心理アセスメントの理論と実践


心理アセスメントについて

私達は、何か行動をしようとする場合、行動の対象について必要な情報や役立つ情報を集めてから行動するという事を無意識に行っています。買い物をする場合でも、あの店とこの店ではどちらが安いかとか品揃えが良いかとかの情報を得てから買い物をするとより後悔の少ない満足できる買い物が出来ることが多いと思います。同様に、進学・就職にしても、進学を希望する幾つかの学校の情報をより多く的確に入手することで、本当に自分がやりたい学問に関する授業や資格取得の講義を行っている学校や現在の成績で合格する可能性の高い学校への進学を選択することが出来ます。就職の場合には、詳細な仕事内容、勤務条件や給与待遇、福利厚生などの情報を誰でもが仕入れたいと考えているし、実際、何も考えずに運任せで就職する人はまずいないはずです。

当然、人それぞれ、何に重い価値を置くかは違いますので、『給料が多くて、出世のチャンスに恵まれた会社がいい』という人もいれば『給料が少なくても早く帰れる会社』がいいという人もいるでしょう。『人と関わる接客や営業の仕事がしたい。社員旅行もあったほうがいい』人もいれば『出来るだけ人と関わらずに、事務やパソコン作業をして働きたい。社員同士の関係も必要最低限でよい』という人もいると思います。反対に、人材を選抜して採用する企業の人事採用担当者も、企業を面接する人たちに関する情報を適切に集めてから採用の合否を判断しようとしているはずです。だから、書類選考だけで、面接なしに採用を決定する企業はまずなく、履歴書、経歴(職歴)証明、面接、筆記や実技の試験などを通して、面接者を企業適応性や企業への貢献度の観点からより深く理解して採否を決めることになっているわけです。

高校や大学の入学試験もこれとほぼ同じメカニズムに基づいていて、中学高校時代の学業成績・生活態度などを元に学校に適応していけるかどうかを判断し、更に、学力試験や面接などを受験者に課して総合的な観点から入試の合否を判定しています。それに必要な情報を、試験・面接・通知書(内申書)などをもとにして得ているというわけです。ここまで書いてきた様に、『何かの行動を起こす為に必要で的確な情報を得る為に行うテスト・面接』のことを“アセスメント(assessment)”といいます。

特に臨床心理学では、ある人の心理的な問題・症状、社会への不適応や問題行動がどういった原因で起こり、どのような過程を経て起こってくるのかを調査します。そして、その人の問題・症状・悩みに適した理論や心理療法を選択して心理的援助を行う必要があり、その為に行う心理テスト、診断的面接などを総称して『心理アセスメント』と言います。心理アセスメントは用いられる領域によって訳語が変わることがあります。心理領域では『診断』『検査』『査定』『評価』『見立て』と色々な言い方が為されますし、司法領域では『鑑別』『鑑定』と言われたり、福祉領域では『判定』『査定』という風にいう事があります。

クライエントが自分自身で解決が困難な問題を抱えて、心理カウンセラーのもとを尋ねて来たときには、まず、この人がどういう性格の人でどういう人間関係や環境の中にあり、現在の心理状態はどんな感じでどのような種類の問題や症状を抱えているのかを理解する為に面接でしっかりと話を聞いて、必要に応じて心理アセスメントを行い、そのクライエントに最も適した対処方法や心理療法を選択していきます。

身体的な病気を医学的に診断する場合には、以下の7つの診断項目に基づいて行われます。

  1. 病気・症状の発症した状況はどのようなものだったか?
  2. 症候・病態の把握
  3. 検査所見による診断の根拠
  4. 症状の経過
  5. 病態の予後
  6. 治療法・治療方針
  7. 病理解剖所見による他の病気との明確な違いの把握

このような身体的な病気の診断と精神的な病気の診断とは共通している点もあれば、異なっている点もあります。『不安を感じる。恐怖を感じる。夜、眠れない。電車やバスの中で心臓がドキドキする。緊張して人前で話せない』というクライエントの主訴がある場合に、どの段階までが正常な範囲の心理反応であり、どこからが異常な病気の症状・症候であるのかを見分けていかなければなりません。

