児童期・青年期の精神疾患(DSM-5の分類とDSM-Ⅳからの変更点)

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DSM-5による児童期・青年期の精神疾患の定義と分類


DSM-5の児童期・青年期の精神疾患のカテゴリー一覧とDSM-Ⅳからの変更点


DSM-5による児童期・青年期の精神疾患の定義と分類

DSM-5の児童期・青年期の精神疾患は『細分化・カテゴリー化された精神疾患の分類』が最大の特徴であり、DSM-ⅢやDSM-Ⅳにあった『通常、幼児期・小児期または青年期に初めて診断される障害』という大項目が廃止されることになった。『児童期・青年期に診断される精神疾患』という大項目を立てて、その下位分類にそれぞれの精神疾患を分類・配置していくという方法論をやめたという事である。

DSM-5では子供の発達障害が重視されるようになっており、ADHD(注意欠如・多動性障害)も包摂する『神経発達障害(neurodevelopmental disorders)』という新たな大カテゴリーが新設されている。DSM-ⅣまではADHD(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder,注意欠如・多動性障害)『ADHDと破壊的行動障害』という子供の問題行動群のカテゴリーに分類されていたが、DSM-5ではADHDを生得的な中枢神経の成熟障害といった『発達障害モデル』で捉えるように変わっている。

神経発達障害と並ぶ多種多様な『児童期・青年期に発症する精神疾患の大カテゴリー』が定義されて、そのカテゴリーの中に各種の精神疾患がバラバラに散らばって分類・配置されるような方法論が採用されている。『不安障害』のカテゴリーには、分離不安と選択性緘黙が分類され、『トラウマとストレス因子関連障害』のカテゴリーには、反応性愛着障害と脱抑制社会関係障害、6歳児以下のPTSD(心的外傷後ストレス障害)、児童期・青年期の適応障害が分類されている。

『哺食と摂食障害』のカテゴリーには、乳幼児の異食症や反芻症、食べ吐き症、制限された食物摂取障害などが分類され、子供の睡眠関連障害については『睡眠時異常行動障害』のカテゴリーに記載するようになり、非レム睡眠覚醒障害(熟眠障害)や悪夢にうなされる悪夢障害が分類されている。

熟睡して脳の疲労を回復させるための『非レム睡眠(ノンレム睡眠)』が十分に取れない非レム睡眠覚醒障害としては、『夢中遊行型(睡眠中に自覚のないまま移動・行動をする)』と『夜驚型(睡眠中に飛び起き強い恐怖感・不安感・パニックを感じて叫び声を上げる)』とが分類されている。幼児期後期や児童期になっても排泄行為が適切にできない『排泄障害』としては、遺尿症と遺糞症、その他の排泄障害が分類されている。

注目すべきDSM-5の変更点としては、反社会的行動(規則違反・暴力行為・犯罪行為・共感性欠如)を伴う非行・少年犯罪と関係する精神疾患が、『破壊的行動障害と素行障害(行為障害)』というカテゴリーに一括してまとめられたことである。DSM-Ⅳでは、『他に分類されない衝動制御障害(Impulse-Control Disorders Not Elsewhere Classified)』という曖昧な感じのあるカテゴリーに分類されていた疾患が多い。

『破壊的行動障害と素行障害(行為障害)』のカテゴリーに配置されている児童期・青年期の精神疾患は、反抗挑戦性障害や間歇性爆発障害、素行障害(行為障害)の児童期発症型・青年期発症型、放火癖、窃盗癖、反社会性人格障害、その他の破壊的衝動コントロール障害である。

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DSM-5では脳神経科学の研究成果や科学的な病因論の進展を導入しようとする基本姿勢に変わっており、DSM-Ⅳまでの『病因論を考慮しない客観的な症状だけを見る多軸診断』から大きな変化の方向性を示している。

DSM-5が“DSM-Ⅴ”という従来のローマ数字の名称(Ⅳ→Ⅴ)で更新されなかった理由も、『多軸診断・網羅主義・病因論の除外からの離脱』の意味合いがあるのだという。DSM-5は脳神経科学や周辺分野の知見の進歩に合わせて『バージョンアップの予定』も企図されており、“5.0→5.1,5.2”といった微調整型のバージョンアップが細かく行われる可能性もある。

DSM-ⅣからDSM-5(2013年)まで約19年もの長い更新時間が必要となったが、DSM-5にはその長期間にわたる精神医学の臨床研究や脳科学の新たな知見も活用されていて、『実用性・便宜性・マニュアル性を重視したDSM-Ⅳ』に対して『病態の本質・病因論・脳科学(周辺の関連分野の研究)を重視するDSM-5』への変化が意図されていると言えるだろう。

