赤ちゃんの移動能力・体験増加と空間認知

赤ちゃんの自発的な移動能力と空間認知

触覚の発達過程と手の運動との相関関係

発達心理学のコンテンツ

赤ちゃんの自発的な移動能力と空間認知

乳児(赤ちゃん)の心身発達は、『知覚・運動・移動・認知(思考)・感情・触覚・社会性(人間関係)・記憶』などの諸側面がそれぞれバラバラ(個別)に発達するのではなく、相互の発達プロセスが密接に相関しながら進展していくということに特徴があります。赤ちゃんの心身発達は『多様性のある体験・経験の増加』によって進んでいきますが、発達の進行に欠かすことができない体験量増加の基盤になるのが、生後6ヶ月頃に獲得する『自発的移動能力』です。

産まれたばかりの赤ちゃんは、自分の力では全く空間を移動することができず、手足をバタバタとさせたり声を出したりするくらいで、基本的には寝たままの姿勢で一日を過ごし、母親・父親の『全面的な保護・世話(授乳して貰ったりおしめを替えて貰ったり遊んで貰ったりの世話)』を受けながら少しずつ成長していきます。それが生後6ヶ月頃になると、自分でハイハイをして移動できるようになる、この『自発的移動能力の獲得』が発達の進行にもたらす影響は革命的といって良いほどに大きなものです。自分でハイハイをして移動することで、まず『視覚の対象となる範囲』が非常に広くなり、寝たままの体勢の時よりも沢山の事物、多様な出来事に注意を向けて見たり聴いたりする事が出来るようになります。

この知覚刺激(視覚刺激)の急速な増加が、赤ちゃんの脳の発達を促進して知識量・情報量を爆発的に増やしていくのですが、より多くの『事物・人物・現象(出来事)』と遭遇することで知識・言葉・経験・認識が増えるだけではなくて、『社会性・コミュニケーション能力』も向上していく事になります。乳児(赤ちゃん)は自分の意志で自発的に移動できるようになると、周囲の物事や人物、出来事をできるだけ多く知覚して理解しようとする『探索行動』を積極的に行い始めますが、この探索行動によって『自分のいる場所・どこかで起きた出来事・モノが置いてある場所』などの記憶能力も高められていきます。

アクレドロら(Acredolo et al, 1984)は乳児の自発的移動能力が『空間認知能力』と相関していることを検証する実験を行なっています。アクレドロらはまず、透明の板で覆われた箱の中に『二つの穴(左右の穴のどちらかに玩具を入れられるスペース)』を開けて、赤ちゃんに自由にその溝の中を触らせて、どちらに玩具が入っているのかを確認させます。ここでは左の穴の中に玩具があると仮定します。そして、玩具を元の左側の穴の中に入れて、赤ちゃんを今度は『今いる場所の反対側』へと移動させ、赤ちゃんがどちらの穴に玩具が入っていると考えるかを確認しました。『今いる場所』から見た“左側の穴”に玩具が入っているのですから、『今いる場所の反対側』に移動すると今度は“右側の穴”に玩具が入っていることになりますが、『正確な空間認知能力』が獲得されていれば、赤ちゃんは右側の穴に玩具があることが分かるということになります。

アクレドロらは、『グループAの赤ちゃん』は親に促させて『今いる場所の反対側』に自分の足(ハイハイ)で自発的に移動させましたが、『グループBの赤ちゃん』は親に抱きかかえさせて『今いる場所の反対側』まで連れて行かせました。すると、自発的に自分の足で移動した『グループAの赤ちゃん』のほうが、親に抱きかかえられて受動的に移動した『グループBの赤ちゃん』よりも、正しく玩具の場所を把握して発見することができるという実験結果が得られたのです。この実験結果は、乳児の空間認知能力の発達が、『自分自身の足(ハイハイ)で動いてモノを探して掴む』という自発的移動能力と深い関係があることを示しています。

触覚の発達過程と手の運動との相関関係

乳児(赤ちゃん)の『触覚の発達プロセス』は、『手の運動機能の発達』と密接な相関があることが知られています。乳児の触覚は生後3ヶ月頃で『物体の大きさの違い』を感じ取れるようになり、生後6ヶ月頃で『物体の温度・肌理(きめ)・硬さ』を感じ取れるようになります。更に生後6~9ヶ月頃になると『物体の重さの違い』を感じ取るようになり、生後1年頃になると『物体の形』を手で触って感じ取れるほどの触覚が備わってきます。

物体が持っている“それぞれの特徴・属性”を識別する触覚の発達の時期が、ズレているのはなぜでしょうか?その理由は“それぞれの特徴・属性(大きさ・温度・肌理・硬さ・重さ・形など)”を識別するために必要となってくる『手の運動能力のレベル(繊細さ)』が異なっているからであり、手の運動能力が発達することで触覚の発達も促進されるという相関関係が認められるからです。

『物体の大きさ』を判断するためには大雑把に手で触れば良いだけですが、『物体の肌理・温度・硬さ』を判断するためには少しゆっくりとした速度で物体の表面を撫でなければならず、『物体の重さ』が分かるには手で物体を持ち上げて比較しなければなりません。『物体の形』をある程度正確に区別するためには、両手を協調的に細かく滑らかに動かして、物体の形を探るというやや高度な手の運動が必要になってきます。そのため、乳児(赤ちゃん)の触覚の発達プロセスというのは、『手の運動機能の発達(手の運動の細やかさ・滑らかさなど)』と切り離して個別に考えることは出来ないのです。

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