今の日本では転職者が急増しています。年間の転職者は約330万人以上(23年は328万人)、転職希望者は約1000万人以上にものぼります。「大転職時代」といわれるように、私も含め転職経験がある人のほうがむしろ多数派になっています。
昭和から平成初期くらいまで「一度入った会社(役所)を絶対にやめてはいけない。転職すれば待遇はどんどん悪くなる」が常識でした。「転職は悪・転職回数が多い人は使えない人材」といわれていましたが、そういった古い常識はほぼ塗り替えられています。
もちろん、今でも一度大企業の社員や公務員になったらやめないほうがいいは「安定した雇用・給与・社会保障(厚生年金・企業年金)」の部分では間違っていません。ただ大手や公務員を辞める転職者数も年々増え続け、中小零細はさらに転職が多くなっています。
なぜ今の日本で約330万人にまで転職が増加しているのでしょうか?転職したら給料は上がるのか下がるのか?その転職理由と待遇・給料の変化を挙げながら、「せっかく転職するのであれば」ということで「転職を成功させるための意識の持ち方・下準備」についても考えていきます。
日本で転職が増加している理由1(転職者による主観的理由11個)
近年、日本で急速に転職が増えている理由は何なのでしょうか?「doda(デューダ)の転職理由ランキング」を参照すると以下のようになっています。ランキングに出ている転職理由は「お金の不満・人間関係などにまつわる本音」ですが、実際の転職活動で理由を聞かれたときは「ネガティブな解釈をされない前向きな理由」に言い替える必要はあります。
給与が低い・昇給が見込めない
身も蓋もない理由ですが、「給料が少なくて足りない・その会社にいても昇給に期待できない」が転職理由の第1位です。会社で仕事をする最大の理由はやはり「お金(給料)」ですから、「もっと高い給料をもらいたい・今の給料では生活が厳しい(今の会社では給料が上がらない)」で転職を考える人が多いのです。
前向きな理由への言い換え
○自分の今までのキャリアを生かしてよりレベルの高い仕事に挑戦してみたかったから。
○自分の市場価値や実績を高めながらそれに見合う給与の仕事をしたかったから。
○(本当に抜きん出た能力・実績・自信があるなら)直接給与・報酬の金額交渉もありですが、転職エージェントを挟んでの間接的な交渉・面接前の大まかな金額確認が望ましいです。
社内の雰囲気が悪い
「社内の雰囲気が悪い」は率直にいえば、「会社の上司・同僚・部下と合わない」や「社内の慣習的な仕事のやり方・意思疎通が気に入らない」ということです。その会社の居心地が悪くて、人間関係や慣習的なやり方も合わないという理由が第2位に上がっています。
前向きな理由への言い換え
○社風・事業内容と自分のやっていきたい仕事のズレが大きくなってきたため。
○自分のポテンシャルをより発揮できそうな御社の社風・求人内容に強く引きつけられたから。
人間関係が悪い・うまくいかない
昔からの転職理由の定番として「人間関係が悪い」があります。毎日通う職場の人間関係で「極端に気が合わず自分を攻撃してくる人・コミュニケーションのストレスが大きすぎる人」がいると、仕事自体は好きでも辞めざるを得ない心理状態に追い込まれやすいからです。
前向きな理由への言い換え
○前の会社で培った経験や技術を生かして新しい仕事にチャレンジしたくなったから。
○御社の事業内容や求人条件であれば自分のキャリアをさらに生かせると思ったから。
尊敬できる人がいない
人間関係が上手くいかないとも相関しています。社内に「尊敬できる人・ロールモデル(目指すべきお手本)になる人」がいないと、その会社に将来性が感じられず転職理由になりやすいのです。
前向きな理由への言い換え
○今後のキャリアの展望として、今までの経験からさらにステップアップできそうな御社の事業に魅力を感じたから。
○御社の○○社長のキャリアや経営理念を拝聴して、前の会社では実現できない仕事(ビジョン)に自分も参加したいと思ったから。
会社の評価方法に不満があった
「会社から自分が人材として適切に評価されていない・他の社員との差別的な評価に納得できない」という不満も、常に転職理由の上位にランクインしています。
前向きな理由への言い換え
○自分のキャリアをさらに発展させられそうな御社の事業・ビジョンに共感したから。
○自分の能力・技術・経験をより適切に生かすことができる職場への転職を考えているから。
肉体的または精神的につらい
転職理由の本音として、「肉体的(体力的)にその仕事を続けられそうにない」はやはり多くなっています。人間関係やハラスメント含め、「精神的ストレスが限界に近くてつらい」というのも多い理由です。
転職活動に向いた考え方
○体力や精神力(ストレス耐性)がないことは伝えない方が良い。
○客観的な勤務時間・雇用条件などを質問した上で、自分の体力・メンタルで働けそうかを考えてみる。
社員を育てる環境がない
新入社員・若い世代の社員に多い転職理由ですね。今の会社にいても「上司・先輩からキャリアアップにつながる教育」をしてもらえない。こうなると「人材価値の上がらない単純作業の繰り返しになるだけの不安」から転職しやすくなります。
