攻撃行動の動機づけの心理学:攻撃行動と社会的認知

このウェブページでは、『攻撃行動の動機づけの心理学』の用語解説をしています。

攻撃行動の動機づけと社会的認知

攻撃行動と情動・観念との関係


攻撃行動の動機づけと社会的認知

攻撃行動(aggressive behavior)とは他者に意図的に危害・損失を与える行動であるが、心理学者のJ.T.テダスキらは人はどうして攻撃行動を行うのかという、『攻撃行動の動機づけ』を研究した。攻撃行動の動機づけには、その人が他者や社会、状況をどのように認知しているのかという『社会的認知(social cognition)』が大きな影響を与えているが、攻撃行動を引き起こす動機づけを大きく分類すると以下のようになる。

1.防衛・回避……他者の攻撃から自分を守るため、危険な状況を回避するためにやむを得ずに攻撃行動を行おうとする動機づけで、この動機づけは『他者が自分を傷つけようとしているという悪意・敵意』を想像する時に強まる傾向がある。自分が危害・損失を被った原因を、『他者の意図(悪意・敵意)』に帰属させるという意図帰属の社会的認知によって、『攻撃行動の防衛・回避の動機づけ』は高まることになる。

2.強制・影響……他者に何らかの行動を強制するため、自分の意見・指示の影響力に実効性を持たせるために戦略的に攻撃行動を行おうとする動機づけで、この動機づけは『他者が自分の強制に従いそうな予測』が成り立つ時に強まる傾向がある。自分が相手に強制して思い通りにコントロールできるという『効力期待』が強いほど、この『攻撃行動の強制・影響の動機づけ』は高まることになる。例えば、自分が相手に対する報酬と罰をコントロールできる立場にある時、相手よりも優位に立てる権力・地位・財力・人間関係・腕力(恫喝)などを持っている時に、『強制・影響』の動機づけによって攻撃行動が起こりやすくなる。

3.制裁・報復……自分に危害・迷惑・損失を与えてくる人、社会規範(ルール)に違反する人を処罰したい(制裁・復讐を加えたい)とする動機づけで、この動機づけは『他者の法律的・倫理的なルール違反』が明確であればあるほど強まる傾向がある。制裁・報復の動機づけによる攻撃行動には、『相手が自分に対して危害を加えたという個人的ルールの基準』と『相手が法律・マナーに違反して他人一般や社会に対して危害を加えたという社会的ルールの基準』の二つが複雑に関係している。『制裁・報復』の動機づけによる攻撃行動は、『他者の責任判断(その相手にどれくらいの違反の責任があるか)』の社会的認知と関係があり、『社会規範の知識+その相手の善悪の分別や行動制御能力+倫理規範の考慮』などによって攻撃行動の強さは変わってくる。

4.印象操作・同一性……他者に与える自分の印象をコントロールしたいとか、自己イメージの一貫した同一性(社会的な信用・名誉)を守りたいとかいった『印象操作・同一性』も攻撃行動を引き起こす動機づけになることがある。“主張的自己呈示”では『自分の強さ・勇敢さ・優越性』を証明しようとするような形で、自分と対等な目線で話しかけてくる相手に攻撃行動を取ることがある。“防衛的自己呈示”では『他者からの侮辱・揶揄・軽視』に対して、怒りの感情と共に『自分の信用・自尊・名誉(面子)』を守るために攻撃行動を取ることが多くなる。『印象性・同一性』の動機づけは、他人が自分をどのような存在として見ているかという『メタ認知の推測』が社会的認知として機能しているのだが、そのメタ認知を自分の望ましい方向(自分の自己イメージ・印象を良くする方向)に変えるために、他人に対して攻撃行動を取りやすくなるのである。

他者・社会・状況をどのように見るかという『社会的認知』が関わった攻撃行動は、一般に特定の目的・意図を達成するための『戦略的攻撃行動』と呼ばれるが、この戦略的攻撃行動は『フラストレーション(不快なストレス刺激)に対する単純な反射行動』ではないという特徴がある。戦略的攻撃行動では、『攻撃する人の他者・状況に対する解釈や推論』が大きな役割を果たしており、フラストレーションに対する反射ではなく、その人の特定の意図・目的(その攻撃行動によって何かを実現したいとする意図)が織り込まれた行動選択なのである。

攻撃行動と情動・観念との関係

戦略的攻撃行動は他者や社会をどのように解釈するかという『社会的認知(social cognition)』によって媒介されているが、攻撃行動は怒り・恐怖・不満といった『負の情動(ネガティブな感情)』によっても強く動機づけされやすい傾向がある。負の情動(ネガティブな感情)を抱いていると、上記した『防衛・回避』『制裁・報復』といった攻撃行動の動機づけが高まりやすくなり、怒ったり恐怖を感じたり不満をぶちまけたりする時にそのまま直接的な攻撃行動が起こりやすくなってしまう。

“失業・貧困・離婚・失恋・対人トラブル・病気”などの何らかのストレス状況と一緒に負の情動(ネガティブな感情)を経験していると、『物事を悪い方向に受け止めて解釈する社会的認知』がいつの間にか働きやすくなる。その結果として、些細な出来事を必要以上に悪く受け止めて腹を立て、攻撃行動が起こりやすくなってしまうという問題もある。

本人にも自己制御することが難しい、突発的に起こる『衝動的な攻撃行動』の認知メカニズムを分析したのが、心理学者のL.バーコウィッツK.B.アンダーソンであり、彼らは認知心理学・社会心理学の分野で『攻撃行動の心的モデル(観念・情動・制御困難性との相関を持つ攻撃行動の心的モデル)』を論理整合的に構築した。

人間の内面世界では、『複数の観念(イメージ)・情動』が経験・意味・音韻・時間(時期)などで結びついてネットワークを形成していると考えられているが、特に『不快・苦痛な情動』『(他者の悪意や状況の悪化を推測する)攻撃行動を誘発する観念』は結びつきやすい。つまり、何らかのストレス事態が起こって『不快・苦痛な情動』を感じていると、無意識的に『攻撃行動を誘発しやすい観念(物語性)』が頭に浮かびやすくなっているのであり、『攻撃的な観念・意味づけ』に対して意識が向きやすくなってしまう。

内的世界にある『情動・観念のネットワーク』が活性化されて、『他人を攻撃する動機づけにつながる観念』が刺激されている時には、些細なストレスを感じる状況や他人の言動を『攻撃的な観念』をベースにして解釈することになる。そのため、自分でも思っていなかったほどの怒り・不満・攻撃性が湧き上がってきて、『衝動的な攻撃行動』に突き動かされてしまう恐れが出てくる。

内的な情動・観念のネットワークを介した各種観念の活性化の心的プロセスは、『低次の無意識的な認知プロセス』であるため、攻撃行動が起こりやすい心理状態になっていても本人は気づくことが極めて難しい。自分自身でも怒りっぽく攻撃しやすい心理状態になっていることが分からないから、攻撃性の自己制御(セルフコントロール)が効かずに、突発的で衝動的な攻撃行動が起こりやすくなってしまうのである。

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