不安障害(DSM-5の診断基準)

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DSM-5の不安障害、社会不安障害の考え方と変更点


DSM-5の物質・薬物誘発性不安障害と身体疾患による不安障害の診断基準


DSM-5の不安障害、社会不安障害の考え方と変更点

DSM-5では『不安障害(anxiety disorders)』の疾病概念がシンプルに整理されて、不安障害に含まれるとされていた『PTSD(心的外傷後ストレス障害・ASD(急性ストレス障害)・強迫性障害』が削除され、別の精神疾患として分類された。他者から見られている(他者に助けを求めにくい)と感じる広い公共の場所でパニック発作(恐慌発作)が起こる『広場恐怖(agoraphobia)』は、DSM-Ⅳでは『パニック障害の下位分類』にされていたが、DSM-5ではパニック障害と広場恐怖は独立した別の精神疾患とされた。

DSM-5において新たに不安障害の一種として追加された精神疾患は、幼児期から児童期に多く見られる『分離不安障害』『選択性緘黙(かんもく)』である。18歳以上の患者にだけしか診断できなかった『社会不安障害(対人恐怖症)・広場恐怖・特定の恐怖症』についても、『18歳未満の患者』に診断することが可能になっている。

“Social Anxiety Disorder”あるいは“Social Phobia”の訳語として『社交不安障害』を用いることが増えていたが、DSM-5の訳語は『社会不安障害・社会恐怖』のほうが適切であるという方向に再び転換している。他者と積極的・能動的に楽しく関わっていくという語感がある『社交』だと、『他人と交わって交際したり会話したりすることに恐怖を感じる』という間違った意味合いに取られやすいという理由からである。

社会不安障害(Social Anxiety Disorder)の精神病理の本質は、『他者の前で普通に行動・発話ができない過度の不安・緊張・羞恥心』にあると定義され、社会不安障害は日本の文化結合症候群とも言われていた『対人恐怖症』とほぼ同じ症状のエピソードや意味合いを持つものとされている。つまり、社会不安障害とは『他人から変な人間と思われるかもしれない・他人からバカにされたり笑われるかもしれないという不安と恥ずかしさ(シャイネス)』が中核的症状となっている精神疾患であり、『社会的場面(対人状況)に直面できずに回避しようとする不適応な行動』が診断基準として採用されているのである。

パニック障害(Panic Disorder)や全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)、広場恐怖(Agoraphobia)の診断基準はDSM-Ⅳと共通しており大きな変更点はないが、DSM-Ⅳで第3軸の身体疾患に分類されていた『物質・薬物誘発性不安障害(Substance/Medication-Induced Anxiety Disorder)』『身体疾患による不安障害(Anxiety Disorder Due to Mental Condition)』が精神疾患の不安障害の一種として分類され直している。

他の不安障害の診断基準を完全には満たさないが不安を中核とする精神症状が出ていて、社会的・職業的・その他の領域の不利益が大きくなっているケースでは『他で特定される不安障害(Other Specified Anxiety Disorder)』という診断が為される。具体的な診断をするための所見や情報が不十分であり、どの不安障害の診断基準も満たさないケースでは『特定不能の不安障害(Unspecified Anxiety Disorder)』という診断が行われることもあるが、基本的には『情報不足のための特定不能』という診断を用いないことが望ましいとされている。

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DSM-5の『社会不安障害・社会恐怖』の診断基準は以下のようになっている。

社会不安障害(社会恐怖)の診断基準

A.他の人からの詮索の対象となりそうな社会生活場面で起こる顕著な恐怖・不安で、そのような場面が1つあるいはそれ以上ある。例として、対人交流場面(会話・あまり親しくない人との雑談)、人目を引く場面、人前での行動場面(他人の前での板書・発言・飲食など)。

子供の場合は、常に不安は同世代の仲間といる時に起こり、大人の中では起こらない。

B.自分の取る行動や不安な態度が変に思われるのを恐れる。(例えば、恥ずかしく感じたり、誰かに恥ずかしい思いをさせる。他人から拒絶・嘲笑されたり、誰かに不快感・苛立ちを与えるなど)

C.その社会生活場面はほとんど常に恐怖や不安を引き起こす。

子供の場合は、恐怖・不安は泣く、癇癪を起こす、しがみつく、竦む、震える、言葉がでないなどで表現されることが多い。

D.その社会生活場面を回避する、あるいは強い恐怖や不安を持ちながらひたすら我慢する。

E.恐怖や不安は、その社会生活場面が持つ実際の脅威やその社会の文化的文脈にそぐわない。

F.恐怖、不安、あるいは回避は一般には6ヶ月以上続く。

G.恐怖、不安、あるいは回避は臨床的に大きな苦痛であり、また、社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げとなる。

H.恐怖、不安、回避は物質(依存性薬物・医薬品)による生理学的反応や他の身体疾患によるものではない。

I.恐怖、不安、回避は他の精神障害、例えば、パニック障害、身体醜形障害、自閉症スペクトラムの症状ではよく説明できない。

J.他の身体疾患(例えば、パーキンソン病、肥満、火傷や外傷による傷跡)が存在しても、恐怖、不安、回避はそれとは関係せず、その症状が顕著である。

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DSM-5の物質・薬物誘発性不安障害と身体疾患による不安障害の診断基準

DSM-5の『物質・薬物誘発性不安障害』の診断基準は以下のようになっている。

物質・薬物誘発性不安障害(Substance/Medication-Induced Anxiety Disorder)

A.パニック発作や不安が優勢な臨床像である。

B.病歴、身体的検査所見、臨床検査所見から次の1と2が認められる。

1.基準Aの症状が物質中毒を起こしている最中、またはそのすぐ後に出現する。あるいは、薬剤の使用中、または離脱期に見られる。

2.使用した物質や薬剤には基準Aを惹起する作用がある。

C.この障害は他の不安障害ではよく説明できない。下記の例は物質・薬物誘発性不安障害以外の不安障害である。

物質や薬剤の使用前から症状がある:離脱の急性期や重度の中毒期を過ぎても、かなりの期間(約1ヶ月)症状が続く。物質・薬物誘発性ではないことを示唆する他の根拠がある。(例:物質や薬剤と関係なくエピソードが繰り返したという病歴がある)

D.この障害は譫妄の期間中だけに起こるものではない。

E.この障害は臨床的に大きな苦痛であり、また社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げになる。

この診断は、次のような場合に限って物質中毒や物質離脱の代わりに行うべきである。基準Aの症状が臨床上優勢であり、また、症状が重く特段の注意を喚起すべき時。

DSM-5の『身体疾患による不安障害』の診断基準は以下のようになっている。

身体疾患による不安障害(Anxiety Disorder Due to Mental Condition)

A.パニック発作や不安が優勢な臨床像である。

B.病歴、身体的検査所見、臨床検査所見から、他の身体疾患の病態生理学上の結果としてこの障害が起きていることが明らかであること。

C.この障害は他の精神障害ではよく説明できない。

D.この障害は譫妄の期間中だけに起こるものではない。

E.この障害は臨床的に大きな苦痛であり、また社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げとなる。

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