分裂病型人格障害(schizotypal personality disorder)

DSM-Ⅳによる分裂病型人格障害の診断基準
分裂病型人格障害の性格行動面の特徴
面白みのないタイプと臆病なタイプ
分裂病型人格障害への対応

DSM-Ⅳによる分裂病型人格障害の診断基準

アメリカ精神医学会(APA)が作成した“精神障害の統計・診断マニュアル”であるDSM‐Ⅳ‐TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、世界保健機関(WHO)が定めたICD‐10(International Classification of Diseases:国際疾病分類)と並ぶ精神医学的な疾病分類と診断基準の国際的なスタンダードとなっていますが、DSM‐Ⅳによると分裂病型人格障害の診断基準は以下のようなものとなっています。分裂病型人格障害は、『奇妙な思い込みや風変わりな行動』を特徴とする人格障害のクラスターA(A群)に分類されます。

DSM‐Ⅳによる分裂病型人格障害(Schizotypal Personality Disorder)の診断基準

全般的に、対人関係における欠陥および観念、外観、行動における奇妙さのパターンで、成人期早期に始まり種々の状況で明らかになる。以下の9つの基準のうち、少なくとも5項目で示される。

1. 統合失調症症状に似た『関係念慮』を持っていて、『あらゆる事柄が自分に関係している』と考える傾向がある。他人の会話内容と無関係に、自分の噂話をしていると思ったりする。

2. 奇異な信念や奇妙な空想、または、魔術的思考が行動に影響しており、それは文化的規範に合わない。 (過度に迷信的であること、千里眼、透視、念力、テレパシーなどの超能力を信じること、または、「第六感」「他人が私の感情を感じる事が出来る」と確信すること。小児及び青年では、奇異な空想または思いこみが見られる。)

3. 実際には存在しないはずの力や人物の存在を感じるなど、普通にはあり得ない知覚体験や身体の錯覚が見られる。

4. 考え方や話し方が奇異である。例えば、会話内容が乏しい、細部にこだわり過ぎる、抽象的表現が多い、考え方がパターン化していて紋切り型。

5. 疑い深く妄想じみた考えを持っている。

6. 感情が不適切で乏しい。いつもよそよそしくて、微笑みかけたりすることがない。頷くなどの表情や身振りが見られない。

7. 奇妙な宗教に凝ったり、迷信を信じているために、行動や外見がそれに合わせて奇妙で風変わりになっている。

8.親子関係以外では、親しい人や信頼できる人がいない。

9.社会や人間関係に対して過剰な不安を持っていて、それは殆ど妄想に近い恐怖を伴っていることが多い。

分裂病型人格障害の性格行動面の特徴

分裂病型人格障害(Schizotypal Personality Disorder)は、統合失調症の病理研究や臨床活動の中から発見された性格上の問題で、対人関係や社会活動に強い不安や恐怖を抱いていて、奇妙な信念や風変わりな空想を持ちやすい人格構造の偏りです。統合失調症の病前性格という見方をされることもあり、『分裂病型(Schizotypal)』という用語には統合失調症のスペクトラム(連続体)という意味合いも込められています。他者との人間関係に対する動機づけ(モチベーション)が乏しいだけでなく、一般的な論理(ロジック)や規範(ルール)を正しく理解できない『認知機能の障害』もあるので、現実社会への適応はかなり悪くなっています。

精神病である統合失調症には、健常者の精神活動には見られない幻覚・妄想・錯乱を伴う『陽性症状』と健常者が持っている心理機能である自律性や積極性(興味関心)が失われる『陰性症状』とがあります。分裂病型人格障害は、統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想)と関連が深い人格障害と見られており、特に、本来自分と無関係なものを自分と深い関係があると思い込む『関連妄想(関係念慮)』が出てくることがあります。陽性症状に類似した特徴だけでなく、『無為・自閉・意欲減退・感情の硬直』といった陰性症状に似た特徴も持っているので、分裂病型人格障害の人は、親密な対人関係を回避して他人を信用しないという側面が強くあります。分裂病質人格障害(Schizoid Personality Disorder)と同じように『社会生活・対人関係・職業活動などからの孤立』が問題となり、『奇異な信念・奇妙な空想・風変わりな態度』によって他人を寄せ付けないため通常の対人関係を取り結ぶことが殆ど不可能になります。

