フレイ:豊穣・平和の神と魔法の船

魔法の船や道具を持つ豊穣と平和の神フレイ

フレイ(Frey)は、父の海神ニョルズと母(=ニョルズの妹)の間に生まれた双子の兄妹の兄であり、豊穣と平和の神である。双子の妹は美と愛の女神として知られるフレイヤである。母親は巨人族のスカジという説もあるが、フレイの妻も巨人族のゲルズである。フレイは北欧神話の男性神の中でも特に容姿端麗であり、外見が際立って美しい魅力的な豊穣神だとされている。フレイは妖精王でもあり、アースガルドの神々から妖精の国アルフヘイムを贈られている。

フレイというのは『主』を意味しており、フレイは神としての通称(一般名詞的な神)のようなものであり、フレイの本名は『ユングヴィ』である。スウェーデン最初の王家は神であるフレイ(ユングヴィ)の子孫を称しており、『ユングリング(Yngling)家』と名乗っていた。フレイは『フロージ(フロディ)』という別名を持っており、フロージが北欧全域を支配していた物質的に豊かで平和な時代のことを『フロージの平和(フロディの平和)』と呼んでいる。フレイにとっての聖獣は猪や豚、馬であり、いずれも多産・豊穣のイメージと合致する動物である。

フレイの正式名称は『ユングヴィ・フレイ・イン・フロージ(実り豊かなユングヴィの主君)』であるが、通常はフレイのみで呼称されている。フレイは光や雨の自然現象を支配する豊穣・平和の神であり、北欧の人たちにとってはオーディンやフレイヤ、トールと並んで最もポピュラーな神の一人である。妖精国アルフヘイムは『古エッダ』の『グリームニルの歌 第5節』によると、フレイに最初の歯が生えた時のお祝いとして神々から贈られたとされる。

フレイは元々はヴァン神族の一員であったが、海神ニョルズ(父)や美の女神フレイヤ(妹)と共にアースガルズに人質としてやって来た。主神オーディンからフレイとニョルズは一緒に『犠牲祭の祭司』に任命されたが、フレイが3代目のスウェーデン王になると、その治世では農作物の豊作が連続して『フロディの平和(フロージの平和)』として賞賛されることになった。フレイは『ガムラ・ウプサラ』に神殿を建設して税金と動産をそこに集積され、フレイの死後にも生きていると嘘を言って税金を取り立てたが、フレイの権威・信用は絶大なものであり死後3年以上も繁栄と豊かさの時代が続いたという。

フレイは、魔法の剣や馬、船など様々な便利な道具・武器を持っている豊穣の神としての特徴を持っている。『グリンブルスティ』という金色の毛を持ち風よりも速く走れる猪を持っており、フレイは黄金の猪に引かせた車に乗って、ロキに謀殺された貴公子バルドルの葬儀へと赴いた。血に塗れた蹄という意味を持つ『ブローズグホーヴィ』と呼ばれる名馬を持っていたが、この馬が巨人の娘ゲルズに求婚する為に従者のスキールニルに与えた馬と同じ馬かどうかは不明である。

フレイはまた使い手が正しい者(賢い者)であれば、使い手の元を離れて巨人族と自動的に戦うという凝った装飾が施された『魔法の剣(勝利の剣)』も持っていた。この勝利の剣はドヴェルグの鍛冶師ヴェルンドが作成した切れないものはないというほどの名剣であり、その刃は太陽のように眩しく輝いていたという。しかし、フレイはこの大切な勝利の剣をも、ゲルズと結婚するために努力してくれた従者スキールニルに与えてしまったのである。

フレイが所有している最も不思議な魔法の道具は、『スキーズブラズニル』と呼ばれる伸縮自在の魔法の船である。普段はスキーズブラズニルは小さく折り畳まれているが、大きく広げるとアースガルドの神々全員を乗せられるほどの巨大な船になるという優れものである。イギリスの田舎に住む4人の兄弟が、空飛ぶ魔法の船に乗って時間を超越した冒険に旅立つというストーリーを持つヒルダ・ルイスの『とぶ船』は、北欧神話でフレイが持っているとされるスキーズブラズニルを題材にして書かれた絵本童話である。

フレイの巨人の娘ゲルズとの恋:ラグナロクの悲劇

オーディンの玉座から世界を見下ろしていたフレイは、美しい霜の巨人の娘であるゲルズを見つけて一目惚れした。そのゲルズを手に入れるために、従者スキールニルを巨人の国に派遣した。ゲルズは若さを保つ林檎11個やオーディンの魔法の腕輪といったプレゼントにも心を動かすことなく、フレイからの求婚の申し出もあっさりと断ってしまった。フレイは巨人の国にまで赴いた従者のスキールニルに対して、褒美として魔法の剣(勝利の剣)と馬を与えたが、最終的には実力行使の力づくでゲルズを妻にしてしまった。

フレイがスキールニルに褒美としてやった勝利の剣は、愚者が持てば切れない剣になり、正しい者(賢者)が持てば何でも切れるだけでなく、さらに自動で敵と戦う剣になるという強力な剣であった。フレイは最強の剣である『勝利の剣(名剣レーヴァテインという説も)』を手放してしまったことで、最終戦争のラグナロクでは 剣の代わりに鹿の角で戦う羽目になり、ムスペルヘイムから来た火の巨人スルトと戦って敗死してしまった。

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