リーダーシップの心理学:状況対応のコンティンジェンシー・アプローチ

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このウェブページでは、『リーダーシップの心理学:状況対応のコンティンジェンシー・アプローチ』の用語解説をしています。

特性アプローチと行動アプローチ:リーダーシップ研究の方法論

コンティンジェンシー(状況対応)アプローチと認知論アプローチ:現代のリーダーシップ論


特性アプローチと行動アプローチ:リーダーシップ研究の方法論

リーダーシップ(leadership)とは、集団内における『指導的な地位・役割・影響』であると同時に、『集団目標の達成』に向かって成員(メンバー)をリードして引っ張ったり集団活動に巻き込んだりする影響力のことである。リーダーシップとは集団を構成する成員(メンバー)のモチベーションと責任感を高めて、成員それぞれの能力・適性に見合った役割(目標)を配分し、集団で共有する目標をより効果的かつ高いレベルで達成できるように導いていく影響力なのである。

リーダーシップの保有者や発揮者は、一般に集団のリーダーや高地位者であると考えられているが、現在の『リーダーシップ論』では必ずしも集団のトップリーダーだけがリーダーシップを保有して発揮するわけではなく、『各プロジェクトの達成目標』に関係するすべての人にそれぞれの役割や活動のプロセスにおける牽引力・率先力が求められているのである。リーダーシップ研究の社会学的・政治学的な歴史は20世紀初頭に始まるが、『どのような特性や能力を持っている人物がリーダーにふさわしいのか』という率直なリーダーシップ論は古代ギリシア・ローマの時代や古代日本の王朝時代から考えられていたと推測される。

リーダーシップ論の研究手法において最もオーソドックスなものとして、優れたリーダー(指導者)がどのような特性を備えているのかを解明しようとする『特性アプローチ』と優れたリーダーが実際にどのような行動を取っているのかを解明しようとする『行動アプローチ』がある。

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特性アプローチの前提にあるのは、優秀・有能なリーダーには他の一般メンバーにはない特別に優れた特性・資質があるはずということである。『特性アプローチ』の立場からさまざまな集団組織のリーダーの特徴・性格・能力などの研究成果をまとめたオハイオ州立大学の社会心理学者R.M.ストッジル(R.M.Stogdill)は、優秀なリーダーの特性として以下の5つを上げている。

R.M.ストッジルは優秀なリーダーの特性を上げる一方で、『リーダーに求められる特性・能力』は一義的に規定されるものではなく、『集団の属性・目標・性質』『問題解決が必要な状況の特徴』によっても大きく変わってくるとしている。単純に政治的なリーダーに必要な特性を考える場合でも、『内政・経済に注力すれば良い平時のリーダーシップ』『戦争・有事に対応すべき戦時のリーダーシップ』では自ずからそのリーダーに求められる特性や能力、態度は変わってくるということである。

優秀なリーダーは実際にどのような行動を取っているのかという『行動アプローチ』の先駆けとなるリーダーシップ研究として、ゲシュタルト心理学者としても知られる社会心理学者K.レヴィンが指摘したリーダーシップの3つの類型がある。クルト・レヴィンは集団を指揮・統制・誘導するリーダーシップに『専制型』『民主型』『放任型』の3つの類型があるとし、その中でも一般的に民主型のリーダーシップが生産性を向上させて目標を達成しやすくするとした。

リーダーシップ研究では効果的なリーダーシップには、『P(Performance:目標達成の促進機能)』『M(Maintenance:人間関係の調整機能)』の2種類があるとした。“P”は課題志向の厳しさ・励ましのリーダーシップ要因であり、“M”は人間志向の優しさ・配慮のリーダーシップ要因であるが、それらの二つのリーダーシップ要因を組み合わせた理論として三隅二不二(みすみじゅうじ,1924-2002)『PM理論』がある。

三隅二不二は、クルト・レヴィンの社会心理学におけるグループ・ダイナミクス(集団力学)を日本に紹介した心理学者としても知られるが、PとMのリーダーシップ機能を組み合わせた『4つのリーダーシップ・スタイル』があるとした。4つのリーダーシップ・スタイルの中では、『PM型』が最も優れた効果的なリーダーシップであるとされている。“P”は『目標達成の促進機能の高さ』、“p”は『目標達成の促進機能の低さ』、“M”は『人間関係の調整機能の高さ』、“m”は『人間関係の調整機能の低さ』を意味している。

