大人のADHD(注意欠如・多動性障害)・ADD(注意欠如障害)の特徴と問題

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大人(成人期)にまで持続することのあるADHD(注意欠如・多動性障害)・ADD(注意欠如障害)

日本の精神医学や臨床心理学(発達臨床心理学)でも1990年代から、ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)ADD(Attention Deficit Disorder)が『発達障害の亜型(一種)』として認識されるようになった。ADHD(注意欠如・多動性障害)の臨床研究は、1970~1980年代までは『微細脳機能障害(MBD:Minimal Brain Dysfunction)』の研究として行われていたが、1980年のDSM-Ⅲで“ADD(注意欠如障害)”が採用され、1987年のDSM‐Ⅲ‐RでADDが多動性を加えた“ADHD(注意欠如・多動性障害)”へと改称された。

広汎性発達障害(PDD)や自閉症スペクトラムと比べて軽度の発達障害であるADHD・ADDは、1980年代頃まで『子供に特有の発達障害・非適応的な行動様式』と見なされていて、成長するに従って自然に解消されるものと考えられてきた。『大人(成人期)のADHD・ADD』という概念そのものが存在しなかったのだが、1990年代以降の長期的な横断的研究・コホート研究によって『大人(成人期)になってもADHD・ADDの特徴が持続する可能性があること』が明らかになってきた。

APA(アメリカ精神医学会)のDSM-5では『子供特有の発達障害としてのADHD・ADD』という先入観を弱める配慮がされており、『青年期・成人期にまで持続することのあるADHD』という“年齢にとらわれない障害(どの年代の人にも認められ得る障害であること)”を強調している。ADHDの症状の発現年齢も、7歳以下から12歳以下へと引き上げられており、17歳以上の人のADHDの診断基準は緩和されて『下位項目を5つ満たせば良い』に変更された。

ADHDの症状のタイプは、“多動性・衝動性”が目立つか“不注意性”が目立つかによって、大きく以下の3つのタイプに分類される。

1.多動・衝動性優勢型

2.不注意優勢型

3.混合型(多動・衝動性と不注意性の混合)

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大人のADHDの主な特徴と大まかな診断基準(基本症状+随伴症状)

思春期・青年期以降まで続く大人のADHDでは、『子供時代にあった多動性(落ち着かずに動き回る症状)』が見られなくなり、『不注意性(注意散漫で集中できない症状)・衝動性(何かをしたいという瞬間の欲求を制御できない症状)』が残ることが多い。児童精神医学・発達障害臨床を専門とする星野仁彦(ほしのよしひこ,1947-)は、『大人のADHDの主な特徴・診断基準』として以下のような項目を上げている。

○大人のADHDの主な特徴・診断基準

基本的症状

1.多動性

2.不注意性

3.衝動性

4.仕事の先延ばし傾向(業績不振)

5.感情の不安定性

6.ストレス耐性の低さ

7.対人スキルの低さ・社会性の未熟

8.自己評価・自尊心の低さ

9.新奇性追求傾向と独創性

大人のADHDに見られる、日常生活や仕事に困難を来たす『典型的な随伴症状』には以下のようなものがある。

その他の典型的な随伴症状

10.整理整頓ができず、忘れ物が多い。

11.計画性がなく、管理が苦手である。

12.不注意で事故を起こしやすい傾向がある。

13.睡眠障害と居眠り

14.習癖(爪噛み・抜毛・貧乏ゆすり・チックなど)

15.依存性や嗜癖行動

16.のめり込みとマニアックな傾向

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大人のADHDに見られる基本的症状のそれぞれの特徴と問題内容を簡単にまとめてみる。

『1.多動性』は、多動・衝動性優位型のADHDに見られる落ち着きがなくていつも動いているという症状だが、児童期後半から思春期になると多動の傾向は少しずつ落ち着いてくる。大人のADHDでは、リラックスしてくつろぐことができない、何もせずにじっとしているのが苦痛といった訴えになって多動性の傾向が示されるが、『室内をウロウロする・手足のどこかを動かしている・貧乏ゆすりをする・机を叩いたり椅子をカタカタしたり何か音を出す・早口でしゃべりまくる』などの行動が見られやすい。

『2.不注意性』は、気が散りやすくて一つの事柄に集中できないという症状であり、ADHDをはじめとする発達障害全般の基本症状としての特徴を持っている。自分の興味関心がないことに対して注意力を傾けることが苦手なので、『他人の話を集中して聞くことができない・自分だけが一方的に話す・勉強や仕事に集中できない』などの問題が起こりやすくなる。

