自閉症スペクトラム(DSM-5の診断基準)

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DSM-5の自閉症スペクトラムの診断基準とDSM-Ⅳからの変更点


DSM-5における自閉症スペクトラムの特徴と重症度の考え方


DSM-5の自閉症スペクトラムの診断基準とDSM-Ⅳからの変更点

DSM-ⅢからDSM-Ⅳまでは、生得的・先天的な脳の成熟障害によって発生する広汎な領域に及ぶ発達上の問題や障害を『広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorder)』という概念で現してきた。DSM-5ではこの広汎性発達障害(PDD)という概念の使用をやめて、『自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)』という自閉性の連続体(スペクトラム)を仮定した診断名が用いられる事となった。

DSM-Ⅳの『広汎性発達障害のカテゴリー』には以下のような各種の発達障害が含まれていたが、原因遺伝子が特定されたレット障害を除いて、その他の発達障害はすべて『自閉症スペクトラム(ASD)』にまとめられてしまったのである。

DSM-Ⅳにおける広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorder)と診断コード

自閉性障害(299.00)

レット障害(299.80)……女児のみに発症する脳機能の成熟障害で、少なくとも6ヶ月の正常な発達が見られた後に、重症の精神発達の後退および運動能力の低下が起こる。そして、他者への無関心や常同行動=手を洗うような絞るような動作の繰り返しなどの自閉症的な症状を発現するようになる。(原因遺伝子“Methy1-CpG-binding protein2”が特定されて遺伝疾患となったので精神疾患の分類からは削除される流れとなった。)

小児期崩壊性障害(299.10)……2歳頃まで正常な心身の発達があり、『言語機能・コミュニケーション(対人行動)・運動機能・排泄機能』などを身に付けていくが、ある時期を境にして突然『知的機能・社会機能・運動機能・言語機能』が退行していく。そして、他者への無関心や常同行動(こだわり行動)などの自閉症的な症状を発現するようになる。

アスペルガー障害(299.80)

特定不能の広汎性発達障害,非定型自閉症(299.80, PDDNOS)

国際疾病分類のICD-10における発達障害の分類と診断コードは、以下のようになっている。

ICDにおける発達障害と診断コード

広汎性発達障害(F84)

小児自閉症(F84.0)

非定型自閉症(F84.1)

他の小児崩壊性障害(F84.3)

精神遅滞および常同運動に関連した運動性障害(F84.4)

アスペルガー障害(F84.5)

他の広汎性発達障害(F84.8)

特定不能な広汎性発達障害(F84.9)

DSM-5では、DSM-Ⅳまでの広汎性発達障害は以下の大きな2つのカテゴリーだけに一括してまとめられる運びとなった。

DSM-5における発達障害と診断コード

自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder,299.00)

社会的コミュニケーション障害(SCD:Social Communication Disorder,315.39)……特定不能な広汎性発達障害(PDDNOS)に該当するようなもので、特に社会性の欠如や他者とのコミュニケーション・意思疎通に目立った困難を抱えている状態。

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これまで広汎性発達障害に含まれていた各種の発達障害を包括するDSM-5の『自閉症スペクトラム』の診断基準は、以下のようになっている。

DSM-5における自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準

以下のA,B,C,Dを満たしていること。

A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)

1.社会的・情緒的な相互関係の障害。

2.他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の障害。

3.年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。

B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)

1.常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。

2.同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。

3.集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。

4.感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。

C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。

D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。

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DSM-5における自閉症スペクトラムの特徴と重症度の考え方

DSM-Ⅳまでは自閉症を含む広汎性発達障害の言動・人間関係・コミュニケーションの特徴として、イギリスの女性精神科医ローナ・ウィング(Lorna Wing, 1928-)『ウィングの3つ組(三徴候)』が上げられることが多かった。

ウィングの3つ組(三徴候)

1.社会性の障害(対人関係の適応の障害)

2.コミュニケーションの障害(言語機能・語用論の障害)

