摂食障害・むちゃ食い障害(DSM-5の診断基準)

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DSM-5の摂食障害・哺育障害の診断基準と変更点


DSM-5の拒食症・過食症・むちゃ食い障害の考え方と診断基準


DSM-5の摂食障害・哺育障害の診断基準と変更点

DSM-5の摂食障害(eating disorder)では『むちゃ食い障害(Binge-Eating Disorder)』という疾病概念を新設して、今まで『特定不能の摂食障害』と診断されていた患者に対して、できるだけ診断名を特定できるように工夫されている。

DSM-Ⅳで診断していた患者を改めてDSM-5を参考にして診断し直すと、神経性無食欲症(拒食症)とむちゃ食い障害(ビンジ・イーティング)の割合が増加して、神経性大食症(過食症)の割合は変わらず、特定不能の摂食障害が68%から8%にまで急減したという。

DSM-5の摂食障害の診断基準に依拠すれば、従来『特定不能の摂食障害』とされてきたものの大半は『むちゃ食い障害』に分類されることになるが、物質関連障害(各種の依存症)とも重なる摂食障害の症状を生み出す心理的原因としては、『渇望・衝動性』『強迫行動』が指摘されている。

DSM-5の『哺育と摂食の障害(feeding and eating disorder)』に含まれる精神疾患には以下のようなものがある。乳幼児期の発達段階における授乳・離乳食を通した摂食行動・栄養補給については『哺育(fedding)』として、思春期以降の『摂食(eating)』とは概念的な区別を設けている。

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DSM-Ⅳでは摂食障害を、幼児期の栄養補給・摂食(feeding)に関する精神疾患である『幼児期または小児期早期の哺育・摂食障害』と成人期の『摂食障害』に大きく分類していたが、DSM-5ではその二つが統合されている。DSM-5では、『哺育と摂食の障害』という大きなカテゴリーの中に、各種の哺育・摂食障害の種類が配置されることになったのである。

DSM-Ⅳの『幼児期または小児期早期の哺育・摂食障害』は、上記したようにDSM-5では『回避性・制限性食物摂取障害(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder)』に変更されている。神経性無食欲症(アノレクシア・ネルヴォーザ)の診断基準から、『正常体重の最低限あるいはそれ以上を維持することの拒否』という文章が削除され、『期待される体重の85%以下』という体重の具体的な目安も無くなっている。

DSM-5では、食事をすることに対する具体的な拒否の意思表示は重要視されておらず、やせ願望(ダイエット願望)や肥満恐怖の過剰によって『極端なカロリー制限』を行うことが問題視されているのである。具体的な体重の目安を示さずに、アメリカ疾病予防センターや世界保健機構(WHO)の正常下限の体重を参考にして『BMIが18.5以上』であれば正常体重の下限と見なして良いという基準になっている。神経性無食欲症の診断基準から『無月経』も削除されて、生物学的性差や年齢・閉経によるバイアスの影響を無くしている。

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DSM-5の拒食症・過食症・むちゃ食い障害の考え方と診断基準

DSM-5では、神経性無食欲症(アノレクシア・ネルヴォーザ)と神経性大食症(ブリミア・ネルヴォーザ)の寛解のプロセスに関する疾病類型も加えられており、神経性大食症の疾病分類においては『排出型・非排出型の区別(過度の嘔吐や下剤乱用があるか無いかの区別)』も無くなっている。神経性大食症の診断基準の変更点として『代償行動の頻度』が週2回から週1回に変更されており、不適切な代償行動の発生頻度によって『摂食障害の重症度』を判定するようになっている。

DSM-Ⅳまでは『今後の研究のための基準案(仮定の診断軸)』という研究対象であった『むちゃ食い障害(Binge-Eating Disorder)』が、DSM-5では正式な精神疾患の名称として認められている。幼少期から思春期の摂食障害の患者の重症度の判定は、元々の体型・体重変化の過程・身体の健康状態などに配慮しながら、『BMIのパーセンタイル値』を用いることが推奨されている。

BMI(ボディ・マス・インデックス)による摂食障害の重症度の判定では、『BMI18.5未満=痩せ』という定義で、『BMI17.5~18.5=軽症の痩せ』『BMI17.5未満=中等度以上の痩せ』としている。しかし、日本のような先進国では痩身の美貌を強調する価値観が広まっていて、普段から食事量が減少する傾向があり、平均的にやせ型の体型の人が増えているので、『BMI18.5未満』を病的な痩せの始まりとする基準は少し厳しすぎるのではないかという批判もある。