前向きな理由への言い換え
○御社の求人内容が自分の考えているキャリアプランに一致していたため。
○御社に貢献しながら新しい仕事のキャリアを積み上げていきたい。
意見が言いにくい・通らない
極端なトップダウンの組織運営で、「上司・会社に対して意見が言いにくい」というのも多い転職理由です。仮に意見そのものは多少言えたとしても、「自分の意見はまったく通らない・聞いた振りをしているだけ」という職場環境には長くいづらいものです。
前向きな理由への言い換え
○社風・事業内容と自分のやっていきたい仕事のズレが大きくなってきたため。
○自分のポテンシャルをより発揮できそうな御社の社風・求人内容に強く引きつけられたから。
昇進・キャリアアップが望めない
今の会社で勤続年数を増やしたとしても「昇進できる可能性やポストがない」というのも転職理由になります。またその会社に長くいても「他社でも通用するようなキャリアアップができない」も、「将来性のなさ+その会社が経営破綻した時のリスクの大きさ」から転職の圧力になります。
前向きな理由への言い換え
○今までの仕事の経験を生かしてキャリアアップにつながる転職をしたいため。
○自分の仕事の能力・実績に応じた報酬・昇進のある会社への転職を考えている。
ハラスメントがあった(セクハラ・パワハラ・マタハラなど)
ハラスメントの被害は転職しても当たり前の理由になります。転職活動においてパワハラ・セクハラの被害をどこまでストレートに伝えるべきかのさじ加減はありますが、「ハラスメントの被害事実」そのものを伝えて不採用になる会社には「ハラスメントの再リスク」があるかもしれません。
労働時間に不満(残業が多い・休日出勤がある)
「勤務時間が長すぎる・休日の日数が少なすぎる」というのは、本音の退職理由で多いものです。人生の大半の時間を「仕事・職場」で費やす以上、「極端な長時間労働+休日の少なさ」はQOL(生活の質)をかなり下げてしまいます。
転職活動に向いた考え方
○現在の家庭生活(家庭の事情)と両立可能な勤務条件で転職活動をしている。
○初めから細かな「労働時間の条件」を突きつけるのはNG。自分で労働時間を含む雇用条件を調べたり質問したりした上で、どうしても希望と合わないのであれば他の企業への転職を考えるべき。
日本で転職が増加している理由2(客観的データ・日本の経済と雇用の変化)
日本で転職が増えている「各個人の主観的な転職理由」について紹介してきました。一方、現在の日本は「客観的なデータ・経済状況」で見ても、以下のように転職が増加しやすい要因が多くなっています。
企業の倒産件数:同じ会社で働き続けたくても転職せざるを得ない人も増えている
コロナ禍や増税・円安もあり、日本の企業の倒産件数は増加傾向にあります。2023年の倒産件数は「8690件(前年6376件・35.1%増)」で前年から2000件以上も増えています。 業種別では、飲食業を含むサービス業が2940件(前年比41.6%増)でもっとも多くなっています。
倒産した企業の大半は中小企業で、2024年もコロナ禍の「ゼロゼロ融資」(無利子・無担保の特例貸付け)の返済ピークで約1万件は倒産するのではと予測されています。公務員や大企業の正社員以外は、転職を希望していなくても「転職するしかなくなる人」も相当にいるのです。理想的な転職は「キャリアアップ型・チャレンジ型の転職+ポータブルスキル拡張型の転職(どこでも雇われる経験・技能・人脈の獲得)」ですが、会社の経営が傾いたから転職せざるを得ないというケースも増えています。
日本の法人は約200万社、個人企業は約150万社あると推測されていますが、現代ではさまざまな意味で「会社・ビジネスの淘汰」が進みやすい時代になっています。
企業の平均寿命30年説
企業は一般に思われているよりもかなり短命です。中小企業の平均寿命は約20年、上場企業の平均寿命は約15年と短くなっています。企業の10年生存率は「約70%」しかなく、中小企業の10年生存率は「約26%」と極端に少ないのです。
よほど安定した企業や時代の波に左右されない業界でないと、約20年先には働いている会社そのものが無くなっているかもしれません。中長期的に「転職するしかない状況(他の企業でも雇われるだけのキャリアがないと困る状況)」になっている可能性を誰もが抱えている時代になっています。
正規雇用と非正規雇用の比率:非正規雇用におけるスキルアップ+非正規から正規雇用への転換
2023年の正規雇用者数は「約3,615万人」、非正規雇用者数は「約2,124万人」です。コロナ禍では飲食業・サービス業などの自粛や業態縮小などもあり、非正規雇用が減って正規雇用が増える逆転現象もありましたが、労働者全体の約3~4割が非正規雇用化しています。
非正規雇用には主婦(主夫)のパートのような「自発的な非正規雇用(短時間労働の選好)」と本当は正規雇用で働きたいのに非正規雇用でしか雇ってもらえない「非自発的な非正規雇用」があります。非自発的な非正規雇用は、非正規雇用全体の約9.6%と低くなってはいます。一方、非自発的(不本意)な非正規雇用の人たちは「スキルアップ・キャリアアップを含めた正規雇用(正社員)を目指す非正規雇用」であり、転職の動機づけが強い人たちだといえます。
