境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に対する接し方はなぜ難しいのか?:感情・気分・対人関係の不安定と衝動性・攻撃性
境界性パーソナリティー障害の人にどのように接すれば良いか?1:穏やかで冷静な態度・同じスタンスの対応
境界性パーソナリティー障害の人にどのように接すれば良いか?2:先入観・拒否感を持たずにフラットに接する
境界性パーソナリティー障害の人にどのように接すれば良いか?3:本人の主体性・責任の尊重と枠組みの設定
境界性パーソナリティー障害(borderline personality disorder)(別ページ)
境界性人格障害の“認知・感情・行動”のパターン(別ページ)
境界性パーソナリティー障害に対する共感的・受容的なカウンセリングの難しさ:対人関係のトラブルを起こす要因(別ページ)
境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害,BPD:Borderline Personality Disorder)は、気分と感情が不安定になりやすく、人に対する対人評価が褒めたり貶したりで急に変わりやすいために『対人関係の不安定さ・他者とのトラブルの多さ』が目立ちやすくなります。
『衝動性・攻撃性』という特徴もあるので、相手が自分の気に入らない反応や態度を取るとすぐに怒ったり激しい暴言・罵倒をぶつけてきたりといった事も多く、こういった対人トラブルの多さが、『境界性パーソナリティー障害の人に対する接し方の難しさ(付き合いにくさ)』になっているのです。
境界性パーソナリティー障害の人は『無条件の献身的な愛情・関心』を常に求めていて、自分がどんな行動や発言をしても絶対に自分を見捨てずに励まして支え続けてくれる『理想的な母親のような対象(精神分析でいうぶれない対象恒常性)』になってくれることを『近しい他者(家族・夫婦・恋人・親友)』に期待していることが多いのです。
しかし、現実の人間関係の中では、常に相手に無償の愛情・関心を注いで、小さな子供を見守る母親のように接することは概ね不可能なので、境界性パーソナリティー障害の人は『不満・怒り・寂しさ・孤独・見捨てられ不安・自己嫌悪』などを感じて反発し、相手との人間関係を悪化させてしまいやすいのです。
実際に境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に接して関わる人は、主に『家族(親きょうだい)・配偶者・恋人・親友・専門家(医師・カウンセラー・看護師など)』になります。その際に注意しなければならないのが『感情的・認知的な巻き込まれ(自分自身が病的な心理状態になったり心身症状が出てしまう)』と『境界性パーソナリティー障害の人に自分の言動がコントロールされてしまうこと(機嫌を損ねるような意見や反応を全くできなくなり言うことを聞きすぎてしまうこと)』なのです。
境界性パーソナリティー障害の人は強いストレスに耐えられないので、自分の思い通りにならないことがあったり、相手に少しでも否定的(批判的)な態度が見えると、反射的に相手を罵倒してこきおろして怒ったり、見捨てられ不安に襲われて落ち込んだり、激しい心身の症状が出たり衝動的な行動を取ったりすることが多くなります。そういった一連の激しい反応の中には、自分が期待していた愛情や関心が貰えずつらいために、敢えて相手を困らせようと思ってしていることも含まれています。
突然の激しい抑うつ感、パニック発作、衝動的な暴力行為、自分を痛めつける依存症的な行為(アルコール・薬物・性愛への依存)、発作的な自傷行為・自殺企図などがあると、境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に接して支えている人は、相手を怒らせないように興奮して苦しませないようにということで、『直接的・間接的にコントロールされた状態』になりやすいのです。
BPDの激しい反応によってコントロールされた家族や支援者は、自分のほうが混乱したり苦悩に襲われやすくなり、自分の言動で相手を刺激しないように『言いなりのような状態』になることもありますが、反対に相手のことが嫌になって冷淡な反応(最低限の範囲でしか構わない反応)を返しやすくもなるのです。その結果、境界性パーソナリティー障害の人に接して支えている支援者は、『BPDの人の機嫌を損ねないように言いなりのようなコントロールされた苦痛な状態』になるか『BPDの人の要求の多さ・激しい言動・気分の不安定に耐えられずに立ち去って投げ出す』かになりやすいのです。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に対する接し方や治療方略の難しさは、『BPDの人の為を思っての言動』であっても曲解されて罵倒・攻撃を受けやすいことであり、自分のために一生懸命に頑張って支えてくれている人(家族・恋人・親友・専門家など)を『敢えて傷つける言動・裏切る行為』をしてしまいやすいということなのです。そういった相手を傷つける言動や裏切るような行為によって、『良好な人間関係・継続的な信頼関係』を保つことができなくなり、BPDの人に対する治療的な接し方やカウンセリング的な対応が難しくなってしまいます。
