インフレとデフレとは何か?

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インフレとデフレを簡単に説明すると、『市場の需要と供給のバランスが崩れて、物価(貨幣価値)が上昇(下落)する現象』のことを言います。まず、市場経済ではどのような仕組みで「商品・サービスの値段」が決まっていくのかというところから見ていきましょう。

市場での物価決定のメカニズム

自由市場では、物価(モノの値段)は、その商品(サービス)を欲しいという『需要(demand)』とその商品(サービス)をどのくらいの分量で提供するかという『供給(supply)』のバランスによって決まってきます。

2006年3月の時点では、任天堂の携帯ゲーム機のNintendo DS Liteという商品が、消費者から絶大な支持を受けて非常に大きな『需要』を受けています。Amazonでチェックしてみると、Nintendo DS Liteの希望小売価格は16,800円ですが、今現在、物凄い勢いでこの商品は売れていて、任天堂側の供給体制が追いつかないくらいです。自由市場では、16,800円の値段で納得して買う消費者が多数ですから、今のところ、この価格で(多少、需要のほうが大きいですが)需要と供給のバランスが取れているといえます。

もちろん、メーカー側は、開発費や原材料費、人件費、広告費に上乗せして費用がペイされることを見込んで、商品を市場に出していきます。商品販売までにかかった費用と市場規模を予測しながら価格決定しますので、ゲームやIT機器のようなハイテク製品は単純に需要に合わせて価格決定しているわけではありませんが、基本的には、消費者が高すぎず安すぎずと感じるラインを狙って価格を決めてきます。

また、ハイテク製品や工業製品の価格よりも、農産物やサービスの価格のほうが、市場の需要の影響をダイレクトに受けます。美味しいイチゴは、出荷の初めの頃は、需要に対して供給が少ないので、高い値段が付けられますが、安定してイチゴが供給される最盛期になると、需要と供給のバランスがとれてきて少し値段が安くなります。

キャベツやジャガイモなどの大量の収穫が見込める農産物の場合には、ある程度供給量を計算して市場に出さないと、供給過剰のデフレ状態になり殆どタダ同然の安い値段がつけられたり、あまりに供給が多すぎて腐らせてしまったりします。時々、農家の人達が、自分が一生懸命に育てたキャベツなどの野菜をトラクターで廃棄している光景がテレビで放送されたりしますが、これは供給過多による農産物の価格下落を事前に防止する為の対策です。

廃棄して供給量を減らしたほうが、廃棄しないで販売するよりも大きな利益を得られるから廃棄するわけですが、食物や製品を無駄にする可能性があるという意味で資本主義経済が抱える一つの矛盾と言えるかもしれません。日本やアメリカなどの先進資本主義国では、基本的に食物は供給過剰で「食べられないままに廃棄される食品(生ゴミ)の量」が膨大なものになっています。

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モノ(商品・サービス)と貨幣の需給関係

需要と供給のバランスで価格が決定する資本主義経済では、生産者や販売者が希望する安定した物価を維持する為には、『消費者が欲しいと思うモノ・サービスを、消費者が望む時にタイミングよく、適切な分量で供給しなければならない』という事になります。

モノやサービスを欲しいという消費者の「需要」が、モノやサービスの「供給」を大幅に上回ると、「モノ不足」の状態となって物価は高くなります。この「物価上昇・貨幣価値の低下」の経済状況を「インフレ(インフレーション)」といいます。

反対に、モノやサービスの「供給」が、モノやサービスを欲しいという消費者の「需要」を大幅に上回ると、「モノ余り」の状態となって物価は安くなります。この「物価下落・貨幣価値の上昇」の経済状況を「デフレ(デフレーション)」といいます。バブル崩壊以降の日本の経済情勢は基本的にデフレ傾向にあり、一時期、100円ショップが日本各地で賑わったように商品・サービスの値段は低い水準にあります。

金利上昇が所得の増大に結びつかない消費者層にとっては、デフレは歓迎すべき経済状況ともいえるのですが、一般的にデフレが長期化すると企業利益が伸び悩み、社員の給与の昇給も滞りがちになります。その為、マクロな経済政策の観点からは、デフレを脱却する為の有効な金融政策や財政政策を講じるべきだという意見も強くあります。

