発達障害の早期療育はなぜ必要なのか?:子供の脳の神経細胞(ニューロン)の発達過程の特徴

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脳の神経細胞(ニューラル・ネットワーク)の発達過程:可塑性・代償性が失われる『臨界期』までの発達障害の療育の有効性


発達障害の療育の方法・効果と日常生活のサポートへの応用

脳の神経細胞(ニューラル・ネットワーク)の発達過程:可塑性・代償性が失われる『臨界期』までの発達障害の療育の有効性

平均約350gの新生児(赤ちゃん)の脳は急速なスピードで生理学的な発達を進めていき、成人の脳の平均約1300gまで重量を増加させるが、3歳児の時点で既に1000gに達してしまう。新生児期(乳児期)・幼児期から児童期前半にかけての子供の脳は『柔軟性・可塑性・代償性(代理機能性)』に非常に富んでいるが、5歳頃には大まかな『ニューラル・ネットワーク(神経細胞間をつなぐ情報伝達のネットワーク)』が完成してしまう。

5歳頃にニューラル・ネットワークが完成すると、次は情報伝達によく使用される回路が残って、あまり使用されない回路は消えていくという『神経の剪定(せんてい)』という現象が起こる。神経細胞(ニューロン)の軸索(じくさく)をミエリンという物質が被膜することによって、電気的な情報伝達が拡散しない『絶縁』が行われるが、神経の剪定とミエリンによる絶縁によって人間の脳の神経伝達速度は安定して速くなっていく。

ミエリンで絶縁されることで神経細胞(ニューロン)が発火する時に、周囲の神経細胞まで巻き添えになって興奮することが少なくなる。その結果、反射的な過剰興奮(かんしゃく)が起こりにくくなり感情・情緒も安定しやすくなる。脳の発達過程が進むと『神経の剪定+ミエリンの絶縁』によって神経伝達速度は安定して速くなるが、その代わりに『柔軟性・可塑性・代償性(代理機能性)』は低下して、脳の機能的特徴が固定して変わりにくくなってしまう。

特に3歳以前の人間の脳は非常に『可塑性(傷つきからの回復)+代償性(代理機能性)』が高くなっているので、仮に怪我・事故で言語中枢に大きな損傷を受けたとしても、約半数の幼児は言語機能が回復することがあるほどである。幼児の脳は新たな物事・方法を覚えて実行できるようになる『柔軟な学習能力』もかなり高いが、ミエリンによる電気的刺激の絶縁がしっかり行われていないので、『感情的興奮による発熱・けいれん』などが児童期以降の子供よりもかなり起こりやすい。

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一つの神経細胞(ニューロン)が損傷しても他の神経細胞によって代替できるという『乳幼児の脳の代償性(代理機能性)』は、“約5歳”を過ぎる頃から失われていき、“約10歳”を過ぎると成人の脳の代償性(代理機能性)と変わらなくなって、脳の神経細胞のネットワークはかなり固定されてくる。10歳は脳のニューラル・ネットワークの発達が固定される『発達過程の臨界期』として解釈することができ、それまでに身につけてきた『言語的・非言語的コミュニケーションの能力や方法の基盤』が一生にわたって影響を及ぼすのである。

発達障害の早期発見・早期療育の有効性も、この言語的・非言語的コミュニケーションの基本パターンが固まってくる『発達過程の臨界期』と関係しており、10歳以前(小学校中学年以前)までに『基本的な身辺自立の能力・コミュニケーションスキルの習得』を療育によって終わらせておくことで、その後の環境適応や学習能力、対人関係が格段に良くなってくるのである。

同じ発達障害でも『重症度(重度か軽度か)』によって、脳機能と療育の関係性についての考え方は変わってくるし、療育の具体的な方法や早期実施による効果の度合いも変わってくる。重度の発達障害(自閉症スペクトラム)には、先天的な遺伝要因や胎児期(胎生期)の脳発達過程の問題が関与しているので、生後の脳発達過程はそのまま『リハビリテーション』のような位置づけになってくる。

リハビリテーションの位置づけというのは『損傷・低下した脳機能の回復プロセス』といった意味合いであり、発達早期の療育によって『乳幼児期の脳機能の代償性(代理機能性)』の恩恵を多く活かすことができるのである。できるだけ早く療育をスタートさせることによって、脳機能の回復や発達障害に関連する症状の軽症化を図りやすくなる。

発達障害(それに付随する知的障害)が重症であるほど、週に1~2回程度の病院内だけのたまの治療・教育では不十分であり、特に言語訓練や対人スキルのトレーニングなどは、できるだけ毎日の日常生活の中で療育の方法を工夫して発達過程全体をサポートしていくほうがより回復の度合い(基礎的な対人スキル・言語能力の獲得の程度)が良くなりやすい。