しかし、境界性パーソナリティー障害(BPD)の治療と回復は、本人一人の自助努力や認知の偏りの改善だけでは限界があることも多く、『安定的で望ましい人間関係・支えてくれる人の適切な接し方』があったほうが、BPDによる問題行動の安定・回復のプロセスは進みやすいとされています。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に対する接し方・関わり方で最も大切なのは、『怒り・悲しみ・脅しなどの相手の激しい感情に振り回されてコントロールされてしまわないということ』です。境界性パーソナリティー障害は『気分・感情の不安定さ』が前面に出てきやすい障害であり、自分の感情・情動を適切にコントロール(自己制御)できないために、人間関係の中で自分の思い通りにならない嫌なこと・つらいことがあると『怒り・悲しみ・落ち込み・間接の脅し(自傷行為)』といった激しい感情を爆発させやすくなります。
このBPDの人の激しい感情的な反応に対して、家族や支援者が『感情的な強い反応』で応じてしまうと、すぐに『喧嘩腰の感情・主張・要求のぶつかり合い(怒鳴り合い)』になって収拾がつかなくなり人間関係が悪化したり、BPDの人の精神状態も悪くなります。境界性パーソナリティー障害(BPD)の人は過去に『虐待・いじめ・粗略な扱い(愛情不足の扱い)』を受けていたりするケースも少なからずあるので、『大声で怒鳴り合うような感情的なやり取り』はそのトラウマ(心的外傷)を刺激して余計に不安感・恐怖感・激怒発作を煽ってしまう危険もあります。
BPDの人に対する接し方の基本は『怒らずに穏やかな口調で言いたいことを明確にして話すこと(相手の怒りや不満に飲み込まれて自分も興奮しないこと)』であり、『相手の感情を受け止めながらも冷静な態度・判断基準を崩さないこと』になります。
しかしBPDの家族(親きょうだい)にも『感情的な反応を返しやすい特徴』が見られることがあり、『BPDの人の怒り・不満・悲しみ』に過度に引きずられないこと(振り回され過ぎないこと)、同じような反応を返して激しくぶつかり合わないこと(怒鳴り合い・喧嘩腰のやり取りを控えること)が大切になってきます。周囲にいる家族(親きょうだい)が日常的に『冷静で穏やかな態度・口調』を保つだけでも、BPDの人の激しい感情の興奮や怒りの発作、衝動的な暴力が抑えられてくることが多いのです。
周囲にいる家族・配偶者・恋人などが、境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に対して『感情的に反応しないこと・興奮や怒りの反応で返しすぎないこと』がポイントになりますが、実際の人間関係ではBPDの人も自分の不平不満や苦しさ・怒りをどうにかして分かってもらおうと必死になって『暴言・罵倒(悪口)・挑発・否定』をしてきますから、常に穏やかに冷静な態度で対応するというのはかなり難しい部分もあります。完璧な対応は不可能ですので、まずは自分にできる範囲で興奮し過ぎずに、相手の感情・挑発に振り回されずに、穏やかな口調で冷静な対応をしていくことが求められます。
BPDの人を支えようとして頑張っているのに、『傷つけられる言葉・態度』を浴びせられて我慢の限界が来そうな時には、率直に『自分はあなたのために頑張っているのにそういう言い方をされると傷ついてつらい』『あなたは自分を支えようとしてくれている人を傷つけたり馬鹿にしたりして平気なのか?話し方や態度を改めてくれないとこれ以上支えられなくなる』というような感じで伝えるのも有効でしょう。
自他の境界線が曖昧になりやすく、感情・気分が不安定になりやすい境界性パーソナリティー障害(BPD)の人に対しては、『一定の距離感を保つこと(相手の激しい感情に共鳴して過剰反応しない)』と『同じスタンス(同じペース)で接し続けること』も大切になります。
境界性パーソナリティー障害では『粘り強い継続的(長期的)な支え・対応』が必要になってきますが、その難しい課題をやり遂げるためには『最初だけ熱心に取り組んで、相手との人間関係で傷つけられたり嫌気が差したりして燃え尽きるパターン』に陥らないように、安定した同じスタンスとペースでBPDの人に向き合っていく必要があります。
