アメリカ心理学会の創設と発展

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アメリカ心理学会の創設

アメリカは近代的な心理学の始まりこそヨーロッパよりも遅れましたが、ウィリアム・ジェームズ、ホールらのいたハーヴァード大学を中心に19世紀後半から急速に心理学研究が盛んになり、1892年には世界の他の国々の心理学会創立に先駆けて『アメリカ心理学会』が設立されました。アメリカ心理学会創設の中心人物は、ホールを中心としたメンバーで、ホールは初代の心理学会会長に選出されました。

ホールの後継の会長として翌年にラッドが選ばれ、、その次にジェームズが会長となります。アメリカ心理学会の会員は、現在では4万人を超える世界でも最大規模の学会組織となっていますが、創設当初はホールら10数人に過ぎませんでした。

アメリカ心理学会を創設したホールは、1887年には学会創設に先立って『アメリカ心理学雑誌(American Journal of Psychology)』という心理学の専門雑誌を刊行しました。また、ホールは、それまで伝統的だった白人優位的な価値観に染まらずに、ジョンズ・ホプキンズ大学やクラーク大学において、黒人・ユダヤ人・アジア人など非白人を含む幅広い人種や民族の人たち、女子学生たちに実力に応じて学位を授与したという教育者としての優れた面も持っています。ただ、アメリカの心理学の組織化に大きな業績のあるホールですが、その性格にはかなり癖があり、旺盛な権力欲と自己顕示的な面のある人物であったと言われています。

ティチナーの構成心理学

ティチナー(Titchener)は、要素還元主義的な研究方法を用いる『構成心理学(structural psychology)』という心理学を提唱しました。“構成”心理学というように、ティチナーは全体的に機能している心は、幾つかの単純な構成要素が集まって構成されていると考えていました。更に、心理学は幾つかの主要な学問領域によって構成されるべき学問だとして、生物学との比較を用いて以下のように語っています。

生物学は、形態学・生理学・発生学という分野がありますが、心理学にもそれらと対応する分野があるとティチナーは言います。“形態学”に対しては、観察によって構造を明らかにしようとする“実験心理学”があり、生体の反応過程や機能のメカニズムを研究する“生理学”には、心の働きの過程やそのメカニズムを研究する“機能心理学”があります。

そして、生命の発生や成長を扱う“発生学”に対応して、心の発達過程や発達内容などを研究する“発生心理学(現在の発達心理学)”があります。ティチナーは、心理学の主要な研究対象は“意識的経験”であると考え、さきほど述べた要素還元主義的方法によって、複数の要素から構成されている意識を最も単純な構成要素へと還元しようとしました。そして、その構成要素と生理学的条件の関係を明らかにすることが出来れば、心身の相関関係がより深く理解できると考えたのです。

ティチナーの要素還元主義は、ヴントの心的機能の研究方法である総合的把握と対立するものでした。ティチナーは、全体として機能している心を個々のバラバラの単純な要素に還元することを目的としているのに対して、ヴントは心的過程を全体としてとりまとめる“統覚(apperception)”へと個々の要素を総合していくことを目的としていました。

ティチナーの代表的著書は4巻からなる『実験心理学』(1901-1905)で、その内の2巻は指導者用であり、残りの2巻は学生用です。この『実験心理学』は、実験心理学における厳密な条件統制の仕方を中心に、どのようにして正確で客観的な意識を対象とした実験(定量的実験・定性的実験)ができるのかについて詳述されたテキストです。このティチナーの『実験心理学』の基礎的な実験方法は、現代でも有効なもので『実験室で研究する人々も、知らず知らずのうちに、ティチナーが研究を行う為に推進した規則に従っているのである』(Popplestone & McPherson, 1999)と言われたりしています。

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アメリカの機能心理学

“経験的意識”を研究対象として、その構成要素を探して意識の構造を把握しようとする前述の『構成心理学(structural psychology)』と並んで、ダーウィンの進化論的な適応機能に着想を得た心理学が考えられました。それは、ウィリアム・ジェームズを中心として19世紀末のアメリカに起こった、“意識の環境に対する適応機能”を研究対象とする『機能心理学(functional psychology)』です。

機能心理学では、全体的に働く心の機能を取り扱うので、ジェームズの『心理学原理』(1890)のタイトルにあるような、習慣、記憶、注意などといったものを研究します。機能心理学は、シカゴ大学コロンビア大学を中心として盛んな研究が行われ、デューイエンジェルらによるシカゴ学派と呼ばれる機能心理学の研究者集団が出来ました。

デューイとエンジェルは、行動主義心理学の創立者ワトソンの指導教官でもあり、行動主義の確立に貢献するような前段階的な研究がデューイなどによって行われました。デューイは、反射についての研究をして、行動主義のS-R理論につながるような考えを『心理学における反射弓の概念』(Dewey, 1896)という論文で発表しました。それは、反射という身体反応は、知覚・運動(刺激S―反応R)という単位で成り立っているとするもので、それまでの個々の感覚に分解するような要素還元主義を否定するものでした。

コロンビア学派には、アメリカ人で始めてヴントの研究室で学位を取得したJ.M.キャッテル、試行錯誤学習の研究で著名なソーンダイクがいて、J.M.キャッテルの弟子のウッドワースは、動因(drive)という概念を初めて用いて、動的心理学(dynamic psychology)を提唱しました。機能心理学は、1930年代までにアメリカの心理学の主流となり、従来の心理学研究法であった内観法だけでなく外部観察などを用いるようになりました。そのお陰で、内観法が適用できない子ども、動物、障害者の心理学研究が飛躍的に発展する結果が生まれ、心理学がより実践的で有効なものとなりました。

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