不安障害・恐怖症の評価尺度(心理テスト)

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神経症・不安症状の評価尺度(心理テスト)

社交不安障害(対人恐怖症)・単一恐怖症の評価尺度(心理テスト)


神経症・不安症状の評価尺度(心理テスト)

不安障害(anxiety disorder)は、強迫性障害やヒステリー(転換性障害)と並んで、かつては古典的な精神分析が治療対象にした『神経症(neurosis)』の一種に分類されていた。神経症には現在の精神医学における各種の不安障害と恐怖症、強迫性障害、パニック障害、転換性障害(身体表現性障害)、社交不安障害(対人恐怖症)などが含まれているが、神経症全般を測定するための質問紙の心理テストとして開発されたのが、1966年にS.クラウンらの『MHQ(Middlesex Hospital Questionnaire)』である。

S.クラウンらのMHQ(Middlesex Hospital Questionnaire)はその後、『CCEI(Crown-Crisp Experiential Index)』という質問紙の心理テストに改変されているが、この心理テストでは神経症に含まれていた『精神不安・恐怖・強迫・身体不安・抑うつ・ヒステリー』の6つの疾患を独立的な精神疾患単位として定義したという特徴がある。

古典的精神医学の伝統では、特定の対象や状況に対する恐れを『恐怖』、特定不能な漠然とした曖昧な恐れ(悪いことが起こるという予感)を『不安』として分類してきた。各種の不安症状を患者(被検者)が自己評価するタイプの質問紙の心理テストを開発した心理学者として、J.A.テイラーがいる。

J.A.テイラーは1951年にMMPI(ミネソタ多面人格目録)の質問項目から慢性的な不安反応(=特性不安)に合致する項目を選んで、不安症状を自分で判定することができる顕在性不安尺度の『MAS(Manifest Anxiety Scale)』と子供向けの『CMAS(Children form of Manifest Anxiety Scale)』を作成したのである。

不安症状には、特定の不安経験に対する性格的な反応傾向である『特性不安(trait anxiety)』とストレスによって発症する自律神経失調症的な情緒状態である『状態不安(state anxiety)』とがあるが、J.A.テイラーの顕在性不安尺度は『特性不安』だけに焦点を当てて測定する尺度であった。不安性障害(不安神経症)を他者(専門家)が判定する評価尺度には、マックス・ハミルトンが1959年に公開した『ハミルトン不安尺度(HAS:Hamilton Anxiety Scale)』というものがあるが、この尺度もまた特性不安と状態不安との区別を行っていない問題点がある。

その特性不安と状態不安の両方を分けて測定できるように作成された評価尺度(心理テスト)が、C.D.スピールバーガーらが1970年に開発した『STAI(状態不安-特性不安尺度:State-Trait Anxiety Inventory)』と子供向けの『STAIC(State-Trait Anxiety Inventory for Children)』なのである。APA(アメリカ精神医学会)のDSM-Ⅲでは、パニック障害が不安障害の下位分類に位置づけられたが、この変更に合わせてO.G.キャメロンらが『ASQ(Anxiety Symptom Questionnaire)』という評価尺度を作成している。

各種の不安障害で発生する不安症状を査定するための“構造化面接”としては、P.A.ディナルドらが1993年に発表した『ADIS(Anxiety Disorders Interview Schedule)』と呼ばれる構造化面接の技法があるが、この面接技法では『パニック障害・対人恐怖症・全般性不安障害・単一恐怖症・強迫性障害・広場恐怖症(空間恐怖症)・PTSD(心的外傷後ストレス障害)』の精神疾患を識別して診断することができるとされている。

社交不安障害(対人恐怖症)・単一恐怖症の評価尺度(心理テスト)

アメリカの心理学者A.H.バスらは、人間の自己意識が精神発達と共に『私的自己意識(private self-consciousness)』『公的自己意識(public self-consciousness)』『対人不安(social anxiety)』の3つに分化していくことを明らかにして、23の質問項目からなる『自己意識評価尺度』を作成している。

A.H.バスの自己意識研究を参照した日本の心理学者の永井徹は、自らの対人不安研究における『行動・態度の因子』がバスの『対人不安の因子』に、『関係的自己意識の因子』がバスの『公的自己意識の因子』に、『内省的自己意識の因子』がバスの『私的自己意識の因子』に類似したところがあると述べている。1998年には、永井徹の対人不安研究に基づいた『対人恐怖的心性尺度』が作成されているが、この社交不安障害(対人恐怖症)の評価尺度には『対人関係の状況における行動・態度の3因子+関係的自己意識の因子+内省的自己意識の2因子』の6つの因子が含まれているのである。

社交不安障害(対人恐怖症)の測定尺度としては、以下のようなものが知られている。

LSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)

SADS(Social Avoidance and Distress Scale)

FNE(Fear of Negative Evaluation)

恐怖症の評価尺度は長らくP.J.ラングが作成した簡易な『恐怖調査票(FSS:Fear Survey Schedule)』が用いられていたが、系統的脱感作法を考案した南アフリカ共和国の心理療法家J.ウォルピがそのFSSを臨床用に改良・改訂したのが『FSS-Ⅲ』である。子供向けの恐怖症状の評価尺度である『FSS-C(Fear Survey Schedule for Children)』もあり、日本語版のFSSも作成されている。

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