrome)も、クレランボー症候群と同じく恋愛妄想を主体とする対人関係の障害ですが、オセロ症候群は『相手が自分を好きという妄想』ではなく『配偶者・恋人に対する病的な嫉妬妄想』を抱くところに特徴があります。恋愛の苦悩に身悶えるシェークスピアの歌劇『オセロ』から名づけられた嫉妬妄想を基軸とする症候群であり、オセロ症候群が悪化すると自傷他害のリスクが高まってきます。配偶者(恋人)に対する具体的根拠のない強い嫉妬心と合わせて、浮気(不倫不貞)に対する妄想が特徴的に見られ、いつも『相手から自分は裏切られるのではないか・相手から惨めに見捨てられるのではないか』という不安を抱いています。オセロ症候群の背景にあるのは『二人の関係の終わりに対する不安』であり、その不安は幼少期の母子分離不安から生まれる境界性人格障害(BPD)の『見捨てられ不安』にも類似したものです。

BPDの観点から見ると、オセロ症候群とは『愛する相手に見捨てられない為の狂気じみた努力』であり、その狂気じみた努力は『慢性的な見捨てられ不安』に支えられています。相手が浮気(不倫)をして自分を裏切っているのではないかという『不貞妄想』は、自分よりも魅力的な別の異性を見つけて自分を見捨ててしまうのではないかという不安につながっています。仮想的な三者関係における『嫉妬妄想』は、実際には存在しない性的ライバル(恋愛のライバル)を作り上げることで『自分と相手との強い結びつき』を再確認したいという根源的不安の現れでもあるわけです。オセロ症候群の嫉妬妄想・不貞妄想では、必死になって『相手の浮気・不倫の証拠』を探し出そうとし、更に『相手の浮気・不倫の告白』を何とかして引き出そうと試みますが、それが失敗することで安心感(心理的補償)を得ているという側面もあるのです。

しかし、あまりにしつこく浮気(不倫)を疑うことで、逆にパートナーが本当に相手のことを嫌いになってしまうこともあり、その場合には裏切りに対する暴力行為の危険性が出てきます。いずれにしても、重症化したオセロ症候群には他害の問題がつきまとうので、実際的な攻撃性が見られる時には厳重な注意や入院治療が必要になってきます。オセロ症候群は認知症の高齢者でも見られることがありますが、他の精神疾患では重症のうつ病(気分障害)や対人的な関連妄想を伴う統合失調症で『嫉妬妄想』が目立ってくることがあります。

エクボーム症候群の特徴と解説

エクボーム症候群(Ekbom's Syndrome)とは、むずむず足症候群(restlessleg syndrome)の主観症状とも重複する『虫がうごめいている様な身体感覚の違和感(妄想)』を中心とする症候群です。エクボーム症候群は女性よりも男性に多く見られる妄想的な精神疾患であり、虫が皮膚や粘膜を這いずり回っているような妄想知覚を生じるので『寄生虫妄想(Delusional Parasitosis)』とも呼ばれます。寄生虫妄想は自分の身体(皮膚・内臓・粘膜)の内部に寄生虫が巣くっているという奇妙な妄想観念を主体としており、『寄生虫症・伝染病・感染症への強迫的不安』がその背景に見え隠れします。

エクボーム症候群の患者は『身体や皮膚の違和感・寄生虫感染への不安』などを主訴として、内科医や皮膚科医、感染症専門医を受診することが多く、医学的検査(観察と触診・血液検査)の結果異常が発見されなくても『身体の中に寄生虫がいる・皮膚や粘膜の上を虫が動いている』という妄想をしつこく訴えます。心気症(ヒポコンドリー)や強迫性障害にも似た症状を示しますが、実際の基礎疾患は統合失調症や重症うつ病であることが多いようです。また、アルコール依存症や薬物依存などの物質嗜癖(物質乱用)でも、身体の内部や皮膚の表面に小さな虫が動いているような幻覚・妄想を生じることがあり、エクボーム症候群ととてもよく似た主観的症状を訴えます。物質嗜癖では物質(アルコール・薬物)への依存を克服することでエクボーム症候群は改善しますが、精神障害が背景にある場合にはメジャートランキライザー(抗精神病薬)による薬物療法を行っていきます。

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