摂食障害の症状の経過を評価する場合には、『過去3ヶ月の症状』をリサーチして部分寛解と完全寛解を判断するような仕組みに変えられている。完全には症状が消失していない部分寛解の場合には、体重が正常体重の下限にまで回復してもまだ『肥満恐怖の認知・ボディイメージの(自己身体の評価)の歪み』が残っている。摂食障害においては『体重の数字・月経の有無』というのは表層的な症状に過ぎないと見なされており、患者の日常生活・職業活動を障害する中核的な精神病理は『肥満恐怖・痩せ願望(ダイエットへの強迫性)・ボディイメージの歪み』のほうにあるからである。

DSM-4では、客観的に観察できる症状や数字だけに注目して、体重さえ正常体重の範疇に収まっていれば、神経性無食欲症とは診断されなくなっていた(特定不能の摂食障害であると診断が変わっていた)が、病因論や認知要因にも注意するDSM-5では『肥満恐怖・痩せ願望(ダイエットへの強迫性)・ボディイメージの歪み』といった中核的な精神病理を生む認知・感情も重視されているのである。

DSM-5では、それまで研究対象やアイデア(仮定の軸)に過ぎなかった『むちゃ食い障害(Binge-Eating disorder)』が正式の診断名となった。むちゃ食い障害は単純な食べ過ぎとは異なり、食事摂取の頻度と分量を自分の意思でコントロールすることができず肥満体型になる傾向があるが、神経性大食症のような無理なダイエットや過度の食事制限、嘔吐・下剤乱用の代償行動などは見られない。

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むちゃ食い障害は思春期~成人期早期に発症しやすい疾患であり、拒食症や過食症と比較すると、治療を求めて病院にやって来る年齢が高いという。18歳以上の患者の性別比率は、『男性:女性=1:2』であり女性のほうが発症しやすい精神疾患だが、拒食症・過食症と比較すると男性の比率はかなり高いと言える。むちゃ食い障害の特徴として、『肥満恐怖・やせ願望(ダイエット願望)・ボディイメージの歪み・代償行動(嘔吐や下剤乱用)』が殆ど見られないということがある。

DSM-5の『むちゃ食い障害』の診断基準は以下のようになっている。

むちゃ食い障害(Binge-Eating Disorder)のDSM-5の診断基準

A.むちゃ食いのエピソードの繰り返し。むちゃ食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる。

1.他とははっきり区別される時間帯に(1日の何時でも2時間以内)、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物を食べること。

2.そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚(食べることをやめられない。または、何を食べるか、どれほど多く食べるかを制御できないという感じ)。

B.むちゃ食いのエピソードは、以下の3つ以上を伴っている。

1.普通よりもかなり早く食べる。

2.苦痛を感じるほど満腹になるまで食べる。

3.空腹を感じていない時に大量の食物を食べる。

4.自分がどれほど沢山食べるかを恥ずかしく感じて、一人で食べる。

5.その後に、自分に嫌気がさす、抑うつ的になる。または強い罪悪感を感じる。

C.むちゃ食いに関する強い苦痛。

D.むちゃ食いは、平均して少なくとも3ヶ月間にわたって週1回起こっている。

E.むちゃ食いは、神経性大食症におけるような不適切な代償行動の反復とは関連しておらず、神経性無食欲症または神経性大食症の経過中にのみ起こるものではない。

該当すれば、特定するもの。

部分寛解(in partial remission)……以前にむちゃ食い障害の診断基準を完全に満たした後、平均週1回に満たない頻度でむちゃ食いを行う持続的な期間が続いている。

完全寛解(in full remission)……以前にむちゃ食い障害の診断基準を完全に満たした後、診断基準のいずれも合致しない期間が続いている。

現在の重症度を特定するもの。

重症度の基準は、むちゃ食いエピソードの頻度に基づく。重症度は他の症状や機能障害の程度を反映して高くなることもある。

軽度(Mild)……むちゃ食いエピソードが平均して週に1~3回。

中等度(Moderate)……むちゃ食いエピソードが平均して週に4~7回。

重度(Severe)……むちゃ食いエピソードが平均して週に8~13回。

極度(Extreme)……むちゃ食いエピソードが平均して週に14回以上。

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