タルコット・パーソンズのダブル・コンティンジェンシーと役割期待,社会秩序

このウェブページでは、『タルコット・パーソンズのダブル・コンティンジェンシーと役割期待』の用語解説をしています。

T.パーソンズの相互作用の前提条件としてのダブル・コンティンジェンシー
T.パーソンズの役割期待と制度化

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T.パーソンズの相互作用の前提条件としてのダブル・コンティンジェンシー

アメリカの社会学者タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons, 1902-1979)は、社会システムを構造(定数)と機能(変数)に分類して分析する構造機能分析などを提唱した『機能主義の社会学者』として知られている。

T.パーソンズは、社会システムの安定とその安定に影響を与える個人の相互作用についての一般理論を構築しようとする『社会システム理論』を確立しようとした。そして、晩年にはAを適応(adaptation)、Gを目標達成(goal attainment)、Iを統合(integration)、Lを潜在的パターンの維持と緊張処理(latent pattern maintenance and tension management)とする『AGIL理論』の実証研究に力を入れていた。

個人間の社会的環境における『相互行為』は、自己と他者の双方が自分の欲求充足(目的達成)を目指して選択される行為によって起こるが、この場合には『自己の選択』と『他者の選択』は自分がAを選べば相手はBを選びやすくなり、相手がAを選べば自分はBを選びやすくなるといった『相互的な依存性』が見られる。

このように、自分と相手の行為の選択がお互いに依存し合い影響を受け合っている状態を『ダブル・コンティンジェンシー(二重の条件依存性)』と呼んでいる。ダブル・コンティンジェンシーの典型的な事例は、男女の恋愛関係(夫婦関係)やゲーム理論の検証で用いられる『囚人のジレンマ』などがあるが、ダブル・コンティンジェンシーの状況では『合理的な損得勘定』がかえって『好ましくない損失の多い結果』を導いてしまうリスクが生じてしまう。

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男女の恋愛関係では、どちらかが相手に連絡をしないと連絡が途絶えがちになるが、『連絡をしてもメールの返信が遅い・電話になかなかでてくれない』という反応があると不安あるいは不快な気持ちになりやすく、自分から連絡を取ることが億劫になって消極的になりやすい。『自分から連絡をする』と『相手からの連絡を待つ』という行為の選択のうちで、自分が不安や不満を感じにくい合理的選択は『(自分のことが好きなら相手から連絡してくるだろうという期待に基づく)相手からの連絡を待つ』であるが、お互いがその合理的かつ消極的な選択をし続ければいずれは関係が自然消滅に向かいやすくなる。

有名な『囚人のジレンマ』では、重罪の共犯の容疑が掛けられている二人に対して、『黙秘』『自白(仲間の犯罪についての供述)』かの選択が求められ、自分だけが自白して相手が黙秘した場合に司法取引で『最大の利得(自分が懲役6ケ月,相手が懲役10年)』を得られる。

自分も相手も黙秘していれば『お互いに懲役2年』で済むのだが、自分だけが黙秘して相手が自白すれば『自分が懲役10年,相手が懲役6か月』になり、自分も相手も自白すれば『お互いに懲役5年』となる。このような条件が提示された場合には、共犯者である二人の信頼関係が強固なものであれば、お互いに黙秘して懲役2年で済ますのが合理的に思えるが、相手の姿が見えない状況下では『もしかしたら相手だけが自分を裏切るのではないかとの疑念』を拭い去ることができない。相手が裏切った場合のリスクを回避しようと思えば、どうしても『自白するの選択』が合理的に見えてしまい、結局、お互いが裏切って自白することによって『懲役5年』に追い込まれてしまうのである。

A.センは『囚人のジレンマ』に象徴される『合理的選択による不利益』を受けてしまう個人のことを『合理的な愚者』と呼んでいるが、社会問題や環境問題、人間関係のトラブルの多くは、正に『合理的な愚者である人間』にとって根本的な解決が難しい問題になっているのである。

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T.パーソンズの役割期待と制度化

『自分の選択(相手の選択)』『相手の選択(自分の選択)』にお互いに影響を与え合うというダブル・コンティンジェンシーの状況では、『合理的選択による不利益・損失』が生じやすくなるが、自己と他者の欲求を満たすためには『相互行為に対する期待』の適切な認識が必要になってくる。