奇異な信念とは、『自分と他人とは理解し合うことが原理的に出来ない』とか『夢に出てきたイメージは必ず現実のものとなる』とか本人だけにしか通用しない非現実的な思い込みのことで、奇異な信念体型によって『自己と他者との間の厚い隔壁』を築いて自分を他者の否定的言動から防衛する意味があります。奇異な信念や風変わりな態度は統合失調症ほどに病的な症状ではないので、『他者への過度の不安・恐怖』の現れであると見なすこともできます。不安や恐怖の源泉である他者から遠ざかる為に『私とあなたとは根本的に違うというメッセージ』を出しているケースもあります。標準的な価値観や社会通念の側から見て、奇妙で風変わりに見える分裂病型人格障害の人ですが、実際には、分裂病型人格障害の人のほうも社会で生活する他者を『奇妙で恐ろしいもの』と認知しています。奇妙な空想や独自の世界観は、彼らが自分を『周囲の異質な他者(自己存在を脅かそうとする他者)』から自己防衛するために生み出された妄想様観念であると理解することが出来ます。

『奇異な思い込みの世界』に自閉する傾向がある『分裂病型』は『分裂病質』よりも、更に社会適応性が悪く、他人と打ち解けたコミュニケーションをすることが難しい人格障害です。分裂病型人格障害(SPD)の中核的信念には『他人は信用できず、油断をすれば自分が傷つけられる』という被害妄想じみた信念があり、その為に、学校や企業での集団生活に上手く適応できず、初めから社会集団に所属することを強く拒絶します。分裂病型の人にとって、『社会的な集団組織の一員』になって社会的アイデンティティを持つことは、『本来の自己』を喪失することであり他人(社会集団)から思い通りに自分の人生(時間・判断)をコントロールされることなので、学校や企業の一員として自分を認識することに強烈な恐怖と不安を持っています。これは、C.G.ユングの普遍的無意識(集合無意識)でいうグレート・マザーに『呑み込まれる不安』と一緒であり、SPDの人にとって『自分より大きな影響力を持った存在(社会的責任・ヒエラルキーのある社会集団)』の一部になることは、大きな組織から保護されるのではなく大きな組織に支配されるといった被害的認知につながることが多いのです。

分裂病型人格障害の人にとって一番重要な課題は、『自己の正当性と影響力が保障された空想的な世界の枠組み』に留まり続けることであり、奇異な信念や風変わりな行動は、そういった自分独自の内的世界に他人を一切寄せ付けないための自我防衛機制としての役割を意図せずして果たすことになります。『前進的な変化・社会常識への適応』を厳しく拒否するかのような強固な妄想的人格構造は、『自分に幾ら干渉しても、自分は他人の意見によって決して変わる事はない(自分に幾ら働きかけても無駄だから放っておいて欲しい)』という逃避的な防衛機制であり、その『他者との共感・協力』を拒絶する防衛機制によって分裂病型の人は必然的に社会的な対人状況から孤立していきます。感情の硬直化や過度の内向性という特徴を持っているので、対人関係がなくなって社会的に孤立しても分裂病型の人は深刻な孤独感や寂しさによって悩むことは余り無いのです。

分裂病型と分裂病質の類似点としては、『積極性・自発性・能動性の欠如』が見られ、基本的に、社会的活動に対して受動的・依存的な行動パターンを示すということがあります。分裂病型の場合には、防衛的態度と自己正当化の欲求が過剰に強まっているので、自分の悪口や批判に対しては非常に敏感に反応し、自分を攻撃しようとする相手には神経質に念入りな反論をする傾向があります。双方とも、自分から進んでやりたい事柄や自分が楽しいと思える趣味、他者と一緒に楽しめる時間などが殆どないことも共通しています。奇妙な考え方や風変わりな行動を特徴とするクラスターA(A群)の人格障害の中心症状は、『喜ぶ能力や楽しいと思う感受性の喪失=アンヘドニア(失快楽症)』であるとする見方もあり、彼らは『人生には何一つ楽しい遊びやエキサイティングな体験などない』という強固な思い込みに囚われています。

面白みのないタイプと臆病なタイプ

現象学的な症状と対人関係に対する防衛機制(空想・妄想・信念)に着目すると、分裂病型人格障害は『面白みのないタイプ・臆病なタイプ』の2つのタイプに分類することが出来ます。疫学的研究によると分裂病型人格障害は、人口の1~3%程度に発症すると考えられています。