PM型……目標達成を重視して結果を出せるように支援しながらも、人間関係の調整にもきちんと配慮しているリーダー

M型……人間関係の調整を重視していて、目標達成にはあまり熱心ではないリーダー

P型……目標達成を重視していて、人間関係の調整にはあまり配慮しないリーダー

pm型……目標達成にも人間関係の調整にも消極的で影響力の乏しいリーダー

PとMの2種類のリーダーシップ機能を前提とした欧米のリーダーシップ理論としては、R.R.ブレーク(R.R.Blake)J.S.ムートン(J.S.Mouton)『マネジリアル・グリッド理論』が知られている。マネジリアル・グリッド理論は、リーダーシップの行動スタイルを『人間への関心』と『業績への関心』という2つの態度から分析して、それらの度合いを図表上の座標(縦軸を人間への関心・横軸を業績への関心とする表)で表したものである。

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コンティンジェンシー(状況対応)アプローチと認知論アプローチ:現代のリーダーシップ論

1970年代以後の社会心理学のリーダーシップ研究では、集団組織の特性やその集団組織が置かれた状況を前提とするより実践的なリーダーシップのあり方が探索されるようになり、『コンティンジェンシー(状況対応)アプローチ』と呼ばれる研究方法が主流になってきた。コンティンジェンシー(状況即応)アプローチを前提とするリーダーシップ理論としては、F.E.フィードラー(F.E.Fiedler)『LPCモデル』P.ハーシーK.H.ブランチャード『ライフサイクル理論』R.J.ハウス『パス=ゴール理論』などがある。

F.E.フィードラーのLPCモデルでいう『LPC(Least Prefered Co-worker)』とは、職場における最も苦手な仕事仲間(共同作業者)のことであり、このLPCに該当する人物を想起させて、その人物の仕事上の能力や人材としての価値を評価させる。この最も苦手な仕事仲間を評価した点数のことを『LPC得点』というが、LPC得点が高いほどその相手を不当に低く評価しているという結論になる。つまり、このLPC得点が高いリーダーというのは、仕事に『人間関係の好き嫌いの感情』を持ち込む度合いが強く、好きな相手の評価は甘くなり、苦手(嫌い)な相手の評価は厳しくなりがちだ(いわゆる感情的な依怙贔屓をしやすい)ということを意味する。

しかし、F.E.フィードラーのLPCモデルの面白いところは、LPC得点が高い仕事に人間関係にまつわる私情を持ち込むリーダーが必ずしも結果を出せないと言っているわけではなく、同僚・部下に公平かつ平等に接するLPC得点が低いリーダーが優れていると言っているわけでもないということである。

LPC得点が高いリーダーは良く言えば『人間関係を重視するリーダー』であり、リーダーと部下の人間関係が良ければ良いほど、高いパフォーマンスの結果を出しやすい優秀なリーダーとしての側面を持っているからである。反対に、LPC得点が低いリーダーは『仕事・能力を中心に考えるリーダー』であり、リーダーと部下の人間関係に左右されないので、集団目標が適切に設定されていて成員がその目標を達成する能力を持っていれば高いパフォーマンスの結果を出しやすくなるのである。

F.E.フィードラーのLPCモデル

LPC得点が高いリーダー……人間関係を重視するリーダーである。集団のコントロール状況が中程度であれば高いパフォーマンスを発揮しやすい。

LPC得点が低いリーダー……仕事・能力を中心に考えるリーダーである。集団のコントロール状況が高い場合や低い場合に高いパフォーマンスを発揮しやすい。

『集団のコントロール状況』とは、リーダーと部下の人間関係が良好で、部下が自分の能力と役割配分を把握しており、リーダーの適度な公的権力と権威性が保持されている状況のことである。

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P.ハーシーK.H.ブランチャード『ライフサイクル理論・SL理論(Situational Leadership)』は、集団の成員(メンバー)の仕事の成熟度(習熟度)によって効果的なリーダーシップのあり方は異なるというものである。つまり、仕事の成熟度が低いうちは『教示的リーダーシップ』が有効であるが、成員(メンバー)が仕事により成熟・習熟するに従って、効果的なリーダーシップの種類が『説得的リーダーシップ』『参加的リーダーシップ』『委譲的リーダーシップ』へと移り変わっていくという理論になっている。

P.ハーシーとK.H.ブランチャードの『ライフサイクル理論・SL理論』は、有効なリーダーシップのスタイルがメンバーの成熟度などの状況要因に応じて変わるとする典型的な『コンティンジェンシー・アプローチ』であり状況対応型のリーダーシップの4類型をまとめたものである。

