血清総たんぱく・アルブミン/グロブリン比(A/G比)・ASTとALT

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血清中のたんぱくの総量を検査する血清総たんぱく検査(TP)

血液の上澄み成分である『血清』に含まれるたんぱくの総量を調べる検査が『血清総たんぱく検査(TP)』です。人間の身体を構成するたんぱく質の種類は百種類以上が知られていますが、動物の身体は通常、摂取した食物を分解して再合成されるたんぱく質によって作られています。各種のアミノ酸が複雑に結合したたんぱく質は生命の基本要素であり、食物(たんぱく質)を分解して出来たアミノ酸は『肝臓』に運ばれ、再びたんぱく質へと再合成されます。『肝臓』はグリコーゲンのような糖分を蓄えて、アミノ酸からたんぱく質を再合成する働きをし、血流に乗せて身体各部にたんぱく質を運搬しますが、肝機能に何らかの障害が起こると『血清総たんぱくの分量』に異常が見られるようになります。

『肝臓』がたんぱく質を合成する場所だとすれば、『腎臓』は使い古されたたんぱく質を『尿素・二酸化炭素・水』へと濾過して排出する場所であり、血清総たんぱく検査では主に『肝臓・腎臓の疾患の有無』を大まかに調べることができます。具体的に何の病気であるのかという病名診断を行うには、血清総たんぱく検査だけでは不十分であり、更に各器官の精密検査を行っていく必要があります。血清総たんぱく検査の『成人の基準値』は『6.5-8.0g/dl』であり、身体の未熟な『子ども』や身体の新陳代謝が衰えた『老人』ではそれよりもやや低い値になります。血清総たんぱくの分量が多くなりすぎると『高たんぱく血症』となり、少なすぎると『低たんぱく血症』となりますが、どちらの症状でも肝臓や腎臓の各種疾患が疑われることになります。

血清中のたんぱく量が多すぎる高タンパク血症というのは、血液が濃縮されてドロドロになっている状態で、食中毒・感冒による下痢や嘔吐などによる『脱水症状』でも高たんぱく状態になります。血清総たんぱく検査の値が9.0g/dl以上になってくると、病理学的に『グロブリンの増加』を引き起こす『肝疾患(肝炎・肝硬変・悪性腫瘍)』『自己免疫疾患(膠原病)』の可能性が疑われるので精密検査を受けたほうが良いということになります。血清中のたんぱく量が少なすぎる低タンパク血症というのは、血液の中のたんぱくが減少して水のようにサラサラになっている状態で、妊娠中の女性に多い軽度の貧血である『水血症』でも低たんぱく状態になります。 低たんぱく血症では、血液中の栄養不足や感染症による悪影響が心配されますが、内臓疾患としてはタンパク質が体外に大量に排出されてしまう『ネフローゼ症候群・急性腎炎』などが懸念されます。タンパク質が過剰に体外に排出される場合には腎疾患が疑われ、タンパク質の生産量が少なくなり過ぎる場合には肝疾患が疑われます。

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血清たんぱく分画検査

血清総たんぱく検査で異常所見が見られた場合には、更に詳しい検査をするために電気泳動法による『血清たんぱく分画(ぶんかく)検査』が行われます。電気を流すとプラスかマイナスの帯電をするというタンパク質の性質を利用した電気泳動法によって、血清中のタンパク質の構成要素とその量を測定する検査です。この血清たんぱく分画検査によって『アルブミン・α1グロブリン・α2グロブリン・βグロブリン・γグロブリン』の5つのタンパク質を分離してその量を測定することができ、健康であればこの5種類のタンパク質の比率はほぼ一定に保たれています。各分画(種類)の基準値は以下のようになっています。

血清中のタンパク質の分画の基準値
タンパク質の分画比率(割合)正常な基準値(g/dl)
アルブミン約60%4.0-5.7
α1グロブリン約2.5%0.12-0.23
α2グロブリン約5~8%0.32-0.66
βグロブリン約8~12%0.51-0.97
γグロブリン約10~19%0.69-1.59

この血清たんぱく分画検査によって、アルブミンとα1、α2グロブリンが減少して、γグロブリンが急増すれば劇症型肝炎、アルブミンとγグロブリンが減少して、α1、α2、βグロブリンが増加すればネフローゼ症候群というように大まかな疾病診断の分類をすることができます。何らかの器質的疾患がある時には、アルブミンは減少しますがアルブミンが増加することは通常有り得ません。悪性新生物(がん)の場合にもアルブミンが減少して、αグロブリンとかγグロブリンが増加するといった分画の比率の異常が顕著に見られることが多くなります。血清分画検査で疾病診断のための一つの指標となるのが、アルブミンとグロブリンの比率でありこれを『A/G比』といいます。

A/G比(アルブミン/グロブリン比)

