異常心理学における正常性と異常性の基準

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異常心理学における正常性と異常性の基準

臨床心理学の主要な研究・実践領域には『心理アセスメント・心理療法・異常心理学』の3つがある。心理アセスメントとは、カウンセリング・心理療法を適用する前段階で行われる心理テスト(心理検査)や調査的面接のことであり、クライアントの主訴(悩み)の内容をより客観的に理解するために実施される。心理アセスメントで用いられる心理検査は心理測定尺度(心理評価尺度)と呼ばれることがあるが、心理検査には大きく分けて知的水準を測定するための『知能検査』と性格傾向・生活状態・価値志向性(信念内容)などを測定するための『性格検査』がある。

心理アセスメントには、クライアントの症状や状態をより適切に理解して有効性が高いと推測されるカウンセリング技法(心理療法)を選択するという目的があるが、その目的には『正常性と異常性の判断』が付随することが多い。クライアントは自分ひとりでは解決が困難な問題や苦悩を抱えて来談するが、心理アセスメントや調査的面接の過程において精神(性格行動パターン)の異常性(正常性からの逸脱)が確認されることがある。

精神・性格構造の正常性と異常性を的確に区別するのは極めて困難な作業だが、異常心理学(abnormal psychology)では形式的に『正常な心理・異常な心理』という二元論の図式を採用している。日常生活では、通常の言語的コミュニケーションが不可能だったり感情をコントロールできずに頻繁に暴力を振るったり、抑うつ的になって自己否定的な行動を取ったり、幻覚・妄想によって現実が認識できなくなったりする時に『異常な心理』の存在を直観的・経験的に認識することになる。

精神の正常と異常を区別する心理学的な相対的基準(適応・価値観・平均・病理の視点) の記事で書いたように、精神の異常性やその形成要因は多元的であり、医学的診断と臨床心理学的査定(見立て)の間には目的意識の違いがある。

医学的診断は社会的証明能力・法的効力のある『病気の診断・病名の確定』を主要な目的にして行われるが、臨床心理学的査定はクライアントの問題解決に役立てるための『クライアントの状態や性格の理解』に重点が置かれている。各種の心理テストや心理面接を用いて実施される心理アセスメントは、飽くまで心理学的介入やカウンセリング的援助の参考になる情報を集めるためのものであり、単純な病気の理解よりも精神発達のプロセスや家族歴、人間関係、社会適応、外傷的記憶を重要視する傾向がある。

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異常性の適応的・価値的・統計的・病理的な基準

臨床心理学・異常心理学において精神・人格の正常性と異常性を判断する基準としては『適応的基準・価値的基準・統計的基準・病理的基準』の4つの基準がある。適応的基準というのは、所属する社会集団の経済活動や行為規範に円滑に適応できているかどうかという基準であり、通常の社会生活を効果的に営めないような機能的障害がある時に『異常』と判定される。日常的な社会生活を問題なく営んで社会規範を遵守できていれば『正常』ということであるが、適応的基準には周囲にいる他者が判断する『社会的判断』と本人自身が社会生活に適応できているかどうかを実感する『主観的判断』とがある。

価値的基準とは、社会一般において大多数に共有されている価値判断・規範意識を元にした基準であり、許容範囲内の規範(ルール)を遵守できるものを『正常』とし極端に逸脱した行動を取るものを『異常』とするものである。価値的基準は、判断者の依拠する理念体系や世界観・人間観によって『正常と異常の境界線』にズレが生まれてくるので相対的基準としての特徴を持つが、他者に物理的危害を加えたり法律に違反することが習慣化しているケースでは異常性の判断の確度が高くなってくる。

価値的基準とは『多数者に共有される規範・常識に基づく判断基準』であるが、その規範の性格によって主観性の強い『生活的判断』と客観性の高い『理論的判断』とに分かれる。『生活的判断』とは社会集団内の慣習・道徳観・社会通念(社会常識)を元にした判断軸であり、『理論的判断』とは社会集団内で強制力を持つ法律や法律を根拠づける仮説理論を元にした判断軸である。

統計的基準とは、性格・心理・行動のパターンが『統計学的な標準や平均』に近いものを『正常』とし、標準や平均から大きく逸脱した特殊性の強いものを『異常』とする基準である。統計的基準は、心理検査によって得られた多数の客観的データを収集整理して導かれるものであり、統計学的な処理によって正常と判断される『標準的数値の範囲』を規定するところに特徴がある。

統計的基準は一見するとかなり客観的で実証的な基準に見えるのだが、サンプル(標本)を抽出する母集団の性質の違いによって『標準的数値の範囲』にはかなりの誤差が生まれてくる。心理アセスメントの結果の解釈には『統計的基準』が用いられることが多いが、統計的水準を絶対視することには誤認・偏見のリスクがあり、実際に向き合っているクライアントの訴えを丁寧に聴き取りながらクライアントの精神状態や生活状況を包括的に理解していく必要がある。

病理的基準とは、病理学(pathology)と医学的健診・検査に基づく医学的判断の結果として健康と診断されれば『正常』であり、病気(疾患)と診断されれば『異常』とするものである。病理的基準ではICDやDSM、臨床的な経験知などに基づく医師の専門家としての判断が重視されるが、心理臨床家もクライアントの心理状態や精神症状の内容をより正確に理解して適切な対処法(専門医へのコーディネイト含む)を選択するために、精神病理学に依拠する病理的基準について一定の理解をしておく必要がある。

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