日本の平均所得低下・終身雇用崩壊:転職して他社でも通用するキャリアがないことの不安・リスク
日本のGDPは2023年にドイツに抜かれて世界4位に後退しました。2023年の日本の一人当たりGDPも約33,950ドル(約509万円)で世界35位にまで低迷しています。円安でドルからの円換算なので509万円はやや高めの数字になっていて、実際の日本の平均所得は400万円台とされています。
2021年の日本の一人当たりGDPは世界24位でしたから急激にその順位を落としているのは確かです。日本の平均所得は約445万円、中央値では約396万円とされていますが、企業規模・業種・正規と非正規での格差は大きくなっています。
実際、ある程度の規模の会社や公的機関に雇用されていない十分なキャリアもない人(ずっとバイトの人+途中の無職期間も長い人等)が、求人情報やハローワークで仕事を探しても年収400万円台の仕事にありつける可能性はそう高くないのです。
日本の平均年収が低下傾向にあり格差も拡大傾向にあります。古い日本企業のいったん雇われれば定年まで雇い続けてもらえて、勤続期間が長くなれば年功賃金で給料も多くなっていくという「終身雇用+年功賃金の安定路線」が減っていて先行きも不透明になっています。
そのことが、「いざ今の会社に雇ってもらえなくなった時にどうするのか?+同じくらいの待遇や給与を得られるのか?」という転職に関連する危機感にもつながりやすくなっているのです。
転職後の給料は上がるのか下がるのか?
転職希望者の最大の関心事。それは「転職すれば給料は上がるのか?」です。一方、「転職すると給料が下がるのではないかという不安の声」も多く聞かれます。この疑問に対するシンプルな答えは、「その人のキャリア・スキル(会社が求めている技能)・転職後の実績(成果)によって変わる」になります。
厚生労働省の「雇用動向調査」のデータでも、転職後に「年収が増加した・年収が減少した・年収は変わらない」はそれぞれ3割と出ています。客観的データでも、転職して「年収が上がる人」と「年収が下がる人」の割合はほぼ同じで、「給料が増えるか減るかは人による」としかいえないのです。
転職によって給料(年収)が上がる人の平均は「約5~10%の増加」となっています。年収400万円の人であれば、給料アップ・キャリアアップの転職に成功した場合、おおむね「年収420~440万」へと上がりやすくなっています。もちろん、ヘッドハンティングや実力主義の出来高制・年俸制などで「数十%以上・2倍以上(100%以上)の年収アップ」ができる人もいますが、特殊な転職の成功事例です。
転職によって給料(年収)が下がる人は、それまでのキャリアが転職後の会社に評価されていないということになります。未経験者・入社後にスキル獲得する人などの転職では、「約20~30%の年収ダウン」のケースもあり得るので、「給料が少ないから転職したい」という人は「転職後の給与条件」の最終チェックをしっかり行う必要があります。
結局、転職はしたほうが良いのか?
ここまで見てきたように、日本では年間の転職者が約330万人いて転職が増加しています。では、現代ではみんな転職したほうが良いのでしょうか?この答えも「勤務先の存続と給与・自分のキャリアとポジション・ポータブルスキルの有無」によるとしか言えませんが、現代では「転職するリスク」だけではなく「転職しないリスク」も高まっている点に注意は必要です。
ずっと転職しない最大のリスクは、「ビジネスパーソンとしての自分の客観的な価値・評価が分からなくなる」ということです。「人生100年時代・老後不安社会(社会保障制度の負担増と給付減・老後資金2000万円問題)」において労働者として働く期間は65歳から70歳以上へと長くなる一方です。
しかし、企業の平均寿命は30年にも満たず「約15~25年」しかありません。約40~50年の労働期間を「一つの勤め先(会社)」だけで働くことが難しくなっているわけです。転職経験がゼロだと「一つの勤め先だけでしか通用しないキャリア・スキル・仕事経験」になる可能性があり、人生の中盤以降に今の会社にいられなくなった場合、転職が難しくなって待遇・給与がかなり悪くなるリスクがあります。
「結局、転職はしたほうが良いのか?」の問いに対しての答え。「転職経験+転職して待遇が良くなる経験」は一つのビジネススキルで、他の会社でも自分が通用する(求められる)という自信につながるメリットはあります。
「転職市場における自分の客観的な評価(実際に雇われるか・雇われて給料は良くなるか)」を知ることができるため、実際に転職までしないとしても転職活動を経験してみることの価値はあります。「収入・仕事内容・企業の規模やイメージ・休日・やり甲斐・勤務地・ワークライフバランス」など「転職して何を改善したいのか?実際に改善できるのか?」を自己分析することにも意味があります。「転職で改善したいポイント」を自己分析して転職活動をすることで、自分の求めているキャリアプランやワークスタイルが具体的に分かるのも良いところです。
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