BPDの人に対する接し方や支え方で一番難しいのが、相手に暴言を吐かれたり怒って拒絶されたり振り回されたりして、『もうそのBPDの人とは関わりたくない・これ以上の世話はできないし面倒も見れない』と思うようになってしまいやすいことであり、そうなるとBPDの見捨てられ不安や人間不信、自己嫌悪がより悪化しやすくなってしまいます。
BPDの人に対する接し方・治療方略で最も重要なことの一つ(重要でありながらも実現が難しいことの一つ)が、『何があっても見放さずに、長期的・継続的に自分に向かい合ってくれる誰かがいること』です。BPDの人の見捨てられ不安や人間不信の強さを考えると、小手先のテクニックや心理療法の理論の応用などよりも『何があっても同じスタンスで一定の距離感を持って、自分と付き合い続けてくれる誰かがいること』のほうがBPDを回復させる効果は高いのです。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の人には『見捨てられ不安・感情と気分の不安定・依存性・空虚感(自己アイデンティティー拡散)・自傷行為・自殺企図』などの特徴的な問題行動のパターンがあるために、BPDの人と日常的に接している人(家族・恋人・親友など)は『またこの行動パターンか。どうせいつもの人を困らせるやり方だろう』といった先入観・偏見に基づく決めつけをしてしまいやすいのです。
境界性パーソナリティー障害の人は、子供時代から自分の真意や意図、感情を『勝手に決めつけられる経験』『何かあった時にこういうつもりでやったんだろうという一方的な先入観を持たれた経験』をしていることが多く、『どうせ自分は前向きに頑張っても理解してもらえない(偏見・先入観を持たれて自分は認めてもらえない)』という諦め(人間不信)やいじけた心理を持っていることが多いのです。
こういった諦め(人間不信)やいじけた心理を刺激すると、前向きな気持ちがなくなって周囲にいる他者にも心を閉ざしてしまいますから、境界性パーソナリティー障害の人と接する時には『偏見・先入観を持たずにフラットに接すること』や『客観的な言動や具体的な反応を中立的な視点で見て認めてあげること』が大切になってくるのです。
BPDの人と接する時や語りかける時には、先入観や偏見で本人の意図を一方的に判断しないように気をつけて、『決め付けるように聞こえる言い方・表現』をしないようにしてください。具体的には『今~という風に考えたのかな?』『間違っているかもしれないけど~と言いたかったの?』『もしかしたら~という気持ちになっていたのかな?』という感じで、BPDの人に決めつけない質問をして『別の意見を返せる余地』を残してあげることが有効です。
境界性パーソナリティー障害の人は『客観的事実と主観的推測の混同』をしやすい傾向がありますが、それは本人が周囲の人たちに小さな頃から『先入観・偏見に基づく決めつけに近い推測』をされていたことが関係していることも少なくないのです。
境界性パーソナリティー障害の人に対する治療・援助を効果的に行っていくためには、『家族関係の改善』をしていくことがまず必要なのですが、家族(親きょうだい)がBPDについての正しい知識・理解を持っておらずひたすら拒絶的・批判的に対応している場合には、BPDの人の問題行動や心身の症状はより悪化していきやすいのです。
境界性パーソナリティー障害の人がいる家族は『極端に過保護・過干渉で抱え込んでいる』か『極端に冷淡・否定的で排除しようとしている』かのどちらかに分かれやすいですが、父親と母親でBPDの子に対する態度が違っていて相補的に機能することでバランスを保っていることもあります。しかし、親きょうだいや周囲の支援者が本音で『BPDの人に対する失望感・拒否感・嫌悪感・否定意識』を無くしていかないと、BPDの人の精神状態(気分・感情・衝動)は安定しにくいのです。
BPDの人の状態がなかなか良くならない時には、支えるべき家族がBPDの人に対して批判的・拒絶的であることが多いのですが、傷ついて困っているBPDの人の気持ちに家族が少しでも共感的に寄り添ってあげる姿勢こそが求められます。BPDの人に対する接し方や治療方略の根本にあるのは『安心感・信頼感』であり、BPDの人は乳幼児から児童期にかけて『他者に対する安心感・信頼感』が傷つけられたことで、情緒不安定になり人間関係でトラブルを起こしやすくなっている面があります。
境界性パーソナリティー障害の人は『自己評価・自尊心』が低下していて、自分が周囲の人から『問題児・トラブルメーカー・クレーマー・厄介者』のように見られているのではないかという被害者意識や見捨てられ不安が強くなっていることも多いのです。
