『論語 学而篇』の書き下し文と現代語訳:1

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孔子と孔子の高弟たちの言行・思想を集積して編纂した『論語』の学而篇の漢文(白文)と書き下し文を掲載して、簡単な解説(意訳や時代背景)を付け加えていきます。学校の国語の授業で漢文の勉強をしている人や孔子が創始した儒学(儒教)の思想的エッセンスを学びたいという人は、この『論語』の項目を参考にしながら儒学への理解と興味を深めていって下さい。『論語』の学而篇は、以下の2つのページによって解説されています。

[白文]1.子曰、学而時習之、不亦説乎、有朋自遠方来、不亦楽乎、人不知而不慍、不亦君子乎。

[書き下し文]子曰く(しいわく)、学びて時に之を習う、また説ばし(よろこばし)からずや。朋遠方より来たる有り、また楽しからずや。人知らずして慍みず(うらみず)、また君子ならずや。

[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『物事を学んで、後になって復習する、なんと楽しいことではないか。友達が遠くから自分に会いにやってきてくれる、なんと嬉しいことではないか。他人が自分を知らないからといって恨みに思うことなどまるでない、それが(奥ゆかしい謙譲の徳を備えた)君子というものだよ。』

[解説]春秋時代に物事を「学ぶ」場合には、書物によって知識を得るよりも師から言葉によって知識を伝達されることが多かった。その為、弟子たちは師が「詩経」や「書経」を読む声を聴いて、その内容を忘れないように復習したのである。学問といっても現代のような教科書や講義による勉強ではなく、基本は、貴族社会の礼儀作法や教養・素養を師から口伝で受け継ぐことにあった。君子とは、端的には、統治者階級に相応しい「人格・度量・教養・品位」を備えた貴族のことであり、孔子が現れて以降は、人民を敬服させる徳(人間的な魅力・教養)を兼ね備えた人物を指して特に君子と呼ぶようになる。為政者たる者は、有徳の君子でなければならないとするのが儒教の基本的な政治思想(徳治主義)である。

[白文]2.有子曰、其為人也、孝悌而好犯上者鮮矣、不好犯上而好作乱者、未之有也、君子務本、本立而道生、孝悌也者、其為仁之本与。

[書き下し文]有子(ゆうし)曰く、その人と為りや(ひととなりや)、孝悌(こうてい)にして上を犯すことを好む者は鮮なし(すくなし)。上を犯すことを好まずして乱を作す(おこす)ことを好む者は、未だこれあらざるなり。君子は本を務む。本立ちて道生る(もとたちてみちなる)。孝悌はそれ仁を為すの本なるか。

[口語訳]有子先生(孔子)がこうおっしゃった。『その生来の人格が、親孝行で目上の人に従順なのに、社会的な地位や年齢が上の人にさからう人は少ない。目上の人や上位者にさからうことを好まない人で、内乱を起こしたという人はまだ存在しない。人格者である君子は根本的な事柄を大切にする。根本的な事が確立すれば、人の生きるべき道が自然に出来るのだ。親孝行で上位者の人に従順であることは、仁の徳を完成させる為の根本である。』

[解説]孔子の儒教道徳は、万人が生まれながらに平等であるという立場は取らず、「身分・立場・年齢の違い」による社会的な上下関係と上位者を敬う礼儀作法を重視する。この文章は、儒教が封建主義社会の身分制度を擁護したと批判される謂われでもあるが、孔子の高弟である有若は、道徳が混乱した弱肉強食の時代に社会秩序を取り戻す為に、下克上を禁止する『孝悌の徳』を説いたのである。『孝』とは、父系社会の血族集団において目上の人を敬い仕える徳であり、一般には「親孝行」に代表される祖先崇拝思想の名残である。『悌』とは、共同体の年長者に従順に仕える徳であり、地域社会の秩序を維持する為の規範であった。

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[白文]3.子曰、巧言令色、鮮矣仁。

[書き下し文]子曰く、巧言令色、鮮なし仁。

[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『巧妙な弁舌に感情豊かな表情、そういった人は、見せ掛けだけで本当の思いやりの心が少ないものだ』

[解説]仁の徳を完成させる為には、目上の人に対して従順な「孝悌の徳」を欠かすわけにはいかないが、ただのご機嫌取りや曲学阿世の徒ばかりを君主の周りに集めたのでは社会の秩序や安全が揺らいでしまうということである。巧言令色とは、言葉が上手くて弁舌が爽やかであり、見た目にも魅力的な容姿をしているものをいう。孔子は、巧言令色をもって為政者(権力者)に擦り寄り、民衆を苦しませる悪政の原因となる「媚びへつらいの奸臣(上役へのゴマすりで私利を図る政治家や役人)」を警戒したのである。

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[白文]4.曾子曰、吾日三省吾身、為人謀而忠乎、与朋友交言而不信乎、伝不習乎。

[書き下し文]曾子曰く、吾(われ)、日に三たび吾が身を省みる。人の為に謀りて忠ならざるか、朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝えしか。

