結婚意識調査からの考察:男女が結婚相手に望む条件とミスマッチの問題

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結婚願望と晩婚化・非婚化

人口問題研究所が独身青年層を対象に調査した『独身青年層の結婚観と子ども観』などの統計データによると、晩婚化や少子化が指摘される現在でも、一生結婚しないと決めている人は圧倒的少数派(男女共1割未満)であり、結婚後に一人も子どもが欲しくないという人の割合も少ない。ただし、現代の日本では『一定の年齢になったら結婚しなくてはならない・人間は子どもを育てる義務がある』というような“結婚と出産に関する規範意識・結婚適齢期”を肯定する人は極めて少数派であり、社会全体で結婚・出産を奨励する価値観を持つというような傾向は弱いといえる。結婚しても子どもを持たない共働きの夫婦世帯を“DINKS(Double Income No KidS)”というが、意図的な判断で子どもを持たないDINKSの場合にも、子どもが欲しくない(好きではない)からという理由もあるが、経済的問題や育児への不安などによって出産を抑制している夫婦が少なくない。

結婚していない男女の『結婚していない理由』について、厚生労働省がウェブで公開している『少子化に関する意識調査研究:結婚の状況と結婚意識(PDFファイル)』を参照すると、その理由の第一位は『適当な相手に巡り合わないから』でありそれに次いで『経済力がないから』が続き、それ以降の理由も経済力(金銭的余裕)に関するものが上げられていく。

一度結婚を経験して離婚をした人たちが『結婚していない理由』の場合には、基本的生活費以外の部分の『自由になる時間・お金がなくなるからというもの(継続独身女性)』『親の扶養や同居の問題を抱えているから(継続独身の男女)』『義父母など親戚関係が複雑になるのが嫌だから(継続独身女性)』という理由が多くなっている。

この意識調査から分かるのは、若年の未婚者の9割は将来結婚したいという意向を持っていて、『配偶者として適当な相手』『家庭を維持する経済力』があれば結婚するという人が少なくないという事である。よく結婚率の低下や未婚率の上昇の原因を、『性別役割分担(男は仕事・女は家事)を希望する男性の女性に対する理解のなさ』に求めるフェミニズム的な意見が見られるが、これは統計データから見る限りは一般的な原因とはいえないだろう。結婚・出産後にも同じ業界や分野で仕事・研究を続けたいという高学歴・高キャリアの女性や男女同権のジェンダーフリー思想の原則を家庭にも適用すべきとする女性を除いては、『男性側の性別役割分担の希望』は女性に結婚を思いとどまらせる決定的な理由になっているとはいえない。

しかし、『自分の仕事や職業に理解を持ち協力して欲しい』という人の割合が、男女共10%前後で推移していることには留意が必要で、自分がプライドを持ってキャリアを積み上げている職業を持っている人ほど結婚後に今まで通りの仕事を続けられるかを重視する傾向がある。その一方で、それほど遣り甲斐や面白みを感じておらず生活の為だけに行っている仕事の場合には、家事育児に専念する専業主婦になりたいという女性の数も一定数存在しているということも付記しておく必要がある。

専業主婦を希望する女性が、配偶者となる男性に求める条件は『安定した経済力』という事になるが、現在の若年層では医師・弁護士などの専門職、大企業勤務のサラリーマン、安定した給与のある公務員やサラリーマンなどを除いて家族を夫一人で扶養できる人の数が減っている。その上、医師や弁護士、エリートに分類されるサラリーマンなどが専業主婦である配偶者を希望する割合、実際に専業主婦と結婚する比率はそれほど高くなく、ここに結婚率の低下の要因となるミスマッチが働いていることになる。

男女の『結婚相手に希望する条件』を見てみると、上位2つは男女共に共通していて『性格・パーソナリティ』『価値観・相性』である。男女の結婚相手に求める条件が大きく食い違うのは、男性の第三位『容姿・容貌』と女性の第三位『相手の収入・経済力』である。男性は一般的に結婚相手として平均以上の美しい容姿やスタイルの良さを求める傾向があるのに対して、女性は安定した家庭生活を維持するのに必要な男性の所得水準や経済力を求める傾向があるという事である。男女共同参画社会が志向されているとはいえ、現在のところどの先進国社会でも男性は女性よりも高い平均所得水準を維持している。

その為、家庭の経済生活を支える基盤は夫の給与である家族世帯が多く、妻となる女性の所得が少なければ少ないほど夫となる男性の所得に家計を依存する割合が高まる。また、多くの女性は出産育児の期間は、基本的に夫となる男性の経済力に依拠することになる。夫の所得水準が、イコール自分と家族の生活水準になりやすい女性は、男性の経済力を無視して配偶者を選択することは現実的ではないと考えやすいといえる。また、専門職としての資格・技能や上級職としてのキャリアを持たない女性の大半は、それほど給与の高くないパート労働に従事する事が多くなるため、現在でも家庭の生活水準は夫の経済所得に左右されるケースが多いといえる。

