ウェブ・ユーザビリティとウェブ・アクセシビリティ

デジタル・デバイドとユニバーサル・デザイン

Web UsabilityとWeb Accessibility

誰もが使いやすいウェブサイトの制作

アクセスアップ論とIT革命の功罪



デジタル・デバイドと
ユニバーサル・デザイン(Universal Design)

現在の先進国では、パソコンや携帯電話、PDA、iPodといったIT端末が多くの国民に普及して、情報化社会の進展が順調に進んでいるように見えます。今では小学生や中学生の子ども達が、街中や家で、簡単に携帯メールを使いこなして、友達とメールのやり取りをしたりしています。

また、児童生徒の年齢層のIT利用率が上昇するにつれて、『過激で猥褻な性描写・ポルノ商品・残酷な写真や映像・暴力性を肯定するコンテンツ・犯罪や被害を誘発するような出会い系サイト』などの有害情報・危険情報とされるコンテンツを、如何に子ども達の視線から遠ざけるかが学校や家庭で議論され、そういったサイトにアクセスできないようにする技術的なソリューション(解決)がプロバイダで考案されたりしています。今までインターネット内部の情報流通にそれほど関知しなかった政府・行政でも、青少年に対する有害情報の規制などが議論されるようになっていることも時代の変化として興味深い現象です。

経済のマーケティング分野や公権力への影響などを鑑みても、現在の日本でバーチャルなインターネットの世界が持つ現実への影響力の強さが分かります。学生や主婦が、インターネット内のバーチャル・ショップでネット・ショッピングを楽しむことなどは珍しいものではありませんし、個人が現金収入を目的としてネット・オークションに自分の持ち物を出品することも出来るようになりました。

インターネットにバーチャルな市場経済や電子マネーが深く浸透してくるにつれて、バーチャルなインターネットは現実的な金銭の利害も絡んでくるシビアな環境といった側面も見せ始め、ますますリアルとバーチャルの境界線は曖昧化し始めました。

一時期、よく話題にのぼっていた出会い系サイトは、犯罪被害に巻き込まれてしまった人がマスメディアに取り上げられたりして、負の側面が強調されることが多くなっています。しかし、不特定多数との出会いを容易化するというのも、インターネット固有の特性ですから、出会いを促進するツールも使い方によっては良い側面を引き出すことができます。インターネットで知り合った見ず知らずの相手(特に異性)とすぐに会ってしまうことには、相当に大きな実質的リスクがありますが、多くの人がメール友達(メル友)を作った経験が1度はあるように、『距離的・物理的・環境的に離れた他者』と知り合い対話することには『未知の相手と知り合うチャンス・段階的に相手の現実世界の輪郭が浮かび上がってくる興奮』などがあると考えられます。

日常の物理的制約がある現実世界では、絶対に知り合えなかった魅力的な他者と知り合える可能性も、インターネットが人気がある大きな理由の一つです。(性的関係や恋愛関係などを目的とした出会い系などの特殊なサイトに限らず)距離的制約のないインターネットには無限の出会いの可能性がありますが、その中から信頼できる他者を選別する『人間関係のリテラシー(読解能力)』を身に付けることが重要となってきます。

匿名の異性との出会いを前提とした怪しげな出会い系サイトは兎も角としても、出会い系サイトの匿名性を和らげて、より現実に近い人間関係をインターネットで実現しようとする『SNS(mixiをはじめとするソーシャル・ネットワーク・サービス)』は、非常に面白い試みであると思います。

出会い系やSNSに関連する話題では、全く知らない相手と知り合い結婚にまで発展したケースなどが時々紹介されたりしますが、そういったサクセス・ストーリーばかりに酔うことなく、インターネットも現実世界と同じように、善人もいれば悪意を持った人間もいるという現実認識を持ち続けることが大切でしょう。

大人のビジネスや生活にとってもインターネットやパソコン、携帯電話の活用は必要不可欠なものとなってきましたが、パソコンや携帯電話を巧みに使いこなせることが当たり前となってくる一方で、その急速な社会構造や経済環境の変化に追いついていけない人たちもいます。

パソコンでインターネットに接続して情報や知識を収集できる人と、経済的事由や知識不足でパソコンやインターネットを使えない人とでは、学習・勉強・世論・就職・仕事・ビジネスにおける情報の格差が拡大することが懸念されます。

