『枕草子』の現代語訳:119

清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『短くてありぬべきもの  とみのもの縫ふ糸~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

スポンサーリンク

[古文・原文]

220段

短くてありぬべきもの

とみのもの縫ふ糸。下衆女の髪。人の女(むすめ)の声。燈台(とうだい)。

221段

人の家につきづきしきもの

ひぢをりたる廊(ろう)。円座(わらふだ)。三尺の几帳。大きやかなる童女。よきはした者。侍の曹司(ぞうし)。折敷(をしき)。懸盤(かけばん)。中の盤。おはらぎ。衝立障子(ついたてじょうじ)。かき板。装束よくしたる餌袋(えぶくろ)。傘(からかさ)。棚厨子(たなづし)。提(ひさげ)。銚子(ちょうし)。

楽天AD

[現代語訳]

220段

短くても良いもの

急ぎのものを縫う時の糸。下衆女の髪。結婚前の人の女(むすめ)の声。燈台(とうだい)。

221段

人の家に似つかわしいもの

折れ曲がった廊(ろう)。円座(わらふだ)。三尺の几帳。大柄な童女。品の良い下女。侍の者の部屋。折敷(をしき)。懸盤(かけばん)。中の盤。大原木(おはらぎ)。衝立障子(ついたてじょうじ)。かき板。外見を美しく飾った餌袋(えぶくろ)。傘(からかさ)。棚厨子(たなづし)。提(ひさげ)。銚子(ちょうし)。

スポンサーリンク

[古文・原文]

222段

ものへ行く道に、清げなる男(をのこ)の細やかなるが、立文(たてぶみ)持ちて急ぎ行くこそ、いづちならむと見ゆれ。

また、清げなる童女(わらわべ)などの、袙(あこめ)どものいと鮮やかなるにはあらで、萎えば(なえば)みたるに、屐子(けいし)のつややかなるが、歯に土多くつきたるをはきて、白き紙に大きに包みたる物、もしは箱の蓋に草子どもなど入れて持て行くこそ、いみじう呼び寄せて見まほしけれ。

門(かど)近なる所の前わたりを呼び入るるに、愛敬(あいぎょう)なく答へ(いらえ)もせで行く者は、使ふらむ人こそ、推しはからるれ。

楽天AD

[現代語訳]

222段

どこかへ行く道の途中で、こざっぱりした下仕えの男でほっそりした感じの者が、立文(たてぶみ)を持って急いで行くのは、どこに行く使いであろうかと見える。

また、こざっぱりした女の子などが、袙(あこめ)の着物のとても新しいものではなくて、着慣れていて萎えた感じのものを着て、屐子(けいし)の履き物が光っているのに、歯に土がたくさん付いているものを履いて、白い紙に包んだ何か大きな物、あるいは箱の蓋に本などを入れて持っていくのは、どうしても呼び寄せたくなり、中の物を見てみたいなと思う。

門(かど)の近くの前を通るのを呼び入れるのだが、愛想がなくて返事もしないで行く者は、こんなダメな者を使っている主人の人柄が推し量られるというものである。

スポンサーリンク
楽天AD
Copyright(C) 2015- Es Discovery All Rights Reserved