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結婚相手に希望する条件と男女の性的魅力の非対称性

『結婚相手に希望する条件』で男女共にトップを占める性格(パーソナリティ)や価値観の相性は、相手に愛情や好意を寄せて一緒に生活したいと思う為の基本条件である為、実際的には結婚条件としてあまり大きな意味を成さない。恋人や配偶者を選ぶ段階で、相手の人格性に失望や幻滅を覚えて嫌悪感を感じていれば、そもそもその相手と男女の仲を深めることはないだろうし、相手が人間として異性として許せないような価値観を持っていて自分の考えや意見とは絶対に相容れることがないと思えば、その相手と結婚したいと思う気持ちが初めから生まれないからである。

男性が女性に求める性格特性として多いのは『優しい・可愛い・素直である・嘘をつかない・よく気がつく・子ども好き』などであり、基本的に自分を生活面・精神面・仕事面でサポートして力づけてくれるような『母性的・保護的・支持的な特徴』を持った女性を理想の配偶者像として上げる傾向が強い。言い換えれば、男性の多くは、“配偶者となる女性”に自分以上の学歴教養や給与水準、職業能力(職業上の地位)、社会的名声などを求める傾向が少ないということであり、男性のアイデンティティの基盤が職業能力や社会的評価、学歴教養といった社会的アイデンティティに偏りやすく、配偶者となる女性よりも社会経済的に有利でありたい心理を示しているようである。

それに対して、女性が男性に求める性格特性として多いのは『優しい・頼りになる・信頼できる・自分に自信がある・意志が強い』などであり、基本的に自分や家族を生活面・経済面・危険や危機から守ってくれるような『父性的・積極的・社会適応的な特徴』を持った男性を理想の配偶者像として上げる傾向がある。また、男性は女性に対して『自分より仕事のできる女性と結婚したい』という結婚の希望は殆どないが、女性の過半数は『自分より仕事のできる男性と結婚したい』と考えているようで、仕事ができて社会的に有能であることが男性としての魅力につながっているケースが少なくない。

とはいえ、女性が恋愛相手や結婚相手を選ぶ場合に、明確に経済力や所得水準、学歴教養が意識されていることは少ないし、性格・価値観の近似性や容姿・容貌の許容範囲といった『恋愛・結婚相手に求める最低ラインの条件』というものを満たしていないと幾ら経済力や地位・名声があっても恋愛・性愛や結婚のパートナーとして選ばれることはないのも確かなことである。しかし、配偶者や恋人としての最低ラインの条件を満たした相手の中から、一人の相手を選ぶ場合には、社会的成功に結びつく性格特性やキャリア、学歴・技能を持っている男性が選ばれやすくなるし、実際の結婚事例を見ても高学歴・高所得の女性ほど自分と同等以上の男性を配偶者として選択する傾向が見られる。

高学歴の女性が興味関心を寄せる分野の知識や話題の豊富さ、高キャリアの女性が結婚前に送っている生活水準を結婚後にも維持するための経済所得や職業能力、そういった性格行動面や職業活動面のマッチングを考えると、必然的に高学歴・高キャリアの女性が恋愛・結婚の対象とする男性の範囲は限定されてきやすくなると考えられる。

これは、自分と同程度の生物学的魅力や社会的評価、経済力を持つ相手とパートナーになりやすいという心理学の『バランス理論』で説明することもできる。一般的に、人間は、自分の自尊心の保持や告白の成功可能性に配慮しながら結婚のパートナーを選ぶことが多い。その結果、二人の関係の継続可能性、価値観や趣味教養の近似性、相手が自分を受け容れてくれるか否かなどを無意識的に考えることになり、(バランス理論が指し示すような)自分とバランスの取れた最適なパートナーを選びやすい傾向が現れてくる。

もちろん、自分とは正反対の性格行動パターンの異性を好きになる女性もいるし、経済的な安定性よりも容姿・性格といった人間的魅力を重視する女性もいる。また、自分が外で働いて家庭を維持する収入を得てくるので、夫には家庭で家事育児をこなして欲しいというキャリア志向の女性もいる。その為、男女の生物学的・社会的・経済的・人格的特性の均衡で、男女のパートナーの組み合わせを考えるバランス理論では、全ての男女関係のマッチングを説明することは不可能であることも合わせて述べておきたい。しかし、一般的に、経済所得が家庭を維持できないほど極端に少なかったり、職業活動を行っていない無職者・失業者・ニートであったりする場合には、女性が男性を配偶者として選ぶ可能性が極めて低くなるとは言えるだろう。