『過度の内向性』の性格行動パターンを持つ分裂病型人格障害の人は、自分の内面的な空想や価値観、世界観に対して強いこだわりを持っていて自閉的な外観を呈しますが、自己の外部にある現実世界(社会生活)や他者に対しては徹底して無関心です。感情表現の硬直化や鈍磨が見られるので、他人とコミュニケーションしていても微笑んだりすることがなく、無表情で冷淡な印象を周囲に与えます。元々、他者と積極的に話しかけようとか相互理解を深めようというモチベーション自体がないので、いつも他人に対して無関心であり対人場面を避けて社会的に孤立しています。

『面白みのない分裂病型人格障害』は、感情の硬直化と他者への無関心によって、自分自身が何が楽しいのか何を面白く感じるのかが分からなくなっている状態であり、頭の中を奇妙な空想や風変わりな世界観が占領していることで他者と喜びや感動を共有することが不可能になっています。周囲の人たちからは、感情表現や話題の内容が乏しく面白みのない人と認知されていますが、本人も、自分自身の『人生の喜びや楽しみ』への関心が薄く毎日の生活を楽しむ情緒的・対人的能力を欠いています。

『臆病な分裂病型人格障害』は、対人関係に対する強烈な不安と緊張を抱いており、他者を『自分を迫害する存在』として被害妄想的に認知する傾向があります。いつも他人からの批判や攻撃に対して万全な自己防衛をしていないと安心できない『臆病さ・小心さ』が特徴であり、他者との対人関係を防衛的に拒否しながらも心のどこかで誰かと少しはつながりたいという欲求を持っています。神秘的な宗教や風変わりな世界観に異常なこだわりを見せることも多いですが、それは『自分を理解できない他者』を振るい落とすためのスクリーニング(選別)の防衛機制であり、無意識領域では『本当に深い次元で自分を理解してくれる他者』を求めていることがあるのです。

『臆病な分裂病型人格障害』の人の至上命題は、自尊心・自己愛を傷つけずに他者と程よくコミュニケーションできることであり、神秘的な幻想やテレパシーのような超能力の妄想、魔術的な思考というのは、『極めて特殊な自己の世界観』を開示することにより他者を遠ざけながらも、自分と感受性の合う他者(自分を傷つけない他者)を選別しようとする試みでもあります。しかし、その選別のための防衛機制が上手く機能する可能性はほとんどありません。一般社会の常識や通念に反する奇妙な空想や風変わりな価値観を持っているために、他者と上手くコミュニケーションできず社会環境から疎外されやすくなります。その結果、『被害妄想的な異質性を嫌う他者』から侮辱や否定を受けるリスクが高くなり、分裂病型人格障害の人は自尊心や自我意識を傷つけられて、ますます現実社会の人間関係から逃避(内向的な自閉)していくことになります。

分裂病型人格障害への対応

訂正が難しい『奇異な信念・奇妙な考え方』を持つ分裂病型人格障害(Schizotypal Personality Disorder)は、統合失調症のスペクトラム(病理的な連続体)に分類されることもあり遺伝的要因を指摘する意見もあります。Schizotype(分裂病型)という病理概念を提唱したS.ラドーは、統合失調症に発展する可能性がある遺伝子要因に言及していますが、実際のSPDには両親との関係性や幼児期のトラウマ的体験など環境要因も大きく関係していると考えられます。SPDが、統合失調症の激しい幻覚妄想や錯乱を伴う急性症状に発展する可能性や、E.クレペリンが定義した早発性痴呆のような予後不良(人格荒廃・意識の解体)に至るリスクは、一般にそれほど高くありません。

分裂病型人格障害(SPD)では、対人スキル(コミュニケーションスキル)の低下による対人関係の障害が顕著であり、社会的孤立による社会経済的不利益が大きくなってきます。しかし、『対人関係の不安や恐怖』を奇異な信念や奇妙な行動で補償して、何とか精神の正常性や安定性を保っている部分があるので、一気呵成にSPDの人の妄想や思い込みを否定するのは良くありません。非現実的で妄想的な信念(空想)を持つことで、今にも解体しそうな脆弱な自我構造を支えているので、副作用としての自閉や解離のリスクを避けながら現実適応力(対人スキル)を高めていく必要があるのです。その為に、一番重要になってくるのが、SPDの人が喪失している『現実社会で楽しみや喜びを感じる能力(感情機能)』を段階的なロールプレイングと行動療法で取り戻して上げることです。

