マイノリティ(少数者)とマジョリティ(多数者)の意見の集団内での影響力

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このウェブページでは、『マイノリティ(少数者)とマジョリティ(多数者)の意見の集団内での影響力』の用語解説をしています。

セルジュ・モスコヴィッシが発見したマイノリティ(少数者)の可能性


C.ネメスが指摘するマイノリティ(少数者)が影響力を行使できる条件:内集団の仲間とみなされること


セルジュ・モスコヴィッシが発見したマイノリティ(少数者)の可能性

従来の社会心理学では、多数決によって『世論形成を踏まえた政治的意思決定』が為される民主主義社会では、“マジョリティ(majority,多数者)”“マイノリティ(minority,少数者)”に一方的な影響を与えるだけという考え方が主流であった。

この『マジョリティの支配性・マイノリティの従属性の二項対立図式』を示唆する集団心理(群衆心理)が『同調(conformity)』と呼ばれるものであったが、このマジョリティの『一方的な支配性・同調圧力の行使』に対して、その例外としての『少数者の意見の影響力』を指摘したのがS.モスコヴィッシだった。

ルーマニア生まれのフランスの社会心理学者セルジュ・モスコヴィッシ(Serge Moscovici,1925-)は、現実の社会集団や組織・団体においては必ずしもマジョリティ(多数者)がマイノリティ(少数者)を一方的に支配しているとは限らず、逆に少数者が多数者に影響を与えて多数者の意見を変えていく『集団変革のプロセス』の可能性があると指摘した。社会集団の大きな変革は、現状維持か若干の微修正しか望まないマジョリティよりも、現状に大きな不満や理不尽を感じているマイノリティのほうからそのきっかけとなる働きかけが起こりやすいのである。

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数で圧倒するマジョリティ(多数者)の意見や態度をマイノリティ(少数者)が変えたいのであれば、場当たり的に自分の言動を変更しない『行動の一貫性』こそが大切なのだとS.モスコヴィッシは語っている。行動の一貫性を守ることによって、マイノリティがマジョリティに影響を与えられることを証明した実験に『ブルー=グリーン・パラダイム実験』というものがある。

1グループ6人のメンバーに、明るさや色調の異なる『青色の6枚のスライド(一般的には青色だが見ようによっては緑色にも見えないわけではない色のスライド)』を見せて、青色か緑色かの二者択一方式で色の判定を求める実験である。被検者6名のうちの2名が、マイノリティ(少数者)役をこなすためのサクラ(実験協力者)であり、一般的には青色と判定される6枚のスライドすべてに対してわざと緑色と答えさせるケース、6枚のうち4枚のスライドに対して緑色と答えさせるケースを比較している。

2名のマイノリティが6枚のスライドすべてを緑色と判定するケースが『行動の一貫性』が保たれているケースであり、6枚のうち4枚のスライドに対して緑色と判定するケースが『行動の一貫性』が崩れているケースであるが、前者の行動の一貫性が保たれたケースでは、それまで青色と正しく回答していたマジョリティ(多数者)の中にも緑色だと判定を変える人が出始めた。しかし、後者のように行動の一貫性が欠けている場合には、マジョリティ(多数者)の4人はそれまでの青色という判定を変えることは無かったのである。

実験後に別室に被検者を集めて、更に青色と緑色の中間色を用いた『色彩弁別実験』を行ったところ、前者の行動の一貫性のあるマイノリティ(少数者)が混じっていたグループでは、『青色に近い色』であっても緑色であると判定する答えが有意に増えた。更に、『実験中』にはマイノリティ(少数者)の意見に合わせることが無かった者のほうが、『実験後』の色彩弁別実験では『緑色と判定する回答の比率』が高くなるという不可思議な結果も得られた。

S.モスコヴィッシはこれらの実験結果から、マジョリティ(多数者)の影響力は『本音は変わらない表層的な追従・同調(周りに合わせる公的な態度)』を生み出すが、マイノリティ(少数者)の影響力は『表面的な態度は変わらないが内面の考え方が変化する認知的葛藤(自分の本心と目に見える行動が矛盾しているという苦悩)』を生み出すと述べるに至った。マイノリティ(少数者)の意見の独特な影響力について、モスコヴィッシは『転換(conversion)』という概念を用いて説明している。