1.教示型(指導型)リーダーシップ……仕事の成熟度が低い部下(未成熟な部下)に対応したリーダーシップ。仕事に関する具体的な指示を細かく出して、部下の行動を促す。課題志向が強くて、人間関係志向が弱いリーダーシップ。

2.説得型(コーチ型)リーダーシップ……仕事の成熟度がやや高まってきた部下(やや未成熟な部下)に対応したリーダーシップ。リーダーの手本的な考え方を説明して、部下の疑問や悩みに応えて誘導する。課題志向も人間関係志向も共に強いリーダーシップ。

3.参加型(カウンセリング型)リーダーシップ……仕事の成熟度がかなり高まってきた部下(やや成熟した部下)に対応したリーダーシップ。部下の自立性を高めるためにバックアップし、相互の考え方を調整して活動する環境を整備していく。課題志向が弱くて、人間関係志向の強いリーダーシップ。

4.委任型(エンパワーメント型)リーダーシップ……成熟度と自立度が高まった部下(成熟した部下)に対応したリーダーシップ。仕事の権限・責任を大幅に委譲して自律的に動ける環境を整え、部下の目標達成の能力・責任感を強く信頼している。課題志向も人間関係志向も共もに最小限に抑えていて、部下の能力・責任を強く信頼している型のリーダーシップ。

P.ハーシーは『優秀なリーダーは、個々のメンバーが持っている様々な能力や動機づけ(意欲)を知ろうとする関心と探究心を持っていなければならない。それを理解して解釈する感受性・診断能力を持ち、メンバーの能力・意欲に対応できる柔軟性と幅広い技能を備えているべきだ』としている。

R.J.ハウス『パス=ゴール理論』では、リーダーシップの本質をメンバーが仕事上の目標を達成するために、どのような知識・能力・経験を身に付けてどのように仕事を進めていけば良いのかという具体的なノウハウやゴール(結果)までの順路を示すことにあるとしている。R.J.ハウスのパス=ゴール理論でも、最適なリーダーシップは状況・目標に応じて大きく変わってくるというコンティンジェンシー・アプローチ(状況対応アプローチ)が採用されているのである。

コンティンジェンシー・アプローチのリーダーシップ研究と並んで注目されているのが、リーダーとメンバー(成員)との相互作用によってリーダーシップの実際の影響力・効果が規定されてくるとする『認知論アプローチ』である。認知論アプローチでは、リーダーシップの実際の効果はリーダーと共同して仕事をするフォロワーたちの認知(リーダーの能力・指示・人間性などに対する捉え方)によって大きな影響を受けるということが前提になっている。

認知論アプローチのリーダーシップ研究には、リーダーシップの影響力が『心理学の原因帰属の誤謬』によって、実際の効果や影響力よりも大きく見積もられやすいということを指摘した『リーダーシップ幻想論(leadership romance)』などの研究もある。

リーダーシップ幻想論では、集団組織が優れたパフォーマンスを発揮して業績を上げた場合に、その原因が『優れたリーダーシップ(リーダーの有能性・主導性・求心力)』に自動的に帰属させられやすいことが指摘されており、歴史的に大きな業績を達成した国王・英雄・賢臣などが特別なリーダーとして神格化されやすい理由にもなっているのだという。しかし、実際は優れた業績や成果を挙げられた理由は、部下(メンバー)の能力・意欲・協力や敵対勢力の状況などが組み合わされた『複合的な要因』であることが多く、神格化されたリーダーがもう一度同じような苦境や困難に直面したとして、その状況を上手く切り抜けるリーダーシップを発揮できるかは分からないとしている。

現代の社会心理学のリーダーシップ研究では、『変革型リーダーシップ(transformational leadership)』『交流型リーダーシップ(transactional leadership)』の2種類のリーダーシップの組み合わせによって、集団組織の目標や課題の達成が促進されやすくなると考えられるようになっている。

『変革型リーダーシップ』というのは、集団組織に創造的な自己変革能力を与えるリーダーシップであり、長期的目標と環境変化にメンバーの意識を向けさせて、自らが率先して変革の行動をしながら、目標・環境適応を達成できる手順を示すというものである。『交流型リーダーシップ』というのは、リーダーがメンバーと相互交流のコミュニケーションを取りながら人間関係を調整してまとめるリーダーシップであり、集団組織の目標達成や問題解決を促進するために全員が一丸となって協働できる体制(集団内の不和・分裂の対立を抑止して機能的に協力できる体制)を作り上げていくものである。

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