不安や不眠といった症状は、重篤なうつ病や統合失調症といった精神病でも見られますし、神経症の自律神経失調状態でも見られるもので、場合によっては健常者が環境の変化や対人関係のストレスによって一時的なストレス反応を起こしているだけという事も考えられます。そして、不安や不眠といった症状を訴えることはクライエントの性格や主観とも関わってくるので、それを客観的に評価し判断することはなかなか難しい事でもあります。精神医学や臨床心理学の病気概念の定義を大雑把に見ていきます。まず構造主義の思想家として著名であり、精神分裂病の歴史的変遷と差別構造の研究を精力的に進めたミシェル・フーコーは『精神疾患と心理学』という著作の中で以下のように述べています。

精神医学と身体医学

『精神医学が病の本質を読み取ろうとする際に、まず試みたのはこれを示す諸徴候の首尾一貫した集まり方に依拠することであった』フーコーは、『他者のまなざし』をキーワードとして、精神病者と正常者を恣意的に区分して社会から隔離しようとした精神医学の歴史について批判的なスタンスをとっています。

ヤスパースは、『精神の病気は、身体の病気や研究とは次元を異にしており、ある一定の枠組みが必要とされていて、その枠組みを如何に構築するかが精神病理学の役割である』と述べて、『あらゆる先入観を排して、病者の精神生活の個々をその都度明らかにし、それらを記述していくしかない』と続けています。一般的な身体医学と精神医学の最大の違いは、日本の心理学者・氏原寛が述べるように、『一般性と個別性の差異』に尽きるのかもしれません。身体医学は全ての人を客観的な対象として画一的な検査・診断を行い、同じ病気には同じ治療法を用いる『一般性』に特徴があります。

それに対して、精神医学は、その場限りの臨床家(カウンセラー)とクライエントとの対話や面接の中で生じるダイナミクスに重要な意義があり、一人一人のクライエントに合わせた個別的な対応や会話方法、療法技法が必要となってきます。身体医学のマニュアル的な一般性に対して、薬物を用いない心理療法中心の精神医学では、非マニュアル的な個別性、個別的対応が重視されるのです。心理アセスメントには、色々な種類の技法や用具がありますが、その全ては『面接・心理テスト・観察』に分類する事が出来ます。心理アセスメントの目的は、悩みや問題、症状を抱えて相談にやってきたクライエントの問題についてその原因や過程をより深く理解する為や、クライエントに最も適合した技法・対話方法・療法を選択する為に行い、最終的にはクライエントの抱えている問題や苦痛を軽減し、出来れば解決する事を目標にします。

信頼性と妥当性

心理アセスメントを行う場合には、そのアセスメントの『信頼性(reliability)』『妥当性(validity)』がどれくらい高い水準にあるのかがとても重要になってきます。信頼性と妥当性が低い心理テストや面接を受けて、診断や技法療法の適用を受けても、正確な調査が出来ず、無意味な診断や療法になる事が多くなるので、信頼性と妥当性の高い心理テストを実施することが必要なのです。

信頼性とは、一般に、心理テストの測定結果が統計的に十分信頼できるものなのかどうかという基準のことです。信頼性の検証には、決められた手続きを経なければなりません。

テストと再テストの結果の一致度

一回、クライエントに対して行った心理テストと同一のテストを、数週間あるいは数ヶ月といった一定期間を置いて同じクライエントに実施します。そうする事で、その結果が一致するかどうかを調べることが出来て、心理テストがきちんと同じクライエントに対して同じ結果を出す事が出来るか否かの信頼性を測定する事が出来ます。

ただ、全く同じテストを同じクライエントに繰り返していると、クライエントが質問文と答えを丸暗記してしまって、機械的に同じ答えを書いてしまう場合があるので、若干、文章の表現や順番を変更するなどして、内容のよく似た心理テストに改訂していく必要があるでしょう。

内的恒常性

内的恒常性とは、心理テストの各項目が相互にきちんと関連しているか否かという事です。抑うつ感を測定する尺度に、30の項目があるとすれば、その30の質問は相互に抑うつを巡って関連していなければならないし、内容の関連性も高いものである必要があるのです。上記のような信頼性や関連性がどの程度あるのかを検証する為には、項目相互の相関を計算しなければなりません。

心理テストの妥当性(validity)

妥当性とは、一般に、その心理テストが測定しようとしている内容をきちんと的確に測定できているか否かの指標の事です。不安を測定する事を目的にするテストは、的確に不安に限定して測定できることが妥当性が高いという事になり、不安だけではなく社会への不適応性や衝動性まで測定してしまっている場合には妥当性が低いという事になります。

