このウェブページでは、『マスコミの効果研究:議題設定効果・第三者効果』の用語解説をしています。
マス・コミュニケーション効果研究の歴史とマスメディア
マスコミの議題設定効果・第三者効果
マスコミとは“マス・コミュニケーション(mas communication)”の略称であり、マス・コミュニケーションとは不特定多数に向けて画一的な情報を一方的に大量伝達するタイプのコミュニケーションのことである。マス・コミュニケーションを実現する媒体(メディア)のことを“マスメディア(masmedia)”と呼ぶが、代表的なマスメディアとして『テレビ・新聞・ラジオ・雑誌・映画』などがある。
マスメディアが行う画一的・一方的な大量情報伝達であるマス・コミュニケーションが、大衆の心理(価値判断)や行動にどのような影響を及ぼすのかを調べる研究を『マス・コミュニケーション効果研究』というが、マス・コミュニケーション効果研究は20世紀初頭のアメリカにおいて始められた。マス・コミュニケーション効果研究の歴史的経緯は、以下の3段階にまとめることができる。
1.第1期(20世紀初頭~1930年代)……即効理論の時代。マスメディアの伝達する情報・知識・価値観の影響力が非常に強いものと仮定され、大衆はマスメディアの情報によってすぐに洗脳されてその情報の通りに行動しやすくなると考えられていた時期。
2.第2期(1940年代~1960年代)……限定効果理論の時代。マスメディアの影響力を過大に見積もって、無条件に大衆の価値観や行動をコントロールできるというような即効理論が実証研究によって否定される。マス・コミュニケーションのもたらす影響は限定的であるという『限定効果理論』が主流となり、マスコミ効果の形成に関わる諸要因が研究対象にされるようになる。
心理学者のJ.クラッパーはマスコミ効果は、大衆の価値観や行動を大きく変えるような『改変効果』はあまり持たないが、既存の態度や価値観を強化するような『補強効果』が認められるとした。
3.第3期(1960年代後半~)……新効果論の時代。第2期の限定効果論の批判的研究を通して、マス・コミュニケーション効果を生み出す諸要因の分析と検証が行われ、『議題設定・沈黙の螺旋・知識ギャップ仮説・培養理論』などの新たなマスコミ効果に関する理論仮説が提唱されることになった。
マスコミの持つ『議題設定(agenda-setting)』の効果とは、マスメディアがある特定の話題・争点・関心事を“議題(アジェンダ)”として取り上げて繰り返し伝えたり強調したりすることによって、大衆(人々)がその特定の話題・争点に興味を持つようになったり、重要性(優先度の高さ)を認識したりするようになる効果のことである。
画一的な情報を一方的に大量伝達して、大衆(人々)に『公共的意味合いのある共通の情報・知識・話題』を提供することがマスメディアの役割の一つとされる。だが、この議題設定効果によって、マスメディアが積極的に繰り返し伝えるニュースには人々は興味を持って議論しやすくなるが、マスメディアがほとんど取り上げないニュースは、人々から『初めから存在しないニュース』であるかのような無関心な扱いを受けるリスクが高くなってしまうのである。
心理学者のM.E.マコームズとD.L.ショーは、マスメディアが伝える情報(ニュース)の選択によって、人々(大衆)の興味関心の対象や話題の優先度が影響されることがあるという効果を『議題設定効果』と名付けた。1968年のアメリカ大統領選挙を調査研究の対象としたM.E.マコームズとD.L.ショーは、テレビ・新聞・雑誌などのマスメディアが強調していた選挙や立候補者の争点の優先順位が、実際の有権者が認識していた選挙・立候補者の争点の優先順位と強い相関関係があることを確認して、マスメディアには特定の話題や争点を大衆に強く意識させることができるような『議題設定効果』があると結論づけた。
マスメディアの議題設定効果とは、人々が争点や問題についてどのように考えているのかという『思考の内容(what to think)』には影響を与えられないが、人々がどんな争点や問題について興味関心を持ちやすいのかという『思考の対象(what to think about)』に影響を与えられるという効果のことなのである。議題設定効果はその後のマス・コミュニケーション効果研究でも、その効果の存在が実証されているが、“長期的な争点”よりも“短期的(突発的)な争点”で議題設定効果が強く発揮されやすいことも知られている。
マスメディアの議題設定効果は、マス・コミュニケーションの受け手である人々の意見や態度、価値観を変容させることはできないが、注意の対象や認知の傾向性に対してかなり大きな影響を与え得ることを示唆しているのである。伝統的なマス・コミュニケーション効果研究では、『情報の受け手の意見形成・態度変容』が問題にされてきたが、議題設定効果の研究では『情報の受け手の注意の対象・認知の傾向』のほうに研究の重点が置かれている。
W.P.デイヴィソンがマス・コミュニケーション効果研究を通して発見した『第三者効果(the third-person effect)』というのは、自分自身はマスコミの情報や知識の影響をほとんど受けないが、自分(自分と似た価値観を持つ人)以外の第三者だけはマスコミの情報や知識の影響を受けやすいという認知(考え方)を持ってしまう効果のことである。
マスメディアの行うマス・コミュニケーションは、情報の受け手の意見や態度、価値観を変容させるという『説得的コミュニケーション』の側面を持っているが、その説得的コミュニケーションの効果は自分や自分と似た価値観を持つ人には発揮されず、自分たちとは異なる意見・価値観を持つ第三者にだけ説得(意見形成・態度の変化)の影響を与えるという効果が『第三者効果』である。
政治・歴史などに関連するマスメディア報道について『偏向報道』だという批判は多くあるが、こういった批判をする人の多くは『自分や自分と同じ価値観の人はマスメディアの洗脳の悪影響を受けない』が、『自分とは異なる価値観の人はマスメディアに悪い方向に洗脳されてしまうだろう』という偏った認知を持っていることが多く、これも典型的な第三者効果である。
例えば、自民党的な保守主義や憲法改正論に賛同する人たちは、『護憲の平和主義・東アジア諸国との協調外交・集団的自衛権の批判・ナショナリズムの抑制』の内容の報道を偏向報道として非難することが多いが、こういった場合にも右寄りの保守主義者(自分たちと似た価値観・政治思想の持ち主)はマスメディアの説得的コミュニケーションの悪影響を受けないが、左寄りのリベラリストはマスメディアの説得に半ば洗脳されている(現実を直視できないお花畑である)といった第三者効果の前提を置いたりする。
しかし、実際には『護憲・平和主義・個人主義』などにコミットするリベラルな人たちは、マスメディアの一方的な情報によって洗脳されていることよりも、各人が歴史・政治・思想哲学などを学んでいく中で『人類の普遍的な価値理念(個人の尊厳と自由をベースにした普遍的妥当性を追求する態度)』として戦争放棄や自由主義の尊重(全体的・国家的な集団主義の牽制)に至っていることのほうが多いだろう。
マスメディアの第三者効果は『自分たち以外の大勢の人たちが説得される可能性』と『国民世論が報道内容によって影響を受ける可能性』を織り込んでいると考えられる。そのため、自分はマスメディアに説得(影響)されないと思っている人であっても、『自分以外の第三者の行動・価値観の変容』を予測した上で、自らの行動・意見を変化させる可能性があるということである。このように、他人がマスメディアに説得されるであろうという説得効果の認知によって、元々はマスメディアに影響されないと思っていた自分自身もまた付随的に説得されてしまうという効果を『効果認知の説得効果』と呼んでいる。
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