ダブル・コンティンジェンシーの状況では、自分も他人も『相手がこのようにするだろう』という予測的な期待を持っており、更に『相手は自分がこのようにするだろうと思っているだろう』という相手側の自分の選択に対する期待も持っているのが普通である。

相互行為によって自分と相手の欲求の両方を満たすためには、『相手の期待を正しく読み取っている自分』『自分の期待を正しく読み取ってくれている相手』との行為の選択が上手く噛み合っていなければならず、この相互の期待が噛み合っている状態のことを『役割期待の相補性』と呼んでいる。

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例えば、仕事で夜遅く帰ってくる疲れた妻のことを考えて、『今日は帰ってから料理をする余裕がないと感じているだろう』という予測をした夫が、自分で晩御飯を準備したり外で済ましてきたりすれば、『今日は私の帰りが遅いから料理を作らなくても良いと思ってくれているだろう』という妻の期待との間に『役割期待の相補性』が働くので、衝突が起こらずに相互の欲求が満たされることになるだろう。

しかし、相手の内面や状況に対する想像力による期待の予測だけでは、『自分と相手の期待の対立やすれ違い』が多くなるので、例えば前述のダブルワークの夫婦の事例であれば、『残業がある時にはお互いがそれぞれ食事を済ませるようにする・早く家に帰れたほうが食事の準備をする』といった基本的なルールや価値基準を共有しておくことが有効になってくる。

タルコット・パーソンズは自分と相手との間でルールや価値基準が形式的に共有されて、それを前提としたお互いへの期待が為されることを『制度化』と呼んだが、制度化は役割期待を規範化して一定の強制力を持たせるようにする効果を持っている。『役割期待の相補性』だけに頼って相互行為する状況は、マナーや常識に頼って路上喫煙を抑制するような状況であるが、そこに『制度化』が加われば、法律や条例によって歩きタバコに罰金が科せられるようになり一定の強制力が加わることになるといった感じである。

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制度化によって役割期待に『強制的な規範化・習慣化』の要素が加わると、相手の持つ自分に対する役割期待に『同調』すれば『報酬』が得られるが、相手の持つ自分に対する役割期待から『逸脱』すれば『サンクション(制裁)』が与えられることになる。制度化は個人を役割期待の枠組みに半ば強制的に当てはめるような効果を持ち、『会社員としてあるべき自分・家族(親)としてあるべき自分』に対する役割期待の制度化によって、多くの人はパターン的な行動選択に従いやすくなり、その影響で社会秩序が保たれやすくなっているのである。

T.パーソンズは自己と他者の欲求を満たそうとする相互行為の安定性を維持する要因として、『役割期待の相補性・制度化・内面化』を上げているが、内面化というのは制度化されたルールや価値基準(判断基準)が、更に自己のパーソナリティの一部として取り込まれて内面化されているという状況を指している。

T.パーソンズは役割期待の相補性が制度化と内面化によって強化されている状態を『制度的統合』と呼んでいるが、この制度的統合はG.ジンメルのいう社会化(社会形成)と個人化(個人形成)の対立を緩和する効果、自他の相互作用を安定化させる効果を持っている。

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制度的統合を前提とする役割期待からも逸脱して、他者(社会)と衝突する個人は少なからず存在するが、そういった逸脱的な周囲と調和(適応)しない個人に対しては、『社会化(社会的学習)』『社会統制(法的強制)』によって既存の役割期待に従わせようとするのである。

『社会化(社会的学習)』というのは、社会常識や他者の期待に沿った役割期待を満たせるようにという目的をもって、学校教育・家庭教育を通して『さまざまなルール・常識・責任』を教え込んでいくということであり、社会秩序の『予防的なメカニズム』になっている。社会秩序の『事後対応的なメカニズム』が『社会統制(法的強制)』であり、法律に違反する犯罪を犯した個人を逮捕して収監・再教育したり、社会生活に適応できる健康状態・精神機能を失った個人を病院に入院させたりしている。

タルコット・パーソンズの『社会システム理論』では、個人間の相互作用や社会秩序を安定化させる要因として、『役割期待の相補性・制度化+内面化(制度的統合)・社会化(社会的学習)・社会統制』が体系的な要因として上げられているが、現実社会を生きている人間の相互作用や社会適応のすべてが本当にT.パーソンズの提起した社会システム理論に従っているというわけではない『理論の限界』も指摘されている。

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