内容的妥当性

本当に測定しようとする目的の内容が、この心理テストで測定できているのかどうかという妥当性のことを『内容的妥当性』といいます。

基準妥当性

その心理テストの結果によって、将来起こる状態の変化や出来事を判断する基準を知ることができるかどうかという妥当性のことです。

IQを測定する知能検査では、将来の学業成績や数学の才能の伸びをある程度予測することが出来て基準妥当性がありますし、反社会性の人格尺度では、将来の反社会的な問題行動や犯罪を起こす可能性をある程度予測することは出来ます。

臨床面接

臨床面接というと、心理状態や生活環境を詳しく聴取して、毎日の生活習慣や人間関係とストレスの関係、病気の有無などを判断する特別な面接という印象があるが、一般的な面接とは一人の個人と一人の個人が真摯な気持ちで向き合って言葉を交わすという行為のことを単純に意味します。

心理学的アセスメントとは、クライエントの思考・情動・感情・認知・性格・態度・行動などを多面的に調べて、その人の心理的な問題や各種の症状に関係があると思われる要因を見つけ出すことを目的としたアセスメントのことです。そういった心理学的アセスメントを行う際の最も基本的な技法が、『面接』になります。一人の人間について多くの事柄を知りより深く理解して、信頼関係を築いていく為には『実際にその人と会って話をすること』が最も効果的な方法です。

相手と実際に向き合って、カウンセラーの方から必要な質問を発し、相手がその質問に対してどのような反応や態度を示すかを観察しながら温かく見守ることは、その質問の答えの内容以上に相手をより良く知る為の材料になっていきます。臨床面接というのは、問題や症状の改善を目的とした面接ですが、それ以上に一人の人間としてお互いを尊重しながら真剣な対話を重ねる“場”でもあるのです。

カウンセラーは、クライエントが語る心理的な悩みや問題、身体的な症状を語る場合に、クライエントがその時にどのような感情や感覚を抱いたのかに注意を払いながら面接を進めます。クライエントが苦しくて困難な問題について語りながら混乱して泣いたり、あるいは相談に出てくる相手に対して怒ったりして感情表現が素直な場合と、全く感情を表さずに淡々と他人事のように語る場合とでは、解釈や診断が異なってきますし、対処方法や用いる技法も変わってきます。

相談に来たクライエントが恋愛や結婚の話になると、突然、物静かになったり、不機嫌そうにしたり、落ち着きをなくして混乱したりする場合には、恋愛や結婚に関する何らかの深刻な悩みや不安、複雑な感情のコンプレックスを抱えている事が推測されます。心理学的な面接には大きく分けて二つの面接方法があります。一つは、『非構成的面接(非構造的面接法)』で、『はい・いいえ』といった選択的に答える質問ではなく、『その時に、どんな気持ちになりましたか?昨日の職場ではどのような事が、一番印象に残っていますか?』といった自分の言葉で自由に答える形の質問をしながら進める面接を意味します。

もう一つは、『構成的面接(構造的面接法)』であり、カウンセラーが事前に準備していた質問紙の質問項目についてクライエントに質問をしながら進める面接です。通常、その用意されている質問項目は、幾つかの選択肢の中から適したものを一つ選ぶ形式のもので、至って簡単なものです。治療に必要な情報を多角的な観点から集めて、それを相手の心理や環境の解釈に役立てていきます。人間や問題の本質的な理解を進め、面接者が次の対応や行動を考えるのが『臨床面接』です。

臨床面接は、アセスメントの一過程であり、面接の場面は、カウンセラーとクライエントが真剣な気持ちでお互いを信頼し理解し合う為に話し合う貴重な出会いの場でもあります。カウンセラーが臨床面接の場で果たすべき最も大切な役割りは『ラポート(rapport)の構築』です。ラポールとは、カウンセラーとクライエントの間の相互的な信頼関係のことです。ラポートは、ラポールというフランス語読みで言われることもあります。

