双極性障害(躁うつ病)の特徴とうつ病との違い

双極性障害(躁鬱病)の症状・問題の特徴
双極性障害(躁うつ病)とうつ病の違い

双極性障害(躁鬱病)の症状・問題の特徴

現在のDSM‐Ⅳに記載されている双極性障害(bipolar disorder)は、20世紀の半ばまでは躁鬱病(躁うつ病)と呼ばれることが多く、一般的にも躁鬱病という名前のほうが良く知られています。20世紀最大の精神医学者の一人であるエミール・クレペリン(E.Kraepelin, 1856-1926)の精神病理学の教科書では、統合失調症と躁鬱病が『内因性二大精神病』として定義されましたが、現在でも『(重症度の高い)精神病』といえばこの二つの精神疾患のことを意味することが多くなっています。

『内因性』というのは、心因性(トラウマ・ストレスなどの心理的原因)でも外因性(頭部損傷・脳血管障害・脳腫瘍などの外傷的原因)でもない内部的原因のことであり、特定の原因がなくても自然に発症してしまうような精神疾患のことを指していました。現代では内因性というのは、『遺伝・体質・生得的脆弱性+ストレスの要因』として理解することができ、生物学的・遺伝的な脆弱性にストレスがかかることで精神疾患が発症する『素因-ストレスモデル』というものも提唱されています。『双極性(bipolar)』というのは、気分がハイ(高い)になり活動性が高まる“躁病・躁状態”と気分がロー(低い)になり活動性が落ちる“うつ病・うつ状態”の『二つの極のエピソード(症状的な出来事)』を持っているということです。

うつ病も双極性障害も『気分障害(感情障害)』のカテゴリーに入れられている精神疾患であり、気分と活力、意欲、興味が落ち込むうつ状態だけが見られるうつ病は、双極性障害に対して『単極性障害』と呼ばれることがあります。気分が高揚する躁病相と気分が落ち込むうつ病相を繰り返す『躁うつ病』については古代ギリシア・ローマの時代から、ガレノスの四大体液説の中で『循環気質・循環病(躁うつ病)』として知られておりその歴史は古いのですが、E.クレッチマー『体型性格理論』でも肥満体型と循環気質が結びつけて考えられています。

過去の偉人や賢人、創作家の病歴を調査する病跡学(pathography)では、クリエイティブな仕事をする芸術家や音楽家、作家などにも躁うつ病の既往があったとされており、精力的・高揚的に多くの価値ある作品を手がけて完成させている時期には、自分で自分の創作衝動を制御できないほどに興奮して高ぶる『躁病エピソード』が見られたとも言われます。有名人の双極性障害としては、画家のゴッホ、作家のゲーテ、ヘミングウェイ、政治家(英国首相)のウィンストン・チャーチル、音楽家のカート・コバーン、俳優のメル・ギブソン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、日本の作家の中島らも(自殺で死去している)、精神科医・作家の北杜夫などが知られていて、その他にも歴史的に著名な作家・音楽家・哲学者に双極性障害のエピソードがあったのではないかと考えられています。

双極性障害は更に、興奮し過ぎて日常生活や仕事が困難になり対人関係のトラブルを繰り返すほどの激しい“躁状態”のある『双極Ⅰ型障害』とそれよりも程度が軽くて気分が高ぶって活動的・多弁になるくらいの軽躁状態のある『双極Ⅱ型障害』に分類することができますが、詳細は『双極性障害(躁鬱病)の“Ⅰ型・Ⅱ型”の分類と“軽躁エピソード”が持つ幾つかの問題点:1』のブログ記事のほうも参考にしてみて下さい。

双極性障害(躁うつ病)とうつ病の違い

代表的な気分障害(感情障害)が、憂鬱感や気分の落ち込み、興味・喜びの喪失、意欲・気力の減退、希死念慮などのうつ状態だけが見られる『うつ病(単極性障害)』ですが、うつ病に気分が高揚してハイテンションになり落ち着きがなくなる“躁病エピソード(躁状態)”が加わった精神疾患を『双極性障害(躁うつ病)』といいます。

