『枕草子』の現代語訳:88

清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『いやしげなるもの 式部の丞の笏~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

144段

いやしげなるもの

式部の丞(しきぶのじょう)の笏(しゃく)。黒き髪の筋わろき。布屏風(ぬのびょうぶ)の新しき。古り黒みたるは、さる言ふかひなき物にて、なかなかなにとも見えず。新しうしたてて、桜の花多く咲かせて、胡粉(こふん)、朱砂(すさ)など彩(いろ)どりたる絵ども描きたる。遣戸厨子(やりどずし)。法師のふとりたる。まことの出雲筵(いずもむしろ)の畳。

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[現代語訳]

144段

下品なもの。

式部の丞の笏(しゃく)。黒い髪の毛筋が悪いもの。布屏風(ぬのびょうぶ)の新しいもの。古くなって汚れたものは、元々語るべき価値もないものだから、かえって何にも気にならないのだ。新しく仕立てて、桜の花が沢山咲いている様子を描いて、胡粉(こふん)、朱砂(すさ)などで色鮮やかに描いてあるのが下品なのだ。遣戸厨子(やりどずし)。坊さんで太っている人。本物の出雲筵(いずもむしろ)で作った畳。

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[古文・原文]

145段

胸つぶるるもの

競馬(くらべうま)見る。元結(もとゆひ)よる。親などの、心地あしとて、例ならぬけしきなる。まして、世の中など騒がしと聞ゆるころは、よろづの事おぼえず。また、物言はぬ児(ちご)の泣き入りて、乳(ち)も飲まず、乳母(めのと)の抱くにもやまで、久しき。

例の所ならぬ所にて、殊にまたいちじるからぬ人の声聞きつけたるはことわり、異人(ことひと)などの、その上など言ふにも、まづこそつぶるれ。いみじうにくき人の来たるにも、またつぶる。あやしくつぶれがちなるものは、胸こそあれ。昨夜(よべ)来はじめたる人の、今朝の文の遅きは、人のためにさへ、つぶる。

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[現代語訳]

145段

胸がどきどきとするもの

競馬の見物。元結を撚る(よる)時。親などが、気分が悪いといって、いつもとは違った様子の時。まして、世間に疫病が流行って騒がしく風聞が聞こえている時は、何も手がつかなくなってしまう。また、話せない赤ちゃんが泣いて、乳も飲まず、乳母が抱いても泣き止まないで、ずっと泣き続けている時。

いつもの所ではない所で、特にまた世間に隠している恋人の声を聞きつけた時にはどきどきするのは当たり前だが、他の人がその人のことを話題にしているのを聞く時も、まず胸がどきどきするものだ。とても憎たらしい嫌いな人が来た時にも、またどきどきとする。不思議にどきどきとしてしまうのが、胸というものなのだ。昨夜、通って来始めた男が送ってくるはずの、今朝の手紙が遅いのは、他人のことであってもどきどきしてしまう。

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