自分のことを深く理解してくれそうにもない信頼できないカウンセラーに対しては、クライエントは本当の気持ちをありのままにぶつけることが出来ず、自分の置かれている現実の状況を細かく話そうという気持ちにもなりません。その結果、遠慮がちにどうでもいいような周辺の話題や出来事ばかりを話すことになり、何となく居心地が悪くぎごちない雰囲気の中で対話が進んでいくことになります。当然、そのような心と心の触れ合えない信頼関係(ラポート)のない状況や人間関係では、有効なカウンセリングや心理療法を行う事ができないのです。ラポートを上手く確立するために必要なカウンセラーの要素として、『誠実さ、相手への尊敬、非審判的態度、受容的態度』などが考えられます。

心理テスト

心理テストとは、臨床心理アセスメントの為に、クライエントの能力・知能・性格・人格・発達・社会性・価値観などの状態を調査し、それらから診断や治療、カウンセリングに必要な種々の情報を集める技法のことです。広義の『心理アセスメント(査定)』の概念には、『心理テスト』も含まれますが、心理査定の為の主要な技法として、『観察法』『面接法』『心理テスト』があります。通常の心理アセスメントでは、それらの2つ以上を併用しているケースが多いようです。

心理テストは、個人の諸特性を測定して評価する為のもので、知能・発達・人格・病理・心理状態など様々な特性をより客観的により広い視点から調べることが出来ます。心理テストを実施してその結果を参考にしながら、指導方針や治療方針を決めていき、カウンセリングや療法の目的も同時に考えていきます。心理テストは、その種類によって測定できる特性や測定する目的も異なってきますが、個人にも集団にも実施することが出来ます。

また、心理テストを受けているときのクライエントの表情や振る舞いなどを観察することも診断や治療に役立ちます。そして、心理テストを実施する場合には、面接や観察といった他のアセスメント技法の基本的知識もよく理解してテストを行う必要があります。

心理テストの種類

心理テストの種類は非常に多く、大きく分類すると二つに分けることが出来ます。

  1. 能力を測定する検査(発達検査・知能検査・学力検査・言語発達・創造性・運動能力検査など)
  2. 特性・反応傾向などを測定する検査(性格検査、社会性・道徳性・親子関係の測定検査、職業適性検査、知覚・記憶検査など)

心理テストには、このように多くの種類があって全てを覚えるのは大変なのですが、それぞれの心理テストには、手引き、解説書、参考図書が添付していますので、それらを参考にして適切な方法と解釈で心理テストを実施するようにすることが大切です。

更に、各心理テストを理論的に支えている背景理論もしっかりと学習して、テストバッテリーの組み方にも熟達しておくことが望ましいといえます。テストバッテリー(test battery)というのは、心理テストを実施するときに、人間の総合的理解を目的として幾つかの心理テストを組み合わせて実施することです。

能力検査

発達検査(developmental test)

一般的な発達検査は、質問紙法によって行われ、親や養育者が、自分が育てている乳幼児の発達を『運動・社会性・生活習慣・言語などの各分野』について評価します。その結果を発達輪郭表(プロフィール)で分かり易く示すこともあります。

上記の運動、社会性などの各観点を相対的に比較することで、どの分野の発達に遅滞があるかを発見し、その原因を探求することが出来ます。この乳幼児期の発達検査には、『遠城寺式乳幼児分析的発達検査』『乳幼児精神発達診断法(津守式)』などがあります。

『新版K式発達検査』という発達検査では、乳幼児と個人面接を行って、『姿勢・運動・認知・適応・言語・社会』などの分野について発達年齢と発達指数を算出していきます。『改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査』では、発達遅滞の項目がどの領域に幾つあるかによって『異常・疑問・正常・不能』の4種類に解釈して診断していきます。

知能検査(intelligence test)

知能検査は、学齢期に達する子どもが、知的な障害がなく普通教育に適応していけるかどうかを診断する目的で、1900年代初頭に心理学者ビネー(Binet,A. 1857-1911)によって開発されました。知能検査は、大きく個別式と集団式に分けられますが、心理学の臨床場面では個別式が主に用いられます。

知能検査には、以下の3種類が代表的なものとしてあります。

ビネー式知能検査

知能指数(IQ)で診断結果を表現する検査で、『田中・ビネー式知能検査』『鈴木・ビネー式知能検査』などもあります。IQは、Intelligence Quotientの略であり、知的能力という視点から標準的な知的発達と比べて、どのくらいの位置にあるのかを示す数値です。IQは、『精神年齢(HA)/生活年齢(CA)×100』で算出することが出来ます。

