高度成長期の日本型経営における『三種の神器』

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日本型経営の三種の神器(終身雇用・年功賃金・労働組合)とそのメリット・デメリット

日本型経営の三種の神器(終身雇用・年功賃金・労働組合)とそのメリット・デメリット

1960~1970年代の高度経済成長期にあった日本企業は、他の欧米先進国の企業群には見られない独自の経営方針や雇用慣習を持ちながらも、世界最高水準の経済成長率をマークしていた。1961年に設立された国際機関のOECD(経済協力開発機構)は、現在では先進国に分類される比較的経済力・教育文化水準が高い国々が加盟している国際機関であるが、このOECD設立の主要な目的とされているのは以下の3つである。

1.国際的・国家的な経済成長

2.多角的な自由貿易圏の拡大

3.開発途上国の援助と責任履行

OECD(経済協力開発機構)は開発途上国・貧困国の経済支援(技術支援)を中核に置きながら、世界的な経済問題・社会問題の解決を目指す国際機関であり、世界各国の経済・雇用の状況を統計調査や経済学的な研究成果をベースにして詳細に把握している。1970年代のOECDが特に注目したのが『日本の高度経済成長』であり、1972年にOECDの労働力社会問題委員会が日本の高度経済成長の原動力となっている雇用慣行・労務管理について言及したのである。

OECDの労働力社会問題委員会が、日本の高度経済成長を牽引する原動力として指摘した雇用慣行・労務管理が、日本型経営の『三種の神器』と呼ばれた『終身雇用制・年功序列賃金・労働組合(企業別労働組合)』であった。これらの日本型経営の三種の神器は、『資本主義(資本家・株主の利益優先)』『個人主義(個人の能力・キャリアによる待遇格差の容認)』が既に根付いていた当時の欧米の企業や経済社会には受け入れがたいものに見えたため、驚嘆の眼差しで迎えられることになった。

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高度経済成長において日本型経営の三種の神器とされた『終身雇用制・年功序列賃金・労働組合(企業別労働組合)』は、日本経済を世界で唯一『成功した社会主義』に導いた日本独自の画一的で共同体的な労務管理だとも言われる。これらの三種の神器が欧米の企業社会で受け入れられなかった最大の理由は、企業が必要とする労働力(知識・技能・ノウハウ・経験・資格など)のニーズに合致しなくなった従業員を『終身保障に近い高コストな正社員』として雇用し続ける合理的理由がなかったからである。

しかし、当時の日本企業では『共同体的な仲間意識・相互扶助の価値共有』によって、いったん正社員の仲間として承認した従業員を最後まで首にしない雇用慣行が、逆説的に『企業に対する高度な忠誠心(滅私奉公の献身)』を支えた側面があった。日本経済にとって幸運だったのは、1960~1980年代までの日本が工業製品を生産すればするほど売れるという『輸出型国家(加工貿易・世界の工場)の最盛期』を迎えていたことであり、国内産業の需要も戦後生まれの人口の多い世代が労働者(核家族の支え手)になる『人口ボーナス』によって増え続けていた。

そのため、『大量の熟練労働者』を終身雇用し続けるだけの第二次産業の大企業の経営基盤・内部留保が磐石であるだけでなく、一つの企業に就職してやめずに勤続年数を増やし続ければ自動的に給料も増えていく(職位も上がっていく)『年功賃金(年功序列)』も維持することができたのである。

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だが、日本企業とその日本型雇用の三種の神器が『雇用慣行・労務管理の成功例』と見なされた時代は長くは続かなかった。新卒一括採用で就職した企業・役所をやめずに長く勤務を続けていれば、半ば自動的に所得も地位(職位)も上がっていき、更に労働者が団結して自分たちの権利・収入・労働条件を守っていく『企業別の労働組合』というものもあった。

これらの『三種の神器(=終身雇用制・年功序列賃金・労働組合)』によって、世界で唯一成功した社会主義国家とも言われた日本だったが、1970年代後半の原油価格上昇の『オイルショック』、日本円が急速に高くなって輸出が振るわなくなった1985年の米国との『プラザ合意(米国からのドル高是正要求)』などによって、次第に三種の神器を維持した日本型経営に陰りが見えるようになる。

