マダニとはどんな生物なのか?:生態(ライフサイクル)と吸血方法
マダニに刺された時の症状と対処法
マダニが媒介する感染症
マダニの予防対策
マダニはクモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科の節足動物の総称で、主に哺乳類の動物に寄生する吸血性の寄生虫である。英語では大型の吸血性のダニであるマダニ類を“tick”、室内に多い小型のダニを“mite”と呼んで区別している。屋外の山や森林に棲息する吸血性のマダニは、布団やカーペットに発生してアレルギー疾患の原因となる小さなダニとは別物である。
マダニは『ハーラー器官』と呼ばれる宿主の動物を探し出す感覚器を持ち、哺乳類の動物が発する二酸化炭素の匂いや体温、体臭、物理的振動などに敏感に反応することができる。マダニは草や木などから探し出した動物の上に飛び降りて吸血行為を行うが、ノミのようにぴょんぴょんジャンプするのではなく、近くに来た宿主に歩くようにして飛び降り移っていく。肉眼でもよく見えるマダニは、他のダニに比べて体が大きく、通常時で2mm~3mm程度の大きさがある。吸血行為によってマダニの体は大きく膨れあがり、体重は『約100倍(体長1cmほど)』にまで増える。
宿主の動物の体表に乗り移ったマダニは、その動物の皮膚が薄くて吸血しやすい部分を探して、鋭い歯で咬みついて吸血を開始する。一般的な哺乳類はマダニから頭部の目・鼻・耳の近くに寄生されることが多いが、ヒト(人間)では顔よりも腕・太もも・脹脛(ふくらはぎ)などを咬まれることが多いようである。
タイトルには『マダニに刺された時』と虫刺されの慣例的な表現で書いているが、正確にはマダニの吸血方法は『刺す』のではなく『咬みつく』ことに特徴がある。ノコギリのような鋭い歯で咬んで皮膚の奥に差し込み、そこから出てくる血を1週間以上かけて吸い続ける。正確には、咬みついて皮膚を切り裂き、『口下片』と呼ばれるギザギザの歯を刺し入れて、宿主と強く連結して皮下に形成される血液プールから血液を吸い上げていく。
宿主から血液を吸う時には、唾液をセメントのように固めて接合部を完全に固定しているので、簡単にマダニを引き剥がすことはできない。マダニは吸血期間が『約6~10日間』と長いのが特徴である。その吸血期間で、『1ml程度』の血液を摂取する。吸血期間が終わったマダニは自分で接合部から牙を抜き取って、宿主の体から離れていくが、余り遠くにまでは移動しない。付近の草や木を見つけ出して再び身を隠し、次の宿主の接近を待つのである。
1週間以上にわたる長い吸血を終わらせたマダニは、いったん宿主の体から外れて『休眠期間』に入る。この休眠期間に成長と脱皮を行っていくのだが、成長したマダニは再び宿主を見つけて吸血して終わればまた休眠する。マダニはその生涯でこの『吸血と休眠のサイクル』を計3回繰り返して、3回目の吸血時に交尾を行って(あるいは交尾をせずに単性生殖で)子孫を残すとされる。母ダニは産卵すると自分は死ぬが、一度の産卵で数百個から数千個の卵を生み、約1~2ヶ月で卵が孵化する。
マダニは山や森林、公園などあらゆる場所に棲息していて、屋外に出かけて草や木に身体が触れる時間があると、誰もがマダニに咬みつかれる恐れがある。マダニに咬まれても自覚的な痛みはほとんどないので、『咬まれたこと・寄生されていること』に気づかない人も多く、寄生・吸血されて日にちが経ってから『吸血で体が膨れたマダニの存在』にようやく気づいて病院・皮膚科を受診するというケースも多い。
マダニはセメントのように固まる唾液を出して、宿主の体表(皮膚)に突き刺した自分の牙・頭部を固定しているので、無理に引き抜こうとするとマダニの頭部や牙が体内に残ってしまうリスクがある。またマダニを強く掴んでひっぱると、マダニの体液(細菌・ウイルスを含む体液)が逆流して体内に入ってくる恐れがあり、感染症などのリスクが高まることになる。
皮膚にくっついたマダニを取るために、もっともな確実で安全な方法は『病院・皮膚科』に行って医師に取ってもらうことである。医師の方法もアルコール消毒などで弱らせてから普通にピンセットで皮膚に近いマダニの部分を掴んで引っ張って取るということが多く、どうしても取りにくい場合には、メスで噛まれている皮膚の部分を軽く切開してマダニを取り除くことがあるようである。皮膚に病理的な変化がある場合には、血液検査なども含めて医師から感染症のチェックをしてもらえるという利点がある。
病院を受診して医師にマダニを取ってもらい、各種の感染症状の有無を判定してもらうのが安心ではあるが、皮膚にくっついたマダニを自力で取ることも不可能ではない。『マダニが弱る化学的・物理的刺激』を与えてから、マダニが自分で牙を引き抜いてくれた時にゆっくりと引き剥がすというのが無難な方法である。マダニが弱りやすい物理的刺激としては『線香・お灸の火・氷・冷水』などが考えられるが、自力でマダニを取る場合に有効なのは『アルコールやイソジン、ベンゼン、虫除け剤など化学的刺激』のようである。
脱脂綿や綿棒にアルコールを十分に染みこませてから、マダニにつけたり被せたりしてしばらく放置しておくと、弱ってきたマダニが自分から牙を外してくれやすくなる。アルコールにしばらく浸してから、毛抜きなどに使う小型ピンセットで接合部の皮膚に近い部分を軽くつかんで丁寧に引き抜くと良い。