最近、話題になっている「量的緩和政策の解除」「ゼロ金利政策の解除」というのは、デフレ脱却の為の「インフレ目標(インフレ・ターゲット)の金融政策」のことです。インフレ目標の金融政策を実行しようとする日銀は、現在の日本の物価や金利が安すぎるから経済成長や企業活動を阻害していると認識している事になります。

コスト・プッシュ型インフレとディマンド・プル型インフレ

物価が高くなり、貨幣価値が下落するインフレの現象には、大きく分けて『コスト・プッシュ型インフレ』『ディマンド・プル型インフレ』とがあります。

『コスト・プッシュ型インフレ』とは、「生産コストの増大」「商品・製品の値段の上昇」を招くタイプのインフレです。コスト・プッシュ型のインフレは、誰もが直感的に分かりやすいインフレで、商品を市場に出すまでにかかる原材料費や従業員の給与(賃金)が高くなれば、商品の値段を高く設定しなければならないことによって起こってくるインフレです。生産コストの上昇した部分が、商品の値段の値上げ部分に転化されるという事ですね。

『ディマンド・プル型インフレ』というのは、好景気によって消費者の可処分所得が上昇し、商品・サービスに対する購買意欲が加熱し過ぎた時に起こってくるタイプのインフレで、増大し続ける需要に対して、企業の供給体制が追いついていない状況を意味します。単純に、生産する商品やサービスが不足し過ぎている「モノ不足の深刻化」によっても、ディマンド・プル型インフレは起こりえますが、基本的には好景気による需要の加熱が継続することによって引き起こされるインフレのことを指します。

好景気の加熱が影響するインフレとしては、『投機過剰のバブル経済によるインフレ』も懸念すべきものです。証券市場における金融取引や有価証券の売買が過熱しすぎると、実際の企業価値や土地の評価と切り離された形で、有価証券の時価だけが異常な高値に吊り上げられることがあります。投資家の将来への期待や欲望が、有価証券の時価を異常な高値に引き上げている経済状況を「バブル経済」といい、日本はこのバブル経済のマネー・ゲームの崩壊(1991年)株と土地が急落する資産デフレによって10年以上の長期不況に陥りました。

コラム:日本の価格破壊の要因としての「流通事業のIT化」と「規制緩和」

日本は、従来、物価が非常に高い国として有名でしたが、その原因は、日本特有の複雑な市場流通システムにありました。市場に出される商品・製品の多くが、消費者にわたるまでに、輸送業者・中間卸売業者・小売業者・販売者など複数の流通業者の仕事を介在していました。それらの中間流通業者の仕事にかかるコストが商品の価格に上乗せされていた為に、商品の価格は比較的高い水準で落ち着いていました。

しかし、1990年代後半くらいから、小売業者・個人販売者・運送業者のIT導入による業務効率化が急速に進み、中間流通業者の手を出来るだけ掛けずに、最短経路で消費者に商品を提供しようとする企業(個人業者)が多く出てきました。「流通事業のIT化」によって、流通販売のシステム的なコストが大幅に削減した結果、大手量販店(ディスカウントショップ)のような価格破壊を行う安売りの業者が躍進を果たしました。

また、それまで護送船団方式の保護経済で、各分野の産業を保護して競争を抑制していた政府が、規制緩和を行った事も「価格破壊」に影響しました。国際競争に打ち勝つ為の経済制度改革として「規制緩和」を積極的に行ったことで、各業界で競争原理が厳しく働くようになり、良質な製品を安い価格で販売できる努力をしない小売業者は生き残りが難しくなったといえます。ただ、現在の日本でも、電気・ガス・水道などの極めて公共性が高いと思われる分野については厳しい規制と参入障壁があります。ある程度、高い価格が設定されて競争がなくても、安全性と信頼性が高いほうが良いと有権者が判断する分野については、「規制緩和を行わない」とする政治判断が下されることになります。

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