『論語 衛霊公篇』の書き下し文と現代語訳:3

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孔子と孔子の高弟たちの言行・思想を集積して編纂した『論語』の衛霊公(えいれいこう)篇の漢文(白文)と書き下し文を掲載して、簡単な解説(意訳や時代背景)を付け加えていきます。学校の国語の授業で漢文の勉強をしている人や孔子が創始した儒学(儒教)の思想的エッセンスを学びたいという人は、この『論語』の項目を参考にしながら儒学への理解と興味を深めていって下さい。『論語』の衛霊公篇は、以下の5つのページによって解説されています。

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[白文]19.子曰、君子病無能焉、不病人之不己知也、

[書き下し文]子曰く、君子は能(のう)なきことを病う(うれう)。人の己れを知らざることを病えざるなり。

[口語訳]先生が言われた。『君子は自分に能力がないことを心配する。しかし、他人が自分を知らないということを悩むことはない。』

[解説]有徳の君子の必要条件として、『人の己を知らざるを憂えず』は『論語』で繰り返し語られているものである。

[白文]20.子曰、君子疾没世而名不称焉、

[書き下し文]子曰く、君子は世(よ)を没えて(おえて)名の称せられざることを疾む(にくむ)。

[口語訳]先生が言われた。『君子は生涯を終わってから、自分の名前が唱えられないことを悩むものである。』

[解説]君子の極めて有効な行為規範が『後世に残る名声・名誉』であったが、孔子は意識的に名誉や地位を求める行為を正しいものとはしなかった。飽くまで自分の理想とする政治の実践の中で後世に名前を残すこと、自然に自分の業績が歴史の中で語り伝えられることが『最大の名誉(儒教的な名声)』だったのである。

[白文]21.子曰、君子求諸己、小人求諸人、

[書き下し文]子曰く、子の曰わく、君子は諸(これ)を己に求め、小人は諸を人に求む。

[口語訳]先生が言われた。『君子は自己の中にこれを求めるが、小人は他人に対して求める。』

[解説]孔子は、他人に何か『価値あるもの』を要求するような心性は卑しく、自分を練磨して自分の内面から『価値あるもの』を生み出そうとする心性を尊いとした。

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[白文]22.子曰、君子矜而不争、羣而不党、

[書き下し文]子曰く、君子は矜(きょう)にして争わず、群して党せず。

[口語訳]先生が言われた。『君子は厳格な誇り高い態度を取っているが他人と争うことはない。また、大勢の他人と交流するが党派に加わることはない。』

[解説]有徳の君子は、謹厳実直に己を持しているが、その自尊心の高さゆえに他人と争い合うような狭量なところがない。寛容で温かみのある君子は、他人との幅広い交流を拒むものではないが、特定の党派に与して派閥争いをするようなこともないということである。

[白文]23.子曰、君子不以言挙人、不以人廃言、

[書き下し文]子曰く、君子は言を以て人を挙げず、人を以て言を廃せず。

[口語訳]先生が言われた。『君子は人の言葉のみによって人を推薦することはなく、誰が言ったかによってその言葉を捨てることはしない。』

[解説]孔子は人物の本質を見抜くために、口先だけの弁舌や理屈によってその人物を官職に推薦するようなことはしなかった。しかし、『誰が言ったか』を重視するだけではなく『何を言ったか』のほうも重視しており、自分が認めない人物が話した言葉でも、その言葉に価値があればその言葉を無闇に捨てることはしなかったのである。

[白文]24.子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎、子曰、其恕乎、己所不欲、勿施於人也、

[書き下し文]子貢問いて曰く、一言にして以て終身これを行うべき者ありや。子曰く、其れ恕(じょ)か。己の欲せざる所、人に施すことな勿かれ(なかれ)。

[口語訳]子貢が質問して言った。『一言だけで死ぬまで実際に行えるようなものはありますか?』。先生はお答えになられた。『それは「恕」である。自分がして欲しくないことは、他人にもしてはならないということだ。』。

[解説]儒教の道徳律の中でもっとも有名な『己の欲せざるところ、人に施すことなかれ』が出てくる章であり、一生涯を通して実践できる教訓として孔子が子貢に教えたものである。

[白文]25.子曰、吾之於人也、誰毀誰誉、如有可誉者、其有所試矣、斯民也、三代之所以直道而行也、

[書き下し文]子曰く、吾の人に於けるや、誰(たれ)をか毀り(そしり)誰をか誉めん(ほめん)。如し(もし)誉むる所の者あらば、それ試みる所あらん。斯の(この)民や、三代の直道(ちょくどう)にして行う所以(ゆえん)なり。

[口語訳]先生が言われた。『私が人々に対する時には、誰かを褒めて誰かを否定するということはしない。もし褒めるべき人物がいれば、その実力を試してみてからである。この村の人民は、夏・殷・周の三代にわたって変わりなく、まっすぐな道に従って生きている人たちである。』

[解説]この『論語』の章は、『それ試みる所あらん』を『既に官吏採用試験を受けて採用されている』と解釈するか『その実力を試してみてから褒めるか批判するかを決める』と解釈するかによって変わってくる。しかし、結論としては、孔子が郷党(ふるさと)の人たちの『人柄の良さ・誠実な真面目さ』を肯定的に語ったと見ることができる。

[白文]26.子曰、吾猶及史之闕文也、有馬者借人乗之、今則亡矣夫、

[書き下し文]子曰く、吾(われ)は史の闕文(けつぶん)に及ぶべきか。馬ある者は、人に借して(かして)これに乗る。今は則ち亡きかな。

[口語訳]先生が言われた。『私は、歴史の記述が欠けている部分については言及しないようにしている。馬を持っている人は、自分が乗れなくても誰か(馬に乗れる人)に乗せて貰うことができる。しかし、今はそういった慎重さ・親切さがもうないのである。』

[解説]孔子が『歴史書に記述がないことを語る軽率さ』や『人に馬を貸してあげない不親切さ』を批判的に語っているが、この白文の書き下し文や解釈には幾つかの説がある、具体的に孔子が何を言いたかったのかは定かではない。

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[白文]27.子曰、巧言乱徳、小不忍、則乱大謀、

[書き下し文]子曰く、巧言は徳を乱る。小、忍びざれば、則ち大謀を乱る。

[口語訳]先生が言われた。『弁舌が上手すぎるのは徳を害するし、小さいことに我慢しないと大きな計画を害することになる。』

[解説]論語を貫徹する『巧言令色鮮なし仁』の教えについて表現を変えて言った部分である。小さな些事に怒ったり否定したりばかりしていると、『将来の大きな計画』に差し支えが生じることもあるので、『小事を捨てて大事を取る』の精神も大切なのである。

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