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DSM-5の児童期・青年期の精神疾患のカテゴリー一覧とDSM-Ⅳからの変更点

DSM-5における『児童期・青年期の精神疾患のカテゴリー』を一覧表のような形にまとめると以下のようになる。

DSM-5における児童期・青年期の精神疾患のカテゴリー一覧

■は『カテゴリー』で、○はそのカテゴリーに含まれる各種の精神疾患や発達障害、△は○を更に細かく分類した精神疾患・発達障害である。

■神経発達障害(DSM-Ⅳまでの発達障害全般・広汎性発達障害に相当するカテゴリー)

○知的障害

○自閉症スペクトラム

○コミュニケーション障害

○ADHD(注意欠如・多動性障害)

○特異的学習障害

○運動障害

△発達性協調運動障害、常同的運動障害、チック障害、トゥレット障害、言語性チック障害、固執運動性、その他のチック障害。

○その他の神経発達障害

■哺食(栄養補給)と摂食障害

○異食症(乳幼児期)

○反芻症(乳幼児期)

○制限された食物摂取障害

○食べ吐き症

○拒食症

○過食症

○その他の栄養摂取と摂食障害

■うつ病

○重度気分調整不全障害

■不安障害

○分離不安

○選択性緘黙

■トラウマとストレス因子関連障害

○反応性愛着障害

○脱抑制社会関係障害

○6歳時以下のPTSD(心的外傷後ストレス障害)

○適応障害(児童期・青年期)

■睡眠覚醒障害・睡眠時異常行動障害

○非レム睡眠覚醒障害

△夢中遊行型、夜驚型

○悪夢障害

■強迫および関連障害

○抜毛癖

○皮膚引っ掻き症

■破壊的行動障害(破壊的衝動コントロール障害)と素行障害(行為障害)

○反抗挑戦性障害

○間歇性爆発障害

○素行障害・行為障害(児童期発症型・青年期発症型)

○放火癖

○窃盗癖

○反社会性人格障害の前駆段階

○その他の破壊的衝動コントロール障害

■排泄障害

○遺尿症

○遺糞症

○その他の排泄障害

■性違和障害

○子供の性違和障害(性別自認の障害,性同一性障害の前駆段階)

今後の研究対象としてのインターネットゲーム依存症(Internet Gaming Dependent)、自殺行動障害(Suicidal Behavior Disorder)、非自殺性自傷(Nonsuicidal Self-Injury)などもある。

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DSM-5では、精神遅滞という名称は廃止されて、『知的障害(知的発達障害)』に変更されているが、知的能力の水準の判定も、心理テストの知能検査(IQ)だけではなくて具体的な日常の行動や生活・学校への適応度によって行われるようになった。自閉症性障害やアスペルガー障害は、正常な人と異常な人の境界線がはっきりと分かれているものではなく、正常と異常の間に連続的な状態(自閉の度合い)のグラデーションがあると仮定されるようになり、その自閉性・コミュニケーション障害の連続体のことを『自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder)』と正式に命名することになった。

10歳以前から発症して、イライラや気分の激しい波、癇癪(かんしゃく)、爆発的(突発的)な暴力・暴言が持続的に見られる精神疾患として、『重度気分調整不全障害』『間歇性爆発障害』が新たに定義されることになった。興味の固執・限局やこだわり行動(常同行動)を伴わないコミュニケーション障害だけが見られる非定型自閉症は、新たに『コミュニケーション障害(社会的・語用論的コミュニケーション障害)』として診断ができるようになった。

発達早期の母子関係の問題(養育者による虐待・ネグレクト)や不適切な養育環境によって、適切な愛着(アタッチメント)が形成できなくなり他者との人間関係に不安・抵抗・拒絶を感じる『反応性愛着障害(Reactive attachment disorder)』『PTSD(心的外傷後ストレス障害)』と同じ、『トラウマとストレス因子関連障害』のカテゴリーに分類されることになった。幼少期に親からの愛情・保護・関心を適切に受け取ることができない状態は、自分の存在そのものが否定されるトラウマ(心的外傷)に相当する苦痛で孤独な状態なのである。

DSM-5の児童期・青年期の精神疾患の診断と治療では、『発達臨床精神医学の経験・各種の発達障害の診断』の重要度がかつてよりも増している。更に、児童期・青年期の発達段階で発現する恐れのある各種の発達障害(自閉症スペクトラム)の『早期発見・早期療育』だけではなく、できるだけ早い段階で精神疾患(問題行動)を治療・教育するという『予防医学的な対処』も目標とされているのである。

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