1991年の『バブル崩壊』が日本経済低迷の決定打となり、それ以降『失われた20年』とも呼ばれる『超長期の景気減速・雇用と所得の減少・デフレ不況』に陥ることになる。その結果、日本人労働者の所得・待遇の一定の平等性を支えていた『三種の神器』を維持しない(維持できない)業界・企業も増えて、次々とかつての正規雇用が賃金コストが安くて長期雇用の保障もない『非正規雇用(派遣・アルバイト)』に置き換えられていった。

三種の神器に支えられた日本型経営(企業勤務の日本人労働者の生活水準の一定の平等性)を維持しづらくなった要因にはさまざまなものがあるが、端的な要因としては『国際競争の激化(新興国の技術・労賃でのキャッチアップ,同一商品の大量生産の優位性の消滅)』『長期的な人口動態の急速な悪化(労働人口と国内需要の減少・超高齢化社会による社会保障コスト増大)』を考えることができる。

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一つの企業に就職してやめなければ『中流階層の生活水準とそのための所得』が概ね保障されるというかつての日本型経営と三種の神器が崩壊プロセスに入ったことによって、結果として『日本社会の格差拡大+一般労働者の労働意欲減退(非正規雇用の増加)+高齢者や失業者など貧困層の増大+労働組合の組織率低下(労働者の権利保護の困難)+経済的事由による未婚化・晩婚化・少子化』などの大きな社会的・経済的問題が深刻化の一途を辿っている。

しかし、リストラ(解雇による経営の再構築)や非正規化、成果主義、正規雇用の長時間労働などによって事業活動の生産性・利益率を何とか高め、厳しい国際競争で生き残りを図っている日本企業の多くは、かつての共同体主義的・仲間意識的な『三種の神器』を取り戻したくても取り戻せない状況にあるように見える。日本型経営の三種の神器と呼ばれた『終身雇用制・年功序列賃金・労働組合』のメリットとデメリットを考えてみると以下のような感じになる。

終身雇用制のメリット

新卒一括採用とセットにすることで、終身雇用は初期の人材採用コストや教育研修コストを大きく減らすことができる。

企業が従業員を途中で解雇せずに守りぬくという『共同体主義』によって、企業と従業員の共同体的な一体感が高まって、『忠誠心・安心感・創造性』などを発揮しやすい。

長期的視点に立った人材の研修教育やキャリア形成のバックアップがしやすい。

終身雇用制のデメリット

急激な景気変動による経営状況(業績)の悪化などに即応した人材採用の調整をしづらい。

非正規化・リストラなどによって企業と社員との間の共同体的な信用が崩れてしまい、社員の忠誠心や創造性が落ちやすい。

一つの企業に終身雇用されると、労働市場の人材の流動性が極端に低くなり、転職したい人が転職しづらくなってしまう。

年功序列賃金制のメリット

個人差(出世の差)はあるがほぼすべての社員の勤続年数に応じた昇給が保障されているので、社員が安心感・帰属感に基づくモチベーションを高めやすい。

『終身雇用・新卒一括採用(同期意識)・年功序列賃金制』を組み合わせることで、組織的かつ慣習的な出世競争の組織化・動機づけを行うことができた。

年功序列賃金制のデメリット

年齢・勤続年数によって給与が決まってくる賃金制度なので、中途採用で『即戦力の優秀・有能な人材』を採用する機会と頻度が著しく少なくなる。

『個人間の能力・才能・実績の差』を給与面にダイレクトに反映させにくい仕組みなので、人によってはこの制度を『努力・実績が報われにくい悪平等』のように感じて労働意欲や成果達成のモチベーションが低下してしまうことになる。

企業別労働組合のメリット

労使交渉でお互いの要求・条件を調整していくプロセスを設けることで、『決定的な労使対立』を回避して、『集団組織の問題点・ビジョン』を共有することが可能

労働組合が機能して労働者の権利と生活を守っている状況があれば、企業の業務を妨害したり企業の業績(成果)を減少させるような『ストライキ・サボタージュ』を事前に回避しやすくなる。

企業別労働組合のデメリット

労働者の権利が守られない『労使交渉の出来レース』もあり得る。あるいは労働者の権利が過去よりも守られすぎて、『今までのその企業の業績・成長率を維持するような従業員のハードな働き方』が出来なくなってしまうこともある。

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