発達の側面に『凸凹(得意不得意・好き嫌い等の起伏の波)』がある軽度発達障害であれば、重度発達障害よりも療育の時期が遅くても『発達障害関連の症状の悪化・二次障害のリスク』というのはそれほど高くないが、軽度でも可能であれば幼稚園に入園する幼児期くらいから療育をするほうが小学校以後の集団生活への適応は高くなるとされている。軽度でも重度でも発達障害的な特徴・問題があることが分かっているのに、療育も何もせずに『放置すること』が、小学校入学以後の集団生活・授業活動・社会的状況への適応を悪くしてしまいやすいのである。

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発達障害の療育の方法・効果と日常生活のサポートへの応用

発達障害の子供は『得意なこと・苦手なこと』『好きなこと・嫌いなこと』の起伏の波が非常に激しく、興味関心が特定の対象に偏ってしまったり、こだわり行動に固執して繰り返してしまったりする。『得意なこと(好きなこと)』ばかりをして、『苦手なこと(嫌いなこと)』を全くしない行動パターンになりやすく、そうなるとますます苦手なこと(嫌いなこと)が苦手になる(嫌いになる)という『悪循環』にはまって、社会適応的な行動やコミュニケーションができにくくなってしまう。

発達障害の早期療育では、社会性のない子供本人が得意なこと(好きなこと)ばかりに没頭させるのではなく、子供が苦手で嫌いなことが多い『社会的活動(対人コミュニケーション)の機会』を増やしたり、『社会的・対人的に望ましい簡単な行動パターン(言語的・非言語的なコミュニケーションのパターン)』を手本を示しながらシミュレーションのロールプレイで繰り返し練習させて教えていくことになる。

幼児期までの療育では、自閉症・アスペルガー障害・ADHD・学習障害などの『発達障害の種類』についてはあまり強く意識して区別しないでも良いと言われており、あいさつから始める基本的なコミュニケーションの練習や保育・幼稚園での集団行動の体験だけでも一定の効果が期待できる。しかし児童期以降の年齢になると、自閉症・アスペルガー障害・ADHD・学習障害などそれぞれの『発達障害の種類と認知特性』に応じた専門的な療育の方法や関わり合いを工夫していく必要が高まり、発達障害関連の専門医・発達心理臨床家の療育指導を受けたり育児・教育のやり方を相談したりしながら療育を行っていくことが望ましいだろう。

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発達障害・知的障害に早期に有効な療育的対応をしていくためには早期発見ができなければならないが、日本の乳幼児であれば特に重度の発達障害・知的障害の早期発見に役立ちやすい健診システムとして『18ヶ月健診(1歳半健診)』の機会もある。未だ乳幼児の軽度発達障害を、確実に早期に発見・診断できるような健診システムや専門家のスクリーニング能力は構築されていないが、重症度が高いほど自閉症スペクトラムに位置づけられる重度発達障害は早期に発見しやすいということは言えるだろう。

赤ちゃんの18ヶ月健診(1歳半健診)は、育児が上手くいっていない親の育児支援や児童虐待の早期発見にも役立つところがあるが、ADHDやLD(学習障害)の軽度発達障害には『児童虐待(発達早期のトラウマ・愛着障害)による子供への心理的・性格的な悪影響』も関係するので、虐待を早期発見して対処することによって軽度発達障害の発症・悪化を食い止めやすくなる効果がある。

子供は2~3歳頃になると、自分に愛情を注いでくれて親身に世話をしてくれる親(特定の養育者)に対して『愛着(アタッチメント)』を形成するが、自閉症スペクトラム(自閉症とアスペルガー障害を含む広汎性発達障害)の子供ではなかなか親との間に愛着を形成することができない。この発達障害と相関する愛着障害によって、親子関係がぎくしゃくしたり子供に対する親の欲求不満(なついてくれない不満)が起こりやすくなって、親のほうも『性格・発達・心理状態の問題』を抱えていると児童虐待のリスクが高くなってしまうのである。

子供に軽度でも発達障害があって親子間の愛着形成が上手くいかない場合には、とにかく愛着形成や欲求不満の解消を焦らずに子供に怒り・悔しさをぶつけずに、『子供とじっくり向き合う時間・子供の行動パターンや発達障害的な個性をしっかり観察して理解する時間』を作ることが大切である。

重症度によっても多少変わってはくるが、ふれあったり話しかけたりする時間を十分に増やして、『親が子供の特徴・個性と現在の能力の限界をしっかりと正確に理解してあげること』によって、今の子供にとって望ましい(無理をせずに何とか適応できる)療育の方法や社会的な環境が分かってくるのである。発達障害の問題を悪化させかねないという意味で最も好ましくない親子関係のあり方は、表面的な短時間の観察・ふれあい・印象だけで、『子供が上手くできないことをただ叱りつけて否定すること』『なつかないからと子供と接触する時間を増やさずに放置に近いような状態にしてしまうこと』である。

