賦課方式と積立方式の年金制度の違い

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賦課方式で運営される日本の公的年金

『少子高齢化社会・成熟経済』における賦課方式の年金制度の持続性

賦課方式で運営される日本の公的年金

公的年金制度には『国民年金・厚生年金・共済年金』の種類があり、それ以外にも民間金融機関(保険会社)が取り扱う個人年金や民間企業が提供する企業年金などがあります。年金の本質は『老後の経済生活の保障』であり、老後に給付される生活資金として想定されている年金のことを『老齢年金』といいます。老齢年金は働ける現役時代に『保険料の納付』をして、高齢・病気・認知能力の低下などで働きづらくなる老後(現行の公的年金では概ね65歳以上)に『年金の給付』を行うという仕組みになっています。

若い現役世代のうちに保険料をコツコツと納めて、それを老後になってから年金(給付)として受け取るというと、『年金は貯蓄と同じようなものではないかという誤解』を生じる事があります。しかし、公的年金制度は現役世代が引退した老年世代(年金受給者)のために保険料を納付する『賦課方式(ふかほうしき)』で運営されているので、厳密には『貯蓄・積立』とは全く性質の異なるものです。私たちが毎月納付している年金保険料は『自分のための貯蓄・積立』ではなく、『現在の年金受給者(仕事を引退した60~65歳以上の高齢者)のための原資+将来年金を受給される資格を得るための履歴』なのです。

年金は貯蓄・積立と同じようなものだという誤解をしている人の意見として、『公的年金制度は財政が崩壊するから自分で貯金していたほうが得だ』や『納付期間が年金受給資格の25年に満たなければ1円も戻ってこないのはおかしい(支払った分だけは戻すべきだ)』、『65歳になる前に早死にしたら損をするだけの制度だ』というような意見があります。銀行預金(貯金)と年金の最大の違いは何かというと、『終身型の給付があるか無いか』ということです。つまり、貯金は幾ら1000万円、2000万円と貯めていてもそれを使い切れば無くなってしまいますが、年金は終身型の給付なので65歳から死ぬ時までずっと給付を受けることができ、『自分が貯金した分だけしか貰えないという制度』ではないのです。

年金給付は使い切ってしまうということがなく、『支給金額の低下・支給年齢の引き上げのリスク』はあるものの、現行制度であれば65歳以降は死ぬまで年金給付を受け続けることができます。その年金のシステム自体は“現時点”では、使い切れば無くなってしまう『貯金』よりも安心感があるものになっています。年金は厳密には予想以上に長生きしてしまっても生活資金に困らないという『年金保険としての性格』を持っているので、『早死にしたら損じゃないか・納付期間が24年だったら無駄じゃないか』というのは的外れな批判でしょう。

『早死にした人が支払った保険料の蓄積が、長生きした人の年金原資に移転されるという保険の確率的な仕組み』によって維持されているという本質があり、元々、年金制度の始まりの時点では『年金支給開始年齢=平均寿命よりやや高い年齢(年金給付期間を短くする)』という政府・厚生官僚の謀略めいた計算も働いていたというまことしやかな風聞もあるくらいです。

しかし公的年金をリスクに対応する保険制度として見る場合には、就労困難な障害者になった時に基礎年金(あるいはそれが割増された年金)が支払われる『障害年金』、本人が死亡した時に被扶養者に基礎年金(あるいは厚生年金・共済年金を加えた総額の4分の3の年金)が支払われる『遺族年金』があるので、国民年金には『老齢年金+α』の保険が自動的に組み込まれているというメリットがあります。

『少子高齢化社会・成熟経済』における賦課方式の年金制度の持続性

現役時代に『自分のための年金保険料』を積み立てていき、長生きする人もいれば早死にする人もいるという『保険の確率的な仕組み』を利用して、老後に年金を受け取るという仕組みを『積立方式』といいます。積立方式の年金というと、『自分が支払って積み立てた保険料の総額分』だけの年金しか受け取れないようなイメージもありますが、ここでいう積立方式は年金保険制度を前提にしたものなので、支払った保険料の総額を超えて終身給付を受けられる年金のことを意味しています。

しかし、日本の公的年金制度は、自分の老後のために自分が支払った保険料を積み立てていくという『積立方式』ではなく、『現在の現役世代(20~60歳の年金制度の加入者)』が支払った保険料を『現在の高齢世代(60~65歳以上の年金受給者)』に年金として渡していくという『賦課方式』によって運営されています。

日本の公的年金制度も制度の発足当初は『積立方式』で運営されており、一定の年金積立金を積み立てていたのですが、『高度経済成長期のバラマキ的な年金制度改革(低い保険料率で高い年金を受け取れるようにした高齢者・労働者のご機嫌取りの政治)』『年金積立金をポケットマネーのようにして金融投資や公共事業(グリーンピア、サンピアなど)、天下りポストとなる公益法人の増設に使った厚生官僚の浪費』によって、年金制度を長期持続させるだけの巨額の積立金を積み立てることに失敗しました。

その結果、年金を受給する当事者たちの年金積立金を切り崩すだけでは年金制度は維持できなくなっており、いつの間にか、現役世代の納めた保険料をそのまま年金受給者に支払うという『世代間の助け合い』を大義名分とした賦課方式に移行してしまったのです。賦課方式の公的年金制度の最大の問題は、現代の先進国にほぼ共通する『少子化社会(未婚化社会)・超高齢化社会・人口減少社会・低成長経済』では、いずれは年金原資が底をついて維持できなくなる恐れが高いということです。

先進国の多くでは、30代半ば以上に結婚する晩婚化が進み、結婚しない人が増える未婚化も進んでいますが、そういった傾向を持つ先進国では子どもの数がどうしても少なくなり、国内人口が減ると同時に年金保険料を支払ってくれる現役労働者層も縮小していきます。

年金保険料を支払う現役世代が減っていくのに、超高齢化で年金を受給する高齢者は増えていくので、常識的に考えれば100~200兆円程度の日本の年金積立金では、『賦課方式』を前提にすれば現在の公的年金制度はいずれは危機的な財政状況に直面する恐れが出てきます。更に現役世代や若年層の『就職難と早期離職率の高さ・平均所得低下・非正規化や無業化』が進んでいることも懸念されるところで、現役労働者の数が減るだけではなく働いていても保険料を納められない人(あるいは働かないままに保険料が未納になっている人)の比率が高まっているのです。

現役世代の年金納付によって、直接的に高齢世代(年金受給者)を支えるという賦課方式の年金制度が、『少子高齢化社会・人口減少社会・成熟経済・晩婚未婚の傾向』といった先進国の歴史的な発達段階に適応できる制度なのかという議論は、できるだけ早い段階で慎重に行うべきでしょう。公的年金制度の賦課方式は見方を変えれば、『生産年齢人口が年金受給人口よりも相当に多くなる人口動態』を前提にした『自転車操業』としての側面があるからです。年金保険料を支払ってくれる新しい後続世代(生まれてきて雇用を得て就労できる子ども)が、年金を受け取っている高齢者よりも常に多く存在し続けるという前提が守られて初めて、現行の公的年金制度は長く維持できるのです。

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