『枕草子』の現代語訳:65

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清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『見ぐるしきもの 衣の背縫ひ、かた寄せて着たる~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

105段

見ぐるしきもの

衣の背縫ひ(きぬのせぬい)、かた寄せて着たる。また、のけ頸(くび)したる。例ならぬ人の前に子負ひて出で来たる。法師陰陽師の、紙冠して、祓へ(はらえ)したる。

色黒うにくげなる女の鬘(かづら)したると、髭がちに、かじけ、やせやせなる男と、夏、昼寝したるこそ、いと見ぐるしけれ。何の見る甲斐にて、さて臥い(ふい)たるならむ。夜などは、容貌(かたち)も見えず、また、皆おしなべてさることとなりにたれば、我はにくげなりとて、起きゐるべきにもあらずかし。

さてつとめては、とく起きぬる、いと目やすしかし。夏、昼寝して起きたるは、よき人こそ、今すこしをかしかなれ、えせ容貌は、つやめき、寝腫れて、ようせずは頬ゆがみもしぬべし。かたみにうち見かはしたらむほどの、生ける甲斐なさよ。

やせ、色黒き人の、生絹(すずし)のひとへ着たる、いと見ぐるしかし。

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[現代語訳]

105段

見苦しいもの

着物の背負いの部分を、片方に寄せて着たもの。また、頸の部分を除けた衣紋(えもん)。いつも来ない人の前に、子供を背負って出てきたこと。法師・陰陽師が、紙冠をしてお祓いをしている様子。

色黒で醜い女で鬘をした女が、髭ぼうぼうでやつれて痩せた男と一緒に、夏に昼寝をしているのは、とても見苦しい。どんな見る意味があって、そんな風に昼寝などしているのだろう。暗い夜なら、容貌も見えないし、また皆が一般に寝ることになっているので、自分が醜いからといって、夜に起き続けている必要はないのだが。

さて早朝は、早く起きているほうが、さっぱりして非常に見苦しくないというものだ。夏、昼寝して起きた様子は、高貴な人であればまだ少し魅力があるだろうが、醜い容貌では、油ぎって、眼が腫れて、悪くすれば頬が寝跡で歪んでいるということもあるだろう。男女がそんな醜い風貌でお互いに見交わした時などは、生きている甲斐がないとまで思ってしまう。

痩せて色黒な人が、生絹(すずし)の単(ひとへ)を着ているのも、とても見苦しいものだ。

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[古文・原文]

106段

言ひにくきもの

人の消息の中に、よき人のおほせ言などの多かるを、はじめより奥まで、いと言ひにくし。はづかしき人の、物などおこせたる返事。大人になりたる子の思はずなることを聞くに、前にては言ひにくし。

[現代語訳]

106段

言い難いこと

人からの手紙に、高貴な人の仰せになった言葉などが多く書かれているのを、はじめから最後まで間違いなく取り次ぐのは、とても言い難いものだ(どこかで間違ってしまいやすいものだ)。こちらが恥ずかしくなるほど身分の高い立派な人が、物などを送って下さった時のこちらの返事。大人になった子供の想定外の事柄を聞いた時でも、子供を目の前にすると言い難い。

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