日本国憲法 第六章 司法 第76条〜第79条

アメリカ合衆国や中国と戦った『アジア太平洋戦争』に敗れた日本は、1945年(昭和20年)8月15日に『日本軍の無条件降伏・日本の民主主義的政体(国民主権)の強化・基本的人権の尊重・戦争を起こさない平和主義』などを要求する『ポツダム宣言』を受諾した。明治期の1889年(明治22年)に公布された『大日本帝国憲法』は立憲君主制を規定する近代的な欽定憲法(君主・元首が作成する憲法)であったが、『天皇主権(天皇の大権事項)・国民を臣民(家臣)とする天皇への従属義務・国家主義による人権の制限可能性・国体思想による言論出版の自由の弾圧』などがあり、アメリカが日本に要求する近代的な自由民主主義や個人の人権保護とは相容れない欽定憲法であった。

ポツダム宣言受諾の無条件降伏によって、日本政府はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の助言と監督を受けながら、『憲法改正草案要綱』を作成して大日本帝国憲法73条の憲法改正手続の条文に従った上で、1946年(昭和21年)11月3日に現行の『日本国憲法』を公布し、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行した。1946年(昭和21年)5月16日に開かれた『第90回帝国議会』で、日本国憲法は審議を受けているため、GHQが無理矢理に押し付けた憲法というよりは、日本が『敗戦の講和条件・厭戦(疲弊)と平和希求の民意』に従って正規の手続きを経て改正された憲法である。

日本国憲法は『個人の尊厳原理』に立脚することで、国家主義(全体主義)や専制権力の抑圧から国民を守る立憲主義の構成を持っており、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義(戦争放棄)』の基本的な三原則(三大要素)を掲げている。天皇は天皇大権(政治権力)を持たずに国民統合の象徴になるという『象徴天皇制+国民主権(民主主義)』が採用され、国民はすべて個人として尊重され各種の憲法上の権利(自由権)が保障されるという『基本的人権の尊重』が謳われた。過去の戦争の惨禍に学び、戦争の放棄と軍隊(戦力)の不保持を宣言する『平和主義』も掲げられた。

ここでは、『日本国憲法』の条文と解釈を示していく。

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『日本国憲法』(小学館),『日本国憲法』(講談社学術文庫),伊藤真『日本国憲法』(ハルキ文庫),『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫)

第六章 司法

第七六条

1.すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

2.特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

3.すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

第七七条

1.最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

2.検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。

3.最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

[解釈]

第76条は、三権分立を前提とした『司法権の独立性』について定めた条文である。日本国の司法権は、『最高裁判所』と高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の4種類がある『下級裁判所』に帰属しており、軍法会議など通常の司法から分離独立したような『特別裁判所』を別枠で設けることはできないとしている。

裁判官はその良心に従って独立的な司法権の行使ができるように配慮されており、この憲法と成立した法律のみによって拘束されることになる。

第77条は、裁判所の独立性を維持するために、最高裁判所に『規則の制定権』を認めた条文で、検察官などの司法官僚はその規則に従わなければならない義務がある。訴訟に関連する規則、司法事務員の業務内容、弁護士・裁判所の内部規律などを規定することができるが、これは国会を国の唯一の立法機関と定めた憲法41条の例外(通常の法律とは別枠の司法領域の規則制定権)になっている。

第六章 司法(続き)

第七八条

裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

第七九条

1.最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

2.最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

3.前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

4.審査に関する事項は、法律でこれを定める。

5.最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。

6.最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

[解釈]

第78条は、裁判官の身分保障について定めたもので、裁判官は外部からの圧力や干渉を受けずに独立して公正な司法業務を遂行できるように、『公の弾劾裁判・国民審査』に拠らなければ懲戒処分をすることができない。しかし、心身の故障(疾患・病気)によってその職務の執行が著しく困難になったり不能になった時には、その裁判官を罷免(退官の勧奨)することもできる。裁判官の懲戒処分については『裁判官分限法』によって定められており、懲戒処分の内容を規定する同法の2条で、『裁判官の懲戒は、戒告又は一万円以下の過料とする』と書かれている(処分の内容は軽微なものとなっている)。

第79条は、最高裁判所の構成、裁判官の国民審査、定年と報酬について定めた条文である。最高裁判所は、内閣の指名に基づいて天皇が任命した最高裁判所長官、内閣によって任命されて天皇の認証を受けた14人の最高裁判所裁判官によって構成されている。15人全員で構成する『大法廷』、5人ずつで分割して構成する三つの『小法廷』が設置されている。

最高裁判所裁判官の定年は70歳(裁判所法50条)であり、裁判官の報酬は任期中は減額することができないと定められている。2項は、最高裁判所裁判官に対する『国民審査』の規定であり、内閣による裁判官の人事権掌握で三権分立が犯されることを防止している。

司法権に対して形式的には、国民の民主的なコントロールが為されていると言えるが、この憲法が定める国民審査によって罷免された裁判官は一人もおらず、実質的に形骸化した制度であるとの批判も強い。国民審査の手続きは、 『最高裁判所裁判官国民審査法』に従うことになる。

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