『枕草子』の現代語訳:41

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清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

『枕草子』は池田亀鑑(いけだきかん)の書いた『全講枕草子(1957年)』の解説書では、多種多様な物事の定義について記した“ものづくし”の『類聚章段(るいじゅうしょうだん)』、四季の自然や日常生活の事柄を観察して感想を記した『随想章段』、中宮定子と関係する宮廷社会の出来事を思い出して書いた『回想章段(日記章段)』の3つの部分に大きく分けられています。紫式部が『源氏物語』で書いた情緒的な深みのある『もののあはれ』の世界観に対し、清少納言は『枕草子』の中で明るい知性を活かして、『をかし』の美しい世界観を表現したと言われます。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

74段

職の御曹司(しきのおんぞうし)におはしますころ、木立などの遥かにもの古り(ふり)、屋のさまも高うけ遠けれど、すずろにをかしうおぼゆ。母屋(もや)は、鬼ありとて、南へ隔て出だして、南の廂(ひさし)に御帳(みちょう)立てて、又廂に女房はさぶらふ。近衛の御門(みかど)より左衛門の陣にまゐりたまふ上達部(かんだちめ)の前駆(さき)ども、殿上人のは短ければ、大前駆(おおさき)、小前駆(こさき)と付けて聞き騒ぐ。

あまたたびになれば、その声どもも皆聞き知りて、「それぞ」「かれぞ」など言ふに、また「あらず」など言へば、人して見せなどするに、言ひあてたるは、「さればこそ」など言ふも、をかし。

有明のいみじう霧り(きり)わたりたる庭におりてありくをきこしめして、御前(おまえ)にも起きさせたまへり。上なる人々の限りは、出でゐ、おりなどして遊ぶに、やうやう明けもてゆく。「左衛門の陣にまかりて見む」とて行けば、我も我もと、追いつぎて行くに、殿上人あまた声して、「なにがし一声の秋」と誦(ず)じてまゐる音すれば、逃げ入り、ものなど言ふ。

「月を見たまひけり」など、めでて、歌詠むもあり。夜も昼も、殿上人の絶ゆるをりなし。上達部まで、まゐりたまふに、おぼろけに急ぐ事なきは、かならずまゐりたまふ。

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[現代語訳]

74段

職の御曹司という役所に中宮様がいらっしゃる頃、木立などが遥かに古い色合いで、建物の造りも高くて親しみにくい感じだけれど、なんとなく面白く思ってしまう。母屋には鬼が住み着いているということで、そこは閉めて南に準備をする、南の廂に御帳台を立てて、更にその南の又廂に女房たちは控えている。近衛の御門から左衛門の陣にお向かいになる上達部の方々の先駆けの掛け声、殿上人のは掛け声が短いので、私たちは大前駆(おおさき)、小前駆(こさき)と名前をつけて掛け声を聞いては騒いでいる。

何度も聞いているので、先駆けの声をみんなが聞き分けられるようになって、「これは誰それ」「あれは誰それ」などと言っている。また誰かが「それは違うわよ」と言うと、下女を使わせて見に行かせるなどして、言い当てた人は「やはりあの人じゃない」などと言い返しているのも面白い。

有明の月の頃、一面に深い霧が立ち込めた庭に、女房たちが下りて散歩するのをお聞きになって、中宮もまだ早い時間にお起きになられた。中宮の御前にいる女房たちは、外に出たり庭に下りたりして遊んでいるうちに、段々夜も明けてきた。「左衛門の陣まで行って見物してきましょう。」と言って、遂に門の外に出ていくと、私も私もと後を追いかけて続いてゆく。殿上人が大勢の声で、「一声の秋」という詩を吟じてこちらにやってくるので、職の御曹司の建物に逃げ込んでお話をする。

「月を眺めていらっしゃったんですね。」などと感動して、そこで歌を詠む人もいる。夜も昼も、殿上人がやって来るのが絶えることがない。上達部さえも参内される途中で、特別に急ぐ用事でもない限りは、必ずここにお立ち寄りになられる。

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[古文・原文]

75段

あぢきなきもの

わざと思ひ立ちて、宮仕へに出で立ちたる人の、もの憂がり(ものうがり)、うるさげに思ひたる。養子(とりこ)の、顔にくげなる。しぶしぶに思ひたる人を、強いて婿取りて、思ふさまならずと嘆く。

76段

ここちよげなるもの

卯杖(うづえ)の法師。御神楽(みかぐら)の人長(にんじょう)。御霊会(ごりょうえ)の振幡(ふりはた)とか持たる者。

[現代語訳]

75段

おもしろくないもの

わざわざ思い立って宮仕えに出た人が、お勤めを面倒くさがって煩わしく思っている。養子の顔が醜いということ。気の進まない人を無理矢理、婿にして、自分の思い通りに通ってきてくれないと嘆く人。

76段

気持ち良さそうなもの

卯杖(うづえ)の法師。神楽の人長(にんじょう)。御霊会の時、振幡(ふりはた)とかいう物を持った人。

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