精神生理学的アセスメント

このウェブページでは、『精神生理学的アセスメント』の用語解説をしています。

心理状態と身体状態の心身相関を前提とする精神生理学的アセスメント

自律神経系を中心とする精神生理学的指標


心理状態と身体状態の心身相関を前提とする精神生理学的アセスメント

臨床心理学の心理アセスメントは、『クライエントの心理状態・精神病理(精神疾患)・人格構造(性格特性)・知能水準(知能指数)』を測定して調べるために実施されるが、『精神生理学的アセスメント』というのは身体的・生理学的な変化に着目した心理アセスメントの一種である。心身症を研究する心身医学では、心理状態と身体の状態が相互に影響を与え合っているという『心身相関』を前提としているが、精神疾患による心理状態の異常や不調があると、その変化は『身体的・生理学的な変化』となって現れる。

認知療法の治療機序(治療メカニズム)を説明する認知理論では、『生理(身体)→認知→感情・気分(症状)→行動・態度』が相互作用していると考えるが、精神疾患の症状や心理状態の不調があると『心悸亢進(動悸)・大量発汗・呼吸の苦しさ・冷感(体の冷え)』などの身体的・生理的な異常がでやすくなる。こういった身体的・生理的な変化を測定することで、クライエントの精神疾患の有無・程度や心理状態の変化などを調べようとするのが『精神生理学的アセスメント』と呼ばれているものである。

精神生理学的アセスメントが主に測定対象とするのは、人間のホメオスタシス(生体恒常性)を維持している『自律神経系』であり、自律神経系には興奮して活動する時に優位となる『交感神経』と、落ち着いて休養する時に優位となる『副交感神経』とがある。臨床心理学のアセスメントでも使用される脳の中枢神経系の指標(基準)としては『脳波(EEG)』『事象関連電位(ERP)』があり、リラックスした安静時に出やすい脳波であるα波と興奮時のβ波の頻度を調べたりする。

体性神経系のアセスメントでは、筋肉収縮時の活動電位を記録した『筋電図・筋電位(EMG)』を用いることも多いが、特に皮膚表面に表面電極を装着して筋肉全体の活動電位を測定した『表面筋電図』が神経系の異常や筋骨格系の心身症に応用されたりする。身体症状の苦痛や不快、不便を訴えてくるクライエントに対して、表面筋電図を測定するアセスメントを実施することになるが、特に『緊張性頭痛(筋収縮性の頭痛)・チック・書痙・痙性斜頸』などの生理学的なアセスメントに筋電図は有効とされている。

自律神経系を中心とする精神生理学的指標

精神生理学的アセスメントの中心にあるのは、『自律神経系の指標の測定』である。特に『精神的な不安感・緊張感・焦燥感』とダイレクトに相関する『心臓血管系(循環器系)の測定』がパニック障害や不安障害、社交不安障害(対人恐怖症)、心気症、情緒障害をはじめとする精神疾患のアセスメント(鑑別的診断検査)では重要視される。

具体的には、1分間当たりの『心拍数(HR)』を測定したり、心臓の収縮と拡張に伴って変化する電気的活動を記録した『心電図(ECG)』をチェックしたり、『心電図RR間隔(心電図における二つのR波の間隔)』を測定したりすることで、クライエントの心臓血管系の運動の異常(=精神状態の異常・不調を反映した自律神経系の変化)を発見しようとするのである。

自律神経系の『交感神経(興奮性・動物性の神経)』が優位なのか『副交感神経(抑制性・植物性の神経)』が優位なのかを調べるためには、『血圧』『末梢皮膚温』『瞳孔反応』『汗腺の皮膚電気活動』を測定することも有効である。

1.血圧……血圧が上昇している時には交感神経が興奮しており、血圧が低下している時には副交感神経が作用している。

2.末梢皮膚温……交感神経が優位になると血管収縮が起こって、指先足先のような末梢の皮膚温度は低下する傾向がある。不安・緊張・抑うつ感などの苦痛な情動反応があると、交感神経が興奮して末梢皮膚温が低下することが知られており、末梢皮膚温は精神状態の不安定さの指標にもなる。

3.瞳孔反応……交感神経が優位になるとアドレナリンの作用で瞳孔は散大するが、副交感神経が優位だと瞳孔は縮小する。

4.汗腺の皮膚電気活動……交感神経が優位になって興奮すると汗腺から汗がでやすくなる。皮膚の電気抵抗の変化や皮膚表面の電位の変化をまとめて『EDA(皮膚電気活動)』ということもあるが、皮膚電気反応のことを『GSR』という。皮膚電気反応のGSRは、その測定方法・測定原理などの違いによって『SCR(皮膚電導反応)・SCL(皮膚電導水準)・SPR(皮膚電位反応)・SPL(皮膚電位水準)』などとして記録されることになる。

総合的な精神生理学的アセスメントを短時間で実施する方法としては、複数の生理学的指標を同時記録することができる『ポリグラフ』があるが、ポリグラフは一般的には『嘘発見器』という俗称でよく知られている測定機器でもある。

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