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C.ネメスが指摘するマイノリティ(少数者)が影響力を行使できる条件:内集団の仲間とみなされること

S.モスコヴィッシが『ブルー=グリーン・パラダイム実験』などによって検証したとする『マイノリティ(少数者)のマジョリティ(多数者)に対する影響力』に対しては、その後も様々な実証的な検証実験(追試)が繰り返されたが、モスコヴィッシの見解を支持する結果もあれば否定する結果もあった。『マイノリティ(少数者)の行動の一貫性』がある場合でも、マジョリティ(多数者)が全く影響を受けないというケースも確かにあったのである。

マイノリティ(少数者)の行動の一貫性があっても、マジョリティ(多数者)の意見や態度を変えることができない理由について、社会心理学者のC.ネメスらは、マジョリティがマイノリティの行動の一貫性を『誠実さ・正しさ・懸命さ』の現れとしてではなく、『頑固さ・煩わしさ・執念深さ』としてネガティブに解釈してしまうことがあるからだとした。

行動の一貫性がネガティブに解釈されてしまうと、悪印象や心理的抵抗感ばかりが強まってしまい、余計にマイノリティの意見・態度が受け容れられにくくなってしまうのである。

人間は一般的に『自分とは異なる価値観・主張を持つ他者』を、『異質な他者(自分とは異なるカテゴリーや世界に所属する他者)』としてラベリングしやすいので、『行動の一貫性=頑固さ・煩わしさ』としてネガティブに認識されてしまうと、マジョリティとマイノリティのコミュニケーションの接点がそもそも無くなってしまうのである。

マイノリティ(少数者)が『外集団に所属する多数派とは無関係な人』と認識されてしまえば、マジョリティ(多数者)は内面的な苦悩や罪悪感を感じることなく、マイノリティの主張・意見を無視することができるようになってしまう恐れがある。

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『マイノリティ(少数者)の行動の一貫性』は、好意的に受け取られればマジョリティの態度を変化させる力を発揮するのだが、否定的に受け取られればマイノリティが『外集団の一員(自分たちマジョリティとは関係ない人たち)』と見なされてしまう。そうなると、マイノリティの主張や価値観を、マジョリティの人たちに聞いてもらえなくなってしまう危険性がでてくる。そういった無視の危険性を回避するためには、マイノリティ(少数者)の人たちも『内集団のメンバー(=同じ社会に所属する仲間)』なのだということを、マジョリティ(多数者)の人たちに訴えかけて認めてもらう必要がある。

具体的な方策としては、マイノリティ(少数者)だからといって既存の制度や現状のあり方に何から何まで感情的に反発・反対するのではなく、『マジョリティ(多数者)の側とも共有可能な判断・選択・価値観』を模索して是々非々の態度で意思表明をしていくことが大切である。政治の世界でも野党(少数派)があらゆる与党(多数派)の政策・価値観にすべて反対ばかりしていれば、その反対に見合う価値ある代案を出せていない限り、『反対のための反対(単なる国会運営の妨害)』だとして逆に世論から反発や非難を受ける恐れがあるというのと同じ構造である。

マイノリティ(少数者)がマジョリティ(多数者)から『内集団のメンバー(=同じ社会に所属する仲間)』として認められれば、マジョリティの側も『必死なマイノリティの訴え(特に行動の一貫性が感じられる訴え)』を無視したり問答無用で撥ね付けたりすることが難しくなる。マジョリティに『(数の多さだけを理由にして)自分たちさえ良ければ他の人たちはどうなってもいいのか』という倫理的かつ認知的な葛藤が生じてくれば、その認知的葛藤がマイノリティの本音部分の考え方を変えて、いずれは表面的な意思決定・判断(投票・議決など)にも変化をもたらす可能性があるのである。

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