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軽度発達障害でも重度発達障害でも『療育の基本』は、『健康的な生活習慣の確立+身辺自立の能力の獲得+社会性やコミュニケーション能力の向上(社会的場面への可能な範囲での適応)』である。療育の基本となる教育指導の内容や治療的(心理療法的)なアプローチをまとめると以下のような感じになる。

健康的な生活習慣の確立の支援は、子供の持つ脳機能の代償性(代理機能性)を高めることに役立つ『早寝早起き・バランスの取れた食生活・適度な運動の習慣・必要な休養(睡眠時間)の確保』といった基本的な生活習慣を作り上げていくということである。早寝早起きを核とする日内リズムを維持することも、『親の夜更かしの生活習慣(親が夜遅くに帰宅する勤務時間)』があると簡単なことではないが、早く寝て十分な睡眠時間を確保し、朝に太陽の光を浴びながら起きて一日をスタートさせるということは、発達障害の問題だけではなく人間の健康維持の基本でもある。

自閉症スペクトラムの子供は『偏食』になりやすいが、過度の偏食は栄養バランスの偏りによる発育・健康への悪影響だけではなく、『食生活の貧しさ(色々な食材・料理を美味しく食べられないという中長期的な大きな楽しみの消失)』にもつながりやすいので、できるだけ発達早期から色々な食材を食べる機会を増やして、小学校に入学する頃までには過度の偏食を可能なレベルで修正しておくことが望ましい。自閉症スペクトラムの子供はさまざまな光・音・映像などの刺激に過敏に反応しやすいので、『親の語りかけのメッセージ』を聴きやすくするためにも、『テレビ・スマホ・パソコンなどの情報機器』をつけっぱなし(見せっぱなし)にして放置するような子育てのやり方は好ましくないものになってしまう。

乳幼児の心身の発達にとって最も必要なものは『安心して楽しく過ごせる家庭環境(良好な親子関係・親の夫婦関係)』であり、特に両親がいつも仲違いして喧嘩ばかりしているような家庭環境は、発達障害の子供の心理状態・発育過程にとっても有害な悪影響が多くなってしまう。親(養育者)との愛着・信頼関係の形成の促進という療育の基本は、何よりも『家族みんなが仲良しで明るく楽しく過ごしていること・子供に愛情と興味を持って語りかけたりスキンシップを取ったりしていること』なのである。

遊び・好きな行動を介した自己表現活動の促進の療育では、『子供の自己刺激による一人遊び』を大人が関わったり遊び道具を変えたりすることによって、少しずつモノ(玩具)を何かに見立てて想像力を使って遊ぶ『見立て遊び』へと誘導していくことがポイントになる。身辺自立の能力・習慣を獲得する支援の療育で何より重要になるのは、繰り返し基本的な生活動作を実際にやってみながら身辺自立能力を高めていくという『地道な反復練習』である。

身辺自立の具体的な課題としては、『トイレトレーニング・スプーンを使った食事・洋服の着替え(服の着脱)・手洗いと歯磨きと洗面(清潔維持の生活習慣)』などがあるが、2~4歳頃まで親が一緒についてあげて繰り返し何度も練習させていくことで、子供のその段階での能力に応じた身辺自立が可能になってくる。軽度発達障害であれば十分に健常児と同じ身辺自立が可能であるが、結果を焦らずに今できるレベルの身辺自立から少しずつステップアップしていく『スモールステップ法』を基本にしていく。

他者とのコミュニケーション能力(言語能力)の確立の療育では、『自分から話す発語』にだけこだわり過ぎずに、『他者の言葉の理解+周囲の状況の把握』が何となくできるようになって真似(模倣)をするようになるといった課題から始めるのが良いだろう。

体操やダンスの真似、指遊びや人形遊びの模倣といったことは『表象能力(イメージ能力)の発達』で、タオルを見たらお風呂に入るとか、制服を着たら幼稚園・保育園に行くとかいうことが分かることも『周囲の状況からの予測能力の発達』なのだが、こういった能力も他者とのコミュニケーション能力の基盤になっていく。

50語以下の語彙で相手が話した言葉をそのまま言い返す『オウム返し』ができやすくなり、100以上の語彙を覚えることができれば誰が何をするといった簡単な『二語文』を話せるようになってくるが、コミュニケーション能力の療育では子供に愛情と興味を持って色々な単語・文章で感情をこめて毎日語りかけてあげること(色々な物事・出来事を分かりやすく説明したり質問したりすること)が大切になる。

発達障害を含む発達臨床心理学の問題を扱っているクリニックでは、専門的な知見や方法に基づいた発達障害児に対応した『言語療法・作業療法・心理療法』を行ってくれるが、発達障害の療育はそれらと並行して行われることになる『子供の健全な心身発達・能力回復を促進する日常生活の工夫と反復練習』であり、毎日当たり前の日常生活の習慣を健康的かつ治療的なものにしていくことで療育の教育効果(と潜在的な治療効果)は更に高まりやすくなるのである。

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