イカの塩辛(烏賊の塩辛)・いかめし

日本における塩辛の歴史は古く、『塩辛』という文字が出現する最古の文献は平安時代末期の『今昔物語』だとされている。平安朝の時代からあったとされる『塩辛』が現代の塩辛と同じものを指しているかは不明であるが、塩辛の起源は奈良時代からその存在が確認されている『醢(ししびしお)』『肉醤・魚醤』だと考えられている。

『醢(ししびしお)』というのは、干し肉を刻んで塩や麹に漬け込んだ『塩漬け肉』のことであるが、古代中国の王朝では処刑した罪人の死体を塩漬けにして晒し者にする刑罰のことを醢と呼んだりもした。『論語』には孔子の弟子の子路(しろ)が、その直情径行の性格が災いして君主から処刑されて醢にされてしまったエピソードが残されている。『肉醤(にくしょう)』とは獣肉を醸成させて作った醤油のような調味料のことであり、『魚醤(ぎょしょう)』は魚や他の魚介類を主な原材料にして作られた調味料のことだが、しょっぱく独特の風味がある肉醤・魚醤は『日本人の塩辛の味の好み』の原点でもある。

イカの塩辛(烏賊の塩辛)をはじめとする『塩辛(しおから)』というのは、魚介類の身や内臓などを塩漬けにした上で、『酵素(内臓の自己消化酵素・微生物の酵素)』によって発酵・熟成した非常に塩辛い味がする食品である。元々は、魚肉・イカなどを塩漬けにして腐らないようにするための保存食品であった。塩辛を作る時には、発酵を促進させて独特の風味を加えるために『麹(こうじ)』を入れて熟成させることも多い。

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現在の塩辛と同じような塩辛やその名称が、一般的なものとして定着してきたのは、江戸中期くらいだと推定されている。伝統的な塩辛の製法では、魚介類の身や内臓に対して飽和量の食塩(約10~20%)を使用するが、冷蔵保存技術が向上した現在の塩辛は食塩の濃度は必ずしも飽和量でなくても構わなくなっている。塩分濃度が11%以上になると、食中毒の原因菌である腸炎ビブリオ菌が繁殖できなくなる保存食の安全性を保つ効果がある。

イカの塩辛には、塩辛にイカスミを加えた『黒造り』、皮がついたままの身を入れた『赤造り』、皮を取った身だけを入れた『白造り(一般的な塩辛)』などの種類がある。

イカの塩辛の旨味は『ワタ(内臓)』に由来しているので、ワタを入れていないイカの塩辛は旨味とコクが足りずに味気ない味付けになってしまう。肝臓に含まれる自己消化酵素が適度に働くことが、塩辛の旨味の決め手になってくるが、自己消化酵素によってイカの身のタンパク質が分解されて、グルタミン酸(アミノ酸の一種)やペプチドといった旨味の成分へと変質するのである。

イカの塩辛(烏賊の塩辛)は、細かく刻んだイカの身とワタ(内臓)を塩に漬け込んで発酵させて作るのだが、神奈川県小田原市の名物であるイカの塩辛は『米麹』を加えて甘味をつけたところに特徴がある。

小田原名物としての『イカの塩辛』は、戦国時代の北条氏の代に作られたと伝えられている。美濃国(岐阜県)から小田原に移ってきた漬物屋の美濃屋吉兵衛(みのやきちべえ)が、好きな酒を飲み過ぎて商売が傾いた時に、偶然取れすぎたイカを使って塩と麹に漬け込んだのだという。美濃屋吉兵衛の作った米麹を加えたイカの塩辛は大人気となり、その後に小田原の名物として認識されるようになった。

日本ではイカの塩辛は、ポピュラーなご飯のおかずやお酒のおつまみであるが、ご飯と一緒に食べる時には『お茶漬け』の形態を取ることも多い。大量生産されるイカの塩辛商品としては、桃屋の瓶詰めの『イカの塩辛(樽仕込み)』などが有名である。塩辛は、イカ以外にも『タコ・エビ・アミ・カツオ(酒盗)・このわた(ナマコ)・ホヤ』などで作られている。朝鮮半島でもチョッカルと呼ばれる塩辛が食べられており、チャンジャ(タラの胃袋の塩辛)やケジャン(カニの塩辛)などは日本でも知名度が上がっているが、日本のようなイカの塩辛は一般的な食品としては殆ど食べられていない。

イカを使った料理では、北海道の郷土料理でもある『いかめし(イカ飯)』がよく知られており、日本では各地で開催される『北海道物産展』でいかめしが売られている。いかめしは『イカのめし詰め』と呼ばれることもある。近代日本における『イカめし弁当』の起源は、1941年(昭和16年)に駅弁の立売販売業をしていた阿部恵三男(あべえみお)が、大量に上がったイカを用いた少量の米でも満腹感を得られる駅弁を開発したのが始まりである。

いかめしのつくり方は簡単であり、腹を割いたイカの中に米を詰め込んで楊枝で止め、『醤油・砂糖・酒』で味付けして弱火でゆっくりと炊き上げていくだけである。腹持ちを良くするために、米に適度にもち米を加えることも多い。北海道の有名ないか飯弁当に『森のイカめし弁当』がある。

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