『対人関係を拒絶する傾向』は、分裂病型にも分裂病質にも共通するのですが、分裂病型の場合には『他人は私の意見や世界観を否定しようとする・どうでもいい事にこだわって意見する他人は厄介な存在である・他人(社会)の影響は私の人生を呑み込もうとする』という被害妄想的な信念が多く見られます。心理臨床家(カウンセラー)や周囲にいる人々(家族・友人)は『他人と関係すると、一人でいるよりも楽しいことがある』という経験を積み重ねさせることで、SPDの人の『外部世界への関心』『コミュニケーションへの興味』を高めていくといいでしょう。SPDでは、過去に他人と深く関わって裏切られたり自分の価値観を否定されたりしたトラウマティックな体験を持つことも少なくないので、自由に自分の意見や感情を表現しても否定されない対人環境を与えてやることに治療的意義があります。『親しい人間関係』を持っても、自分のプライバシーや独自の価値観が呑み込まれて支配される危険がないことを経験的に理解する必要性があるのです。

SPDの人に『奇異な信念や奇妙な価値観』を話させてみて、その意見や気持ちを肯定したり評価してあげるという支持的療法を粘り強く続けていき、『対人関係は安全であり、コミュニケーションは楽しい』という他者への信頼感とコミュニケーションへの積極性を培っていきます。SPDには、脳の器質的原因や統合失調症に関与する遺伝要因の存在も仮定されているので、他者を信用させたり対人関係を楽しませたりすることは難しいですが、ロールプレイングや社会的場面への曝露療法(エクスポージャー法)を粘り強く続けていくしか具体的な対策はありません。対人関係への不安や社会生活への恐怖に対しては、ハロペリドールやフマル酸クエチアピン(セロクエル)のような抗精神病薬も効果がありますが、対人コミュニケーションの改善に本質的な影響を与えることは難しいと思われます。本格的なSPDの対応としては、ロールプレイング(模擬的な対人コミュニケーション)を実施する行動療法や同じような社会的孤立の問題を抱えた人との集団精神療法(エンカウンター)、基本的な話し方や目線の合わせ方などを実地に教えるSST(社会技能訓練)に大きな効果があります。

今まで出会う機会が少なかった他者と出会う頻度を増やしていき、無条件の肯定的受容や積極的尊重を示して上げることで、SPDの人の『対人関係に対する自信の強化・傷ついた自尊心の回復』を促進していくことが出来ます。SPDの人の被害妄想や奇妙な思い込みを頭から直接的に否定すると対立感情や自尊心の傷つきを深めますから、『そういう批判や攻撃をする人も確かにいるけれど、私はあなたのそういった話についても興味があるよ』といった共感的な態度で接し続けていると、SPDの人のほうから自分の内面的な葛藤や記憶、悩み続けていることなどを話してくれることもあります。

SPDの人の気持ちや立場に立って、心理臨床家(カウンセラー)の出来る範囲で『鏡像的な転移』を返して上げると、SPDの人との間にある種のラポール(信頼関係)が形成されやすくなり、『この人であれば、自分の話や問題についてしっかり聞いてくれるかもしれない』という期待を強めることが出来ます。SPDの非現実的な妄想や非論理的な信念に呑み込まれすぎずに、『SPDの被害妄想的な部分』『現実世界の他者の反応や考え』の違いについて繰り返し丁寧に教えて上げることに認知療法的な効果があります。

SPDの人は対人スキルの未熟による『自己信頼感(自信)の低下』を起こしているので、対人関係や社会生活に対する劣等感・不適応感を弱めていくことが心理療法の中心となります。日常会話を気楽に練習するロールプレイングを通して他人とのコミュニケーション(社会的場面)の楽しみを発見すること、自己と他人に対する感情的な共感性を高めることが当面の課題となるでしょう。自己の共感能力や外界への興味関心が回復してくれば『親密な対人関係』を持てるようになり、社会生活や対人場面への不安を和らげることで『経済的な職業活動』にも適応性が増してくるのです。

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