ウェクスラー式知能検査

言語性の検査(知識・単語・算数・類似・理解)と動作性の検査(絵画完成・迷路・幾何学図形・積木模様など)について個別的に診断する知能検査です。ウェクスラー式検査の目的も、知的障害の診断と指導支援に役立てることにあります。

ウェクスラー式検査は、更に、適応年齢に応じて、WPPSI(3歳10ヶ月~7歳1ヶ月)とWISC-R知能検査(5歳6ヶ月~16歳11ヶ月)、そして成人の知能検査であるWAIS-R(16歳~74歳)に分類されます。

K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー

1993年に日本の心理学者・松原達哉らによって作成された知能検査のバッテリーです。2歳6ヶ月~12歳11ヶ月までの子どもに適用され、知能と習得度を個別に測定することができ、子ども一人一人の詳しい知的特性を把握することで教育や指導、学習支援に役立てていく事が出来ます。

知能検査は、子どもの知能の優劣をつける為に存在するわけではなく、普通教育を受けるのが困難な子どもに適切な生活技能訓練を行い、社会生活を送る為に習得すべき知識教育を行うという目的の為に存在しています。

学校での学習成績の高低と知能指数が直接的な関係を持つわけではないことにも注意が必要です。つまり、知能指数が高い子どもが低いこどもよりも必ず学校で良い成績が取れるわけではなく、成績向上にとってもっとも関係している事は継続的な学習と根気強く練習を反復するという事になります。

質問紙法による性格・人格検査

性格検査は、一般的に、幾つかの質問項目から一つを選ぶ質問紙の形で行われますが、乳幼児期の性格検査はあまり多くありません。3~12歳の子どもに適用可能な性格検査には、高木俊一郎らによる『幼児・児童性格診断検査』があります。

小学生以上の児童には『矢田部・ギルフォード(YG)性格検査』があり、15歳以上には『MMPI(ミネソタ多面人格目録)』『モーズレイ性格検査(MPI)』などがあります。それらのテストで、個人のパーソナリティの特性や傾向を分析することが出来ると共に、社会への適応性なども評価することが出来るようになっています。

また、不安や抑うつなど測定したい特性だけに限定した検査法として、『顕在性不安尺度(MAS)』『UPI(学生精神的健康調査)』『CMI健康調査表』『SDS自己評価式抑うつ性尺度』などもあります。『親子関係診断テスト』では、親の養育態度を『支配・拒否・保護・服従・矛盾不一致』などの5領域10型から診断します。このテストは、その結果を用いて、ダイヤグラフに分かり易く示し、親子関係の改善や回復に役立てていくことを目的に作成されたテストといえます。親子関係の診断結果は、3段階の基準で表され、『安全・準危険・危険』と判定されます。

投影法

投影法(projective technique)は、テストに用いられる図形などの刺激材料が曖昧で多義的な多様性があり、被検者は自分が見たり感じたりするままに回答できるので比較的自由な反応が許される検査技法です。

クライエントの反応内容や反応時間、反応の仕方などを観察し理解する事で、パーソナリティの様々な諸側面の診断に役立つ資料を得る事が出来る心理テストでもあります。ただ、投影法はその完全な修得と的確な利用が最も難しい心理テストであり、投影法を実施出来るようになる為には、長時間の背景理論の学習と実践的な訓練が必要になってきます。

投影法の代表的なテストとしては、ロールシャッハ・テスト、TAT(絵画統覚検査)、バウムテスト、SCT(文章完成法)、PFスタディなどがあります。ロールシャッハ・テストは、誰でも一度は映画などの場面で目にしたことがあると思いますが、インクのシミを用いて描いたいろいろな形に見える10枚の図版を見せて、クライエントの反応を見るもので、1921年にヘルマン・ロールシャッハ(Rorschach,H. 1884-1922)によって発案・作成されました。

ロールシャッハ・テストの実施手順・反応の符号化には、クロッパー式、エクスナー式、片口式などいろいろなものがあり複雑です。構造的量的解釈や系列分析などの質的解釈により精神分析理論の力動的診断をして、無意識レベルの理解を目指す心理アセスメントです。

