気質の心理学的な測定方法

観察法・質問紙法による気質の測定

生物学的指標による気質の測定

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観察法・質問紙法による気質の測定

性格心理学や発達心理学では、さまざまな『気質の分類・解釈・機能・タイプの比率の研究』が行われてきた。気質研究では気質の中心的な特徴としてどういった行動・感情表現に着目するか、その気質を具体的にどのような方法で測定するかという事が重要になってくるが、ここでは気質の測定法として『観察法・質問紙法・生物学的指標の利用』について説明していく。

『観察法』とは、子どもがその場で実際に行動している様子を観察して記録する方法であり、その記録した行動の内容や意味を分析していく事で研究が進んでいく。直接的に詳しく目の前で子どもの行動・感情表現の仕方を観察していくため、親へのアンケートや心理テストを実施する『質問紙法』よりも、『親の主観』による先入観や認知の偏りを排除できるというメリットがある。

観察法の長所は、『子どもの行動・感情表現を直接的に詳しく観察できること』『親へのアンケートや質問と比較して親の主観に基づく先入観(認知の偏り)を排除できる=客観的な観察による分析がしやすいこと』である。しかし子どもの気質を把握するための行動観察には、相当に長い時間と多くの手間がかかるため、一度に複数の子どもの気質データを得ることはできず、大量の観察データを収集することも難しい。また子どもの観察をしても、『ピンポイントな気質特徴の観察』をすることは難しく、『観察の当初の目的』に沿った妥当な観察をするには技術や経験(慣れ)が必要となる。

観察法の短所には、『子どもの観察に時間・手間がかかるので多くの人数やデータを扱えないこと』『観察の当初の目的に沿ったピンポイントな観察の難易度が高いこと』『観察している時の状況が、普段の日常生活の行動・感情と一致するか分からないこと』『子どもの外観的な行動・言葉を観察するだけでは、子どもの内的なプロセスや情動の動きまでは分からないこと』などがある。当たり前の話であるが、観察法だけでは子どもの内的世界や情動変化の具体的なプロセス(心的過程)を把握する事はできず、子どもの気質をより詳しく把握するためには別種の測定法と組み合わせる必要がでてくる。

『質問紙法』とは、子どもの気質の特徴・傾向についての質問項目(心理テストのような評価尺度)に、親(保護者)に回答してもらうという方法である。子どもの発達年齢によっては、文字の読み書きと簡単な文章(質問文)の理解ができるのであれば、子ども自身に回答してもらうこともある。ただし、発達心理学・性格心理学における気質研究では、0~3歳程度の乳幼児を対象にすることも多く、4~5歳の幼稚園児でも文章で質問に答えてもらうことは難しいので、基本的には『子どもの行動・感情表現を、普段から近くで良く見ている親』に答えてもらう事が多くなる。

質問紙法は、『親の目線・意識』というフィルターを通して、子どもの行動・感情を観察し報告する方法であるから、『親の主観的な判断(親の主観に基づく先入観・認知の歪み)』が介在する可能性を否定できない。それは即ち、質問紙で親が回答している子どもの姿や気質(性格)が、客観的な子どもの姿や気質(性格)と一致しないかもしれない可能性を考慮しておかなければならないという事を意味している。

質問紙法の長所は、『一度に大勢の子ども(子を見ている親)から観察データを収集できること』『調査したい気質特徴に対してピンポイントな質問ができること=初めから決められた評価尺度を適用できること』である。質問紙法の短所は、『親が観察している子どもの姿と客観的な本当の子どもの姿との間にズレがあること』『質問に回答する親の主観による先入観や認知の歪みが介在しやすいこと』である。

具体的には、『新しい環境や人間関係に対する適応性』を調べる評価尺度に対して、子どもの積極的な適応行動(少し程度が激しい行動・発言)を見た時に、肯定的な認知を持つ親であれば『新しい物事や相手を恐れずに果敢に挑戦していく』と答えやすく、否定的な認知を持つ親であれば『無茶で乱暴な振る舞いが目立ちやすい』という風に答えてしまう事があったりする。つまり、質問紙法による子ども(乳幼児・児童)の気質研究では、『親が望ましいと考えている価値観や言動(理想的だと思っている子ども像)』によって、親が回答する内容が微妙に変化してしまう恐れがあるということである。

生物学的指標による気質の測定

『質問紙法』では親の主観的判断が介在しやすく、『観察法』では子どもの内的世界や情動変化の動きまでは把握する事ができないというデメリットがある。これは、質問紙法では『科学的な客観性』が担保しづらく、観察法では『子どもの内的プロセスや情動変化』を確認することができないという問題を示しており、この二つの問題・短所を解決する気質の測定法として『生物学的指標(生理的指標)を用いる方法』がある。

子どもにある感情・気分が生起した時に、どのような行動が見られるのかだけを観察するのではなく、どのような生物学的変化・生理的反応が生じたのかを観察するのが『生物学的指標(生理的指標)を用いる方法』であり、その生物学的指標(自律神経系の興奮・抑制の反応)を元にして子どもの内的な情動・気分を科学的に推測できるのである。具体的には、以下のような生物学的指標(生理的反応)を測定することで、その時点での子どもの気質(内的な感情状態)を合理的に推察していく。

M.ルイスらが行った生後2~6ヶ月の乳児を対象にした『予防接種時のストレス実験(Lewis et al., 1993)』では、言葉を理解できない乳児にストレスを感じているかどうかを質問しても意味がないので、『ストレス状況に置かれた時の生物学的指標(生理的反応)』としてコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の分泌量を調べた。具体的には、乳児の唾液中に含まれている抗ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量を測定することで、乳児が言葉にはできないが感じているであろうストレスのレベルを科学的(合理的)に推測したのである。

人間は『物理的・精神的・生理的・化学的な各種のストレス』を受けた時には、脳の内分泌中枢である視床下部が副腎皮質ホルモン放出因子を出すので、(器質的疾患がない以上は)誰でも例外なく副腎皮質からコルチゾールが分泌されることになり、このコルチゾールの分泌量の増減を調べれば、その人がどのくらいのストレスを実際に感じているのかが分かるのである。生物学的指標(生理的反応)を用いる方法は、誰もが生得的に持っている『自律神経系・内分泌系(生体ホルモン)』などの身体メカニズムと関係しているため、観察法や質問紙法と比べると『科学的な客観性・実証性』において優れていると言えるだろう。

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