E.ノエル‐ノイマンの『沈黙の螺旋』と少数者意見(マイノリティ)

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このウェブページでは、『E.ノエル‐ノイマンの『沈黙の螺旋』と少数者意見(マイノリティ)』の用語解説をしています。

E.ノエル‐ノイマンの『沈黙の螺旋』とマスメディアの相乗効果

沈黙の螺旋(少数意見の抑圧)をもたらす“孤立の恐怖”と“準統計的能力”


E.ノエル‐ノイマンの『沈黙の螺旋』とマスメディアの相乗効果

ドイツの社会学者・世論研究家のE.ノエル‐ノイマンは、社会心理学の視点から世論形成のプロセス(マジョリティとマイノリティの意見の変容)を研究したモデル理論として『沈黙の螺旋(spiral of silence)』を提唱した。

E.ノエル‐ノイマンが考案した『沈黙の螺旋』のモデルは、なぜマジョリティ(多数派,majority)の多数派意見がますます強くなりやすく、マイノリティ(少数派,minority)の少数派意見がますます弱くなりやすいのかを説明するモデルである。選挙の投票行動にまつわる意見にしても、他人との価値観の対立がある会話にしても、マスコミの街頭インタビューにしても、人は無意識的に自分が『マジョリティ(多数派)の意見』に近いのか『マイノリティ(少数派)の意見』に近いのかを気にして、何らかの影響を受けているということを示唆したモデル理論である。

一般的に人間は、自分の意見(価値観)が『マジョリティ(多数派)の優勢な多数派意見』と同じであると認知する時には、自分の意見や価値観を公然と表明することに緊張・躊躇がなくなる傾向がある。反対に、自分の意見(価値観)が『マイノリティ(少数派)の劣勢な少数派意見』と同じであると認知する時には、自分の意見や価値観を公然と表明することに緊張・躊躇を強く感じて沈黙する傾向がある。

どういった意見・価値観がマジョリティの優勢なものなのか、それともマイノリティの劣勢なものなのかという“各意見の表明状況・優勢劣勢の状況”は、マスメディアによってその社会の構成員に幅広く伝達されることになる。そのため、多数派意見の表明は実際よりも多く感じられやすく、少数派意見の表明は実際よりも少なく感じられやすいのだが、こうなるとマスメディアの情報伝達からのフィードバックによって『多数派意見(マジョリティ)に合わせよう・少数派意見(マイノリティ)から離れよう』という傾向がより顕著になってしまいやすいのである。

政治的な判断や社会的な選択を慎重に行う人の中には、確かに『意見・価値観の内容』のみを考慮・吟味しながら自分の意見や選択を決める人も少なからずいるが、大多数の人は『マジョリティ(多数派)の優勢な意見』に付和雷同する形で従いやすい傾向が見られる。マスメディアが選挙前に発表する『政党支持率の優勢劣勢の報道』なども、選挙結果をマジョリティに有利な方向に歪める恐れがあるので、本来はできるだけ選挙前にどの政党や政策が有利なのか(多数の支持を得ているのか)の報道は控えたほうが良いとは言えるだろう。

マジョリティ(多数派)の意見に流されやすいという人間の心理特性は、『マスメディアを通した情報伝達(意見表明の優勢劣勢の状況の伝達)』による相乗効果を受けやすくなり、よりマジョリティの側に賛同しやすくなり、マイノリティの側からは離脱しやすくなってしまう。E.ノエル‐ノイマンはこういったマジョリティの意見とマイノリティの意見の収斂・連鎖のプロセスを検証して、マイノリティ(少数派)の劣勢な意見が表明しづらくなって沈黙に近づいていくことを『沈黙の螺旋(らせん)』と呼んだのである。

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沈黙の螺旋(少数意見の抑圧)をもたらす“孤立の恐怖”と“準統計的能力”

マイノリティ(少数者)の劣勢な意見が抑圧されやすくなり沈黙へと近づいていくプロセスをノエル‐ノイマンは“沈黙の螺旋”と呼んだが、沈黙の螺旋を生み出す心理特性の要因には『孤立の恐怖』『準統計的能力』の2つがある。

“孤立の恐怖”というのは、集団社会において劣勢なマイノリティ(少数派)に帰属して不利益や差別(排除)を蒙りたくないという孤立を恐れる防衛的心理であり、対立的な意見表明の場面では、できるだけマジョリティ(多数派)の側に属そうとする同調行動の動機づけにもなっている生得的な人の心理特性である。

“準統計的能力”というのは、自分が所属する社会の賛成・反対の意見の大まかな分布・割合やその数量的な変化を直感的に推測する能力であり、多くの人はこの準統計的能力を無意識的に活用することで『自分に有利な意見表明(マジョリティ寄りの意見表明)』をしやすくなっているのである。こういった準統計的能力は多くの人にそれなりの精度で備わっているものであり、同調的な社会適応の役に立つ能力でもあるが、社会構成員の意見の分布・割合の状況から影響を受けることなく、自分自身の思想信条や倫理観(判断基準)に従って意見を表明することを『ハードコア層』と呼んでいる。

周囲の意見やマジョリティの圧力に影響を受けることなく、自分は自分ということで自分の思想信条や価値観を貫くような意見を表明できるハードコア層の人は、社会全体ではかなりの少数派である。ノエル‐ノイマンの“沈黙の螺旋”によるマイノリティ抑圧のプロセスにおいて、最後の最後まで残ってくる人がこのハードコア層に該当することが多い。

沈黙の螺旋のモデル理論は、マス・コミュニケーション効果研究の歴史では第3期の『新効果論』の一つとして分類されているが、所属社会の意見分布状況の準統計的推測という前提から、マスコミには大衆の意見表明をマジョリティ(多数派)の側へとコントロールするだけの強い効果があるとする理論である。一方で、沈黙の螺旋のモデル理論の前提となっている『孤立の恐怖』と『準統計的能力』については、本当にすべての人がこの2つの心理特性や心的能力を持っているのかという疑義も出されており、沈黙の螺旋のプロセスを説明するだけの十分な実証主義的な研究が積み重ねられていないという批判もある。

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