『枕草子』の現代語訳:28

清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

『枕草子』は池田亀鑑(いけだきかん)の書いた『全講枕草子(1957年)』の解説書では、多種多様な物事の定義について記した“ものづくし”の『類聚章段(るいじゅうしょうだん)』、四季の自然や日常生活の事柄を観察して感想を記した『随想章段』、中宮定子と関係する宮廷社会の出来事を思い出して書いた『回想章段(日記章段)』の3つの部分に大きく分けられています。紫式部が『源氏物語』で書いた情緒的な深みのある『もののあはれ』の世界観に対し、清少納言は『枕草子』の中で明るい知性を活かして、『をかし』の美しい世界観を表現したと言われます。

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石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

[古文・原文]

41段

七月ばかりに、風いたう吹きて、雨など騒がしき日、おほかたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香すこしかかへたる綿衣(わたぎぬ)の薄きをいとよくひき着て、昼寝したるこそ、をかしけれ。

[現代語訳]

41段

七月頃に、風が強く吹いて、雨も非常に強く降った騒がしい日、そこら一帯がとても涼しいので、夏扇のことなどすっかり忘れていた。(そんな涼しい夏の日に)汗の香りが少し匂う綿入れの薄いものを敢えて引き被って昼寝をするというのは、(少し贅沢で)素晴らしいものだ。

[古文・原文]

42段

にげなきもの

下衆(げす)の家に雪の降りたる。また、月のさし入りたるも、くちをし。月の明きに、屋形(やかた)なき車のあひたる。また、さる車に、あめ牛かけたる。また、老いたる女の、腹高くてありく。若き男持ちたるだに見苦しきに、異人(ことひと)の許へ行きたるとて、腹立つよ。

老いたる男の、寝惑ひたる。また、さやうに髯(ひげ)がちなる者の、椎つみたる。歯もなき女の、梅食ひて酸(す)がりたる。下衆の、紅の袴着たる。このころは、それのみぞあめる。

靱負(ゆげひ)の佐(すけ)の夜行姿。狩衣(かりぎぬ)姿も、いとあやしげなり。人に怖ぢらるる袍(うえのきぬ)は、おどろおどろし。立ちさまよふも、見つけてあなづらはし。「嫌疑の者やある」と、たはぶれにも咎む。入りゐて、そらだきものにしみたる几帳にうち掛けたる袴など、いみじうたつきなし。

かたちよき君たちの、弾正の弼(ひち)にておはする、いと見苦し。宮の中将などの、さもくちをしかりしかな。

[現代語訳]

42段

似つかわしくないもの(相応しくないもの)

身分の低い者たちの家に雪が降っている景色。また、そういった家に月が明るく差しているのも残念である。月の明るい夜に、屋形のない車に出会った時。また、そんな車にあめ牛をかけているのも悪い。また、老いた女が(年甲斐もなく孕んで)大きなお腹を抱えて歩いている姿。(そんな年嵩の女が)若い夫を持っているというだけでも見苦しいのに、その夫が(自分に満足できずに)他の女の元に通っているといって腹を立てている分不相応な姿。

年老いた男が、寝ぼけている姿。また、老いた髭面の男が、椎の実を前歯で噛んでいる姿も。歯がない老女が、梅を食べて酸っぱく感じている顔。身分の低い女官が、紅の袴を穿いている姿。最近は、みんなそんな感じの格好をしているというが。

靱負の佐の夜の巡回の姿。その狩衣姿も、(宮中には似つかわしくなくて)たいそう見苦しい。人から恐れられている赤い袍を来ていたのでは仰々しいのだが。巡回途中なのに、女房たちの局の周辺をうろうろしている(女性を物色している)のを見つけると軽蔑してしまう。「怪しい者はいないか」などと、戯れながら詰問したりする。懇意にしている女房の局に入って、香の香り高い匂いが染み込んだ几帳に、適当に掛けてある白袴などは、本当に不似合いなものである。

容姿端麗な若君が、弾正の弼に就任するというのもとても見苦しい。宮の中将などがいらっしゃる時には、本当に残念なご様子であった。

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