注意散漫になるので計画的に物事を達成することができず、書類や帳簿のミスが多かったり、車の運転でも事故を起こしやすかったりする。物を片付けたり整理整頓をしたりすることも苦手で部屋が乱雑になりやすいが、不注意によるパフォーマンスの低下によって劣等感・疎外感を感じて自己評価が低くなりやすいという問題もある。特定の物事や相手の言葉だけに注意力を向けることが苦手なADHDの人は、『脳の情報フィルター機能(重要なシグナルだけを選択して雑音のノイズを排除する機能)』が低くなっていると推測されている。

『3.衝動性』は、これをしたらどうなるかという合理的予測ができずに、その場の思いつきや欲求で即座に行動してしまうという症状であり、時に深刻な暴力行為・迷惑行為・無謀行為にまでエスカレートしてしまう危険性があるものである。衝動性は『自分が思っていること』をそのまま口に出してしまい、他人とトラブルになったり他人の気持ちを害してしまう問題ともつながっていて、広汎性発達障害(アスペルガー障害)で見られる『心の理論の障害』とも重なる部分がある。

衝動性の特徴は『自分の利害損得を計算した行動』や『他人の気持ちや立場を想像した上での発言』や『TPOを踏まえた適応的・常識的な行動』ができないということであり、『その場の思いつき・気分・欲求』に従ってそのまま無遠慮に発言したり、突発的な行動をしてしまうということにある。思いつきで無遠慮かつ突発的に行動したり発言したりすることで、周囲の人たちとの摩擦やトラブルを招き、人間的・道徳的な評価も失ってしまうこと(信頼できない不快で非常識な人だと思われてしまうこと)が多い。ADHDでは、脳内の神経細胞の間にあるセロトニンが減少して、『衝動・欲求のコントロール機能』が大幅に低下していると考えられている。

『4.仕事の先延ばし傾向(業績不振)』は、やらなければならない仕事や勉強を先延ばしにしてしまい、結果として仕事・勉強が山積みになったり、期限が守れずに目的・課題を達成できなかったりする。ADHDの先延ばし傾向は、物事の優先順位(プライオリティ)がつけられず、自分の興味関心が向いたことだけを率先してやってしまうことが原因であり、『苦手なこと・嫌いなこと・面倒臭いこと』は常に後回しにされるか忘れ去られてしまいやすい。

予定を立てて物事を計画的・段階的に進めていくということが苦手であり、注意散漫になることで『一つの目前の仕事・勉強』にも集中しづらいため、『仕事の先延ばし傾向』が続くことによって業績不振(目的の不達成・約束のすっぽかし)が慢性化しやすい。

『5.感情の不安定性』は、感情・気分のセルフコントロールが苦手な症状であり、思い通りにならないことがあると『キレやすい・怒りやすい・不機嫌になりやすい・落ち込みやすい・抑うつ的になりやすい・くよくよしやすい』といった感情・気分の変化が激しい傾向を示すものである。ADHDが持続している大人が『大きな子供』と評されることが多い理由でもあり、ストレス耐性が低くて我慢ができず、情緒不安定で怒ったり落ち込んだりしやすいといった特徴がある。

多動・衝動性優勢型では、些細なことや思い通りにならないことで『キレる・怒る・不機嫌になる』といった傾向が顕著であり、不注意優勢型では、ちょっとしたストレスやフラストレーションで『落ち込む・くよくよしてやる気を無くす』といった傾向が顕著になっている。ADHDをはじめとする発達障害の人は、ストレス耐性が低くて過去の苦痛な記憶を忘れにくく、自分の自尊心や価値観を否定されるショッキングな体験をするとPTSD(心的外傷後ストレス障害)のようなフラッシュバックを起こしやすい事が知られている。

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『6.ストレス耐性の低さ』は、些細なストレスやフラストレーション(欲求不満)にも耐えられないメンタリティを示しており、ちょっとしたストレス事態に直面すると『怒る・キレる』か『落ち込む・めそめそする』かといった感情・気分の不安定性をあからさまに見せることが多い。相手が自分の気に入らない行動や態度を見せると、瞬間湯沸かし器のように瞬時に激昂して怒鳴ったり暴れたりすることが多いが、『その場限りの怒り・興奮』であるため、その後は自分が怒ったり暴れたりしたことをすっかり忘れてしまっている(解離的な状態にある)ことが多い。

ストレス耐性が低いADHDの人は、人間関係に対して不安感や緊張感を抱きやすい対人不安(対人緊張)があり、親や恋人、親友などに依存してしまって自立的な行動ができない対人依存(幼児的な愛着形成・分離不安)がある。物事をミスなく完璧に仕上げなければ納得できないという強迫的な完全主義傾向もあり、不注意性の強いADHDでは完全に物事をやり遂げることができないので、余計に自己嫌悪や自尊心の傷つきを抱きやすくなる。些細な身体感覚の異常・違和感がストレスになってしまい、自分が何か深刻な病気にかかっているのではないかと過剰に心配する『心気症(ヒポコンドリー)』の兆候が見られることもある。

