味覚(基本味)とH.ヘニングの味の四面体

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味覚研究とH.ヘニングの『味の四面体』のモデル


基本味を前提にした“要素還元的な理論”と基本味を否定した“統合的な理論”

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味覚研究とH.ヘニングの『味の四面体』のモデル

食べたモノ(食品・飲料など)の味の違いを感じる人間の味覚は、『基本味』という味の基本的な要素・単位の組み合わせによって説明されることが多い。人間は舌上にある『味蕾(みらい)』という味覚細胞が集まった感覚器官で味の違いを感じているが、20世紀初めから現在まで続いてる基本味の分類とは『塩味(鹹味,かんみ)・甘味・酸味・苦味』の4種類であり、それに出汁などに感じる『旨味(うまみ)』を加えて5種類とすることもある。

人間の味覚は非常に繊細であり、嗅覚・視覚・触覚(舌触り)の助けも借りながら多種多様な『味の違い』を区別して感じることができるが、それらの味の大まかな違いを言語的に表現しようとすれば『からい・甘い・酸っぱい・苦い・旨味がある(コクがある)』といった少数の形容詞で表現してしまうことができる。4~5種類の基本味の存在を前提にする場合には、それぞれの味覚は『多次元空間内の立体構造』として表現することが可能である。

心理学者のH.ヘニング(H.Henning)は6つの基本臭を設定したことで知られ、嗅覚に関する知覚心理学ではH.ツワールデマルカー(H.Zwaardemarker)の9つの基本臭の理論を発展させたとも言われる。H.ヘニングは6つの基本臭を分類して、それぞれの臭いを三角柱の各頂点に配置する『においのプリズム』の立体構造を考案して、全てのにおいをこのにおいのプリズム(三角柱)の表面上の点で表すことができるとした(1916年)。

H.ヘニングの考案した『ヘニングの味の四面体(Henning's tetrahedron)』も、『甘味・塩味(鹹味)・酸味・苦味の4つの基本味』を頂点にした三次元空間内の立体構造図式で味の様々なバリエーションを表現できるとしたものである。ヘニングの味の四面体を始めとする『基本味の存在』を前提とする仮説理論の根拠は、『基本味に対応する代表的な刺激物質(調味料など)が分かっていること』『刺激物質の混合で予想される味が実際の味覚評価と一致しやすいこと』『基本味の違いに対応した異なる受容機構が発見されていること』などにある。

反対に、『基本味の存在』を認めないタイプの味覚理論の仮説もあり、その場合には味覚体験は心的要素(基本味の単位)に分解したり還元したりすることはできないと考え、統合的(全体的)あるいは総合的な構成要素に分解できない知覚体験として味覚が定義されることになる。

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基本味を前提にした“要素還元的な理論”と基本味を否定した“統合的な理論”

基本味の存在を否定する『統合的(全体的)あるいは総合的な味覚理論』では、甘味・鹹味(塩味)・酸味・苦味・旨味などの基本味とされているものは、『知覚(味覚体験)の分類』ではなく『刺激物質の特徴の分類』に過ぎないと考える。また、5種類程度の基本味の分類では、『同じ味の中の微妙な質の違い』や『複数の基本味を混ぜた場合の味の単純さ(画一性)』を上手く説明できないといった反論も出されている。

基本味の存在を前提にした多次元空間内の立体構造では、それぞれの基本味が直交して交わる場合の味がどんなものになるのかイメージできない(実際の混合した味とのギャップも生まれる)という問題もあり、味覚体験をどのような仮説理論で表現すべきかを巡っては研究者間の意見やモデルの対立がある。

味覚研究では、知覚心理学における『外的刺激の分類』『内的知覚のプロセスの分析』とが混同されやすいという難しい問題があり、その味覚が『食品・飲料そのものの特徴』なのか『味覚体験という内的知覚の分類』なのかを明確に区別することがなかなか出来ないのである。

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目の視覚や耳の聴覚の研究の場合には、光の刺激や音の刺激を『波長・強度(大きさ)・音の高低』などの物理的特性によって分類して、多次元空間の立体構造上で表現することが比較的簡単であり、外的刺激と内的知覚との相関関係がすでに分かっているので研究がしやすい。

しかし、舌の味覚や鼻の嗅覚の研究の場合には、外的刺激として作用する『各種の化学物質』の特徴・影響が完全には判明しておらず、化学物質の特徴を多次元空間内の立体構造で表現するための統一的な方法論も確立していないので、外的刺激と内的知覚の区別に曖昧な部分が残りやすいのである。

味覚理論において、『基本味を前提にした理論』と『基本味を否定した理論』のどちらが正しいのかはまだ分かっていないが、この味覚研究は『人間の知覚体験の微妙な質感(クオリア)』にも関係してくる研究であり、味覚体験がその構成要素に還元できるとすれば、外的刺激をどのように知覚して表象しているかという『モダリティの知覚研究』が前進することになるだろう。

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