自力でマダニを上手く取れた場合でも、傷口から細菌やウイルスに感染している恐れもあるので、一応医療機関を受診して『感染症リスクの有無』を判定してもらうと安心である。自力で引き抜いてマダニの頭部や身体の一部が皮膚内に残った場合には、いずれにしても医療機関で切開して取り除いてもらう措置を受ける必要があるので、原則としてマダニに咬まれたら医師の診察を受けたほうが良い。
マダニは吸血の際に様々な病原体(細菌・ウイルス)を伝播させるベクター(運搬者)でもあり、以下のような感染症を媒介する可能性がある。マダニに咬まれたり吸血された時、特に皮膚病変が現れたり発熱・下痢・息苦しさなどの症状が出た時には、一応は医療機関で『感染症リスクの有無』を判断してもらうべきである。
2017年はマダニに咬まれたことによる感染症が流行した年であり、特に『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』に感染した患者が多く、8月1日の時点で266例の感染者が確認された。2016年に西日本の50代女性が、野良猫に噛まれた後にマダニが媒介するウイルス感染症『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』を発症して死亡しており、『マダニに吸血された犬・猫』を媒介して人間が感染するリスクも指摘されている。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)……一週間~二週間ほどの潜伏期間を経てから、38度以上の高熱、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状がでてきて、重症化・長期化すると死亡リスクもある。現時点では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に対する特効薬やワクチンはないが、マダニのすべてがSFTSのウイルスを持っているわけではなく、マダニに咬まれても殆どの人は発症しない。
ライム病……ノネズミやシカ、野鳥などがボレリアの保菌動物として知られているが、それらの動物から吸血したマダニによって、ヒトに媒介されるスピロヘータの感染症の一種である。ライム病は人獣共通感染症として知られるが、抗生物質によって治療が可能である。マダニに咬まれて数日間~数週間後に、咬まれた跡を中心とする『紅斑』が発現して、『筋肉痛・関節痛・頭痛・悪寒』などの風邪に似た症状が出てくる。
ツツガムシ病……10日間~2週間ほどの潜伏期間を経て、悪寒を伴う39℃以上の高熱が出たり、『咬まれた部位を中心とする発疹・発赤』や『激しい頭痛・全身倦怠感・リンパ節腫脹』などの症状がでてくる。重症化すると、播種性血管内凝固症候群などを併発して死亡リスクもあるので注意が必要である。
日本紅斑熱……日本紅斑熱リケッチアの感染によって発症するもので、症状は子どもに多い風疹に似ていて『かゆみの弱い発疹・発熱』の症状がでてくるが、放置しておくと高熱が出て悪化するリスクもある。輸液と抗生物質によって治療は可能である。
Q熱……偏性細胞内寄生体であるレジオネラ目のコクシエラ菌 (Coxiella burnetii) によって発症する感染症である。2週間~4週間の潜伏期間の後に、高熱(37℃~40℃)、頭痛、悪寒、筋肉痛、咽頭痛、全身倦怠感などインフルエンザに似た症状が出現し、約20%が肺炎・肝炎の症状を示すことになる。Q熱という病名は、英語の『不明 (Query) 熱』に由来しているが、食肉解体処理場、羊毛処理場、乳肉加工場などで感染事例の多い『人獣共通感染症』の一つである。
ダニ媒介性脳炎……ダニ媒介性脳炎ウイルス (tick-borne encephalitis virus:TBEV)を原因とする、中枢神経系の障害や発熱が起こるウイルス感染症であり、国際的にも増加傾向にあるものである。
マダニに咬まれないようにする予防対策には、以下のようなものがあります。
1.できるだけ草木に触れないようにして、草むらに入らないようにする。
2.山林や屋外で活動する時には、暑い夏であっても『長袖長ズボン』の防御的な服装をするようにする。
3.アウトドアやハイキング、登山などでは『虫除けスプレー(ディート、イカリジンが配合された虫除けの忌避剤)』を使用して、草むらに直接座らないようにして『レジャーシート』を敷くようにする。
4.屋外活動を終えて帰宅したら、すぐに衣服を着替えて、シャワーを浴びたりお風呂に入ったりする。入浴・シャワーの際に、身体にマダニが付着していないかチェックする。
5.長袖長ズボンの服装でも『シャツの裾口・ズボンの裾』からマダニが侵入してくることがあるので、シャツの裾口を軍手の中に入れたり、ズボンの裾の上から靴下を被せたりすれば、マダニ侵入を完全防御しやすくなる。
ダニを防除する『殺ダニ剤』には、有機リン系、ピレスロイド系、アミジン系、ニコチン系、マクロライド系抗生物質、成長阻害剤などがあるが、人体に有害な成分も含んでいるので殺ダニ剤を使用する時には、人間も吸い込まないように十分注意して換気の良い場所で噴霧する。
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