3.想像力の障害とこだわり行動・常同行動(興味関心が著しく限定されて同じような無意味な動作を反復する)

DSM-5を用いて自閉症スペクトラムを評価して診断する時には、伝統的な『ウイングの3つ組(三徴候)』ではなくて、以下の2つの行動領域の異常の有無や重症度によって評価される方向へと変わった。幼児期以降に自閉症スペクトラムの問題点や障害の存在に気づかれるケースもあるということが明記されており、DSM-5では自閉症を『幼児期に特有の発達障害』ではなく『どの年齢でも発症すること(発見されること)のある発達障害』として定義し直している。

1.社会的コミュニケーションおよび相互的関係性における持続的障害。

2.興味関心の限定および反復的なこだわり行動・常同行動

知覚異常……知覚過敏性あるいは知覚鈍感性

DSM-5ではアスペルガー障害をはじめとして『拡大し過ぎた広汎性発達障害のカテゴリー』を狭める目的で、『自閉症スペクトラム(ASD)』という自閉症的な特徴・症状の連続体の概念が採用されたのだという。DSM-Ⅳまでは『非定型自閉症』とも呼ばれることがある『特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)』の診断が多くなり過ぎていたのだが、DSM-5では『できるだけ特定不能の広汎性発達障害という診断を下さないため=DSMの診断基準を実際に有効なものにするため』に自閉症スペクトラムという汎用的な概念が用いられたという事情もある。

特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)の中で、こだわり行動(常同行動)や興味関心の限局(想像力の障害)が目立たない症例については、自閉症スペクトラムとは分けて『社会的コミュニケーション障害(SCD:Social Communication Disorder)』として診断するようになっている。

DSM-Ⅳまでは、ADHD(注意欠如・多動性障害)の診断を受けた患者は、自閉症・アスペルガー障害といった広汎性発達障害の診断を重複して受けることができず鑑別診断をすることになっていたが、DSM-5では『自閉症スペクトラムとADHDとの重複診断(並存する状態)』を認めるという変更が為されている。

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広汎性発達障害という概念では、『発達障害の人』と『発達障害ではない人』との特徴・言動・問題行動の有無の境界線が比較的明確なものになっている。自閉症スペクトラムという概念では『発達障害の人』と『発達障害ではない人』との間に明確な境界線を引かずに、健常者・軽症の自閉症者から重症の自閉症者まで連続的につながっていて、『症状の現れ方(特徴的な言動や態度の目立ちやすさ=症状・問題行動の重症度)』が違うだけなのだという前提を置いている。

健常者と自閉症者の中間的な領域にいる人たちは、かねてから『自閉症発現型(BAP:Broad Autism Phenotype)』と呼ばれたりしてきたが、極めて軽い自閉症的な言動・態度を見せる自閉症発現型(BAP)の人がもう少し健常者の側に近づけば、『癖のある人・変わり者・話下手な人・自己中心的な人・自分の中に籠りやすい人』といった印象になってくるだろう。

自閉症スペクトラムという連続体の概念は、このように健常者と自閉症の軽症の人が連続的な直線上に並んでいるという概念であり、軽症の人の自閉症的な言動・態度がより顕著になって問題行動が増えてくれば、『重症の自閉症者』へと近づくことになる。自閉症スペクトラムでは正常(健康)と異常(病気・障害)の境界線が曖昧であると同時に、隣の状態(より軽症・より重症)と連続的につながりあっている。そのスペクトラム(連続体)の考え方を敷衍すれば、健常者でも多かれ少なかれ、わずかであっても『自閉症的な性格特性・言動や態度の特徴』を持っているということになるのである。

DSM-5では自閉症者をどのように支援すべきかの目安を得るために、『社会的なコミュニケーション』『興味の限定・反復的な常同行動』の分野で『自閉症スペクトラムの重症度の区分』を設定している。その重症度の区分は『レベル1(一定の支援が必要)・レベル2(多くの支援が必要)・レベル3(極めて強力な支援が必要)』の3段階に分けられている。

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