テストバッテリーと心理テスト(心理検査)

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心理テスト(心理検査)の種類

複数の心理テストを組み合わせるテストバッテリー


心理テスト(心理検査)の種類

臨床心理学の心理アセスメントは、『クライエントの心理状態・精神病理(精神疾患)・人格構造(性格特性)・知能水準(知能指数)・効果的な理論や技法』を測定して、クライエントの人格や人生、問題をできるだけ客観的に理解するために実施するものである。心理アセスメントの具体的な方法として、クライエントと対面で向き合って会話をしながら必要な情報を集める『面接法』、クライエントの行動・発言などを中立的な目線で観察していく『観察法』、測定しようとする心理状態や性格傾向を調べるための所定のテスト(質問・課題・作業)を施行する『心理テスト(心理検査)』がある。

臨床心理学の心理療法あるいはカウンセリングでは、クライエントの精神疾患(精神障害)の有無や種類を診断するための『診断的な心理テスト(心理検査)』が行われているが、それ以外にも心理テストを受けることそのものに治療的効果があるとする『治療的な心理テスト(心理検査)』もある。

カール・ロジャーズの来談者中心療法(クライエント中心療法)やジークムント・フロイトの精神分析では、特別に準備された心理テストを用いる心理アセスメントは行われないが、科学的精神医学や科学的根拠を重視するエビデンスベースドな臨床心理学(心理療法の技法)では、クライエントの心理状態や回復過程を測定するための心理テストを行うようになっている。

『心理テスト(心理検査)』を実施する利点としては、クライエントのパーソナリティや精神障害を客観的かつ包括的に理解しやすくなり、従来のカウンセリング(精神分析)で見られることのあった『主観的・哲学的な人間理解』による偏りを防ぎやすくなることがある。精神科・心療内科のクリニック(病院)で心理療法を受けるような場合には、標準化された心理テストも『保険診療制度(現行の社保・国保で3割の自己負担)』が適用されるので、経済的コストの面での利点もあるだろう。

心理テスト(心理検査)を実施することが多い時期は、『心理療法を開始する前の導入段階(どの心理療法の理論や技法を適用するのが良いかの判断をする)』『何回かの心理療法を実施した後の過程段階(その心理療法がどのような変化をクライエントにもたらしているかをチェックする)』『心理療法を終わらせる時の終結段階(心理療法の効果やクライエントの変化を測定する)』の3つである。

心理テストの大まかな種類は以下の3つのカテゴリーに分類することができ、それぞれの『心理テストのカテゴリー(質問紙法・投影法・作業検査法)』には膨大な数の心理テストが含まれている。

質問紙法……被検者(クライエント)が『所定の質問項目』に回答していく最も一般的な心理テストで、クライエントの意識レベルの『思考・感情・認知・行動・態度・人間関係・適応・精神病理』など様々な特性や問題を測定することができる。主な質問紙法には、Y-G性格検査(矢田部=ギルフォード性格検査)、モーズレイ性格検査(MPI)、ミネソタ多面人格目録(MMPI)、コーネル・メディカル・インデックス(CMI)、ベック抑うつ評価尺度(BDI)、ハミルトンうつ病評価尺度などがある。

投影法……被検者(クライエント)に『曖昧で抽象的・多義的な刺激と課題』を呈示してその反応を観察する心理テストで、投影法では『被検者の無意識的な心理状態(精神内界の葛藤)』が投影(反映)されると考えられている。被検者の無意識レベルの『記憶・思考・感情・認知・適応・精神病理』など様々な心理状態を測定することができるとされる心理テストであり、被検者自身には『自分の言語的・非言語的な反応』がどういった意味を持っているのかが分からない仕組みになっている。主な投影法には、ロールシャッハテスト、文章完成テスト(SCT)、主題統覚検査(TAT)、P-Fスタディ(絵画‐欲求不満テスト)バウムテスト、人物画テスト(DAP)などがある。

作業検査法……被検者(クライエント)に『単純な作業課題』を与えて、その作業過程における意欲・持続・正確さなどを観察することで、被検者のパーソナリティ特性や職業適性などを測定しようとする心理テストである。クライエントの意識的な回答・知識や自己定義と関係しない心理テストなので、より客観的な作業・職業の適性にまつわる見立てが欲しい時に実施されることが多い。主な作業検査法には、内田・クレペリン精神作業検査やベンダー・ゲシュタルト検査がある。