[口語訳]曾参先生がこうおっしゃった。『私は毎日三回、自分の身を反省する。他人のためを思って真剣に考えてあげるまごころが無かったのではないか。友人と交際を持つ中で誠実ではなかったのではないか。(孔子に教わったことを)十分に復習せずにあなたたちに伝えてしまったのではないか。』

[白文]5.子曰、道千乗之国、敬事而信、節用而愛人、使民以時。

[書き下し文]子曰く、千乗の国を導くには、事を敬んで(つつしんで)信あり(まことあり)、用を節して人を愛し、民を使うに時を以ってせよ。

[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『戦車千台を戦争に用いる諸侯の国を治めるには、政治を行うのに慎重でありつつ、一度決断したことは実行すること。政治の費用を節約して人民を大切にすること。人民を使役する場合には、適切な時機(農閑期)を選ぶことだ。』

[解説]古代の殷王朝・周王朝の時代から、貴族は四頭立ての戦車に乗って戦争を戦っていたが、春秋時代末期から戦国時代に掛けて、貴族の戦車同士の戦闘よりも農民の歩兵による白兵戦が多くなってきた。この文章は、千乗の戦車を戦争につぎ込める中規模の国を治める君子の心構えについて聞かれた孔子が、その弟子の問いに答えて『政治に対する慎重さと信義・人民に対する慈愛』の大切さを語ったものとされる。

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[白文]6.子曰、弟子入則孝、出則弟、謹而信、汎愛衆而親仁、行有余力、則以学文。

[書き下し文]子曰く、弟子(ていし)入りては則ち(すなわち)孝、出でては則ち悌、謹みて信あり、汎く(ひろく)衆を愛して仁に親しみ、行いて余力あれば、則ち以って文を学ぶ。

[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『若者たちよ、家庭に入れば親に孝行を尽くし、家庭を出れば地域社会の年長者に従順に仕え、言行を慎んで誠実さを守り、誰でも広く愛して人徳のある人格者とは親しくしなさい。これらの事を実行して余力があれば、そこで初めて書物を学ぶとよい。』

[白文]7.子夏曰、賢賢易色、事父母能竭其力、事君能致其身、与朋友交、言而有信、雖曰未學、吾必謂之学矣。

[書き下し文]子夏(しか)曰く、賢を賢として色に易え(かえ)、父母に事えて(つかえて)能く(よく)其の力を竭し(つくし)、君に事えて能くその身を致し、朋友と交わるに言いて信あらば、未だ学ばずと曰うと雖ども、吾は必ずこれを学びたりと謂わん。

[口語訳]子夏がこうおっしゃった。『美人(色)を好むのと同じようにして、賢人を賢人として尊敬しなければならない。父母に仕えて力の限りを尽くし、君主に仕えて身命を捧げ、友人と交わって一度言ったことを決して裏切らない。(こんな人物がいたとして)人は、『この人はまだ学問をしていないから賢人ではないというかもしれないが、私は、きっとこの人物を学問をした賢人だと評価するだろう(真の賢人とはこういう人物のことを言うのである)』

[解説]孔子の弟子の子夏は、姓を卜(ぼく)、名を商といい、曾子や有子と並ぶ高低であったが彼らよりも年少であったと言われる。子夏は、春秋末期に中原の大国・魏の文侯に仕えて、学術研鑽や教育指導に務めたとされるが、この文章は「儒教の価値観で真の賢人とはどのような人物であるのか?」を象徴的に示したものである。「賢賢易色」は、「賢者を美女のごとくに尊敬せよ」という当時の格言に由来するという説があるが、後世になって、男尊女卑の風潮(男性原理の色合い)が強まり「美女のごとく」ではなく「美女への愛情を昇華して」と解釈されるようになった。孔子自身は、美女(良妻賢母のイメージ)に対する愛情に特別な嫌悪や抵抗は持っておらず、そういった人間同士の愛情や優しさのようなものが、人道的な文明社会の根底にあると考えていたのではないか。

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[白文]8.子曰、君子不重則不威、学則不固、主忠信、無友不如己者、過則勿憚改。

[書き下し文]子曰く、君子、重からざれば則ち威あらず、学べば則ち固ならず。忠信を主とし、己に如かざる者を友とすることなかれ。過てば則ち改むるに憚る(はばかる)こと勿かれ。

[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『君子は、重々しい雰囲気がなければ威厳がない。学問をすれば頑固でなくなる。(上位者に尽くす)忠と(誠実さを守る)信の徳を第一にして、自分に及ばない者を友達とするな。過ちがあれば、それを改めることをためらってはならない(即座に間違いを改めなさい)。』

[解説]「忠信を主として」の部分は、「忠信に主しみ(したしみ)」と書き下すこともできるが、漢の鄭玄は後者を採用して「上位者に忠節を尽くし、約束を違えない誠実な人物と親交(懇意)を深め」といった意味に解釈している。自分に間違いや過失があれば、それを素直に認めてすぐに正しい考えや事柄に改めることを孔子は説いているが、儒教では頑迷固陋に一つの立場にこだわることが学問や政治の妨げになると考える傾向がある。

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