『大学』の書き下し文と現代語訳:7

儒教(儒学)の基本思想を示した経典に、『論語』『孟子』『大学』『中庸』の四書(ししょ)がありますが、ここでは儒者の自己修養と政治思想を説いた『大学』の解説をしています。『大学』は元々は大著の『礼記』(四書五経の一つ)の一篇を編纂したものであり、曾子や秦漢の儒家によってその原型が作られたと考えられています。南宋時代以降に、『四書五経』という基本経典の括り方が完成しました。

『大学』は『修身・斉家・治国・平天下』の段階的に発展する政治思想の要諦を述べた書物であり、身近な自分の事柄から遠大な国家の理想まで、長い思想の射程を持っている。しかし、その原文はわずかに“1753文字”であり、非常に簡潔にまとめられている。『大学』の白文・書き下し文・現代語訳を書いていく。

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金谷治『大学・中庸』(岩波文庫),宇野哲人『大学』(講談社学術文庫),伊與田覺『『大学』を素読する』(致知出版社)

[白文]

自天子以至於庶人、壱是皆以修身為本。其本乱而末治者否矣。其所厚者薄而其所薄者厚、未之有也。

[書き下し文]

天子よりもって庶人(しょにん)に至るまで、壱是(いっし)に皆修身をもって本(もと)と為す。その本乱れて末治まる者は否ず(あらず)。その厚うする所の者薄うして、その薄うする所の者厚きは、未だこれ有らざるなり。

[現代語訳]

天子から一般庶民に至るまで、みんな全てただ修身をもって大本(基本)とする。その大本の修身が乱れているのに、世の中が治まっているという例はいまだ無い。『家』のように厚くするところのものを薄くして、『私』のように薄くするところのものを厚くして、家・国・天下が上手く治まるというのは未だ無いことなのである。

[補足]

天下国家の安定的な統治の基本(大本)は何よりも『修身』にあり、その修身(徳を身に付けること)の大切さは、上は天子から下は庶民(官職にない者)に至るまで変わらないことを説いている。親子や兄弟姉妹の骨肉の恩義がある『家』もまた厚く取り扱うべきものであるが、家を軽んじたり私利私欲を厚くして重んじたりすると、家も国も天下も必然的に乱れてしまうというのは道理である。

[白文]

右経一章。蓋孔子之言、而曾子述之。其伝十章、則曾子之意、而門人記之也。旧本頗有錯簡。今因程子所定、而更考経文、別為序次如左。

[書き下し文]

右経一章(みぎけいいっしょう)。蓋し孔子の言にして曾子これを述ぶ。その伝十章は則ち曾子の意にして、門人これを記するなり。旧本頗る錯簡(さっかん)あり。今程子(ていし)の定むる所に因り、更に経文(けいぶん)を考えて、別に序次(じょじ)を為すこと左(さ)のごとし。

[現代語訳]

右は経一章である。おそらく元々は孔子の言葉であり、これを曾子が解釈して述べたものである。その伝十章は曾子の意見であり、曾子の門人がこれを記録したのである。昔の本は本文の前後の順番が大きくずれていたりする。今、程子が定められた所に従って、更に経文を考えており、別に本文の次第順序を定めることは左のごとくになる。

[補足]

儒教教典では、創始者の孔子の言葉を『経』と呼び、その弟子の曾子の解釈の言葉を『伝』と呼んでいるが、この部分は『孔子本来の思想(オリジナルの儒教思想)』を思い起こすために、新たにその本文の順序・内容を考え直すということを示している。

[白文]

康誥曰、克明徳。太甲曰、顧ィ天之明命。帝典曰、克明峻徳。皆自明也。

右伝之首章。釈明明徳。

[書き下し文]

康誥(こうこう)に曰く、克く(よく)徳を明らかにすと。太甲(たいこう)に曰く、ィ(こ)の天の明命(めいめい)を顧みると。帝典(ていてん)に曰く、克く(よく)峻徳(しゅんとく)を明らかにすと。皆自ら明らかにするなり。

右伝の首章。明徳を明らかにすることを釈(しゃく)す。

[現代語訳]

『周書(書経)』で周公が康叔に告げた言葉は、よく徳を明らかにするというものだった。『商書』で伊尹(いいん)が太甲を戒める為に言った言葉は、この天命を十分に顧みなさいというものだった。『堯典』に書かれているのは、自分に厳しく大徳を明らかにせよというものだった。これらはみんな、自分の明徳を明らかにせよという言葉である。

右は曾子が孔子の経文を解釈した伝の首章で、明徳を明らかにすることを解釈したものである。

[補足]

古代中国の聖王・先賢の事例と書物を取り上げて、自分の明徳を明らかにすることの重要性を説いている。周王朝の君主である周公の明徳、商王朝の宰相である伊尹の明徳、伝説上の聖王である堯の明徳という『3つの明徳』が記されているが、これは理想化された牧歌的な古代の聖人のあり方を示したものである。

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