複数の心理テストを組み合わせるテストバッテリー

各心理テストにはそれぞれの背景理論(基礎理論)と測定可能な心理状態の水準・対象があり、一つの心理テストだけで被検者(クライエント)のパーソナリティや精神病理、適応状態、人間関係、成育歴などのすべてを測定して理解することはできない。クライエントのパーソナリティや生活履歴、精神病理の全体像をできるだけ正確かつ多面的に理解するために、複数の心理テストを組み合わせて実施することを『テストバッテリー(test battery)』と呼んでいる。

上で分類した『質問紙法・投影法・作業検査法』には、それぞれ以下のような特徴と長所・短所がある。

質問紙法の特徴と長所短所……質問紙法の特徴は、所定の質問項目が印刷された専用の用紙を用いるので、実施と解釈が簡単であること、学級・会社などの集団に対しても実施しやすいということである。質問紙法は常識的な文章を用いた質問によって構成されているので、『(採点者の)主観的な解釈の偏り』が生まれにくく、質問紙法の結果を数量化して統計的に処理しやすいという長所がある。

質問紙法の短所は、『病気だと思われたくない・悪い人間だと思われたくない』という意識的な自我防衛機制が働きやすく、『社会的な望ましさの要因』によって質問に対する回答が歪められやすい(嘘の回答もしやすい)ということにある。質問紙法の被検者には、質問文を読んで適切に理解できるだけの『知能水準』が要求されるので、文章理解能力に問題を抱えた学習障害・知的障害の人には実施しづらい。

投影法の特徴と長所短所……投影法の特徴は、質問項目に『はい・いいえ』で答える形式よりも被検者が自由に自分の意見や表現をもって反応しやすいということ、『社会的な望ましさの要因』による反応の歪曲が起こりにくいということである。被検者(クライエント)自身には、どういった反応が望ましいのかどういった回答が悪いのかの判断をつけることが難しいのが投影法の特徴であり、投影法の結果を正しく解釈するためには『一定以上のその投影法にまつわる経験・知識・習熟』が要請されることになる。

投影法には、『診断的なテスト』以外にも『治療的なテスト』としての効果があり、投影法の心理テストを実施すること自体が、心理療法のような治療効果(深いレベルの自己洞察)につながることもある。投影法の短所は、背景理論の根拠が曖昧であり科学的な妥当性に乏しいことであり、投影法の検査結果を客観的な事実や傾向性として受け容れられない人には受け容れられないという問題が生じることがある。投影法の検査結果の解釈には、どうしても『検査者の主観的な解釈・仮説理論的な説明』が介入せざるを得ないからである。

作業検査法の特徴と長所短所……作業検査法の特徴は、言語的能力を問わない単純な作業に基づく検査なので、言語障害・学習障害・知的障害などのある被検者にも実施しやすいということ、学級・会社などの集団に対して効率的に実施しやすいことである。質問紙法以上に検査結果を数量化して統計的に処理しやすいという長所もあり、被検者の反応の『意識的な歪曲(社会的望ましさによる影響)』も起こりにくい。

作業検査法の短所は、検査結果の解釈に主観的あるいは一方的な解釈が入り込みやすいことであり、『単純作業の結果から読み取れる人格特性(パーソナリティ構造)』は極めて限られているので、被検者の人格の全体像には迫ることができないということである。

テストバッテリーの基本原則はクライエントの『異なる意識水準・異なる心理的側面』を測定するために、『意識レベルの心理を測定する質問紙法』『無意識レベルの心理を測定する投影法』『知的レベルを測定する知能検査』の心理テストを組み合わせるという事にある。多面的な人格特性や性格構造を調べる時には、調べたい心理状態に見合った複数の質問紙法を組み合わせて実施することも多い。

1949年に『性格検査(パーソナリティテスト)と意識水準の相関関係』を精神分析の見地から指摘したのは、アメリカの精神科医・心理学者のE.S.シュナイドマン(Edwin S. Shneidman,1918~)だが、日本では誠信書房から『自殺者のこころ』『自殺とは何か』といった自殺の心理学に関連する邦訳書が出版されている。後年にカリフォルニア大学(UCLA)の名誉教授を務めたE.S.シュナイドマンは、1968年に全米自殺予防学会を設立しており大学では『死生学』を中心とする講義も行っていた。

テストバッテリーの組み合わせ方には『固定の決まったルールやセオリー』は存在しないが、クライエントの心理状態のどういった側面を調べようとしているのかを明確にしてから、それぞれの心理テストの長所と短所のバランスを考慮することが大切である。テストバッテリーを駆使した『総合的なクライエントのパーソナリティ評価』のためには、検査者は各心理テストの技法・理論・実際(実施経験)に十分に習熟していなければならない。

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