こういったパソコンやインターネットを中心とするデジタルな情報技術(IT)への習熟度やその利用頻度によって生まれる社会的な格差の総体を『デジタル・デバイド(digital divide)』といいます。実際、現在の日本社会において、若年世代でパソコンに関する一切の知識と技術を持たない場合、就職機会の減少や職業活動の困難からくる経済格差などが生まれてくる可能性が十分にあります。

私も高度なパソコンに関する知識は持っていませんし、難解なプログラム言語などは全く分からないので大きなことは言えないのですが、専門的なIT技術者ではない一般的なビジネスにおいて必要とされる技術としては、『パソコンの立ち上げと終了ができる』『メールの送受信ができる』『検索を用いて必要な情報をインターネットで閲覧できる』『基本的なキーボード操作ができる』『職務上、必要な情報を迅速に収集し、仕事で使うアプリケーションの使用法が分かる』などがあるのではないかと思います。

ITを使いこなせる人と使いこなせない人の間に広がるデジタル・デバイドは、日本国内にもありますし、先進国間にもあり、先進国と開発途上国の間にもあります。もちろん、途上国の内部にも、経済的に裕福な階層はIT機器を自由に使いこなせるが、そうでない人たちはITどころか毎日の食事にも困窮しているという厳しい現実があります。

デジタル・デバイドの拡大や残留の問題は、一国の内政にかかわるローカルな問題であると同時に、国際社会が取り組むべきグローバルな問題でもあります。本人の意志や努力によっては解決できない種類の格差は、人権の根本にある機会均等の原則に反しますから、デジタル・デバイド(情報の格差)にせよ、極端なキャピタル・デバイド(資本の格差)やブルータル・デバイド(権力の格差)にせよ、出来るだけ緩和することが望ましいといえます。

結果の平等を求めれば、社会は競争原理の恩恵を受けることが出来なくなるので活力を失いがちですが、同じ競争の舞台に上がれるように(もちろん、競争の舞台に上がらない選択の自由も尊重すべきですが)不利な環境条件を改善していくことは総体的なグローバルな活力を底上げすることになります。

デジタル・デバイドの解消のために必要なことは、『途上国が情報インフラ基盤を整備するための資金援助を行うこと、最低限のITに関する知識や技術を教育によって与えること、ITを利用する為のコストを押し下げること、ITに関する意欲・興味のある成人・高齢者がいつでもITの知識や技能を学べる環境を準備すること』などが考えられます。

標題に掲げた『ユニバーサル・デザイン(Universal Design)』とは、誰もが使いやすく分かりやすいように配慮されたデザインという意味です。それを突き詰めていくと普遍的な使いやすさや親しみやすさのあるデザイン、そして、あらゆる人たちに優しい理想的なデザインが、ユニバーサル・デザインだということになります。

ユニバーサル・デザインの概念は、社会福祉領域のバリアフリー社会構想や社会的弱者保護の思想と密接な関係があるので、一般的な商品やサービス全般(建築、車の設計、住宅、交通環境、家具、公共施設、都市環境など)にユニバーサル・デザインを広げていくことは、心身障害者・乳幼児・児童・高齢者が安心して快適に生活できる環境づくりへとつながります。

誰もが住みやすい町(街)づくり、誰もが使いやすいモノづくり、誰もが使いやすく学びやすいウェブサイトづくりを推進していく為にもユニバーサル・デザインの考え方は非常に役立ちます。ウェブサイトのユニバーサル・デザインとは、性別・年齢・障害の有無を問わず、誰もがアクセスできて、誰もが簡単に利用して目的を満たすことのできるウェブ・デザインを意味しています。

Web Usability(ウェブ・ユーザビリティ)と
Web Accessibility(ウェブ・アクセシビリティ)

インターネット本来のWWW(World Wide Web)の思想とは、蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされた情報空間を、自分の目的や希望に応じて自由自在に移動して、目的の情報を入手できるという考え方です。インターネットでは、自由にリンクを辿ってウェブサイトを巡り歩き、自分の必要とする情報、欲しい情報に簡単にアクセスすることが出来るというのは、『インターネットに公開された知の共有』を前提としているからです。

現在では異論もありますが、インターネット(WWW)では、原則的にあらゆるウェブサイトのページに特段の許可を得ることなくリンクを張ることが出来るという『リンクフリー』の前提があります。これも、WWWに公開された情報や知識は積極的に共有していこう、必要な情報は誰もが簡単に参照できるようにリンクを張ろうというインターネットの基本理念に基づいたものです。