気分障害にはそれ以外にも、軽度のうつ状態が慢性化して2年以上にわたって続く『気分変調性障害』、軽度のうつ状態の時期と軽度の躁状態の時期が慢性的に繰り返されそれが2年以上にわたって続く『気分循環性障害』などもあります。これらの長期化・慢性化した気分障害(感情障害)では、重症のうつ病や双極性障害と比べると『希死念慮・自殺企図のリスク』は低いのですが、『難治性・向精神薬が効きにくくなる・QOL(生活の質)が長期にわたって低くなる・治療の動機づけが弱くなる』など別の問題がでてきます。

APA(アメリカ精神医学会)の作成したDSM‐Ⅳ(精神障害の診断・統計マニュアル)などによるうつ病と双極性障害(躁鬱病)の違いは、『躁状態(躁病エピソード)の有無』という非常にシンプルなものですが、実際の患者に現れる症状はかなり複雑なものになります。いったんはうつ病と診断されて治療を受けていた患者が、実際には双極性障害だった(躁病エピソードが分かりにくくて本人にも医師にも見過ごされていた)という事例も少なくないということもあり、うつ病と双極性障害の鑑別的な見極めには『気分・感情のエピソードの精緻な聴き取り』が重要になってきます。

双極性障害とうつ病の鑑別が難しい最大の理由は、『うつ病相から発症して双極性障害へと経過していく症例』が多いからであり、初めにうつ病相を何回か繰り返した後に躁病エピソードが発症するようなケースでは、うつ病(単極性障害)の診断を受けて抗うつ薬を中心とした薬物治療を受けることが多くなってしまうのです。抗うつ薬で『躁転(興奮・高揚・軽率さの過剰)』を起こしやすい双極性障害には、抗うつ薬を中心とした治療は必ずしも向いていないという問題があり、うつ病として治療を受けている人でもある程度長いスパンを取って『症状の経過,エピソードの変化』を見ていく必要があります。双極性障害と診断された女性の症例では、その約7割以上が『うつ病相から始まって後で躁病相も出てきた双極性障害』になっており、その時点でうつ病相だけが出ているからといって、そのままうつ病(単極性障害)だと確実に判断できるわけではないのです。

初めにうつ病エピソードから始まって後で躁病エピソードがでてくる症例では、『うつ病エピソードの発症が突然である・そのうつ病エピソードが比較的重症であることが多い・軽度の妄想や幻覚などの精神病症状を伴うことがある・過眠過食の症状がでやすい』という特徴が指摘されます。うつ病と双極性障害の疫学的な違いとしては、『うつ病の生涯有病率:10~20%,双極性障害の生涯有病率:1%』『うつ病の男性と女性の有病率:男性は5~12%,女性は10~25%』『双極性障害の男性と女性の有病率:男女共に0.4~1.6%』となっています。うつ病と比べると双極性障害は圧倒的に発症しにくい疾患ではあり、女性が罹りやすいうつ病と比較すると男女の発病率の違い(発症率の性差)も小さくなっています。

双極Ⅱ型障害になるとその生涯有病率は約0.5%とかなり小さくなりますが、近年は典型的な双極Ⅰ型よりもこの双極Ⅱ型のほうが増えているようです。躁病相とうつ病相が急速に年に4回以上にわたって交代する『ラピッドサイクラー(急速交代型)』は、双極性障害全体の5~15%に当たるという統計的割合が出ていますが、気分障害が慢性化した『気分循環障害』のほうも生涯有病率は約1%になっています。双極性障害には『家族歴・遺伝要因』がうつ病よりも強く関係しており、一卵性双生児の研究では二人が同じようにうつ病になる確率は30~40%なのに対して、双極性障害のほうは40~70%の双生児が同じように発症しています。『好発発症年齢』については、うつ病では40代前後の中年者が多いのに対して、双極性障害では30代前後の比較的若い時期に発症するケースが多くなっています。

うつ病の病前性格『几帳面・生真面目・責任感が強い・秩序を重視する・他人に配慮し過ぎる・融通が効かなくて頑固』などの“メランコリー親和型性格・執着性格”が良く知られていますが、双極性障害(躁うつ病)の病前性格としてはE.クレッチマーが定義した『社交的で明るい・温厚で人当たりが良い・誠実で真面目・他人の世話を焼く・優しくて共感性が高い』などの“循環性格(循環気質)”というのがあります。

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