トムラウシ山(とむらうしやま,2141m)

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トムラウシ山の標高・特徴・歴史

トムラウシ山の標高は、『2141m』である。登山難易度は、上級者向けの山である。前夜泊の1泊2日の縦走登山となる。非常に登山行程の距離が長くて体力のいる山である。山小屋(ヒサゴ沼避難小屋・忠別岳避難小屋)の数も少なく、いざという場合にはテント泊にも対応できるような上級者向けの山である。

トムラウシ山の登山口のアクセスは、JR北海道の『新得駅(しんとくえき)』『旭川駅(あさひかわえき)』が起点となる。トムラウシ山へは、『新得駅からトムラウシ温泉までの北海道拓殖バス(約1時間35分)』である。『旭川駅から天人峡温泉までの旭川電気軌道バス(約1時間45分)』である。いずれも運行期間限定で便数も少ない(廃線の恐れもある)、事前の問い合わせをしっかりしておく必要がある。

トムラウシ山は大雪山系(表大雪の西)のほぼ中央に位置する重厚感のある山で、巨岩を幾重にも重ね合わせたようなどっしりした山容とゆったりした山頂に特徴がある。北海道の高山の中でも特に奥深い場所にある『秘境の山』というべき山であり、トムラウシ山(2141m)・化雲岳(かうんだけ,1954m)に登頂するにはほぼ丸一日歩き続けなければならない厳しい道のりである。

片道7~10時間程度はかかるというコースタイムで、その登山行程の長さと気象条件の厳しさ(夏季でも気候急変で気温が大幅に下がることもある)から、トムラウシ山では過去に複数の大規模な遭難事故も起こっている。特に2009年7月のツアー登山で起こった『トムラウシ山遭難事故』は、悪天候・強行軍の中でツアーガイドを含む登山者8名が低体温症で死亡するという悲惨な事態に見舞われた。

トムラウシ山は安全な下界にアプローチするまでの距離が非常に長いため、『天候悪化・体調不良』がある時には絶対に無理をせず、日程を一日ずらしても避難小屋で安全策を取るべきだろう。事前に十分な天気予報の確認をしてから体調を整えること、無理のないスケジュールを立てて軽量テントの携行をすることなどにも注意しておくことが必要である。

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トムラウシというのはアイヌ語で『水垢が多い場所・花が多い場所』という意味であり、ヒサゴ沼の景観や様々な種類の高山植物などを楽しむことができる。登山口までの歩行のアプローチが大変な山であるが、人の手が入っていない自然の原風景が多く残されている貴重な山で、トムラウシ山の山頂からのパノラマビューは日本国内で屈指の絶景、遮るもののない見晴らしの良さとなっている。

トムラウシ山は人里離れた奥深い内陸部に位置していて、長時間かけて歩かなければ到達できないことから、『大雪の奥座敷・奥大雪の主峰』と呼ばれている。カタカナで表記される日本百名山はこのトムラウシ山だけである。トムラウシ山は完全に活動を停止した成層火山であり、頂上部分には『溶岩ドーム』が形成されている。トムラウシ山のある山系には巨岩が多く転がっており、化雲岳山頂には『大雪山のへそ』と渾名される巨岩が立っている。

トムラウシ山の自然景観の雄大さと優美さは、百名山の中でも群を抜いて素晴らしいものとされるが、池塘(ちとう)やお花畑の数が多く、チシマキンバイソウやホソバウルップソウ、エゾノハクサンイチゲなど内地の山では見慣れない高山植物を鑑賞することもできる。トムラウシ山系一帯が『天上の公園・神々の公園』と呼ばれるのにも納得させられるだろう。

トムラウシ山周辺には『トムラウシ公園・日本庭園・黄金ヶ原(銀杏ヶ原)』と呼ばれる素晴らしい自然景観のスポットがあるが、化雲岳近くの化雲平(かうんだいら)は特に『神遊びの庭(神々が遊ぶ庭)』と呼び習わされているパラダイス的な絶景スポットである。動物では北海道固有種で生きた化石といわれるナキウサギも多く棲息している。

