知能検査(知能テスト)の種類:ウェクスラー式知能検査


ウェクスラー式知能検査の種類

ニューヨーク大学ベルヴュー病院に所属していた臨床心理士のデビッド・ウェクスラー(D.Wechsler, 1896-1981)が開発した個別知能検査が『ウェクスラー式知能検査』です。ウェクスラー式知能検査は、初め『ウェクスラー・ベルヴュー尺度(1938)』として作成されました。その後、幼児から高齢者まで幅広い年齢層をカバーする相対的な知能診断的テストとして色々な種類のウェクスラー式知能検査が開発されました。

1949年に幼児や児童に適用するWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)が作成されたのを皮切りにして、1950年に成人用のWAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)、1966年に就学前児童を対象としたWPPSI知能診断検査(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)、1979年に幼児・児童用のWISCを改良したWISC-R(Wechsler Intelligence Scale for Children-Revised)が開発されました。

ウェクスラー式知能検査は、国際的に利用が普及している知能測定の心理アセスメントで、日本語にも翻訳されています。統計学的な点数分布をもとにした客観性の高い標準化が為されているだけでなく、各種のウェクスラー式知能検査にはウェクスラー本人が書いた知能検査の理論・測定法・根拠のテスト・マニュアルが付属しています。

ウェクスラー式知能検査の評価尺度

知能の臨床診断的(臨床査定的)特性を持つウェクスラー式知能検査の評価尺度には、『言語性知能尺度・動作性知能尺度』があり、それぞれ複数の下位尺度を持っています。ウェクスラーの知能検査の測定結果は、IQ(言語性知能指数:VIQ,動作性知能指数:PIQ)で算出されますが、測定する変数は言語性知能得点と動作性知能得点、それらを合計した全知能得点になります。

以下のリストにあるように、言語性知能尺度は6つの下位尺度を持ち、動作性知能尺度は5つの下位尺度を持っています。

下位尺度のうち、言語性尺度は、主に意識的な学習行動や記憶能力の成果として現れる『結晶性知能』を測定するものであり、動作性知能尺度は、その場その場の環境変化や問題発生に臨機応変に適用できる『流動性知能』を測定するものです。

WAIS-Rを例として言語性尺度と動作性尺度の11個の下位尺度に含まれる項目数と測定する内容の概略について大まかな説明をします。

言語性尺度の下位尺度について

言語性尺度は、学歴や教育水準、社会階層などの影響を受けやすい知識蓄積型(結晶性知能)の評価尺度であり、教育環境や学習努力といった後天的要因によって規定される部分が多くなっています。

1.知識尺度(29項目)……結晶性知能の代表的な測定尺度がこの知性であり、今までの人生経験や学習活動で蓄積(ストック)した知識の範囲と分量を計測するものです。一般教養に該当するような人名・地理・古典・書籍名・歴史など広範な分野の基礎的な知識の範囲と量を検査するもので、学歴・教育環境・社会階層・地域文化などの影響を強く受けやすい尺度でもあります。

2.数唱尺度(14項目)……検査者が唱える数字列を記憶して、出された指示に従い数字を答えるテストです。検査者が読み上げた数字をそのまま繰り返すだけの『順唱』と、読み上げた順番の逆から繰り返さなければならない『逆唱』がありますが、この数唱尺度は状況適応的に記憶を想起する流動性知能の測定尺度であると考えられています。

3.単語尺度(35項目)……被験者の単語・言葉に関する語彙の豊富さと理解度を検査する尺度です。発達早期においては語彙は流動性知能としての特徴を持ち、言語機能が一定程度完成してくると語彙は学習によって増やす結晶性知能の性質を持ってきます。

4.算数尺度(16項目)……算数の基礎に関係する計算問題によって構成される尺度で、流動性知能と結晶性知能を測定するものです。パターン化された計算処理は、繰り返し反復して問題を解くことによって、正答率と反応時間が大幅に改善していきます。そのため、流動性知能よりも結晶性知能のほうが深く関係していると考えられています。

5.理解尺度(16項目)……『知識尺度』が教養分野・学校の勉強の知識内容を問うものだとすると、この『理解尺度』は社会や経済の常識・日常生活の知識内容を問うといった性質を持つ検査尺度です。知識尺度と同様に、結晶性知能の程度を評価するのに役立つ尺度となっています。

6.類似尺度(14項目)……事物と概念の正しい理解を前提として、2つ以上の事物・概念の間に存在する類似性について質問する尺度です。結晶性知能を測定する為の尺度で、それまでの人生経験で物事や概念が意味する内容を正しく理解できているかどうかを測定します。一つの概念を他の概念と比較することで、二つの概念の間にある本質的な類似性に気づけるかどうかを検査するものです。

動作性尺度について

動作性尺度は、主に状況対応的な流動性知能を測定する為の尺度で、その結果の多くは生得的要因(問題に対する適性・関心・能力)に強い影響を受けていて、後天的な学習活動や教育環境の影響を受け難いという特徴を持ちます。

1.絵画完成尺度(21項目)……不完全な欠如部分のある絵画を被験者に提示して、その絵画に欠如している重要な部分を指摘させるテストです。所定時間が定められているテストなので、流動性知能だけではなくて視覚(知覚)機能の反応速度も同時に査定することが出来ます。

2.絵画配列尺度(11項目)……時間的連続性と物語的相関を持つ複数の絵画を正しく並べ替えるというテストです。複数の絵を見てそこに内在している物語を発見する能力と時間的な前後を正しく認識する能力が要請される流動性知能を測定する為の尺度になっています。

3.積木模様尺度(10項目)……積木とその積木で作る模様の手本を示して、被験者に積木で模様を出来るだけ早く作らせるテストです。与えられた道具と状況を元にして課題を解決するという高度な流動性知能を測定するものですが、事物の位置関係などを把握する空間認識能力も大きく関係しています。

4.組み合わせ尺度(4項目)……与えられた複数の紙片を利用して、一つの意味ある形態や模様を作り出すテストです。この尺度も、積木模様尺度と同様に、流動性知能と空間認識能力を測定することの出来る尺度です。

5.符号尺度(93項目)……記号とセットになっている数字を素早く記憶して、例示された見本と同じように記号に合う数字をどんどん書き込んでいくテストです。変化する状況に素早く適応する流動性知能を測定するもので、情報の認知の正確さや情報処理過程のスピードによって大きく結果が左右されます。

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