(この思想にも異論があると書いたように、このリンクフリーや知の共有といったインターネットの基本理念に反対する自由ももちろんあります。また、無数の人々がインターネットで情報発信を始めた現在では、インターネットの黎明期にあった『知の共有』の前提が成り立たない極めてプライベートな情報も数多く公開されている現状があります。ですから、『リンク禁止・リンクした場合は必ず報告して下さい』という注意書きを掲げたプライベートな性格の強いウェブサイトに、特別な必要性がないにも関わらずリンクを張る行為は慎むべきだというネチケット論にも一理あります。特に、相手の人格や気持ちを傷つけようという悪意あるリンク、相手の無知や誤解を嘲笑しようとする晒しあげの意図をもつリンク、論理的な正誤や事実関係の真偽が成り立たない私見を罵倒するリンクなどは原則として張るべきではないかもしれません。)

さきほど、ウェブサイトのユニバーサル・デザインとは、誰もが簡単に使いやすいデザインであるべきだという話をしましたが、これは『有用な知の共有』『伝えたい情報の的確な発信』『得たい情報の簡単な受信』に役立ち、インターネットの基本理念にも沿うものです。このウェブサイトの利用可能性、使いやすさ、使い勝手の良さのことを『ユーザビリティ(Usability)』といいます。

ユーザビリティと似た概念に、そのウェブサイトへのアクセスのしやすさ、インターネット上の情報にアクセスする場合の障害の少なさという意味を持つ『アクセシビリティ(Accessibility)』というものがあります。また、ユーザビリティとは、『使いやすさ』という意味が中心になっていますが、『機能の高さ・豊富さ(ユーティリティ)』『内容の素晴らしさ(コンテンツの有用性)』と相補的な関係にあります。

せっかく時間と労力をかけて制作した文章・記事・作品・CG・音楽といった情報を、グローバルな規模で閲覧可能なインターネットに公開するのですから、誰もが素早くアクセスできて、簡単に情報を利用できる使い勝手の良い『ユーザビリティとアクセシビリティの高いウェブサイト』をつくったほうが良いというのは自明なことです。それは、閲覧者の利便性や満足度を高めるだけではなく、『使いにくさや分かりにくさ』を減少させるユーザビリティによって自分の伝えたい情報を相手に正確に伝えることが出来るというサイト制作者にとってのメリットにもつながってくるものです。

どんなに素晴らしい情報や面白いコンテンツがあっても、文章が配色やデザインによって読みにくくなってしまうと、せっかく興味をもって来てくれた閲覧者を他のサイトへと逃すことになりかねません。サイトの構成によって欲しい情報がどこにあるのか分かりにくかったり、サイト制作者のデザインの押し付けによって使いにくいウェブページになっていたりすると、本来ならリピーターとなっていたに違いない閲覧者からの支持を失うこともあります。

でも、ユーザビリティの高い誰もが使いやすいウェブサイトとはどんなものなのでしょうか?このことを考える際にも、性別・年齢・身体能力・障害の有無を問わないデザインで情報格差を縮小するものというユニバーサル・デザインの基本的な考え方が役に立ちます。このことから、ユーザビリティやアクセシビリティを高めたウェブサイトがインターネット上に増えることは、結果としてデジタル・デバイドを減少させるということが分かります。

人間の能力・特性・障害というものは、非常に幅広い多様性を持ちますから、どんなにユーザビリティやアクセシビリティに配慮しても、完全なユーザビリティや万全なアクセシビリティを実現することはできません。それでも、出来るだけ多くの人に、自分の公開した情報に手軽にアクセスしてもらうためのアクセシビリティ向上の努力をすることは無駄ではありません。自分のウェブサイトを訪れてくれた閲覧者が目的の情報を簡単に使えるようなユーザビリティを高める工夫を、出来るところから始めてみると良いと思います。

以下に、アクセシビリティとユーザビリティの観点から見た、望ましいウェブ・デザインについて簡単に書いてみます。(ユーザビリティよりも自分独自の個性的なデザインやスタイルを優先して、それを認めてくれる閲覧者だけに向けてウェブサイトを構築したいという考え方をしても悪いわけではありませんので、そういった方も参考程度に目を通してみてください。私自身、守れていない項目が多くあることと思います。)

誰もが使いやすいウェブサイトの制作

1.文字の大きさを読みやすい大きさにするよう配慮する。
一般に12px以下のフォント・サイズに固定すると視力の弱い人や高齢者には読みづらくなると言われるので、出来るだけそれ以上のサイズを指定しよう。出来るならば、ブラウザで文字の大きさを自由に変更できる“%,em”といった単位で、フォント・サイズを指定することが望ましい。