未完成の文章を自由な文章を付け足して完成させるSCTや自由に思うがままの木の絵を書いて内面を診断するバウム・テスト、吹き出しのついた漫画や絵画を見て、その人物が何を話しているか何を考えているかを書いてもらうTATも有効な心理テストで、どれも奥の深いものですので、一定期間の実践と経験が必要になってきます。

子どもには描画法、TATの幼児児童用であるCATや箱庭療法がよく用いられ、行動傾向や情緒面、抱えている親子間の葛藤などの諸特性を知る事が出来る事も多いのです。『描画法』は、幼児教育者が集団教育の場でも実施できる便利な心理テストであり、何かのテーマや課題を出して、お絵かきの時間などに行う事も出来ます。家や人、樹木などを自由に子ども達に描かせる心理テストで、一目見てすぐに子どもの『寂しさ・辛さ・悲しさ・怒り』といった激しい情緒がわかるような絵もあります。心の問題や親子関係の障害などを発見することにも役立てることが出来ます。

描画法の種類には前述した樹木の絵を描くバウム・テスト、家や人の絵を描くHTPテスト(house tree person test)、人物画テスト(DAP:draw a person test)、動的家族描画法(KFD:kinetic family drawing)などがあります。今まで、色々な心理検査の方法を紹介してきましたが、その他にも実際に何らかの作業をして貰うことで精神状態や社会適性などを診断する精神作業検査法というものもあります。

その代表は、『内田・クレペリン精神作業検査』であり、単純な加算作業を決められた時間内でひたすらやってもらうという検査法です。その加算作業の量と作業曲線などから性格傾向を診断して、職業面での適性や配属などの参考にされてきました。

心理テスト実施の目的と効果

1.個人の能力・発達・性格などを目的に応じて、様々な側面から詳細に診断できて、それは非構成型面接よりも客観的な診断を可能にするものです。発達検査では諸領域について総合的に診断できますし、知能・性格検査でも多くの側面についてバランスよく診断することが可能になっています。

2.心理療法・カウンセリング・教育的指導の為の一定の指針や方向性を得ることが出来ます。長い期間使用されてきたテストであれば、正しく適用すればその結果は信頼性が高く、カウンセリングや指導の際にとても有効で、検査結果をもとにした適切な対処をすることが出来ます。その反面、あまりに検査結果を信頼し過ぎて、盲信しすぎることにも問題があるので、自分の頭で考えながら、対処法を慎重に選択することが必要になってきます。

3.心理療法・カウンセリング・治療の経過によりどのような変化が現れてきたのかを診断することが出来ます。今現在用いている治療法の評価によって、その後の見通しを立て、今までの方針を続行するのか修正して違う方法を用いるのかを検討していくことが出来ます。

4.投影法の技法では、無意識レベルの深層心理を診断できるメリットがあります。愛情・憎悪・敵意・攻撃性・願望・欲求など言語表現でうまく把握できない深層心理の側面を推測できます。

5.心理テストは、心理療法やカウンセリングの場面などで頻繁に用いられ、効果が確認されています。また、テストの内容について言及していくと話題が深まり、反省・洞察が促進されて問題解決に近づく事が出来る場合もあります。

また、その心理テストをもとにした対話のプロセスが、人間関係の一端として機能し、それまで無口で何も話してくれなかったクライエントが少しずつコミュニケーションをとるようになってくれたり、日常的な相互理解を超えて心理療法的な効果をもたらすこともあります。その効果は非言語的な心理テストである箱庭療法や描画テストで出やすくなっています。

6.心理テストを受けることそのものが、人間的あるいは精神的な発達・成熟に貢献する良い経験となることがあります。

TATなどの検査では、それまで抑圧していた情緒や感情を自由に話して表現することで、感情的な浄化(カタルシス)が起こる事もあります。心理テストには、色々な良い効果や治療的・教育的な目的がありますが、テストは人間の能力や性格を客観的に完全に正確に診断することは出来ず、飽くまでも心理アセスメントの補助的手段であることも忘れてはならないでしょう。

心理テストが不完全である理由として、被検査者の気分や体調、場の雰囲気、寒暖、明暗などの物理的条件、テスターの様子や態度など『検査時の状況』に影響されることが挙げられます。また、投影法などのように検査者個人の知識や経験に左右されるテスト法では、テストの客観性が疑われる場合もあります。

Copyright(C) 2004- Es Discovery All Rights Reserved