トムラウシ山頂からは、大雪山系全体を見渡せるだけでなく、十勝連峰や日高山脈までも視野に入ってくるので、天気が良ければ北海道の山の世界を一望できる素晴らしい景観(厳しい道のりの見返りでもある)に魅了されるだろう。登山口にある天人峡温泉周辺の地域では、『羽衣の滝・敷島の滝(東洋のナイアガラ)』をはじめとする名瀑(優れた景観の滝)が多くある。

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深田久弥のトムラウシ山への言及

深田久弥は著書『日本百名山』で、トムラウシ山を周辺の北海道の山から何度も眺めた経験を語り、『あれに登らねばならない』という決心を固めている。十勝岳からトムラウシ山を眺めた時には、『ひときわ高く、荒々しい岩峰を牛の角のようにもたげたダイナミックな山』と表現し、大雪山・旭岳から眺めた時には、『威厳があって、超俗のおもむきがある』と賞賛しているのである。

旭岳登頂の翌年に、深田久弥はかねて念願だったトムラウシ山頂に立つことができた。旭岳に次ぐ北海道第二の高峰がトムラウシ山であり、当時の地理の本では平ヶ岳、忠別岳、化雲岳、トムラウシにわたる一連の山を『戸村牛火山群(とむらうしかざんぐん)』と呼んでいたのだという。しかし、深田はアイヌ語に由来する山名に、日本の漢字で当て字をして読ませることを批判しており、アイヌ語の元々の名前や意味のほうが趣きがあって素晴らしいとしている。

トムラウシという山名は、十勝川上流のトムラウシ川から来たものなのだという。村上啓司氏の知識を借りる深田はトムラウシの正式名称は『トンラウシ』だとして、『トンラ=水垢,ウシ=多い所』と解している。トムラウシ川とは『水垢の多い川』の意味であり、温泉鉱物が混じった川の水がぬらぬら、ぬめぬめとしている事からアイヌ人がこの名前をつけたのだとする。深田は北海道大学山岳部の援助を受けながら、このトムラウシ川の方面からトムラウシ登山を開始し、ユートムラウシ川に湧く野天温泉にテントを張ったのだという。

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野天温泉から山越えして十勝川支流のカムイサンケ川にでた。カムイとはアイヌ語で『神』を意味するが、深田は『魔神』と翻訳している。サンケとは『流れ下るもの』である。カムイワッカとはアイヌ語で『飲用に適さない水・毒を含んだ水』のことであり、北海道の山の水の多くは動物の糞などで汚染されているのでそのままでは飲めないことが多い。煮沸してから飲まないと、エキノコックス(寄生虫)の危険な感染症になったり体調を崩したりしやすいのである。

険しく長い道のりを超えてトムラウシ山の頂上に到達した深田久弥は、その山頂を『大きな岩の積み重なり』と表現しており、霧で素晴らしい展望こそ得られなかったものの、大岩に腰を下ろして念願の山の頂に立った喜びは無限であるとした。下山は反対の化雲岳方面の道を取り、長い距離を歩いてヒサゴ沼(深田はヒサゴ池と表記)に着き、第二夜はその沼のほとりにテントを張って眠ったのである。

深田が登った昭和初期の時代から、トムラウシ山登山の休憩スポット(テント泊しやすい場所)はヒサゴ沼周辺だったことが分かる。今は有志の寄付によってヒサゴ沼避難小屋が建っているが、『山小屋・休憩スポットが少ない』と愚痴られるトムラウシ山だが、昭和中期まではこの避難小屋さえ存在しておらず、みんな自前でテントを携帯していってテント泊(気温が低いので好天でも野宿は危険である)しなければ眠れなかったのである。

色とりどりの高山植物が咲き誇るお花畑の素晴らしさ、山系の景色のおおらかさは、内地の山にはないものだと語っている。化雲岳の狭い頂上へとよじ登って天人峡へと下山していった深田だが、その途上で『熊を見かけた』というオヤジに遭遇して、急いで熊を見たという忠別川の谷を覗き込んでみたが(深田久弥は実際の熊・ヒグマを怖がるのではなく自分の目で見てみたかったようだ)、熊の姿を確認することはできなかったようである。

参考文献

深田久弥『日本百名山』(新潮社),『日本百名山 山あるきガイド 上・下』(JTBパブリッシング),『日本百名山地図帳』(山と渓谷社)

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