男性が女性に求める性格特性、女性が男性に求める性格特性は、必然的に、その男女が帰属する文化社会的要因によって規定されるジェンダー(gender, 社会的性差)の影響を受ける。しかし、『所属共同体の基本的男女観』に関係する道徳・言説・社会通念・文化慣習といったジェンダーの影響を、養育過程で受けずに済ますことは不可能である、その為、『ジェンダーの影響を受けている異性の好み・趣味』から私たちは完全に自由になることはできず、それが社会的強制を受けて偏っているとしても、自分自身の性的嗜好や異性の選択基準を無理やりに変化させることは出来ない。

『男性が女性に感じる性的魅力』『女性が男性に感じる性的魅力』とは類似的なものではなく非対称的なものであり、男女平等思想が普及して男女雇用機会均等法が施行された現在でも、『男女の性的魅力の非対称性』は破られていない。男性は『自分が守りたくなる性格や容姿が可愛い女性・自分を精神面や生活面でサポートしてくれる女性』に魅力を感じやすい傾向があり、自分よりも社会経済的に優位な立場である女性よりも自分と同等かやや劣位にある立場にある女性を自然に選びやすくなる。

女性は『自分や家族を守ってくれるような責任感と社会経済的能力のある男性・誠実で信頼できて包容力のある男性』に魅力を感じやすい傾向があり、自分より社会経済的に劣っている男性よりも、優秀な社会的能力と高い経済所得を持つ男性を自然に選びやすくなる。こういった男女の性的魅力の一般化については、社会的性差や文化慣習と結びついた男女観を否定する“ジェンダーフリーの男女共同参画社会構想”や女性の権利や地位の拡張を目指す“フェミニズム”、個別的な性的指向(セクシャリティ)や家族観を重視する“個人主義・自由主義”などの立場からの異論は多くあるだろう。

しかし、意識的であるか無意識的であるかは別として、結婚・恋愛に関する各種の意識調査から見る限り、従順さや素直さといった性格特性を持つ可愛い女性を魅力的であると思う男性は多いし、自分や家族を守ることが出来る社会的に有能な男性を魅力的であると思う女性は多いということが出来る。晩婚化・未婚化の要因として『男女の性的魅力の非対称性』を考えるならば、『男性・女性としての性的魅力』『配偶者としての社会経済的能力』『共同生活者としての興味関心の範囲や教養水準』などがうまく一致しないとなかなか結婚を決断できないという事になるだろう。

非正規雇用者数の増加と経済的理由による未婚化・晩婚化の相関

定職に就かないフリーターの増加や経済活動自体を行わないニートの問題が、労働行政や社会保障政策の観点から指摘されることが多くなっているが、フリーター層やニート人口の増大は、結婚したくても結婚できない層を増加させるだけでなく、『男性に一定の経済力を求める女性』が結婚できないミスマッチの要因を生み出していると考えられる。若年者層には時間給で雇われるアルバイトやパートが多くなっていて、これはフリーター自身の努力や意欲の問題もあるだろうが、それ以上に、正社員の雇用を抑えて人件費削減(コストカット)を図る企業の経営戦略の問題が大きいだろう。雇用環境を悪化させる要因である景気情勢や企業の業績も関係しているし、若年層の将来に対する責務という意味では社会全体が抱えるべき問題でもある。

正規雇用の社員と比較して不安定な雇用条件の契約社員の場合には、正社員同等のスキルやキャリアを持っている人材も少なくないのに、不当に低い給与体系や不十分な福利厚生(社会保険の未整備)を受け容れざるを得ないケースもある。人材派遣業(アウトソーシング)というビジネスをより公正で有益なものへと発展させ、正規雇用者と非正規雇用者の不公正な待遇格差を是正していくことで、経済的事情による結婚難の問題を改善できる部分があるように思える。

終身雇用制や年功序列賃金制という一生涯の安定した経済生活を保障してくれていた日本的な雇用慣行が衰退して、フリーター・契約社員・派遣社員といった不安定な所得と地位の被雇用者層が増加したことが、若年層(20代~30代)の結婚の晩婚化や非婚化に大きな影響を与えていると考えられるが、情報化社会の急速な社会変動(産業構造・ライフスタイル・価値観の変化)を考えると雇用形態の多様化には致し方ない部分があることもまた確かである。未婚化・晩婚化の問題だけでなく将来の日本社会の維持発展を考えると、安定した収入と地位を持つ正社員や公務員と同等の給与水準と社会保障を持てるかどうかが大きなポイントとなる。その為に、新たな形の雇用形態を政治・経済・学校の各方面から模索していかなければならないだろう。

女性の結婚のライフイベントとメンタルヘルスに関するリンク

女性のうつ病と身体生理

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