血清たんぱく分画検査の結果から、血清たんぱくの主成分であるアルブミンとグロブリンの比率を求める検査のことを『A/G比(アルブミン/グロブリン比)』といいます。アルブミンは増加することはありませんが、アルブミンが減少してグロブリンが増加すると、A/G比が低下して何らかの肝障害や腎障害の可能性が疑われることになります。A/G比の検査は、肝臓や腎臓の疾患の有無と種類、重症度を診断する際に参考にすることができ、一般的にアルブミン値が低下してA/G比が下がった場合には肝障害やネフローゼの可能性が考えられます。A/G比の基準値は『1.0~2.0』であり、肝臓で産生されるアルブミンの最低基準値である『4.0g/dl』を下回った場合には、肝臓に何らかの障害がある恐れがあり更に詳しい検査をしたほうが良いという判断がなされます。

A/G比が低くなりすぎた場合に考えられる疾患には『肝硬変・急性肝炎・ネフローゼ症候群・タンパク漏出性胃腸障害・栄養障害』などがあり、グロブリンが異常に増加してA/G比を下げている場合には『多発性骨髄腫』などの悪性新生物(がん)の可能性が生まれてきます。グロブリンが異常に減少してA/G比が高くなり過ぎているケースでは、HIVなどの『免疫不全症候群』や免疫抑制作用のある『副腎皮質ホルモン(薬剤)』の投与やがんに対する放射線療法などが考えられます。人体最大の臓器である肝臓は、『各種栄養素の代謝(分解・合成)・貯蔵(糖分をグリコーゲンにして貯蔵)』『有害物質(アルコール含む)の解毒・排出』、『体内の循環血液量の調節』という機能を果たしており生存に欠かせない器官となっています。

AST(GOT)・ALT(GPT)・γ‐GTP

肝機能障害を調べる検査には、『A/G比』以外にも『AST(GOT)・ALT(GPT)』の検査があり、この検査はアミノ酸生成を行う『逸脱酵素(肝細胞から血清中に漏れ出した酵素)』の分量を測定するものです。ASTとはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの略称であり、ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼの略称ですが、ASTはGOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)と呼ぶことも多く、ALTはGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)とも呼ばれます。AST(GOT)・ALT(GPT)の値を測定して検討することは、肝疾患や胆嚢の異常の発見に役立ちますが、心筋中にも含まれるAST(GOT)が基準値を大幅に上回る場合には『心疾患(心筋梗塞)』の可能性もあります。ALT(GPT)のほうは肝臓と腎臓のみに局在する酵素なので、特定的な疾病診断に役立てることができます。

AST(GOT)・ALT(GPT)の基準値は、ASTもALTも『35IU/l以下』となっていますが、ASTのほうが若干高い数値を出す傾向があります。異常に大きな値をとるようになると、急性肝炎や慢性肝炎のリスクが高くなり心筋梗塞の疑いも出てきますが、アルコールや免疫抑制剤(副腎皮質ホルモン剤)、貧血治療の鉄剤、激しい運動の影響でAST・ALTの数値が上がってくることもあります。急に数値が上がった場合には『急性肝炎』のリスクが高くなりますが、ウイルス性肝炎のケースでは、いったんASTとALTが急上昇して2ヶ月以内に基準値に戻り、そのまま完治することも多いのですが、ウイルスが完全に消滅しない場合には『慢性肝炎』に移行してしまうこともあります。ASTとALTが50IU/l以上になると肝機能障害の可能性が高くなり、数百IU/l以上になると他の精密検査(画像診断検査・生理学的検査)の結果と合わせて『急性肝炎』の診断が下されることが多くなります。一般的に、肝疾患の重症例と判断されるのは『500IU/l以上』であり、劇症型肝炎などでは致命的なリスクも出てきます。肝疾患の治療では、肝硬変の進行を抑制する薬物療法と合わせて、高たんぱくの食品をバランスよく摂取してアルコールを禁止する食事療法が重要になってきます。

アルコール性肝炎の診断の参考になる検査指標として『γ‐GTP(ガンマ・グルタミール・トランスペプチターゼ)』があり、γ‐GTPとは肝臓・腎臓・膵臓に局在するアミノ酸の分解酵素です。アルコールを大量に摂取すると肝細胞の処理能力が追いつかなくなり肝細胞が破壊されますが、その時にγ‐GTPが血液中に漏出してきます。肝細胞の破壊以外にも、胆道結石や悪性腫瘍によってγ‐GTPの値が高くなります。γ‐GTPの上昇は、『アルコールの過剰摂取による肝臓へのダメージの指標』となり、γ‐GTPの基準値は『55IU/l以下』で『80~100IU/l以上』になると経過観察や精密検査(生理学的検査)が必要になってきます。『数百IU/l以上』にγ‐GTPが上がってくると、アルコール性肝炎の可能性が高くなりますが、肝疾患以外にも胆道結石や胆道がん、膵臓がんによってγ‐GTPの数値が上がることがあります。

肝機能の検査に用いられる検査には、AST(GOT)・ALT(GPT)・血清総タンパク・γ‐GTP・アルカリ性フォスファターゼ・血清乳酸脱水素酵素・ロイシン・アミノペプチターゼなどがあります。

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