2.文字と背景の配色に配慮しよう。
薄い背景の色には、濃い文字の色をデザインし、濃い背景の色には、薄く明るい文字の色をデザインするというように、コントラストの強さを考えた見やすい配色を心掛けよう。色覚障害に配慮して、赤と緑の極端な配色は避けよう。
また、同系色の『微妙な濃さの違い』を利用した文字と背景の配色の場合、綺麗な液晶ディスプレイではお洒落な洗練されたデザインを演出することができるが、発色の悪くなった液晶ディスプレイでは文字を読み取れないこともある。閲覧環境の多様性に配慮して、コントラストを誰もが読める程度に効かせた配色にしよう。

3.閲覧者の自由な選択をできるだけ妨げないデザインにしよう。
文字の大きさをpxで固定するのを避けたほうが良いというのも、閲覧者が自分の見やすい文字の大きさをブラウザで選べる自由を保障するためである。
他にも、『そのウェブページを開いた途端に音楽を鳴らす・リンクをクリックしたらtarget=_blankが指定されていて必ず別窓が開く・スクロールバーが使用できなくなっている・トップページからじゃないと入場できなくなっている・『戻るボタン』を押しても戻れなくなっている・リンク先がステータスバーに表示されず行き先が確認できなくなっている・そのページを閉じることができない』などの閲覧者の自由を妨げる設定がある。
そういった設定はできるだけしないようにして、『音楽はボタンを押してから聴ける設定にする・リンクは、原則として同じページ内で移動する設定にする・スクロールバーは消さないようにする・どのコンテンツにも直接アクセスできるようにする・『戻るボタン』を押す選択を邪魔しないようにする・ステータスバーに表示されるべきリンク先のURLを隠さないようにする・ページを閉じる選択を妨げない』などのユーザビリティへの配慮をしよう。

4.サイト構成をシンプルに分かりやすいものにしよう。
自分のいる現在地が分からなくなってしまうような複雑な階層性を持つサイト構成はできるだけ避けたほうが良い。
どうしても、サイトの規模が大きくなって、複雑な深い階層にファイルを置かなければならない時には、トップページへのリンクを全てのページに設けたり、縦の階層を直感的に指し示す『パンくずリスト(トップ>>世界の国々>>東アジア>>日本>>北海道のようなリスト)』をつくったり、トップページに全てのページを紹介した『サイトマップ』を設置したりすると良いだろう。

5.出来るだけ正確なHTMLのマークアップを心がけ、見栄えはスタイル・シートに任せよう。
以前は、HTMLのフォント・タグなどを使ってその場その場で文字や背景を装飾することが多かったが、HTMLは基本的に文章の論理構造や意味を指定するマークアップ言語である。だから、出来るだけシンプルで分かりやすいHTMLで文章をマークアップし、色や大きさ、背景、配置、余白などのデザインはCSSなどのスタイルシートによって指定するようにすると良い。
もちろん、飽くまでW3Cが勧告する原則論に過ぎないので、デザインの自由度を優先したい人やCSSをうまく使いこなせない人の場合には、絶対にこれを守らなければいけないというような強制力を伴うものでもない。
但し、正確なHTMLによるウェブページの記述をすると、音声ブラウザを使っている人のアクセシビリティやユーザビリティの向上につながったり、高いSEOの効果を期待できるというような利点がある。
また、外部CSSにデザインを一任することで、その場その場でデザインを考えずに済み、ウェブサイトの更新にかかる時間や労力を大幅に節約することができる。

6.ユーザビリティを下げるような過度な装飾は控えよう。
文字をチカチカと点滅させたり、左右に素早く動かしたり、マウスのポインタを追跡するような設定をしたり、一つのページ内で意味の区別がないのに頻繁に文字色を変えたりすると、文章を読み取りにくくなってユーザビリティが低下する。特段の事情がない限り、コンテンツを利用しにくくなるような過度の装飾は控えるようにしよう。

7.リンクはリンクであることが明確に分かるようにしよう。
リンクは、その文字列や画像をクリックすれば『異なるURLに飛ぶことができること』を意味するものだから、リンクはリンクであることが明確に分かるようになっていなければならない。出来るだけリンク部分の下線は消さないようにして、文字の色も、リンク以外の文章とは異なる色を指定して、一目でリンクであることが分かるようにしよう。

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