そのため、BPDの人は相手(周囲の人たち)が自分に対して肯定的・好意的な態度なのか、否定的・批判的な態度なのかにとても敏感になっていて、少しでも自分のことをよく思っていないこと(軽く見て嫌っていること)を感じると、心を閉ざして落ち込んだり挑発的・攻撃的になって治療に役立つ『安心感のある信頼関係』を築けなくなったりします。反対にあまりに好意的に親しく接しすぎると、自分に何でもしてくれる、いつも優しく共感的に接してくれるという『過度の幻想・期待』を抱くようになり、その幻想が破れると急に攻撃的になって暴言を吐いたり、人間関係そのものが成り立たなくなってしまいます。
境界性パーソナリティー障害の人の接し方としては、拒絶的になり過ぎず依存的にさせ過ぎない『適度な距離感・自他の境界のある接し方』を心がけることが大切で、『本人の代わりになっての問題解決・責任代替』をやり過ぎないことで情緒的な自立性を高められる可能性がでてきます。最終的には、依存する他者に頼りすぎずに、自分で自分の問題や困難に立ち向かって対処していく『自立性・適応能力・責任感』を培うことが課題になってきます。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の人は、学校生活や会社の仕事など『規則・手順・方法・目的』がしっかりと定められた『構造化された状況』に安定して適応しやすいことが知られていますが、これはBPDの人に対する接し方や治療方略にも応用することができます。精神科医・カウンセラーのような専門家がBPDの人に関わっていくケースでは、親切さ・思いやり(共感)・優しさだけではなくて『面接時間の設定・カウンセリングの目的と方法・話し合う話題の内容・カウンセリングの具体的な進め方の手順』を決めておくほうが、BPDの人の混乱が少なくなり改善効果も実感しやすくなります。
カウンセリングや心理療法などの実施に際してもまず大事なのは『目的・目標・枠組みの明確化』であり、一般的なクライエント中心療法のカウンセリングのように『クライエントがその場で話したい話題を受容的・共感的に聴くだけのスタイル』はBPDの人にはあまり適していないことが多いのです。
BPDのカウンセリングの目的として採用しやすいものとしては、『今直面している人間関係の問題や心身の症状の改善』『依存性を弱めて自立性や適応能力を高めること』『自分自身の現在と過去の認知の特徴を特定して改善すること』『自傷行為・自殺企図の乗り越えとそれ以外のストレス緩和方法』『パーソナリティー障害の正確な理解と根本的な解決の模索』などを考えることができるでしょう。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の特徴を生かした『構造化されたカウンセリング』を目的的に手探りしていくようなやり方になるわけですが、『BPDの人本人の主体性・責任意識』を前提にして、自分でBPDの各問題に対する目的を設定し納得してから『特定の課題』にステップアップで挑戦するような方法が効果的です。
心理面接の『枠組みの明確化』では治療契約(作業契約)の考え方に基づいて、『面接時間の設定・できることとできないことの明確化・決められたルールを守れない時の対応(繰り返しのルール違反ではカウンセリング中止もあり得る)・突発的な非常事態への対処法』を定めていくことになります。BPDの人に対する治療的な接し方では、耳障りの良い言葉や実際にできない空約束ばかりでは逆効果になるので、『できないことはできない(これ以上の対応まではできない)という姿勢・ルール違反があれば支援ができなくなることの伝達』などを明確化しておくことも必要でしょう。
境界性パーソナリティー障害の根本的な問題として『他者への極度の依存性・理想化(主体性・責任感の放棄と自己無力化)』がありますが、これを解決していくためには『自分の人生の主体性・責任感は自分自身にあるという基本原則』をBPDの人に伝えて、問題の原因を誰かのせいにしていても解決は難しいという事実を納得してもらう必要があります。
そのためには、家族や周囲の人たちは、BPDの人に対する一方的な価値観や過度の期待の押し付けをやめて、『本人自身の人生・生活の目標』を改めて設定してもらうことから始めなければなりません。自分が主体的に決めた目標の達成に向けて試行錯誤しながら前向きな努力を続けること、他者の様々な反応に一喜一憂せずに気持ちを安定させることが、『自分の人生・自己アイデンティティー・人間関係を自分で選び取りながら責任をもって生きる』という境界性パーソナリティー障害の本質的な改善にもつながっていくのです。
家族や周囲の押し付けに従っているばかりでは自立性や自己アイデンティティーが阻害されて依存してしまうので、『自分自身の感情・考え・状況』を参照しながら主体的で自立的な目標設定をして前向きに(やってみて失敗してもやり直せば良いという気楽さも持ちながら)チャレンジすることが大切になります。
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