『7.対人スキルの低さ・社会性の未熟』は、他人と双方向的なコミュニケーションをすることができず、社会的な対話能力・協調性・共感性などが十分に備わっていないために、他者との人間関係や社会生活においてトラブル・誤解・不満が起こりやすいということである。人との約束や社会のルールを守ることが苦手であり、他人の気持ち・事情などを考えることができず自己中心的に振る舞うので、対人トラブルが増えるだけでなく親しい人間関係が長続きしにくい。友人や恋人との親密で安らぐ人間関係が長続きしにくいので、孤立感や不安感に襲われやすくなるのも特徴である。

頭の中で思考したり感じている内容を適切に言語化する能力が低いために、『ありがとうの感謝・すみませんの謝罪・気をつけますの反省・それはいいですねの共感』などの言葉を上手く他者に伝えるようなコミュニケーションができないので、社会常識や思いやりがない人間として誤解を受けることにもなる。他人の気持ちや立場を想像したり共感したりしながら話すことができないので、『いじめ・攻撃・仲間外れ』の対象になりやすいという問題もあり、学校生活や友達関係への適応も一般に悪くなりやすい。他人に助けを求めることや要求を断ることが苦手なため、周囲の誘惑や扇動に流されて悪い交遊関係に巻き込まれてしまうこともある。

『8.自己評価・自尊心の低さ』は、ADHDの人の“ネガティブなマイナス思考”や“幼少期からの失敗・挫折・孤立体験の繰り返し”によって自己評価が低下して自尊心が酷く傷つけられてしまうという問題である。ADHDの人は世界や物事を悲観的に認知する傾向が強く、『対人スキルの不足・社会性の欠如』によって親密な人間関係を構築しづらいということもあって、自分が他者や社会から攻撃されて疎まれているという被害感情を持ちやすくなるところもある。

『不注意と衝動性・ストレス耐性の低さ・対人コミュニケーションの苦手・社会不適応感』といった複数の問題を抱えていることで、幼少期から成功体験・達成感を味わうことが難しく、家庭・学校・職場などで他人から否定的な低い評価を受けやすくなる。思春期くらいの年齢になって自分を客観的に認知できるようになってくると、『失敗・挫折の体験の多さ+周囲の他人からの評価の低さ+人間関係のトラブルや孤立感』などによって自己評価や自尊心が低くなりやすい。

またマーク・セリコウィッツは、著書『ADHDの子供たち(金剛出版)』の中で、脳内の『報酬系(興奮・快感と関係するドーパミン神経系)』という部位(前頭葉・基底核・線条体)の発達の未熟成を自尊心の低さの生物学的原因として上げている。

『9.新奇性追求傾向と独創性』は、飽きっぽくて退屈な状況に耐えられないパーソナリティーと関係した問題で、退屈を感じるとすぐに新奇で刺激的な物事に注意・興味関心を切り替えてしまい、一つの物事を集中して続けることができない。“新奇性追求(novelty seeking)”の傾向は、いつも真新しいものや刺激的な出来事、熱中できる活動を探しているADHDに特徴的なもので、『多動性・衝動性・不注意』の症状と一緒に現れることも多い。

刺激や面白みのない退屈な日常を嫌う傾向が強いので、『刺激的で危険なリスクテイク行動』に流されてしまうこともあり、『ギャンブル・不倫・リスク投資・性的逸脱・冒険的行動・バンジージャンプ・猛スピードのレース』などに熱中して依存してしまうADHDの人も出てくる。ADHDの人はハラハラドキドキできるようなスリルと冒険、リスクと報酬、危険と達成感などを好む傾向があり、このことが『ハイリスクで危険・迷惑な行動』にまでエスカレートする問題を引き起こすことがある。

ADHDという発達障害は、脳生理学的には神経の覚醒レベルが低くなっている状態だと推測されており、特に自分の興味関心がない事柄に対しては覚醒レベルが低くなってぼんやりした精神状態になりやすいので、意識的にスリル・リスク・嗜好品・薬物などで自分の脳を刺激して覚醒させる『セルフメディケーション』のような行動を取りやすいのである。その結果、タバコやコーヒー、紅茶、コカイン、違法薬物(中枢神経刺激薬)などの依存症にはまってしまう危険性も出てきてしまう。

注意散漫や新奇性追求傾向がある一方で、ADHDの人は自分が興味関心のある特定の分野に対してだけは、抜きん出た集中力・才能・こだわり・ひらめきを見せることもあり、『独創性のセンス・成果』が発揮されることも少なくない。歴史的に見ても、一流とされる科学者・哲学者・冒険家・芸術家・芸能家などの中には、ADHDをはじめとする『自分が興味・関心のある分野にだけしか集中して取り組めないという特徴(自分の興味がないことや嫌いなことには全く取り組めないという特徴)』を持った現在の発達障害のカテゴリーに当てはまる人が多かったのではないかと推測されている。

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