このウェブページでは、『自尊心(自尊感情)と行動への影響』の用語解説をしています。
自尊心(自尊感情)と恐怖管理理論
自尊心(自尊感情)とソシオメーター理論
『自尊心(自尊感情)』とは、自分で自分の存在価値を認める感情(自分で自分のことをかけがえの無い大切な存在だと思える感情)であり、自分に対する主観的な自己評価が一定以上の高さを持っている安定した心理状態のことである。
自尊感情が高ければ自分に自信を持てる心理状態になるので、積極的な行動や社交的な対話を行いやすくなり、一般に社会適応が良くなって課題を達成できる確率も高くなってくる。反対に、自尊感情が低くなれば自分で自分の価値や能力を疑ってしまうので、消極的な行動や非社交的な回避が多くなり、一般に社会適応が悪くなって課題を達成する確率も低くなってしまう。
なぜ、自尊感情の高低のレベルや自尊心の個人差によって、このような人間行動の変化が生まれてきてしまうのだろうか、自尊心は人間の行動や社会適応に対してどのような機能・役割を持っているのだろうか。この疑問に答えようとする仮説の一つに人間の死の恐怖を根底においた『恐怖管理理論(terror-management theory)』というものがある。
人間は高度な自己認識と将来予測能力を持つ動物であるため、自分自身が将来に必ず死んでしまう存在であることを幼い子供・赤ちゃんを除いては誰もが知っている。この『死の必然性と不可避性にまつわる知識』が、人類に共通する『死の不安・恐怖』という半ば本能的な負の感情を生み出してしまうのだが、人類は集団社会を構成して『思想的・宗教的・文化的な価値』を創造して共有することでこの『死の不安・恐怖』を紛らわしたり弱めたりしてきたというのがこの理論の前提にある。
人類の社会集団において共有される『思想的・宗教的・文化的な価値』は、私たちが生きている世界と人生には意味があるということを示して、自分が帰属している社会共同体に『秩序・永続性・安定性』があるという物語(虚無主義・無意味さを払拭してくれる世界観)を教えようとする。そして、帰属社会においてどのような行動や考え方に意味・価値があるのかをしつけ・教育を通して学んでいくのだが、人間は『他者・社会から認められる行動』をすることによって賞賛されたり承認されたりすることで、『自分は重要で価値のある存在なのだ』と思える自尊感情が高まっていくことになる。この自尊感情の上昇は社会や仲間からの承認と密接に結びついており、自尊感情が果たしている主要な役割は『本能的な死の不安・恐怖の緩和』ということになってくる。
恐怖管理理論には、更に『不安緩衝仮説(anxiety-buffer theory)』と『死の顕現性の仮説(mortality salience theory)』というものがある。
心理学者のM.R.リアリーが自尊心(自尊感情)の役割・機能として提起したのが、自尊心が社会適応や他者からの承認の感覚と関わっているとする『ソシオメーター理論(socio-meter theory)』である。M.R.リアリーは、自尊感情を他者(帰属集団)から自分がどれだけ認められているか否定されているかを知るための主観的な計量器(メーター)であると仮定して、人間はこのメーターを高めるために他者と協力したり社会的に認められるような行動を積極的に取ろうとすると考えた。
他者から受容されたり承認されたりすると『自尊感情』は有意に高まるが、実際の社会生活でも他者(所属集団)から自分の存在・能力が受け入れられたり評価されたりすれば『身体的・精神的な健康』が維持されやすくなるし、『生存・社会適応』にも格段に有利になってくる。他者や社会集団から完全に拒絶されてしまえば生存そのものが困難になる恐れがあり、自尊感情は社会的な動物である人間が『社会適応・生存維持・人間関係構築』のために必然的に進化させてきた感情なのである。
ソシオメーター理論では、自尊感情は『他者との人間関係』を維持・促進するための役割を果たしており、自分が他者・社会から受け容れられているか拒絶されているかという『人間関係の現状・質』を推測して監視(モニタリング)するためのメカニズムとして機能している。他者・社会集団から拒絶されたり否定されている兆候を認識すると、人間は自尊感情の低下というネガティブな感情体験をしやすくなり、その自尊感情を回復するために『社会適応的な行動・他者との協力行動』を取るようになる。
人間の自尊心の持つ本質的な役割は、ソシオメーター理論によれば『自分のための自尊心高揚』ではなくて、『社会共同体の形成維持や他者との良好な人間関係のための自尊心高揚』なのである。ソシオメーター理論の仮説を支持する根拠としては、『他者・社会から排斥されると自尊心が低下する』や『他者・社会から肯定されると自尊心が上昇する』ということがあり、更に他者からのフィードバックによって自尊心は高くもなれば低くもなるということが実証的に確認されている。
上記した『恐怖管理理論』では、本能的な死の不安・恐怖を緩和させようとする動機づけが自尊心の役割になっており、『ソシオメーター理論』では、他者・社会集団にとって自分が重要な存在であると認められることが社会適応(生存維持)につながるという進化論的な動機づけが自尊心の役割になっている。
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