溜め込み障害(Hoarding Disorder)

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DSM-5における溜め込み障害(Hoarding Disorder)の捉え方と診断基準

DSM-5では、物を過剰かつ大量に収集したり、集めた物を捨てることができないという『溜め込み障害(Hoarding Disorder)』が独立的な強迫関連障害として認められた。強迫的な溜め込み障害の原因は、心理学的・経験的に説明がつくものというよりは、過去に特別なトラウマ体験(物を捨てたことによる失敗の経験)がなくても発症する『脳の機能的障害』だと考えられている。

DSM-Ⅳでは溜め込み障害は『強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)』の下位分類になっていて、『強迫的溜めこみ(compulsive hoarding)』という強迫行為の症状に注目されていたが、DSM-5では物を過剰に集めたり物を捨てられなかったりする特異的な行動が、独立的な精神疾患(強迫関連障害)の症状として認められることになった。強迫性障害と溜め込み障害は、約17~42%の割合でオーバーラップ(重複)するとされている。

アメリカの心理臨床研究とフィールドワークによって発見された溜め込み障害は、比較的新しい精神疾患の種類であり、溜め込み障害の体系的な研究が初めて論文として記述されたのは1993年とされている。日本における溜め込み障害は、時折テレビで社会問題として報道されることのある『ゴミ屋敷』との関連が指摘されることもあるが、溜め込み障害の主要な問題行動は以下の3点に絞り込まれる。

1.物を過剰に集めすぎる。

2.最低限の物の整理ができない。

3.集めた物を捨てられない。

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客観的に見て『役に立たないもの・価値がほとんどないもの・ゴミやガラクタの類』を過剰に集め続けて、部屋が物で埋まっていってしまう。大量に集めた物を適切に整理したり片付けることができず、家の居住空間が異常に狭くなって圧迫されたり、『玄関・トイレ・風呂・洗面所』などの生活に必要な設備が使用できない状態になってしまう。大量の物が溜まっていって生活できない状態になっていても、一度集めた物を捨てることができない。

物を捨てることにも『勿体なさ・苦痛・不安』が伴うが、捨てられないことに対しても『苦痛・不安・不満』を感じているというアンビバレンツ(両価的)な心理状態になってしまう。物を過剰かつ大量に集め続ける行為を『ホーディング(hoarding)』、物を大量に集めている人を『ホーダー(hoarder)』と呼んでいる。

精神的苦痛が強まってきたり、日常生活や職業活動に障害が出てきた時にはじめて『溜め込み障害』という精神医学的な診断が下されるが、何らかの趣味・目的があって物を大量に集めて整理している『収集癖・コレクター・物集めの趣味人(好事家)』は溜め込み障害には入らないとされる。また精神的な苦痛・不安・違和感を感じず、日常生活に深刻な障害が生じていなくて、『自分の趣味・楽しみ』として喜び(快感)を感じながら好きな物を集めて散らかしている場合にも、溜め込み障害という診断は下されない。

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溜め込み障害は強迫関連障害ではあるが、強迫性障害以外の精神疾患・発達障害と一緒に『物を集めて溜め込む、物を片付けられず捨てられない障害』が起こることも多い。発達障害の一種であるADHD(注意欠如・多動性障害)との併発は、脳機能の異常からくる注意散漫を原因とする『片付けられない症候群(整理整頓ができない注意散漫な心理状態)』として有名である。

ADHD以外にも統合失調症や双極性障害(躁うつ病)、不安障害、神経認知障害(アルツハイマー型認知症)、衝動制御障害、パーソナリティー障害(特にクラスターAの妄想性パーソナリティー障害)、摂食障害、依存症(物質嗜癖)と一緒に溜め込み障害が発症してしまうケースは多いのである。被虐待児が成長してからADHDや強迫性障害の行動パターンを示した時に、溜め込み障害も一緒に併発することが多いという意見もある。

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溜め込み障害の『物を過剰に集める心理』には、物を集める行動の習慣化が影響しており、物を集めない日があると強烈な不安感・不全感・後悔の念に襲われやすくなる。本や新聞、雑誌、レシートなどの紙を大量に集めて整理不能になってしまう溜め込みの事例は多いが、こういった人も最初のうちは『発売された順番に本・雑誌を収集する,古い新聞の上に新しい新聞を重ねる』といった一定の規則性があり、物が余りに多くなりすぎてその規則を守ることが不可能になるのである。

物を集めなければならない、拾わなければならないという心理の背景にあるのは、『物が不足するかもしれない不安・捨てた物が後になって必要になるかもしれないという心配・物が足りないという貧困妄想』などである。物を過剰に集め続ける行為には、『物は取っておいて損はない・捨ててしまったら二度と手に入らないかもしれない』という信念があることが多く、衣類・雑貨・書籍などがどれだけ大量にあっても『もしかしたら不足するかもしれない(まだ足りない気がする)』という現実離れした強迫観念に襲われやすい。

単純に物があまりに大量に溜まりすぎてしまうと、整理整頓をして片付けたり優先順位をつけて物を捨てることに、非常に大きなエネルギーが必要になってしまうという理由もある。物の片付けや物を捨てることにかかる『労力・時間』が極端に大きくなればなるほど、人は実際に片付ける作業や捨てる物を選ぶ作業に取り掛かるのが、非常に億劫(面倒)になってしまうのである。

強迫性障害と溜め込み障害がオーバーラップ(重複)している場合には、『汚染恐怖・洗浄強迫・確認行為』などの強迫症状に囚われてしまい、強迫行為を繰り返しているうちに疲れ果てて物を片付けたり捨てたりする気力・意欲がなくなってしまう事もある。特に強迫症状としての汚染恐怖がでてくると、自分が集めた物が汚く感じて触れない、汚い領域や物に触るくらいなら放置しておいたほうが良いといった『歪んだ認知(考え方)』に支配されるようになって、片付けや物を捨てる行為ができなくなってしまう。

家族・兄弟姉妹・友人がいない孤独な人ほど、溜め込み障害を発症するリスクが高いとされるが、それは『沢山の物に囲まれていること+物に対する愛着の形成』が『孤独感・寂しさの緩和』につながりやすいからである。こういった孤独感や寂しさ、虚しさを和らげるために、物を過剰に集め続けている人は、愛着のある物を片付けたり捨てたりすることが心理的に非常に大きな苦痛として感じられやすいのである。

強迫関連障害としての溜め込み障害には、自分の決めた手順や方法のパターンにこだわったり、自分独自の物の収集・置き場所のルールを設定したりといった『儀式行為(同じような行為の繰り返し)・秩序志向性』が見られやすく、他人から自分の物を触られたり片付けてもらうことを異常に嫌うところがある。そのため、支持的・共感的な話し合いをして『本人の納得・同意』が得られないと、他人が入っていって勝手に家・部屋を片付けてしまうというのも難しいのである。

DSM-5における溜め込み障害(Hoarding Disorder)の診断基準の試案

1.物の客観的な価値はともかくとしても、何らかの物を捨てられずに大量に溜め込んでいる。

2.物を溜め込みたいという強い衝動があり、物を捨てることに対する強い苦痛がある。

3.本来の目的を損なう程度にまで、生活や職場の空間が物に占拠されて支障が生じている。

4.物の溜め込みが精神的な苦痛や機能的な障害を引き起こしている。

5.これらは、他の身体疾患あるいは精神障害によっては説明することができない。

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